2017/08/08
クリエーティブな街を、どのようにつくるか:黒﨑輝男(後編)
- July / 26 / 2017
「影響力」をつくることが大切
宮口:これからの東京や、地方も含めた日本の街を考えたときに、未来はこうなってほしいなということはありますか。
黒﨑:ポートランドを例にとると、究極的に資本主義社会が成熟してきた段階で、ある種パブリック精神というか、ヒッピードリームみたいなものがあって、人が喜ぶことをしたいとか、ある種の損得抜きの哲学的ビジネスプランからスタートしていたりする。それが受けて大きなプラットフォームになった段階でやっと、ガンと勝負する。そういう「影響力をつくる」ことが大切だと思う。
電通の南木隆助くんがこの前彼の仲間と一緒にクラウドファンディングで和菓子の本をつくっていて、それをうちに届けてくれました。
南木くんが昔から好きな和菓子屋さんの本で、その印刷代をクラウドファンディングにしたんです。
彼はスクーリング・パッドという僕がやっている学校に生徒で来ていた人だけど、そういうやり方も、個人でもできる影響力の表し方の一つです。

【スクーリング・パッド】廃校となった中学校をリノベーションした場で開催された社会人のための学びの場
現在は「自由大学」を表参道コミューン246内を拠点に開催中
パブリックスペースにつくる、新しい「自然」
宮口:パブリックスペースに最近興味を持っているのですが、よく言われるエディブルなもので、公園で植物が食べられるとか、いろんなことが海外でやられているじゃないですか。黒崎さんが海外で一番面白かった公園とか、パブリックスペースはどこですか。
黒﨑:そうそう、公園の中に、池のところに張り出しているレストランがあって、そこの周りでつくっている野菜やハーブで料理をつくっている。今は、それ、普通です。LAにも、ポートランドでもあるよね。僕もいま、石川県小松市に古民家を買って、1500坪ぐらいの土地も買って農園をつくって、そこで伝統野菜とかを教わっています。
宮口:そうですか!すごい!黒崎さんは本当に、いろいろ新しいことを真っ先にやりますね。
黒﨑:東京でもやろうとしていて、屋上ガーデンとかファームとか。そこらじゅうにハーブガーデンやエネルギーのソーラーパワーがあったり、地熱を使うとかいろいろやって、自転車置き場を来年ぐらいに借りて、エネルギー使用自体を変えていこうとしています。
宮口:自 転車を公共の乗り物にするというのが増えていますよね。港区が実証実験をやっていたりする。デザインがかっこいい自転車だったら、借りて走ったりしたい な。かっこいいというのはデザインだけじゃなくて、電気自転車でも動力が強くなっていくとか、デザイナーがつくった何か面白い機能の自転車とか。
「創造都市」の本質とは何か
黒﨑:土地をどう活用するかという、使用価値で不動産の価値が決まる。所有の価値じゃなくなっている。それと情報だとかコンテンツのプランニングとか、コンセプトがますます重要になってきている。
宮口:変わったほうがいいんですよね、価値観は。時代によって。
黒﨑:お金というのも情報だから。貨幣価値自体が情報。
宮口:お金がなくても豊かに生活できるような時代なのかもしれないですね。
黒﨑:情報と建築と空間、アート、デザイン、全部が一体となってクリエーティブなものができてくる。そこを引っ張っていけるような理論誌を、これからつくりますよ。
宮口:いやあ、刺激されるな。
黒﨑:創造都市論じゃないけど、都市ってどうあるべきか。全体を見る、それだけですよ。本来の公園って、どういうものがあったらいいのかと考えると、たとえば植物学者がいて、鎮守の森をつくろうよとか、そこに酒蔵を持ってきたらいいんじゃないかとか。そういう発想が今はあまりない。そうじゃなくて、どこの企業がお店を渋谷に出したがっているから、それを持ってこようとか、そういう話しかないわけ。大手の安定した企業を誘致してそこにお店が出れば、商業施設としては成功するかのように見えているけれど、それは次の時代をつくるものではないじゃないですか。
宮口:全部同じになっちゃいますものね、そうしたら。考える手間をかけることを惜しんではいけないですね。
黒﨑:クリエーティブであるということ、自分自身が本来的にこうあるべきだという夢がないと。コンセプトとか夢とかがあった上で、コンテンツのプランニングがあって、マネジメントがある。だけど、そこが全部抜けて、マネジメントとお金のこと、ビジネスだけで今、日本の社会が動いていると思うんです。
特に不動産開発が保守的になっている。でも、実際に面白いことが動いているのは、ベニスビーチにしろ、ポートランドにしろ、そういうこととは関係なしに若者たちの夢をもとに、こういうのがあったら面白いじゃない、おいしいじゃないとかで引っ張っているのを、あとでお金が追いかけてくる。僕のとこに来ている若い人たちもみんな個人でやっている飲食業で、与信や決算書を3期にわたって見せなさいとか、そういうことを言ったら全部外れちゃうような人たちなの。
だから僕がそこの間をつないで、若い人を守りながら伸ばしていくという機能が必要になってくるんじゃないかなと思うんです。そうじゃないと、今の社会ルールだと、大企業しか伸びない。大企業だけだとコンプライアンスだとかで当たり前になって、クリエーティブじゃなくなってしまう。そうすると最終的にはお客もつまらないと思うわけ。結局また元の木阿弥になってしまうので、そこをひっくり返すような動きをしないといけないですね。
宮口:黒崎さんはこれからもずっと、そういうことをやり続けていかれるんですね。
黒﨑:まあ、生きている限りはね(笑)。最近出版した「CRAFT BAKERIES」という本も、手づくり、アルチザンのパン屋さんで、こだわってつくっているのが今人気なので、それだけを集めている。どこにもスポンサーがついていないから、「どこどこ店の色」というのがないわけです。自分たちが思っている通りのものを自由につくっちゃう。

【CRAFT BAKERIES】-THE STORY OF ARTISAN BREAD- パンの探求 小麦の冒険 発酵の不思議 EDITION 2015
「青山パン祭り」から生まれたパン好きのためのパンの本

青山パン祭り
国連大学の中庭で、パン屋さんだけ50軒以上集まると、パン好きの女の子がものすごい勢いで行列をつくる。すごい熱気でたくさんの人が来て、わーっとパンが売れる。そういう若者たちのイベントを、電通もやっていったら結構面白いと思うよ(笑)。草の根的なイベントをやるノウハウを、そういう若い人と一緒に学んでいったらいいんじゃないですか。
クリエーティブな街を、どのようにつくるか:黒﨑輝男(前編)
- July / 26 / 2017
クリエーティブな人が集まるところに、クリエーティブな街ができる
黒﨑:今まさに、Creative City Lab、創造的都市をどう作って行くのか-という本を作っています。ポートランドの開発局とか、昨日も友人のジョン・ジェイと会って話してます。Urban Gleaners=都市の落ち穂拾いの活動をしている知り合いがいて、それは何かというと植物や食べ物の再生なの。日本では農家でとってきたものを流通の基準に合わせで10~15%捨てて、さらに料理の無駄や、リテールもお店が終わったら残りを賞味期限切れで捨てるから、合計すると25%ぐらいの食べ物を捨てている。
僕たちが青山でファーマーズマーケットをやっていて最近よく考えるのは、天の恵み、自然の恵みとしての野菜であり、食べ物だという視点を提供していくこと。お酒なんていうのは「御神酒」というぐらいで、もともと売り物じゃなかったわけです。神社で配るものだった。それが今や全部「商品」になっちゃっているのを、ちょっと考え直して、「NOT FOR SALE」というブランドの酒をこれから造ろうとしています。

【Farmer’s Market@UNU】都市と農をつなげるコミュニケーションをつくる場
毎週末青山の国連大学前で開催
宮口:素敵ですね。ポートランドに興味を持っている人は多いと思いますが、黒崎さんは通算どのくらいポートランドに行かれているんですか。
黒﨑:40~50回かな。
宮口:頻度としては?
黒﨑:年に4~5回。僕の弟がポートランドの人と結婚して、35年間住んでいるから。
宮口:ポートランドは、クリエーティブな街づくりの話をすると、必ず話題に出る街になっていますね。それ以外で、今ご興味がある都市はどこですか。
黒﨑:LAののダウンタウンとか、ニューヨークのブルックリン、デトロイト…。結構ヤバイっていわれるところかな。ロンドンだとイーストエリアのショーディッジ、それからコペンハーゲンとかパリでも一部ある…。あやしいところがどうなっていくかというのを見ているのが、一番面白いです。
LAのベニスビーチは、昔は貧しい人たちが住んでいたけど、今はアーティストがたくさん住んでいる。そうなると、グーグルとかが移ってくるわけ。ポートランドにマイクロソフトの事務所ができたりね。要するにクリエーティブな人材を求めて、大企業自体が動いていく。
宮口:クリエーティブな人たちが集まりやすいのは、あやしい雰囲気があるところということですか?
黒﨑:というか、価値観の変化がある場所。例えばUberやAirbnbも、日本では道路運送法や旅館業法から入るじゃないですか。向こうは、ただ自分の車や家を生かせばいいという感じで始めるからね。
宮口:日本の法律とか規制が多いということが、世界のクリエーティブの潮流と逆方向に行っているということですね。
ファーマーズマーケットには、1日2万人も集まる
黒﨑:たとえば、僕らがやっているファーマーズマーケットの場所、国連大学の周りは特に週末はほとんど人通りのない広場だったんです。
宮口:あそこではそんなイベントはできないと、つい思い込んじゃいます。われわれの常識では。
黒﨑:そうでしょう。でも、国連大学との共同開催でやることにしました。
宮口:国連大学含め関わる人たちの売り上げも上がり、地方の農家の人たちももうかって帰るんですね。
黒﨑:そう。若者たちにも仕事のチャンスが与えられる。パン祭りを開催すると、1日2万人来たりする。パンが1日で1000万円売れる。めちゃくちゃでしょう。最近、こだわってハンドドリップでコーヒーを入れる若者が増えているけど、1日2~3万しか売れない。でも、ファーマーズマーケットでコーヒーフェスティバルをやると、1日15万売れる。

