DENTSU LIVE | 電通ライブ

問いと対話から未来の価値を創る
「New WORKSHOP」

  • June / 25 / 2021

新型コロナウイルスの流行は、私たちの価値観と生活様式に大きな変化をもたらしました。ビジネスにおいても、これまでの「公式」が通用せず、新しい答えの出し方、新しい課題の見つけ方を求められるシーンが増えています。
私たち電通ライブはこれからどんな仕事に取り組むべきか。どんな力をつけていくべきか。そんな「問い」そのものを創出するためのワークショップが、「New WORKSHOP」です。

今回は運営メンバーの飯塚七海と、第1回のファシリテーターを務めた株式会社MIMIGURI の小田裕和氏に、プロジェクト立ち上げから初回ワークショップ実施までのエピソードを語り合ってもらいました。

 

New WORKSHOPについて
社内横断型プロジェクト「L!VE ON PROJECT」から生まれた、これからの時代に電通ライブが向き合うべきテーマそのものの発見を目指すワークショップ。2021年5月に第1回「新しい五感の可能性を開発する、ワークショップ」をオンライン形式で開催した。
株式会社MIMIGURIについて
2021年3月、株式会社ミミクリデザインと株式会社DONGURIが合併して設立された新会社。DONGURIが専門としてきた「マネジメント」と「デザイン」の実践知。ミミクリデザインが専門としてきた「ファシリテーション」の実践知と理論的基盤。そして両社が大切にしてきた「遊び心」と「クラフトマンシップ」の思想を継承し、多種多様なクライアントの事業や組織に関わる支援を実践している。

 

 

「公式」が通用しない時代。そもそもの「問い」を生み続ける場が必要

―はじめに、New WORKSHOP立ち上げの経緯を教えてください。

飯塚:リアルを生業としていた電通ライブにとって、コロナショックはとてつもなくインパクトのある出来事でした。仕事のやり方が一変し、今までとは違う新しい仕事を生み出していかなければならない状況の中、「そもそも電通ライブの価値ってなんだろう?」という問いがL!VE ON PROJECTメンバーを中心によく議論されていました。そこで、これからの時代に必要な新しい「問い」自体をみんなで考える場を作ろうと試行錯誤した結果、ワークショップという形式にたどり着いたのです。

―MIMIGURIに協力を仰いだのはなぜでしょうか?

飯塚:短期的なプロジェクトではなく、継続的に社内から新しい問いが生まれ続ける場を作りたいと考えていました。そのためには、運営チームがワークショップのファシリテーションスキルや、問いを生み出すスキルを学び続ける必要があります。MIMIGURIは、「ワークショップデザイン」や「問いのデザイン」をはじめとした、組織やチームの創造性を引き出す知見について高度に研究・実践されている企業なので、ぜひ色々と教えていただきたいと思ってお声掛けしました。

―小田さんは最初に話を聞いたときの印象はどうでしたか?

小田:コロナ禍で前提が大きく変わってしまい、今までのアプローチがうまくいかずに悩んでいる企業の方は多くいらっしゃいます。僕らもずっと対面でワークショップをやってきたので、この機会に自分たちを見直すことがたくさんありました。その際、オフラインの価値をオンラインで届ける方法をつい考えてしまいがちなのですが、そもそも今の時代に良いとされるものはなんだろう?という前提に立ち返ることが重要だと考えています。その意味で、「そもそもの問い自体を考える」という視点に共感しましたし、ワクワクしたことを覚えています。

小田 裕和氏

―MIMIGURIのワークショップに対する考え方についても少し教えていただけますか?

