2017/08/22
「ヒアラブル」の実験②~イヤホンで従業員をサポートする「サイバーアシスト」
- July / 06 / 2018
前回の「ヒアペイ」のご紹介に続き、具体的なチャレンジの第2弾として「いかにしてイヤホンを通じてヒト(今回は従業員)の活動をサポートできるか?」ご紹介します。
ヒアラブルは、どんな形でヒトの役にたつか?
すでに皆様の中にはAirPodsなどのヒアラブル端末(マイク付ワイヤレスイヤホン)をお持ちの方も多いと思いますが、どのような使い方をしていますか? 昔からあったイヤホンの延長線上で、音楽を聴いたり動画の音声を聞くことが多いのではないでしょうか。マイクがついているので、ハンズフリーで電話をしたり、音声アシスタント(SiriやGoogle Assistantなど)も使えますが、ブツブツ独り言を言っているみたいでまだ恥ずかしいと感じる方々も多いことでしょう。
このようにヒアラブルの新しい使い方は日常生活の中ではまだ発展途上ですが、もし職場で使うことができ仕事が楽になるならすぐにでも使いたくなりませんか?
イヤホンを通じてネットワークに人をつなげる
ここ数年の「IoTブーム」が起こるはるか前の2000年初頭、日本ではサイバー世界から人間をサポートする「サイバーアシスト計画」がありました。下の図のようにインターネット上の「デジタル世界」の情報と「実世界」のヒトやモノをつなぐという先進的なプロジェクトでしたが、「10年早かった」と言われ、あまりうまく行かなかったようです(詳しくはこちらの論文をご覧ください)。
しかしそれから10年以上たち通信環境もセンサーやデバイスも急速に進化した今、期が熟しました。スマホを肌身離さず携帯している今の状況は、ヒトがいつでもデジタル世界につながっていると言えます。さらに進めると、本連載でテーマにしている「ヒアラブル」は常時身に付けられる「ウェアラブル端末」ですので、文字通り「肌身離さず」ネットワークにつながることができます。電通ライブでは、イヤホンを通じてネットワークとヒトがつながるとどのようなことが可能になるかを実験しています。
今年の2月5日(月)から8日(木)の4日間、羽田空港国内線旅客ターミナルを管理する日本空港ビルデング株式会社の協力を得て、空港を舞台に従業員やスタッフにヒアラブルを活用してもらう実験を行いました。
例えばイヤホンを装着することで両手が使えるので、手を使う作業(重い荷物を持ったりパソコンで何かを打ち込んだり)をしながら音声で情報のやりとりをしたり、遠隔地とのコミュニケーションを円滑化したり、スタッフ同士の相互扶助を推進したり、人員配置を可視化したりと、さまざまなユースケースが考えられます。その中で、まずは基本となる以下の二つを試してみました。
①【従業員の屋内位置情報の可視化】
各スタッフが今どこにいるかのマップをPCやパネルで分かりやすく表示する。
②【ハンズフリーでの常時同時通話】
イヤホンをトランシーバにして、リアルタイムでみんなと会話のやりとりをする。
※本実験では日本電気(株)より技術のご提供および運営のご協力を頂きました。
イヤホンで居場所がリアルタイムで分かる
外でスマートホンを持って地図アプリを開くと今自分がどこにいるかが分かりますよね。これはGPS等の衛星から発信する電波によってスマートホンの位置を把握しているからなのですが、実はビルの中などの屋内では衛星からの電波が届かないのでGPSでは位置が分かりません。屋内で位置を計測するためには、WiFiやBluetooh(BLE)などの電波を利用する方法がありますが、それらを発信する端末(ルーターやビーコン)を設置する必要があります。
そこで今、屋内の位置測位で実用化が進められているのが「電子コンパスで地磁気を計測する方法」です。大型の建造物は鉄筋構造ですが、その鉄筋が磁石化するので電子コンパスは北を指さず、場所によってコンパスの向きが狂います。その狂い方の特徴を地図に落とし込んだ地磁気マップを作成すれば、その電子コンパスを持っている人がその地磁気マップのどこにいるかがリアルタイムでわかる、というものです。
今回は、実験開始前にあらかじめ空港ビル内の地磁気マップを作成した上で、実験期間中は電子コンパス入りのヒアラブル端末を3名のスタッフが装着し、旅客ターミナルの簡易地図上でだれがどこにいるかを表示しました。
イヤホンをトランシーバにしてみんなでハンズフリー会話
また、今回はトランシーバをハンズフリーで使用できないかと考えました。スマホでは1対1の会話だけではなく、複数の人と同時に通話できるトランシーバアプリがあるのですが、このアプリを起動した後はスマホをポケットやカバンにいれっぱなしにして、出来る限りヒアラブルのマイクとイヤホンだけでやりとりをするということです。
今回の実験ではそのアプリ自体を音声で操ることができればベストだったのですが、市販のアプリではそこまで対応できなかったので、Bluetoothボタンを前述のタスキにくっつけて必要な時だけタスキをさわってのボタンを押せばよい形にしました。その結果、スマホの画面操作が不要になり最低限のアクションで視線を奪われることなく移動中も安全に音声でやりとりすることができました。
また通常のマイク付イヤホンは耳に装着した状態で耳の「外側」にマイクが搭載されていますが、今回活用したNECのヒアラブル端末は耳の「内側」にマイクが搭載されているのが特徴です。その内側のマイクに向けて体内経由(口蓋や鼻腔など)で自分の声を送るので、工夫次第では口を大きく開けなくても音声を発信することができます。実験ではスタッフがまるで「腹話術」のようにほとんど口を動かさないで話をしているように見えることもありました。
冒頭で「ヒアラブルでの会話は、ブツブツ独り言を言っているみたいでまだ恥ずかしい」と書きましたが、内側マイクはこういったことも解消する可能性があるのです。
次回はいよいよ最終回となりました。
「ヒアラブルは、どのように未来を変える可能性があるか?」をお伝えできればと思います!
日塔史
電通ライブ 第1クリエーティブルーム チーフ・プランナー
テクノロジーを活用したビジネス・プロデュースを手掛けており、現在「ヒアラブル」(聴覚の拡張デバイス)によるソリューション開発などを行っている。日本広告業協会懸賞論文「論文の部」金賞連続受賞(2014年度、2015年度)。電通Watsonハッカソン「日本IBM賞」受賞(2017年)。AIおよび先端テクノロジーに関する講演、寄稿多数。
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