【TOKYO COFFEE FESTIVAL】 地方の小さなコーヒーショップのバリスタから、インターナショナルに活動するロースターまで2日で延べ60店舗以上が出店
お金掛けてないですよ。広告宣伝費も取らないし。クリエーティビティーを求めて、フェスティバルとかイベントに対して、コンセプト、コンテンツプランニング、マネジメント、情報発信の全てを、15~20人の少人数でやるのが面白いの。大企業ではファーマーズマーケットのプロデュースはなかなかできない。
宮口:耳が痛いです(笑)。そのやり方のほうが元気な街になりますよね。自然にみんなが参加してお金もちゃんと回っていく。僕らもいろんなイベントをやりますが、本当に難しくて…。
黒﨑:大企業が仕切ると、コンプライアンスやルールが、いっぱい入ってくるじゃないですか。何があったらどうだとマイナス面を全部ふさいでいくじゃないですか。、肉体労働だけど、誰もやめないんだよ、面白いから。ファーマーズマーケットは、毎土日に組み立てて、終わったら畳んで倉庫にしまう。えらい重労働ですよ。什器もすごく重くて、重石だけでも何トンもある。でも大変でもやめないよ。お客さんも、なかなか帰らないの(笑)。ずーっといたがるんですよ。
宮口:楽しかったら学園祭と一緒で、大変さも苦にならないでしょうね。
都市の情報化を、どうプロデュースするか
宮口:日本の街づくりは、規制緩和すれば変わるでしょうか。
黒﨑:都市が情報化している。今までの不動産って、建物が所有権になっているじゃないですか。あるディベロッパーは生前イベントホールをたくさんつくって、情報の拠点としてテレビ局やラジオ局、必ずメディア会社を入れているの。それは意図的にやっていたんです。だから広告会社が、これから不動産のプロデュースに向かうのは正しいと思う。情報化がキーだから。
最近伸びている会社は、だいたい誰の座席も決まっていないわけ。入り口だけはセキュリティーの関係上チェックするけど、トップも誰一人スーツ着ている人がいなくて、ソフトウェアの会社と同じでみんなカジュアルな感じ。少人数でやっていて、それが3兆円企業だったりするわけ。そういうふうに、会社もものすごい勢いで変わっているよね。
電通もそうあるべきですよ。例えば古いビルをきれいにしたところに少数精鋭チームがいて、東京を再生するみたいな大きなことをしていったほうがいいんじゃないかなと思います。
宮口:リノベーションは流行っていますしね。古いビルが東京はいっぱい出てきていますから。
黒﨑:ポートランドで伸びているACE HOTELも、Tシャツを着た人が「いらっしゃい。どうぞ、どうぞ」って友達を迎え入れるような感じ。Airbnbのように、自分の家に招待するような。ホテルって、最終的には自分の家にいるように心地いい、というのを目指せばいいんじゃない?

【ACE HOTEL】人と人を繋ぐコミュニテイの場としてホテルのあり方を変えたホテル
シアトル,ポートランドの他ニューヨーク、ロンドンで展開
車も同じだと思います。お金持ちになって、リムジンやロールス・ロイスに乗って、お城のような家に住むって、成り金的な発想だよね。本当に豊かだったら別にそんなことは求めない。ACE HOTELは投資効率がめちゃくちゃいいと思います。古いビルをアートできれいにしている。
宮口:人の出入りが激しい、いろんな人が集うのもクリエーティブですよね。
黒﨑:そうそう。泊まっていない人もロビーを使っていて、働けるという状態。だけど、日本の高級ホテルだと、宿泊者専門とかスペースが分かれているでしょう。時代の価値観みたいな大きな転換を理解して、クリエーティブであるということが気持ちがいいとか、面白いとか、そういうことになってきているのだから、電通もいち早くそういうことを察知しながらディレクションしていくといいと思う。

黒﨑 輝男
流石創造集団株式会社 CEO
1949年東京生まれ。「IDĒE」創始者。 オリジナル家具の企画販売・国内外のデザイナーのプロデュースを中心に「生活の探求」をテーマに生活文化を広くビジネスとして展開、「東京デザイナーズブロック」「Rプロジェクト」などデザインをとりまく都市の状況をつくる。 2005年流石創造集団株式会社を設立。廃校となった中学校校舎を再生した「IID 世田谷ものづくり学校」内に、新しい学びの場「スクーリング・パッド/自由大学」を開校。Farmers Marketのコンセプト立案/運営の他、,「IKI-BA」「みどり荘」などの「場」を手がけ、 最近では“都市をキュレーションする”をテーマに、仕事や学び情報、食が入り交じる期間限定の解放区「COMMUNE 246」を表参道で展開中。

宮口 真
株式会社電通 電通ライブ
1998年電通入社。展示会、ショールーム、店舗開発など、イベント&スペース領域の業務を推進。 2014年7月からシティ・ブランディング部で、まちづくり開発案件やシティ・プロモーション業務を中心に活動中。
マンガを広告で生かす!:かっぴー(前編)
- August / 08 / 2017
マンガの中に、広告を入れる
西牟田:そもそも「フェイスブックポリス」みたいなマンガを、なぜ描くようになったんですか? みるみるヒットしましたね。

フェイスブックポリス
かっぴー:新卒で広告会社の東急エージェンシーでアートディレクターをした後、転職して面白法人カヤックに入りました。ニューフェースは日報メールを社員向けに流すんですけど、なるべく早めに顔と名前を覚えてもらうために何かプラスアルファでつけたいなと思ってマンガを描いたんです。
カヤックはバズをつくる会社なので、社員が「面白いよ」と言ってくれるのが結構信ぴょう性があったというか、「この人たちが面白いと言ってくれるなら、ネットにアップしても面白がってもらえるんじゃないかな」と思えた。去年9月のシルバーウイークのときに、たまたま急に思い出してアップしたらこうなったという(笑)。
西牟田:最初は「フェイスブックポリス」だけ?
かっぴー:「フェイスブックポリス」と、「おしゃれキングビート!」と「めっちゃキレる人伝説」ですね!


西牟田:カヤックの人たちが「あ、いいね」と思った感じは、ライトコンテンツがウケているという時代の空気感があるからなのですかね。自分のことをライトコンテンツメーカー、例えば「ジャンプ」みたいな雑誌に載るマンガがラーメン屋だとしたら、自分はカップ麺メーカーみたいな感じと言っていたじゃないですか?
かっぴー:めちゃくちゃ広告的だなと思っているんですよ、自分のマンガって。ウェブコンテンツから書籍化されると、なかなか売れないんですよね。何で売れないのかについて、みんな安直に「ウェブで無料で見られるからでしょ?」というけど、「ブラックジャックによろしく」は、ネットで全話無料で見られるようになった途端に売り上げが伸びたらしいです。だから「無料で見られる=買わない」ということじゃないと思う。
多分メディアとして、見るテンションが違う。車の中とかトイレとかでツイッターをふわーって見ているときに、「このマンガ、めっちゃウケる!」となって見るテンションと、「ワンピースの新刊出たぞ!」と家へ大事に持って帰って、家に着いてポテチを用意して見るのでは、テンションが違う。だからテンションの差で売れないんじゃないか。コンテンツとしてはどっちもありですけど、手元に置いておきたいかの差はある。
一方、僕のマンガの強みは「あ、なんだ、広告マンガか」と分かった時に好意的に受け入れてもらえる事が多い所だと思います。距離感が広告と相性がいいんだなと思う。だからこそ自分のは「ライトコンテンツ」なんです。ウェブで公開しているマンガが全てライトコンテンツだとは思っていなくて、逆に雑誌でも、ライトコンテンツっぽいマンガは多分あるし、ウェブだからライトっていう訳では無いと思ってます。
西牟田:ユーザー側に依存するのかな、見方のスタンスは。
かっぴー:僕は意識して胸張って「ライトコンテンツです」と割り切ってしまった方が書籍もマンガ自体も、売り方の工夫があるなと思いました。
会社「なつやすみ」は、コンテンツメーカーでもあり、広告会社でもある
西牟田:7月には2冊同時に、書籍化もするんですね、すごいスピード感。
かっぴー:今、書籍の中に本当の広告を入れようと考えていて、その営業をかけたいと思ってます。これまだ動いてないので、電通報で初出しできてラッキー(笑)。「SNSポリス」と「おしゃ家ソムリエ!おしゃ子!」の中の広告枠を募集しているので、よろしくお願いします!
「おしゃ子が持っているスマホのカバー、どこかスポンサーつけない?」とか、ポリスのスマホや帽子のメーカーとかに、スポンサーを募集したい。僕のマンガは「広告なのが嫌がられない」のがちょっと珍しい。「なーんだ広告か、でも、お見事!」みたいな感じ。「広告か、ふざけんな」じゃなくて、「お見事」という感想を持ってくれる人がすごく多くてうれしかったから、そのノリを使えるだけ使おうと思っています。映画みたいに、マンガの小道具にスポンサーがついたら書籍として新しいですよね。


