DENTSU LIVE | 電通ライブ

まわり、まわって。 Vol.1 PRINT&BUILD 浅子佳英氏
『建築と編集の、まわり。』

  • November / 08 / 2022

ハロー、みんな。はじめまして。
ボクは、ココロ動かすような素敵なコトを探してる、電通ライブ所属のインタビュアーです。
「ライブちゃん」なんて呼ばれてます。
電通ライブは、これからの時代にぴったりの、新しい感動づくりのヒントを探してるらしいんだけど、でも新しいものを見つけるのって難しいよね。
新しい感動ってどこにあるんだろう?どうやって作ったらいいんだろう?
ボクもライブのみんなと一緒にね、そんなことを考えてる時に、気づいちゃったんです。
今やってることの、ちょっと外れた「周辺」に、面白いことが隠れてるかもって!
だから、この連載では、電通ライブの「周辺」のヒトやモノやコトに、出会いに行こうと思います。
近いようでちょっと遠い、関わりがないようである「まわり」のヒト・モノ・コト。
きっとそこに、新時代の感動のヒントがあるはずなんだ。
そんな「まわり」の可能性を探って、そのまた「まわり」を巡っていって、新しい感動づくりのヒントにする。
新しいものに出会い続ける。
だから、「まわり、まわって。」ってわけ。

それじゃ、早速はじめてみるよ。
第一回は、『建築と編集の、まわり。』を探ってみようと思います。
ゲストは、建築事務所でありながら出版社でもある「PRINT&BUILD」の浅子佳英さん!
連載の幕開けには、ぴったりの人じゃないかな。
今からわくわくしちゃいます。
それでは、「まわり、まわって。」スタートです。

 

言葉を切り離せない「建築」と「編集」は類似性がある

 

――建築と出版の2つの事業を手掛ける浅子さん、かっこいい~!キャリアのスタートは建築領域ですよね。なぜ、建築家を目指したのですか?

浅子:ライブちゃんこんにちは。こんなに可愛い人(?)にインタビューをされるのは初めてなので、ドキドキしています(笑)。最初のきっかけは、子どもの頃に見た安藤忠雄さんの建築です。特に初期の作品は、ガレリア・アッカのように小さなスペースの中に入りきらないぐらい、やりたいことをどうにか詰め込もうとしていて、ともかくエネルギーに溢れていたんですよ。子ども心に感動して、「建築はただ単に建築ではなく作品なんだ。こんなものが作りたいなぁ」と思って、建築家を目指しました。

――すごい!子どもの頃の夢を叶えたのですね。じゃあ、なぜ出版にも興味をもったんですか?

浅子: 2008年に思想家・批評家の東浩紀さんたちと、領域を横断した「知のプラットフォーム」の創出を目指す組織、コンテクチュアズ(現ゲンロン)を設立し、そこで東さんと会員向けの会報誌をつくっていたことがあるんですね。
書籍の編集やデザインにはもともと興味があったんですが、僕自身は出版の仕事の経験はなかったので、いきなり自分でやるのは難しいだろうなと思っていました。ただ、会報誌ならいけるのではと思い、カメラを買って、InDesign(印刷物のデザインやレイアウトを行うためのソフト)を覚えて、手探りで会報誌を制作しました。それがすごく刺激的で面白かったの。

浅子佳英氏

 

――へえ~!ちなみにどんなところが面白かったんですか?

浅子:デザインの手法が建築と似ているんですよ。まずは、全体のテーマを固めて、レイアウトやフォントを決め、その上で読者に楽しんでもらえるコンテンツを企画する。これって大枠は建築と同じ流れなんですよね。本の一枚一枚のページは基本的に同じ作りのものが垂直に重なっていて、横から見ると建築の床のようなものにも見えてくる。そもそも頁数や章タイトルなど、ページを貫くものを柱って言うしね。

――なるほど!デザインの手法が建築と似ているなんて面白い!