小田:ワークショップと聞くと、付箋を使ってみんなでブレストして……というイメージが強いと思いますが、そこは本質ではないと考えています。ワークショップは100年以上の歴史がある中で、人々の物事に対する考え方や価値観の変容、そしてミミクリデザイン時代のスローガンでもある「創造性の土壌を耕す」ことに大きく寄与してきました。合併し、MIMIGURIに社名が変わってからも、組織やチームの創造性を引き上げるための営みとしてワークショップを活用し、その方法や場のデザインについて日々研究と実践を続けています。

飯塚:「答えを出すこと」を目的とした研修はたくさんあったのですが、本質的な問いを生み出す方法を学びたいと思ったとき、まさにMIMIGURIが実践されているワークショップにヒントがあるはずだと確信しました。

 

企業理念「MOMENT OF TRUTH」を問い直す

―第1回ワークショップのテーマ「新しい五感の可能性を開発する」にたどり着くまで、どのようなディスカッションを行いましたか?

飯塚:電通ライブは「MOMENT OF TRUTH」という企業理念を掲げています。私は入社して3年目になりますが、意外とこの言葉の意味を深く考える機会がなかったと気付いて。真実の瞬間ってなんだろう?という議論を小田さんたちと交わしながら、少しずつテーマを固めていきました。

小田:最初から「答えをください」というスタンスではなく、自分たちで理想の姿を考えていく姿勢だったので、僕もワークショップのベースになる考え方はレクチャーしつつも、教える立場というよりは一緒に探求する立場で関わることができました。

飯塚:いやいや、たくさん教えていただきましたよ。例えば、私が最初に教えていただいたのは「質問」と「発問」と「問い」の違い。何がどう違うのか分からなかったのですが、「質問は相手が答えを持っていて、発問は聞く人が答えを持っていて、問いはどちらも答えを持っていなくて両者で深めていくもの」と教わったとき、今までに使っていなかった脳を使う感覚があって(笑)。これまで企画を考える機会はたくさんあったけれど、こういう視点で物事を考えたことはなかったので、それを参加者にも感じてもらえるワークショップにしたいと思いました。

飯塚 七海

小田:ありがとうございます(笑)。僕の立場から「こうした方がいい」と答えを出してしまうと、それを言った瞬間に皆さんが自分ゴト化できなくなることも多々あります。僕らが客観的に良し悪しを評価するテーマでもないので、答え探しではなく、皆さんが問いを深めていくための対話をすることを心掛けていました。

飯塚:はい、対話を経て最終的にまとまったのが、「真実の瞬間に五感は欠かせない」という視点。そこで、五感に焦点を当てたワークショップを実施することにしました。

 

回り道するからこそ到達できる、より深く本質的な「問い」

―当日のワークショップの様子について教えてください。

飯塚:「五感の失われた状況を描く」というテーマで、視覚・味覚・触覚・嗅覚・聴覚の5グループに分かれ、視覚グループなら視覚が失われた子どもを抱える家族の暮らしやコンテクストをイメージすることから始めました。その後、失われたことで分かる五感の価値を言語化し、最終的には電通ライブの価値を探るための「問い」を立てるところまで実施しました。

小田:「電通ライブの価値を五感で整理してみましょう」というアプローチ方法もありますが、人間の思考プロセスにおいて、その人が本当に考えていることや深い思考には最短距離ではたどり着かないことが分かっています。普段、仕事で企画を作るときに五感が失われた状況なんていちいち考えないと思うんです。でも回り道をしてイメージしてみると、いつもとは異なる思考がどんどん膨らんでいき、結果的に新しい物事の捉え方や考え方が生まれます。

飯塚:味覚グループでは、単純に食べ物の味がしない状況の話から「食事から広がるコミュニケーションってなんだろう?」と発展していき、「食事中に感想を共有し合うことが、美味しさを増幅させる」という価値にたどり着きました。さらに食事をイベントに置き換えて「感想を共有し合うことが、イベントの“味わい深さ”につながるんじゃないか」と、だんだん仕事の話に近づいていったのが印象的でした。これは「電通ライブの価値ってなんですか?」と聞かれてもすぐには出てこなかった視点ですよね。