西牟田:その売り方、面白いね。
かっぴー:僕はマンガも広告も抜きんでていないけど、二つそろったら相性よかった。意外と広告マンガを描ける人ってあまりいないんじゃないかな。有名な漫画家を起用したら、それはいい広告になる可能性は高いけど、広告マンガとしてちゃんと企画から考えて、マンガに落とし込める人はあまり見たことないですよね。
西牟田:確かにね。そうすると、なつやすみという会社は、コンテンツメーカーであるだけではなく、広告会社でもあるし、いろんな立ち位置を全部自分ひとりでやっていくのですね。
かっぴー:そうです。だから事業内容はシンプルに、「マンガと広告」としているんです。だから、マンガと広告に関わることは、全て業務領域かなと思っています。
「バズる」ことを目標にして、真顔で議論する時代ではない
西牟田:コンテンツの発信の仕方も、結構よく考えていますよね。ソーシャル受けするコンテンツのあり方や、戦略的に取り入れている企画のポイントを聞きたいな。発信するときは、メディアを使い分けていますか。
かっぴー:ちょっと話がずれるかもしれないけれど、今考えているのは、バズるということ自体を茶化すというか、真顔でバズの話をする時代じゃなくなっているんじゃないかということ。「SPA!」で連載を始めたんですが、まさに「バズマン」というタイトルで。バズに対し一生懸命やっているウェブ制作会社のマンガ。そろそろ「バズる」に奔走すること自体が、ギャグになるんじゃないかって。
西牟田:かっぴーの発言としては、ちょっと皮肉だね(笑)。
かっぴー:うん。だって、数字なんてほとんど意味ないよ。これを言われると困る人たちがいっぱいいるから、みんな言わないんだろうけど。バズれば売れるの?それで本当にサービス加入するの?ってこと。
リツイートって、記事タイトルで分かるものとかが、ウケてリツイートする。本当に気になっているコンテンツこそ、読み込んじゃって逆にシェアを忘れていたりする。そう考えるとパパパパパパッとバズってワーっと広まっていくコンテンツって、本当に見てるのかなと疑います。最近は数字に対してうのみにしちゃいけないなと思っています。
広告業界の真面目な部分を切り取った「左ききのエレン」というマンガを、いま描いていますけど、コメントつきのツイッター投稿がこんなに多いかと思うぐらい多くて。ソーシャルカウンターに出ている数字は、「フェイスブックポリス」より低い。でも、読者が一々リアクションしている比率が高い方がうれしい。
何人に褒められたかより、何て褒められたかの方が大事。「うわっ、これちょっと、俺もひとこと言いたい」という、何かの境界線を越える、それが一人でも多いコンテンツが、僕はいいコンテンツだと思っているんです。


西牟田:僕も同じようなことを思いながら仕事をしている部分がある。数の評価だけが先行しちゃうと、それって体験としては本当にどう届いたのかな?と違和感を覚えるよね。
もちろん数は最大化していくことを目指すけど、もっと別の指標でも見てみたい。
かっぴー:あと、どこでも誰でも平等に見ることのできないコンテンツ、例えば1万人しか見れないマンガとか、深夜しか見られないマンガとか、ちょっとひねったコンテンツが出てくるんじゃないかなと思っていて、時間帯限定版とかも面白いんじゃないかなという気がしています。
純粋に広告マンガとして起用してもらうケースも多いんですが、変化球の仕事も来るようになってきたので、分岐するマンガとか、性格診断が入っているとか、やりようがいろいろあるなと思っています。

かっぴー
株式会社なつやすみ 代表取締役社長/漫画家
本名は伊藤大輔 。1985年、神奈川の横浜じゃない田舎生まれ。 映画の脚本家やテレビ番組の構成作家に憧れるも、自分が天才ではないことに高校生で気がつきデザイナーを志す。武蔵野美術大学でデザインを学び、2009年卒業後は東急エージェンシーのクリエーティブ職に。 アートディレクター・コピーライター・CMプランナーなど天職が見つからぬままアイデアを書き留めた絵コンテを量産する。2014年に面白法人カヤックへ転職。 2015年9月、マンガを見た同僚に背中を押され、描いたマンガ『フェイスブックポリス』をウェブサイトへ公開し、大きな反響を呼んでネットデビューを果たした。以降、『フェイスブックポリス』の続編『SNSポリス』をはじめ『おしゃ家ソムリエ!おしゃ子!』『おしゃれキングビート!』『裸の王様vsアパレル店員』などウェブメディアでの多数の連載が始まる。マンガの広告起用にサントリー、ヤフオク!、パナソニック、UHA味覚糖など。2016年2月に株式会社なつやすみを設立した。

西牟田 悠
株式会社電通 電通ライブ プランナー
2009年4月電通入社。入社以来、イベント・スペースデザイン領域で、プランニング・プロデュース業務に携わる。 大規模展示会やプライベートショー、プロモーションイベント、施設・ショップのプロデュースなど、国内外の実績多数。 イベント・スペース領域を核としながらも、さまざまな領域のパートナーとコラボレーションし、新しい表現に挑戦中。
ホラーで、世界の感情を揺さぶる:頓花聖太郎(後編)
- August / 15 / 2017
新しい「ホラーの概念」を、テクノロジーで拡張していく
笠井:ホラーってある種ワンパターンになりがちで、お化け屋敷もですけど、マンネリをどう打破していくか、気をつけていることはありますか。
頓花:それ、悩むんですよ。もちろんいろんな工夫がありますが、ホラーの文脈だけじゃなくて、できるだけホラー以外のエンターテインメントで、「これは見方を変えたらホラーになるよね」とかそういうところで、別の分野の概念から発想を輸入してこようとはしているつもりです。次にやりたいなと思うのは、漫画表現でホラーっぽいコンテンツをつくれないかなとか、ちょっとずつ表現を外側に広げています。
笠井:テクノロジーの変化、たとえばVRなどによって、ホラーは今後どう変わっていくと思いますか。
頓花:僕が基本的に思うホラーの楽しさって、一人で体験して終わるパターンより、みんなでギャーギャー言いながらというのが原体験になっています。スマホとか今のVRはどうしても一人の体験になりがちだと思うんですが、テクノロジーの進化で今まで共有できなかったものがぐんと広がっていくと思う。わざわざお化け屋敷へ行かないと体験できなかったものが、気軽に家で友達と一緒に、全国どこでも体験ができるようになると面白いですね。
笠井:楽しみ方が広がりますね。
頓花:ええ。僕はひとりでお化け屋敷へ行ったり、ホラー映画を見に行ったりもするんですが、やっぱりあまり面白くないんですよ。誰か隣の人にギャーギャー言いたい。あまり周りにホラー友達がいない人でも、テクノロジーがそこを解決していってくれるといいですね。それがこれからのテクノロジーの使いどころですね。
笠井:ホラーというと夏ですが、冬の仕事はどんな感じですか。
頓花:もちろん冬ホラーの分野を開拓したいなと思っていますよ! もしくは、季節を問わないホラー体験をつくっていかないと、今年来年は生き延びても、いつか会社が死ぬ(笑)。新しくホラーの概念を拡張していくようにしていかないといけないと常に思っています。
最近ニコニコ超会議で「町VRホラーカー」をつくって、それもすごい楽しかった。