浅子:近代建築の三大巨匠に数えられるル・コルビュジェは「レスプリ・ヌーヴォー」という雑誌を出していたし、ミース・ファン・デル・ローエも「G」という雑誌を出しています。実は建築と言葉は切り離せない。

それと「完成した建築物の出来がすべて」というのが、僕にはあまり信じられない。言説も一緒に届けなきゃいけないと思っているんですね。建築物は現場で実際に目にしないと分からないことが多いけど、文字情報なら現場に来なくても、遠くにいても魅力を伝えられるしね。


――それで、浅子さんは出版社を立ち上げたんですね~。

浅子:そうね、それでようやく昨年、デザインジャーナリストの土田貴宏さんが100組のデザイナーにインタビューした書籍『デザインの現在』を刊行しました。

この20年、出版不況が加速していますが、なかでも建築出版界隈は苦境が続いているんです。長い歴史を持つ『建築文化』が休刊して以来、どんどん縮小する昨今、嘆いていてもしょうがないので自分で出版社をはじめてみようと。前から建築雑誌を手掛けたいという想いがあったのでその願望を捨てきれず、事務所の設立と同時に出版業を事業に組み込みました。

「デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ」

 

 

どの領域でも中心に居ない。「まわり」の存在こその心地良さ

 

――建築と出版って、なんか全然違ってみえる2つだけど、実はとっても近いんですね。知らなかったなあ~。お仕事でもその近さを感じたことはあるのですか?

浅子:例えば、百貨店の建築にフォーカスした展覧会「百貨店展 夢と憧れの建築史」(日本橋髙島屋史料館で2022年9月から2023年2月まで開催中)を研究者の菊地尊也さんと一緒に監修したのですが、これはまさに編集の要素が強かったかな。
企画から設営までトータルで監修したんだけど、メインコンテンツが百貨店の歴史を辿る約10メートルの巨大な年表。それが、あまりにデカくて展覧会場ではすべては読めないという(笑)。でも、内容も濃いし面白いので、持って帰りたいという意見が多く、今出版しようという話になっています。これは、分かりやすいシナジーかも。

あとは、公共建築の案件では編集の素養が生きるなと。プロポーザルでは企画の意図をまとめたシートを見て審査員は誰を選ぶか決めるんだけど、突き詰めれば提出するシートに書いている内容で決まるんですよ。もちろん図面も書くけれど、重要なのは言葉とレイアウト。どのような要素を盛り込んで情報をどう見せるかについては、完全に出版物の編集そのものなの。


――なるほど~。全然違くみえる2つが一緒になることでもっと良い仕事ができるんだね!浅子さんにとって出版や編集は、建築の価値を伝えるための手段っていうことなんですか?

浅子:いやいや、それだけではないですね。単純に自分自身がいろいろなことに興味があるから出版や編集の仕事もしていると思う。建築の仕事だけをしていると、どうしても世界が広がっていく気がしないので、編集やライティングの仕事をしている感じです。

――浅子さんは、ボクと一緒で好奇心旺盛だ!!!

浅子:仲間ですね(笑)。やっぱり今の世界や社会がどうなっているのかを知りたいじゃない?知った上で、建築に携わりたいと思っているんです。

――うんうん!とっても分かる!ボクも「まわり」のことな~んでも知りたくなっちゃうんだ。浅子さんにとって、建築の「まわり」を知ることは、とっても意味があることなんですね!

浅子:そうですね。僕は、誰も見たことのないような建築物を作りたいという願望があるんですが、ずっと建築だけを設計していると、どうしても自分自身のデザインの手癖が出てしまう。だから「まわり」を持つことで、自分の中にあるものの外の世界からのフィードバックを取り込むことが必要だと思っています。

というか、そもそも僕は建築のど真ん中にいる人間ではなく、だからといって出版の人間かというとそうではない。建築の「まわり」のさらにその隅っこにいるというか、どこに行ってもずっと「まわり」の存在なんですよ。でも、その立ち位置を気に入っているんですよね。

――ん?「まわり」にいることを気に入っている、ってどういうことですか?