WSではオンラインホワイトボードツールを活用して問いを生み出し、深めていった

小田:「味わう」という言葉が、問いをデザインする上で非常に大切なワードですよね。「楽しむ」と意味は同じようで、例えば「オンラインでコミュニケーションを楽しむ体験を作るには?」と「オンラインでコミュニケーションを味わう体験を作るには?」では、出てくる答えの深さや質は変わると思うんです。そこが問いのデザインの価値ではないでしょうか。

飯塚:参加者からも「イベントと五感が密接に関係していることに改めて気付けた」「通常の業務でも、すぐ解決策に飛びつくのではなく、そもそもの課題自体を見つめ直すことが大事だと感じた」といった好意的な感想をたくさん頂けました。

 

変革期に生き残るのは、本質的な答えを考え抜いた企業

―今回のワークショップをワークショップで終わらせないために、小田さんからアドバイスを頂けますか?

小田:問いがあるからといってすぐアイデアにつながるわけではないので、今回生まれた問いを日常に落とし込んで問い続けることが大切です。かつて上野公園で休憩する労働者の寝相と服装をひたすら観察し続けた今 和次郎の考現学のように、例えば「味わう」であれば「今日は何を味わえただろうか?」と内省したり、「目の前を歩いているこの人たちは何を味わっているのだろう?」と考え続けることで、新しい価値を生み出すことができるのではないでしょうか。

飯塚:3年目の私としては、良くも悪くも会社のやり方や答えの出し方に慣れてきている部分もあります。でも今回のワークショップを体験して、自分の中でクエスチョンが生まれたときは立ち止まって問い続けたいと思いました。

小田:コロナ禍で多くの人や企業が通勤する意味や東京に住む意味、オフィスを持つ意味などを問い直したように、人間の本質的な営みが変わる変革期に僕らは立っています。そこにお決まりの答えなどはなく、一人一人が、一社一社がそれぞれの答えを出していかないといけません。そのためには、如何に本質に近づけるかが重要で、歴史を振り返ってみてもそれを考え抜いた人たちが残り、その場凌ぎの人たちは淘汰されています。

本質を問う、と聞くと難しいイメージを持たれるかもしれませんが、本質的な問いを投げ掛けるのが一番上手なのは子どもなんです。ロジックは気にせずに素朴に問う、それこそ楽しみながら問う。それができる環境を企業として用意することも大事だと思います。例えば、上司部下の関係で素朴な問いを歓迎するとか。

飯塚:そうですよね。ワークショップから生まれた問いを共有して、電通ライブのみんなで触れていく機会を作りたいなって思います。

小田:その問いを社内だけでなく、ぜひクライアントにも広げていただき、一緒に問い合う関係性から新しいものが生まれることを楽しみにしています。

飯塚:問いを立てること自体が新しい感覚だったので、今後プランニングをする際にも今までとは違うアプローチにチャレンジできる気がしました。今回の問いはさらに探求していき、新しいソリューションを生み出すことや、新しい電通ライブの価値を発見することにつなげていきたいと思います。小田さん、本日はありがとうございました!

小田 裕和(おだ ひろかず)

株式会社MIMIGURI マネージャー

1991年生まれ。千葉県出身。千葉工業大学大学院工学研究科工学専攻博士課程修了。博士(工学)。新たな価値を創り出すための、意味のイノベーションやデザイン思考といったデザインの方法論や、教育と実践のあり方について研究を行っている。MIMIGURIでは、新たな意味をもたらすための商品・事業の開発プロジェクトを中心に担当している。主な著書に『リサーチ・ドリブン・イノベーション-「問い」を起点にアイデアを探究する』(共著・翔泳社)がある。

飯塚 七海(いいづか ななみ)

電通ライブ クリエーティブユニット プランナー

2019電通ライブ入社。体験デザインに軸足をおき、入社時より多領域のイベント企画・実施とスペース開発に従事。これまで、国際的スポーツ大会の式典、各種ブランドのPOP-UPイベントやPRイベントなどを担当。直近ではオンライン上のファンコミュニティの企画開発およびマーケティング活用にも携わっている。