町VRホラーカー
頓花:車の中でヘッドセットをつけて体験するVRなんですけれど、背中にSubPacという振動を感じるウーハーをつけているので、本当に車が走っていて、どんどん襲われてくるような感じの演出が味わえます。しかも体験を終わった人が次に体験する人を、車を揺らしたりして脅かせるアナログな仕組みもあるんです。お客さん自身が次の客を脅かすなんて、ちょっとばかばかしいけど、そのことが「一緒に盛り上げている感覚」をつくれて面白かったですね。
笠井:それはどこで体験できるんですか?
頓花:ニコニコ町会議のイベントの一環としてですね。今年の夏は、日本中を回りますよ。お化け屋敷文化には新しい進化、イノベーションがしばらく起きていないような気がしている。ホラーの見せ方にテクノロジーを使った発明が加われば、従来型の「ザ・お化け屋敷」というフォーマットじゃない形のイベントをいろいろつくれるはずです。
「怖い」という感情を楽しむ文化、ホラーの楽しみ方の普及
頓花:怖いということの、楽しみ方を普及させなきゃいけないと思っているんです。怖さって、敷居は確かにあるんですけれど、ちょっとしたお作法を覚えると誰でも楽しめる。
映画を見て、めっちゃ泣くとか、めっちゃ笑うとか感情を揺さぶられるじゃないですか。めっちゃ怖がるという一手においても、怖さほど心が動く体験ってそうそうないと思うんです。でも恐怖という感情だけは我慢しようとしちゃう、耐えることをが目標になってる。そこを楽しめるマインドにスイッチを切りかえたら、すごく感動できるはず。
怖さを乗り越えられた自分であったり、それが終わったときの安心感との感情の落差だったりを見いだせるようになってきたら、絶対誰でも楽しめる。その楽しみ方まで提供できたらいいなと思っている。例えば、楽しみ方のコツのひとつは、我慢せずに声を出すことなんですよ。
笠井:大きな声で叫ぶ。
頓花:そう、怖かったら素直にギャーッと言うと、めっちゃ楽しいんですよ。
笠井:確かに。楽しんでやろうという気持ちで参加することが大事ということですね。
頓花:嫌々行ったらひとつも楽しくない。少しでも前のめりで、どんどん声出していこうというつもりで行くと、めっちゃ楽しいです。だから僕、一人で行ってもギャーギャー叫びながらお化け屋敷を巡るんですよ(笑)。ホラーに関しては泣き叫ぶのが恥ずかしくないという、感情をぶつける文化をつくりたい。
笠井:それ、大事かもしれない。いかに叫ぶの我慢するかで、その我慢がすごいストレスなんですよね。とくに私も含めた女子には。叫んだらストレス発散にもなりますよね。
頓花:日本人って、肝試しとかもそうですけど、ビビらないというのが目的になっていたりするじゃないですか。逆ですよ。ビビるのを楽しもうよ(笑)。
笠井:「何怖がってんだよ~、おまえ」みたいなことを言われますよね、悔しい(笑)。
頓花:いま大阪でNTT西日本さんと毎日放送さんがやってる梅田お化け屋敷「ふたご霊」で協力させてもらってますが、その中の施策の一つで、どれだけビビったか、という数字が出てくるんです。実際に計測しているのは、どれだけ楽しんだかということで、NTT西日本さんがつくった複雑な計算のもとで数字として出している。ギャーギャー言って楽しんだ人ほど高得点が出る。そういう指標を持って楽しめるようになってもいいのかなと思ったりします。

ふたご霊
ホラーの世界観のバリエーションを、多彩にアートディレクションする
笠井:ホテルでやられた企画もありましたね。
頓花:USJに隣接している公式ホテル「ホテルユニバーサルポート」でハロウィーンシーズンに行いました。ホテルの一室だけ、期間はそんなに長くなくて、ウェブプロモーション的なことは一切しなかったのですが、昨年結構予約が埋まったと聞いています。

ホテルユニバーサルポート企画
笠井:鏡に血がバーッとか、そういうことですよね。
頓花:あまり詳細を言うと面白くないけど、映像で人がガーンと出てきたりするんです(笑)。宿泊客は夜中2時ぐらいまで脅されます。壁にディスプレーを仕込んだ鏡を埋め込んでいるんですけれど、そこにさまざまな演出が起きるのですね。
笠井:お客さんは、若いカップルなどですか。
頓花:基本的にR15にしていたので、15歳未満は泊まれない部屋です。苦情が出ても困るので。そこらへんに血やら手首やら、散らばっているので(笑)。結構オールジャンル層でアンケートの評価もよかったみたいです。
笠井:寝れないでんすね、2時まで(笑)。
頓花:そう、夜中2時まで映像が出ますから(笑)。寝たら損ですよ。最大4人まで泊まれる部屋です。
笠井:じゃ結構ワイワイみんなで行けますね。
頓花:ええ。USJでハロウィーンを楽しんで、夜はホテルで謎解きを楽しみつつ泊まれるみたいな感じですね。
笠井:ちなみに、ホラー以外に好きなものはなんですか。
頓花:ホラーの仕事と隣接するんですけれど、テーマパークが好きですね、ジェットコースターとか。遊園地自体のアートディレクションに興味があって、ディズニーシーとか、岩の苔までこだわっていたりするじゃないですか。そんなのを眺めるのが好きで、岩だけを見てずっといられる(笑)。
今はホラーを扱うデメリットとして、皆さんご予算があまりないケースが多く、どこで妥協するのか、どこまでこだわるのかという戦いには毎度なってしまう。あと、スケジュールもタイトで、夏までにリリースしないといけないとか。予算が増えれば、もっともっとこだわり抜きたいですね。
笠井:家族みんなでホラーを楽しんでもらうブランディングが必要ですね。
いつかホラー×テクノロジーの大展覧会をつくりたい
頓花:ホラーイベントとなると、すぐお化け屋敷に集約しようとするんですが、そうじゃない形がいろいろある。普段の生活の延長線にホラーを注ぎ込んだら、すごく面白くなると思う。
笠井:新幹線で北海道から九州までホラートレインが走るとか、「はとバス」などでホラーツアーがあってもいいですし。面白そうですよね。みんなで叫べるし(笑)。
頓花:ちゃんとしたイベントとして成立できるところまでテクノロジーを使うと、繰り返し性やインタラクティブ性が強いこともできる。実はお化け屋敷も、入場者は女性の方が多いんですよ。USJのホラーイベントに行ったらびっくりします、女子ばっかりなので。女性は本気で叫べるというのが、楽しさや満足度につながっていると思う。
面白いテクノロジーもいっぱいあるんですよ。最近気に入っているのは先ほども挙げたSubPac。背中で感じる触感性のあるウーハーなんですけれど。重低音が体にズンズン響くのをうまく利用して、背中をそれこそ人がドーンと押しているみたいに感じるとか。
笠井:衝撃を受ける感じですか。
頓花:そうです。超でかい重低音のスピーカーを、背中に背負っているみたいなものです。それをうまく利用すると、車に乗って走りだす感じとか、心臓のドキドキ音を感じるとか、そういう感覚をつくれたりします。その他にも僕は、使えるガジェットを結構たくさん集めています。
笠井:ホラーに向くいろんな仕掛けを、アナログからデジタルまで。そういうの、ノウハウ知りたいです。やはりすごく努力しているんですね。
頓花:好きで集めてる。あと、指向性スピーカーはいいですよ。なかなか他では体験できない音の出し方ができます。
笠井:指向性スピーカーって、例えば私が歩くと音がついてくるとかですよね。
頓花:はい。超ピンポイントで狙えるようにつくれるので、耳元から誰もいないのに声がするとか。壁を狙ったら、その壁から反射で誰かがしゃべりかけてくるとか。キネクトみたいなセンサーを入れておいたら、自動的に顔を追尾するとかも可能です。
笠井:ホラープロポーズとか、ホラー結婚式の司会も面白そうですね。
頓花:いいですね、それ(笑)。ポピュラーに、そういう文化ができてほしいんです。
笠井:すごく楽しいですね!「ホラー×ラブ」みたいな。
頓花:「ホラー×○○」にすると、いろいろ放り込めるはずなんです。怖いという感情をどう使うかというメニューを広げたい。僕から言うと、エンターテインメントの中でホラーという席が「あれっ、空いてる」みたいな感じだったんです。「ここ、俺のもの!」という気持ち。
もちろん、ホラー界の先人の素晴らしさを否定することは全くないんですが、テクノロジーを掛け合わせるというところでいうと、僕らにもアドバンテージはあるかなと思ってます。
笠井:ぜひ、何か一緒にイベントをつくらせてください! 今日はとても勉強になりました。ありがとうございました。

頓花 聖太郎
株式会社闇 アートディレクター
1981年 兵庫県生まれ。元々はグラフィックデザイナー。 2011年 関西の制作会社 STARRYWORKSにアートディレクターとして入社。 大好きなホラーを仕事にすべく2015年、株式会社闇を設立。