浅子:ちょっと話がずれますが、1995年に実施された、「横浜港大さん橋国際客船ターミナル国際コンペ」は世界41ヵ国からの応募があった当時日本最大級のコンペで、とても話題になりました。ただ、それ以上に、大きな衝撃を与えたのは、1995年に設立したばかりの無名の設計事務所「Foreign Office Architects」のイギリス在住の建築家2人、しかも28歳と31歳の若手の案が最優秀に選ばれたことだったんです。
彼らは世界を股にかけて仕事をしていたんだけど、事務所の名前のとおり「外部性を持っていることが自分たちにとって重要だ」という話をインタビューでしていて、とても共感したんですよね。

僕は、神戸出身で大学のときに大阪に出て、社会人になってからはずっと東京に住んでいます。昔は「ひとつの場所に根を張って生きるのは無理だろうな」と思っていたんだけど、結局ずっと東京を拠点にしています。それは、いつまで経っても東京が自分の街という気がしないからかもしれない。でも、そういう気分を味わわせてくれる東京がすごく好きなんですよ。仕事だけではなくて、自分が「まわり」を持つこと、自分自身が「まわり」に存在することに心地良さを感じているのかもね。

 

 

「使われていないときの空間」に興味津々

 

――ちょっとお話を変えて、浅子さんはイベントやスペースのこれからをどう見ているのか聞いてみたいです!

浅子:う〜ん、僕はね、いくらネットでできることが増えようと、イベントやスペースは、かたちを変えながらこれからもなくならないと思っています。僕自身、動く建築と言われているイベントやスペースの使われ方にすごく興味があります。例えば、日本には劇場が数多くあるけど、使われていないときにどう使うかという点に興味があります。

イベントやスペースは、テクノロジーの発達によって可能性が広がった部分もありますよね。昔は移動式の舞台をつくることは難しかったんですが、2019年にニューヨークにオープンした舞台芸術やパフォーマンスなど文化活動の場「The Shed(ザ・シェッド)」は、二重構造の外壁の下にタイヤが着いていて、横にスライドさせ連結しているビルにその外壁をかぶせると、屋外イベント用のスペースが現れる斬新な仕組みを採用しています。

――外壁が動くって新しい~~~!すごい!


浅子:すごいよね。これは一例ですが、先端のテクノロジーによって、イベントやスペースはまだまだ面白くなると思います。僕も、その日によって壁が動き、日々使われる生きた劇場を設計してみたいですね。


あとは、変化のある空間づくりは重要ですね。ちなみに今、とても大きな商業施設をシナトという設計事務所と協働で設計しているんですが、かなり規模が大きいのでパブリックスペースをなるべく充実させたいと思っています。商業施設は単に何かを売るだけではなく、そこに滞在することそのものが目的になっていくんじゃないかなと。

――ワクワクするお話をありがとうございました!さいごに、いま浅子さんが気になる「まわり」のヒト・コト・モノを教えてほしいです!

浅子:自動車、健康、ダイエット、料理、ランドスケープ……などなどですね。

――めっちゃある~~~!アンテナが広い~!

浅子:いや、単に雑食なだけですけどね(笑)。特に暮らしと密接に関係しているという意味で、割と健康は建築に近い「まわり」なんじゃないかなと。なかでも気になるのは、料理研究家の樋口直哉さん。ある意味、建築家的な発想を持っている料理人で、料理を科学的に捉えている人なんです。

おにぎりをつくるのも、お米の種類・炊くときの温度・炊き方を細かく変えて、どれが一番美味しいかを試すんですよね。僕は、リサーチをとても重視している建築家なので、樋口さんは、とても近い存在だと感じています。

 

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「まわり、まわって。」の第一回目は、浅子さんから、この企画にぴったりの「まわり」の価値をたくさん聞けたんじゃないかな!

そして、次回はそんな浅子さんが気になる「まわり」を、巡っていきます。
建築と編集の次は、料理の「まわり」!
楽しみにしててね。それでは、またね!

タカバンスタジオ

 

取材・編集協力/末吉陽子
撮影/小野奈那子

浅子 佳英(あさこ よしひで)

建築家・編集者

1972年神戸市生まれ。建築設計事務所、インテリアデザイン事務所を経て、2007年タカバンスタジオ設立。09年東浩紀らとともにコンテクチュアズ設立、12年退社。おもな作品=「Gray」(15)、「八戸市新美術館」(2021西澤徹夫、森純平との共同設計)など。

ライブちゃん

電通ライブ所属のインタビュアー/調査員

本名は、「ドキドキ・バックン・ウルルンパ2世」。心を動かす、新しい感動体験の「種」を探し求めている。聞き上手。感動すると耳らしきところが伸びて、ドリーミンな色に変色する。