笠井 真里子
株式会社電通 電通ライブ
2004年4月 電通入社。メディア局、プロモーション局を経て、現在のイベント&スペース・デザイン局に配属。リアル/バーチャルどちらの世界でも、共感を生み出す空間づくりを目指している。
日本酒を「世界に尊敬される」酒に戻す!:佐藤祐輔(後編)
- August / 22 / 2017
江戸時代は乳酸菌の力を使って、初めに酒母を立てていた
堀:ちなみに、今年もまたいろいろな改革を考えていらっしゃるんですか。
佐藤:今年は、ちょっとテクニカルな話になりますが、日本酒の造り方って明治以降はシンプルにしようとしてきたけれど、「新政」ではさらに複雑にしようと。伝統技術というのはどうしても複雑になるのです、いろんな菌を取り込むから。西洋科学だと、善玉菌と悪玉菌に分けて悪玉菌を皆殺しにする。東洋のやり方は、短絡的に善悪を問わないというか、ある特定の条件のもとだけで価値判断をしない。より自然に近い様々なフェーズの中で考えることで、悪玉菌にも最終的に良い働きをさせたりとか、視点を変えて可能性を引き出すことで、生命を利用しているという感じかな。
堀:人間の善玉コレステロール、悪玉コレステロールも一緒ですよね。どっちも必要ですよね。
佐藤:そう、どっちも必要なんですよ!自然の中には、不要な物ってないんです。科学が行き過ぎちゃうと、何でもかんでもコントロールしなきゃ気が済まなくて、気に入らないものを根絶しにかかるんですね。未来になって、あれは大事だったのに殺してしまったということが分かっても、取り返しがつかないですよ。
そういう意味では、日本酒は乳酸菌を悪玉菌扱いにしちゃったわけです。乳酸菌は一匹たりとも入れさせんと。江戸時代以前は乳酸菌の力をフル活用して素晴らしい発酵食品文化を創り上げてきたのに、突然、明治以降、酸味料を買ってきて入れればいいやという話が湧いて出た。しかも100年以上経った現代の酒造りにおいても、いまだに「乳酸菌は酒を腐らせる悪玉菌ですから要りません」となっている。実際にそうなんですよ。今でも大半の造り手はそう思っている。だから僕はいま、乳酸菌の肩を持とう、肩を持とうとしているわけです(笑)。
堀:むしろ乳酸菌推しで広告したら、女性はワインから日本酒にくら替えしますよ、絶対。発酵食品ブームですから。
佐藤:本当にそうだと思います。日本酒というのは、乳酸菌の扱いにかけては世界でもずば抜けた、神がかった技術を持っていたんですね、江戸時代までは。日本酒は研究室の中で造られていたんじゃない、現場で造られるんだ!
堀:映画のセリフみたいですね(笑)。
佐藤:それが、日本酒が売れなくなり、全体に均質化してしまった最大の理由です。僕にしたら、全部自前の伝統方式でやれよっていう話です、はっきり言えば。そうすれば、少なくとも自分らしい酒ができるはずです。それに、そのほうが本当のお客さんがつくと思うんです。
堀:「新政」の場合は、今、停滞した市場の中で、「自分らしいものを、自分らしい手法でつくる」というところが、競争を勝つポイントだったということですね。
佐藤:うん。でも、どちらかというと、競争に勝つというより、逆に誰とも競争したくなくて、こういう方向へ流れたというのが近いかもしれないです。
日本の酒蔵は、1000社くらいしかもう残っていない
堀:「6号酵母」「生酛系酒母」「純米」「秋田県産米」にこだわって「新政」の酒は近年、立て続けに全国酒造鑑評会で金賞を受賞されました。それだけの成果を、佐藤さんが2007年くらいから始めて、10年に満たない時間で改革をなし遂げたというのは驚きですね。
佐藤:未知じゃないからね、酒造りって。江戸時代とかの文献を読み解いてやっている。ゼロからの勉強ではないから。
堀:それは「新政」の蔵に残った文献ですか?
佐藤:いや、アマゾンとかでも売ってますよ。古くて700年代から1600年くらいまでの文献は、一般にも少しは売られているんです。昔の酒造りの担い手というのはほとんど農民だったから、字が書けないので本が少ない。こういう本は、現場に入るのが好きな酔狂な蔵元なんかが隠れてつけたレシピのようなものなんですが、あってよかったと本当に思います。だから、未知のものを発明するわけではなく、過去の先達の道筋もあったし単に伝統に学んでいるだけなんです。誰にでもできることですよ。どこの蔵も4、5世代より前はやっていたのですから。僕じゃなくてもできるはずですよ。
堀:「新政」に触発された酒蔵が、改めて伝統的な江戸時代の手法でお酒を造る時代が、これからやって来るかもしれないですね。
佐藤:いま日本の酒蔵は1000社くらいしか生き残っていないから、これ以上減ってくると、世界的に展開していくにはちょっときつい。やっぱりある程度玉がそろっていないと、遺伝子多様性が低い動物みたいに、ちょっとしたことでみんなが死んでしまう。蔵がいっぱいあって、訳の分からない蔵がウジャウジャウジャウジャしているというのが、本当は健康な業界だと思う。
例えば、自分より教養が高い人にモノを売るのって超困難でしょ。特に酒のような嗜好品は。提供する側が、まず基本的なところでお客さんと同じところに立って、しかも酒文化ではちょっと目線が上にいることができてこそ、お客さんの人生を楽しませることができる。そういう意味では、日本酒はもっと社会性を高めないと新しいお客さんを取り込めないような気がします。これからの日本酒はもっと文化的に武装して、日本酒が世界に誇る醸造酒であることを広めてゆかねばならないと思います。日本酒の本質、哲学や世界観、倫理観を魅惑的に体現し、かつ説明することができるなら、世界中の誰しもがファンになってくれるはずと思います。たとえ一流の料理人やら食通やら、ソムリエやらバーテンダーやらが相手でも、感動させて一発で宗旨変えさせることだって難しくはないはずなんです。
堀:哲学、倫理ですか。
佐藤:それが一番、大切です。単に製法をすべて生酛に統一しただけでも、ワインになんか負けた気がしないわけですよ。「ワインは亜硫酸塩がないと発酵がなかなかうまくいかないし、日持ちもしませんよね。でも日本酒は一切何も加えなくても、健康な酒ができるんですよ。古今東西、日本酒こそ最高の自然派アルコール飲料なんです」って胸張って言える(笑)。ほかに例えばワインの世界の潮流を見ても、ビオディナミとか、テロワールとか、ナチュールとかの単語に代表される「自然との共存」みたいな考えが、ここ最近30~40年くらい盛り上がってきてます。でも、こうした考え方は、もともとは東洋が得意とする考えです。東洋は、特に日本はもっと自己のルーツに自信をもたなくてはいけない。前述のワインの用語なんかも、本来あんまり使う必要もないように思います。思想の核心部分については、一切借り物ではない。我々こそ本来知っていたはずのなんだから。僕はワインのソムリエに対しても、「日本酒をやってください」と言って堂々と勧めています。日本の酒を、日本の文化を、日本の言葉と文脈で語る機会も持って欲しいのです。
エキセントリックな江戸独自の文化を、自分の酒造りにも取り込む
堀:お話を聞いていると、佐藤さんの酒造りは、確かに大改革ですね。
佐藤:僕は絵とか陶芸も好きですけれど、結局、江戸の物が一番世界で受けているような気がする。絵だってそうだし、和食、すしも完全に江戸文化が中心だからね。僕は日本酒のいろいろな製法をやるわけで、この間は生米こうじ(中国の紹興酒のこうじ)を作ったり、「菩提もと」という室町時代の製法に基づく酒をつくってみたりしてる。いろいろな時代の酒を試作してみたけど、結局、江戸より前の時代の日本酒って、中国や朝鮮の影響が非常に強い。言い方はきついけど、紹興酒の亜流のようなものを1000年遅れでやっているような感じなんです。ところが、江戸に入って鎖国してから、日本酒の製法は突然オリジナルになってゆくんです。日本人の創造性が爆発した感じです。生酛の手法なんかもそのひとつです。江戸はすごく良いです、真の「ザ・日本」なんですよ。ところがもったいないことに、明治になると途端に、鹿鳴館みたいな和洋折衷文化になってくる。ああゆうものは、あまり魅力的に感じません。見たければ、ヨーロッパに行けばもっとすごいホンモノが見られるわけですからね。
堀:面白いなあ(笑)。
佐藤:江戸は世界中の各国の文化の中でも、飛び抜けてエキセントリック。人類の多様性を思わせて素晴らしい。そういう優れた日本の文化を、自分のプロダクトにも取り入れていきたい。先祖がやっていたことなのですから、そんなに難しくもないはずです。
堀:製法を全部生酛に切りかえるというビジョンは、初めから描いていましたか。
佐藤:全部切りかえられたのは、厳密に言うと去年です。2012年から速醸はやめている。でも、江戸時代の方式の生酛にするにはものすごく人手もかかるから。利益があまり出ていなかったので、二人も三人もその部署につけることができなかったけれど、だんだん利益も出るようになったので、酒母のパートに人員をグッと集めて実現しました。
日本酒のファンと共に、世界に尊敬される酒文化をつくっていく
堀:こういう新しいお酒に対して、新しい飲み手たちがちゃんと育ち、選べる舌を持っているというのは、佐藤さんにとって励まされる材料ですね。
佐藤:そういうこと。僕は、才能あるいいファンが、日本酒文化をこれから支えていくと思って、そういう人のためにお酒を造って、そういう人たちに真っ先に届けるように工夫しています。
堀:ファンの才能か。僕も一人のファンとしてプレッシャーを感じますね。
佐藤:お客さんの能力が、きっとこのジャンル自体の実力になるんだと思う。
堀:今年、アーティストの村上隆さんとも、コラボレートされましたね。

Takashi Murakami×NEXT5
佐藤:村上隆さんがたいへん日本酒に理解が深くて、奇跡的にコラボレーションが実現しました。製法に生酛を採用したり、酒の内容面についても、村上さんとはよく相談させていただきましたね。あと、村上隆さんのファンの方や、日本酒に詳しくない方でも比較的楽に入手できるようにと配慮して、一般発売の機会を設けたんです。中野ブロードウェイ内にある「Bar Zingaro」という、村上隆さんが経営されているカフェで行いました。
堀:1店舗でしか売らなかったので、僕は朝から並んで買いに行きました。その瞬間から、前のほう100人ぐらい転売の人たちだらけで(笑)。外に止めてある、開けっ放しにしたバンに、どんどん積み込んでいっているわけです。その後10~20倍の値段が付きネット上で売られているのを見ると、なんだか心配になりました。
佐藤:そうなんだよね。結局、日本酒は全体に値付けが安いから、市場にゆがみが生じている。ワインは適正な値段で売っているから、そこまではならないでしょう。
堀:自由に値付けがされていけば、健全な価格で落ち着くわけですよね。
佐藤:うちは、ほぼすべて四合瓶しか造っていないんです。地元向きの常温対応の酒がちょっとありますが、それ以外一升瓶はない。その理由ですが、飲食店ですぐ飲み切られるようにです。昔から気になってたことがあって、それは日本酒よりも劣化しにくいワインのほうがよっぽど酸化を気にして扱われていることです。ワインバーではすぐ飲み切られるようにボトルサイズが基本。マグナムなんか買わない。温度管理以上に、常に瓶の中の空気を抜いたりと酸化への配慮をしている。一方、日本酒の世界はというと一升瓶ばかり。最近は冷蔵管理も浸透しましたが、何週間も瓶に飲み残しのままの酒が放置してある例もよく見ます。フレッシュで繊細な吟醸酒を扱う場合、開栓後のケアが重要。飲食店では四合瓶で回転率をあげたほうが客のためなんですが。しかしそうはなりにくい。なぜかというと一升瓶のほうが安いからです。メーカーが量の多い一升瓶をお得価格に設定しているんです。それでは市場は変わらない。そこで我々は一升瓶をやめることにしました。
堀:お客さんの手元に届くまでを厳しく管理しようとしたら、全てを直販するという手もありますよね。
佐藤:そうだね。ただ、酒販店も歴史がある産業だから。たとえば、ワインの業界でソムリエみたいなのは要らんと切ってしまったら、確かにソムリエが取っていた取り分はなくなるかもしれないけど、文化的には大ダメージになるじゃないですか。ソムリエでも酒販店でも、文化を伝えて第三者的に価値を高めてくれる機能はやっぱり要ると思うんです。
堀:だからこそ、酒販店は、ある程度選んでお付き合いをされていると。
佐藤:そういうこと。酒販店は、酒への知識、能力が高くて、そこに行けば僕のとこの酒がもっと良くお客さんに分かる、伝わる、そういう機能がないといけないよね。そうでないと、なんのために、店が蔵と客の間にいて、利益を得ることができるのか意味が通らなくなってしまう。酒販店を経由することで、より日本酒の魅力が増す、そういう相乗効果にならないといけません。そういう意味では、より若くて元気のある特約店の店主を私は常に応援しています。彼らを育成することは、日本酒業界の未来にとっても大切なことだと思っています。
堀:今日は改めて佐藤さんの酒造りの哲学を聞いて、大の日本酒ファンの僕も、目からウロコのことばかりでした。今後も注目し、どんどん飲んでいきますし応援しています。今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました。

佐藤 祐輔
新政酒造 代表取締役社長
1974年秋田市生まれ。東京大学文学部卒業後、出版をはじめとする様々な職を経て、編集者、ジャーナリストとして活躍。 2005年に日本酒に開眼。06年より酒類総合研究所研究生、07年より生家の新政酒造へ入社。12年より同社代表取締役社長に就任。

堀 雄飛
株式会社電通 電通ライブ
1982年生まれ。さいたま市育ち。早稲田大学理工学部建築学科卒業。 2006年電通入社。10年間OOHメディアのセールス、開発、プランニングに携わり2016年から現局に在籍。 国際会議における政府展示や大型展示会の企画・運営、ショップやショールームのディレクションが主な活動領域。1児の父。趣味は日本酒。

黒﨑 輝男
流石創造集団株式会社 CEO
1949年東京生まれ。「IDĒE」創始者。 オリジナル家具の企画販売・国内外のデザイナーのプロデュースを中心に「生活の探求」をテーマに生活文化を広くビジネスとして展開、「東京デザイナーズブロック」「Rプロジェクト」などデザインをとりまく都市の状況をつくる。 2005年流石創造集団株式会社を設立。廃校となった中学校校舎を再生した「IID 世田谷ものづくり学校」内に、新しい学びの場「スクーリング・パッド/自由大学」を開校。Farmers Marketのコンセプト立案/運営の他、,「IKI-BA」「みどり荘」などの「場」を手がけ、 最近では“都市をキュレーションする”をテーマに、仕事や学び情報、食が入り交じる期間限定の解放区「COMMUNE 246」を表参道で展開中。

宮口 真
株式会社電通 電通ライブ
1998年電通入社。展示会、ショールーム、店舗開発など、イベント&スペース領域の業務を推進。 2014年7月からシティ・ブランディング部で、まちづくり開発案件やシティ・プロモーション業務を中心に活動中。
クリエーティブな街を、どのようにつくるか:黒﨑輝男(前編)
- July / 26 / 2017
クリエーティブな人が集まるところに、クリエーティブな街ができる
黒﨑:今まさに、Creative City Lab、創造的都市をどう作って行くのか-という本を作っています。ポートランドの開発局とか、昨日も友人のジョン・ジェイと会って話してます。Urban Gleaners=都市の落ち穂拾いの活動をしている知り合いがいて、それは何かというと植物や食べ物の再生なの。日本では農家でとってきたものを流通の基準に合わせで10~15%捨てて、さらに料理の無駄や、リテールもお店が終わったら残りを賞味期限切れで捨てるから、合計すると25%ぐらいの食べ物を捨てている。
僕たちが青山でファーマーズマーケットをやっていて最近よく考えるのは、天の恵み、自然の恵みとしての野菜であり、食べ物だという視点を提供していくこと。お酒なんていうのは「御神酒」というぐらいで、もともと売り物じゃなかったわけです。神社で配るものだった。それが今や全部「商品」になっちゃっているのを、ちょっと考え直して、「NOT FOR SALE」というブランドの酒をこれから造ろうとしています。

【Farmer’s Market@UNU】都市と農をつなげるコミュニケーションをつくる場
毎週末青山の国連大学前で開催
宮口:素敵ですね。ポートランドに興味を持っている人は多いと思いますが、黒崎さんは通算どのくらいポートランドに行かれているんですか。
黒﨑:40~50回かな。
宮口:頻度としては?
黒﨑:年に4~5回。僕の弟がポートランドの人と結婚して、35年間住んでいるから。
宮口:ポートランドは、クリエーティブな街づくりの話をすると、必ず話題に出る街になっていますね。それ以外で、今ご興味がある都市はどこですか。
黒﨑:LAののダウンタウンとか、ニューヨークのブルックリン、デトロイト…。結構ヤバイっていわれるところかな。ロンドンだとイーストエリアのショーディッジ、それからコペンハーゲンとかパリでも一部ある…。あやしいところがどうなっていくかというのを見ているのが、一番面白いです。
LAのベニスビーチは、昔は貧しい人たちが住んでいたけど、今はアーティストがたくさん住んでいる。そうなると、グーグルとかが移ってくるわけ。ポートランドにマイクロソフトの事務所ができたりね。要するにクリエーティブな人材を求めて、大企業自体が動いていく。
宮口:クリエーティブな人たちが集まりやすいのは、あやしい雰囲気があるところということですか?
黒﨑:というか、価値観の変化がある場所。例えばUberやAirbnbも、日本では道路運送法や旅館業法から入るじゃないですか。向こうは、ただ自分の車や家を生かせばいいという感じで始めるからね。
宮口:日本の法律とか規制が多いということが、世界のクリエーティブの潮流と逆方向に行っているということですね。
ファーマーズマーケットには、1日2万人も集まる
黒﨑:たとえば、僕らがやっているファーマーズマーケットの場所、国連大学の周りは特に週末はほとんど人通りのない広場だったんです。
宮口:あそこではそんなイベントはできないと、つい思い込んじゃいます。われわれの常識では。
黒﨑:そうでしょう。でも、国連大学との共同開催でやることにしました。
宮口:国連大学含め関わる人たちの売り上げも上がり、地方の農家の人たちももうかって帰るんですね。
黒﨑:そう。若者たちにも仕事のチャンスが与えられる。パン祭りを開催すると、1日2万人来たりする。パンが1日で1000万円売れる。めちゃくちゃでしょう。最近、こだわってハンドドリップでコーヒーを入れる若者が増えているけど、1日2~3万しか売れない。でも、ファーマーズマーケットでコーヒーフェスティバルをやると、1日15万売れる。

【TOKYO COFFEE FESTIVAL】 地方の小さなコーヒーショップのバリスタから、インターナショナルに活動するロースターまで2日で延べ60店舗以上が出店
お金掛けてないですよ。広告宣伝費も取らないし。クリエーティビティーを求めて、フェスティバルとかイベントに対して、コンセプト、コンテンツプランニング、マネジメント、情報発信の全てを、15~20人の少人数でやるのが面白いの。大企業ではファーマーズマーケットのプロデュースはなかなかできない。
宮口:耳が痛いです(笑)。そのやり方のほうが元気な街になりますよね。自然にみんなが参加してお金もちゃんと回っていく。僕らもいろんなイベントをやりますが、本当に難しくて…。
黒﨑:大企業が仕切ると、コンプライアンスやルールが、いっぱい入ってくるじゃないですか。何があったらどうだとマイナス面を全部ふさいでいくじゃないですか。、肉体労働だけど、誰もやめないんだよ、面白いから。ファーマーズマーケットは、毎土日に組み立てて、終わったら畳んで倉庫にしまう。えらい重労働ですよ。什器もすごく重くて、重石だけでも何トンもある。でも大変でもやめないよ。お客さんも、なかなか帰らないの(笑)。ずーっといたがるんですよ。
宮口:楽しかったら学園祭と一緒で、大変さも苦にならないでしょうね。
都市の情報化を、どうプロデュースするか
宮口:日本の街づくりは、規制緩和すれば変わるでしょうか。
黒﨑:都市が情報化している。今までの不動産って、建物が所有権になっているじゃないですか。あるディベロッパーは生前イベントホールをたくさんつくって、情報の拠点としてテレビ局やラジオ局、必ずメディア会社を入れているの。それは意図的にやっていたんです。だから広告会社が、これから不動産のプロデュースに向かうのは正しいと思う。情報化がキーだから。
最近伸びている会社は、だいたい誰の座席も決まっていないわけ。入り口だけはセキュリティーの関係上チェックするけど、トップも誰一人スーツ着ている人がいなくて、ソフトウェアの会社と同じでみんなカジュアルな感じ。少人数でやっていて、それが3兆円企業だったりするわけ。そういうふうに、会社もものすごい勢いで変わっているよね。
電通もそうあるべきですよ。例えば古いビルをきれいにしたところに少数精鋭チームがいて、東京を再生するみたいな大きなことをしていったほうがいいんじゃないかなと思います。
宮口:リノベーションは流行っていますしね。古いビルが東京はいっぱい出てきていますから。
黒﨑:ポートランドで伸びているACE HOTELも、Tシャツを着た人が「いらっしゃい。どうぞ、どうぞ」って友達を迎え入れるような感じ。Airbnbのように、自分の家に招待するような。ホテルって、最終的には自分の家にいるように心地いい、というのを目指せばいいんじゃない?

【ACE HOTEL】人と人を繋ぐコミュニテイの場としてホテルのあり方を変えたホテル
シアトル,ポートランドの他ニューヨーク、ロンドンで展開
車も同じだと思います。お金持ちになって、リムジンやロールス・ロイスに乗って、お城のような家に住むって、成り金的な発想だよね。本当に豊かだったら別にそんなことは求めない。ACE HOTELは投資効率がめちゃくちゃいいと思います。古いビルをアートできれいにしている。
宮口:人の出入りが激しい、いろんな人が集うのもクリエーティブですよね。
黒﨑:そうそう。泊まっていない人もロビーを使っていて、働けるという状態。だけど、日本の高級ホテルだと、宿泊者専門とかスペースが分かれているでしょう。時代の価値観みたいな大きな転換を理解して、クリエーティブであるということが気持ちがいいとか、面白いとか、そういうことになってきているのだから、電通もいち早くそういうことを察知しながらディレクションしていくといいと思う。

黒﨑 輝男
流石創造集団株式会社 CEO
1949年東京生まれ。「IDĒE」創始者。 オリジナル家具の企画販売・国内外のデザイナーのプロデュースを中心に「生活の探求」をテーマに生活文化を広くビジネスとして展開、「東京デザイナーズブロック」「Rプロジェクト」などデザインをとりまく都市の状況をつくる。 2005年流石創造集団株式会社を設立。廃校となった中学校校舎を再生した「IID 世田谷ものづくり学校」内に、新しい学びの場「スクーリング・パッド/自由大学」を開校。Farmers Marketのコンセプト立案/運営の他、,「IKI-BA」「みどり荘」などの「場」を手がけ、 最近では“都市をキュレーションする”をテーマに、仕事や学び情報、食が入り交じる期間限定の解放区「COMMUNE 246」を表参道で展開中。

宮口 真
株式会社電通 電通ライブ
1998年電通入社。展示会、ショールーム、店舗開発など、イベント&スペース領域の業務を推進。 2014年7月からシティ・ブランディング部で、まちづくり開発案件やシティ・プロモーション業務を中心に活動中。
マンガを広告で生かす!:かっぴー(前編)
- August / 08 / 2017
マンガの中に、広告を入れる
西牟田:そもそも「フェイスブックポリス」みたいなマンガを、なぜ描くようになったんですか? みるみるヒットしましたね。

フェイスブックポリス
かっぴー:新卒で広告会社の東急エージェンシーでアートディレクターをした後、転職して面白法人カヤックに入りました。ニューフェースは日報メールを社員向けに流すんですけど、なるべく早めに顔と名前を覚えてもらうために何かプラスアルファでつけたいなと思ってマンガを描いたんです。
カヤックはバズをつくる会社なので、社員が「面白いよ」と言ってくれるのが結構信ぴょう性があったというか、「この人たちが面白いと言ってくれるなら、ネットにアップしても面白がってもらえるんじゃないかな」と思えた。去年9月のシルバーウイークのときに、たまたま急に思い出してアップしたらこうなったという(笑)。
西牟田:最初は「フェイスブックポリス」だけ?
かっぴー:「フェイスブックポリス」と、「おしゃれキングビート!」と「めっちゃキレる人伝説」ですね!


西牟田:カヤックの人たちが「あ、いいね」と思った感じは、ライトコンテンツがウケているという時代の空気感があるからなのですかね。自分のことをライトコンテンツメーカー、例えば「ジャンプ」みたいな雑誌に載るマンガがラーメン屋だとしたら、自分はカップ麺メーカーみたいな感じと言っていたじゃないですか?
かっぴー:めちゃくちゃ広告的だなと思っているんですよ、自分のマンガって。ウェブコンテンツから書籍化されると、なかなか売れないんですよね。何で売れないのかについて、みんな安直に「ウェブで無料で見られるからでしょ?」というけど、「ブラックジャックによろしく」は、ネットで全話無料で見られるようになった途端に売り上げが伸びたらしいです。だから「無料で見られる=買わない」ということじゃないと思う。
多分メディアとして、見るテンションが違う。車の中とかトイレとかでツイッターをふわーって見ているときに、「このマンガ、めっちゃウケる!」となって見るテンションと、「ワンピースの新刊出たぞ!」と家へ大事に持って帰って、家に着いてポテチを用意して見るのでは、テンションが違う。だからテンションの差で売れないんじゃないか。コンテンツとしてはどっちもありですけど、手元に置いておきたいかの差はある。
一方、僕のマンガの強みは「あ、なんだ、広告マンガか」と分かった時に好意的に受け入れてもらえる事が多い所だと思います。距離感が広告と相性がいいんだなと思う。だからこそ自分のは「ライトコンテンツ」なんです。ウェブで公開しているマンガが全てライトコンテンツだとは思っていなくて、逆に雑誌でも、ライトコンテンツっぽいマンガは多分あるし、ウェブだからライトっていう訳では無いと思ってます。
西牟田:ユーザー側に依存するのかな、見方のスタンスは。
かっぴー:僕は意識して胸張って「ライトコンテンツです」と割り切ってしまった方が書籍もマンガ自体も、売り方の工夫があるなと思いました。
会社「なつやすみ」は、コンテンツメーカーでもあり、広告会社でもある
西牟田:7月には2冊同時に、書籍化もするんですね、すごいスピード感。
かっぴー:今、書籍の中に本当の広告を入れようと考えていて、その営業をかけたいと思ってます。これまだ動いてないので、電通報で初出しできてラッキー(笑)。「SNSポリス」と「おしゃ家ソムリエ!おしゃ子!」の中の広告枠を募集しているので、よろしくお願いします!
「おしゃ子が持っているスマホのカバー、どこかスポンサーつけない?」とか、ポリスのスマホや帽子のメーカーとかに、スポンサーを募集したい。僕のマンガは「広告なのが嫌がられない」のがちょっと珍しい。「なーんだ広告か、でも、お見事!」みたいな感じ。「広告か、ふざけんな」じゃなくて、「お見事」という感想を持ってくれる人がすごく多くてうれしかったから、そのノリを使えるだけ使おうと思っています。映画みたいに、マンガの小道具にスポンサーがついたら書籍として新しいですよね。


西牟田:その売り方、面白いね。
かっぴー:僕はマンガも広告も抜きんでていないけど、二つそろったら相性よかった。意外と広告マンガを描ける人ってあまりいないんじゃないかな。有名な漫画家を起用したら、それはいい広告になる可能性は高いけど、広告マンガとしてちゃんと企画から考えて、マンガに落とし込める人はあまり見たことないですよね。
西牟田:確かにね。そうすると、なつやすみという会社は、コンテンツメーカーであるだけではなく、広告会社でもあるし、いろんな立ち位置を全部自分ひとりでやっていくのですね。
かっぴー:そうです。だから事業内容はシンプルに、「マンガと広告」としているんです。だから、マンガと広告に関わることは、全て業務領域かなと思っています。
「バズる」ことを目標にして、真顔で議論する時代ではない
西牟田:コンテンツの発信の仕方も、結構よく考えていますよね。ソーシャル受けするコンテンツのあり方や、戦略的に取り入れている企画のポイントを聞きたいな。発信するときは、メディアを使い分けていますか。
かっぴー:ちょっと話がずれるかもしれないけれど、今考えているのは、バズるということ自体を茶化すというか、真顔でバズの話をする時代じゃなくなっているんじゃないかということ。「SPA!」で連載を始めたんですが、まさに「バズマン」というタイトルで。バズに対し一生懸命やっているウェブ制作会社のマンガ。そろそろ「バズる」に奔走すること自体が、ギャグになるんじゃないかって。
西牟田:かっぴーの発言としては、ちょっと皮肉だね(笑)。
かっぴー:うん。だって、数字なんてほとんど意味ないよ。これを言われると困る人たちがいっぱいいるから、みんな言わないんだろうけど。バズれば売れるの?それで本当にサービス加入するの?ってこと。
リツイートって、記事タイトルで分かるものとかが、ウケてリツイートする。本当に気になっているコンテンツこそ、読み込んじゃって逆にシェアを忘れていたりする。そう考えるとパパパパパパッとバズってワーっと広まっていくコンテンツって、本当に見てるのかなと疑います。最近は数字に対してうのみにしちゃいけないなと思っています。
広告業界の真面目な部分を切り取った「左ききのエレン」というマンガを、いま描いていますけど、コメントつきのツイッター投稿がこんなに多いかと思うぐらい多くて。ソーシャルカウンターに出ている数字は、「フェイスブックポリス」より低い。でも、読者が一々リアクションしている比率が高い方がうれしい。
何人に褒められたかより、何て褒められたかの方が大事。「うわっ、これちょっと、俺もひとこと言いたい」という、何かの境界線を越える、それが一人でも多いコンテンツが、僕はいいコンテンツだと思っているんです。


西牟田:僕も同じようなことを思いながら仕事をしている部分がある。数の評価だけが先行しちゃうと、それって体験としては本当にどう届いたのかな?と違和感を覚えるよね。
もちろん数は最大化していくことを目指すけど、もっと別の指標でも見てみたい。
かっぴー:あと、どこでも誰でも平等に見ることのできないコンテンツ、例えば1万人しか見れないマンガとか、深夜しか見られないマンガとか、ちょっとひねったコンテンツが出てくるんじゃないかなと思っていて、時間帯限定版とかも面白いんじゃないかなという気がしています。
純粋に広告マンガとして起用してもらうケースも多いんですが、変化球の仕事も来るようになってきたので、分岐するマンガとか、性格診断が入っているとか、やりようがいろいろあるなと思っています。

かっぴー
株式会社なつやすみ 代表取締役社長/漫画家
本名は伊藤大輔 。1985年、神奈川の横浜じゃない田舎生まれ。 映画の脚本家やテレビ番組の構成作家に憧れるも、自分が天才ではないことに高校生で気がつきデザイナーを志す。武蔵野美術大学でデザインを学び、2009年卒業後は東急エージェンシーのクリエーティブ職に。 アートディレクター・コピーライター・CMプランナーなど天職が見つからぬままアイデアを書き留めた絵コンテを量産する。2014年に面白法人カヤックへ転職。 2015年9月、マンガを見た同僚に背中を押され、描いたマンガ『フェイスブックポリス』をウェブサイトへ公開し、大きな反響を呼んでネットデビューを果たした。以降、『フェイスブックポリス』の続編『SNSポリス』をはじめ『おしゃ家ソムリエ!おしゃ子!』『おしゃれキングビート!』『裸の王様vsアパレル店員』などウェブメディアでの多数の連載が始まる。マンガの広告起用にサントリー、ヤフオク!、パナソニック、UHA味覚糖など。2016年2月に株式会社なつやすみを設立した。

西牟田 悠
株式会社電通 電通ライブ プランナー
2009年4月電通入社。入社以来、イベント・スペースデザイン領域で、プランニング・プロデュース業務に携わる。 大規模展示会やプライベートショー、プロモーションイベント、施設・ショップのプロデュースなど、国内外の実績多数。 イベント・スペース領域を核としながらも、さまざまな領域のパートナーとコラボレーションし、新しい表現に挑戦中。
ホラーで、世界の感情を揺さぶる:頓花聖太郎(後編)
- August / 15 / 2017
新しい「ホラーの概念」を、テクノロジーで拡張していく
笠井:ホラーってある種ワンパターンになりがちで、お化け屋敷もですけど、マンネリをどう打破していくか、気をつけていることはありますか。
頓花:それ、悩むんですよ。もちろんいろんな工夫がありますが、ホラーの文脈だけじゃなくて、できるだけホラー以外のエンターテインメントで、「これは見方を変えたらホラーになるよね」とかそういうところで、別の分野の概念から発想を輸入してこようとはしているつもりです。次にやりたいなと思うのは、漫画表現でホラーっぽいコンテンツをつくれないかなとか、ちょっとずつ表現を外側に広げています。
笠井:テクノロジーの変化、たとえばVRなどによって、ホラーは今後どう変わっていくと思いますか。
頓花:僕が基本的に思うホラーの楽しさって、一人で体験して終わるパターンより、みんなでギャーギャー言いながらというのが原体験になっています。スマホとか今のVRはどうしても一人の体験になりがちだと思うんですが、テクノロジーの進化で今まで共有できなかったものがぐんと広がっていくと思う。わざわざお化け屋敷へ行かないと体験できなかったものが、気軽に家で友達と一緒に、全国どこでも体験ができるようになると面白いですね。
笠井:楽しみ方が広がりますね。
頓花:ええ。僕はひとりでお化け屋敷へ行ったり、ホラー映画を見に行ったりもするんですが、やっぱりあまり面白くないんですよ。誰か隣の人にギャーギャー言いたい。あまり周りにホラー友達がいない人でも、テクノロジーがそこを解決していってくれるといいですね。それがこれからのテクノロジーの使いどころですね。
笠井:ホラーというと夏ですが、冬の仕事はどんな感じですか。
頓花:もちろん冬ホラーの分野を開拓したいなと思っていますよ! もしくは、季節を問わないホラー体験をつくっていかないと、今年来年は生き延びても、いつか会社が死ぬ(笑)。新しくホラーの概念を拡張していくようにしていかないといけないと常に思っています。
最近ニコニコ超会議で「町VRホラーカー」をつくって、それもすごい楽しかった。

町VRホラーカー
頓花:車の中でヘッドセットをつけて体験するVRなんですけれど、背中にSubPacという振動を感じるウーハーをつけているので、本当に車が走っていて、どんどん襲われてくるような感じの演出が味わえます。しかも体験を終わった人が次に体験する人を、車を揺らしたりして脅かせるアナログな仕組みもあるんです。お客さん自身が次の客を脅かすなんて、ちょっとばかばかしいけど、そのことが「一緒に盛り上げている感覚」をつくれて面白かったですね。
笠井:それはどこで体験できるんですか?
頓花:ニコニコ町会議のイベントの一環としてですね。今年の夏は、日本中を回りますよ。お化け屋敷文化には新しい進化、イノベーションがしばらく起きていないような気がしている。ホラーの見せ方にテクノロジーを使った発明が加われば、従来型の「ザ・お化け屋敷」というフォーマットじゃない形のイベントをいろいろつくれるはずです。
「怖い」という感情を楽しむ文化、ホラーの楽しみ方の普及
頓花:怖いということの、楽しみ方を普及させなきゃいけないと思っているんです。怖さって、敷居は確かにあるんですけれど、ちょっとしたお作法を覚えると誰でも楽しめる。
映画を見て、めっちゃ泣くとか、めっちゃ笑うとか感情を揺さぶられるじゃないですか。めっちゃ怖がるという一手においても、怖さほど心が動く体験ってそうそうないと思うんです。でも恐怖という感情だけは我慢しようとしちゃう、耐えることをが目標になってる。そこを楽しめるマインドにスイッチを切りかえたら、すごく感動できるはず。
怖さを乗り越えられた自分であったり、それが終わったときの安心感との感情の落差だったりを見いだせるようになってきたら、絶対誰でも楽しめる。その楽しみ方まで提供できたらいいなと思っている。例えば、楽しみ方のコツのひとつは、我慢せずに声を出すことなんですよ。
笠井:大きな声で叫ぶ。
頓花:そう、怖かったら素直にギャーッと言うと、めっちゃ楽しいんですよ。
笠井:確かに。楽しんでやろうという気持ちで参加することが大事ということですね。
頓花:嫌々行ったらひとつも楽しくない。少しでも前のめりで、どんどん声出していこうというつもりで行くと、めっちゃ楽しいです。だから僕、一人で行ってもギャーギャー叫びながらお化け屋敷を巡るんですよ(笑)。ホラーに関しては泣き叫ぶのが恥ずかしくないという、感情をぶつける文化をつくりたい。
笠井:それ、大事かもしれない。いかに叫ぶの我慢するかで、その我慢がすごいストレスなんですよね。とくに私も含めた女子には。叫んだらストレス発散にもなりますよね。
頓花:日本人って、肝試しとかもそうですけど、ビビらないというのが目的になっていたりするじゃないですか。逆ですよ。ビビるのを楽しもうよ(笑)。
笠井:「何怖がってんだよ~、おまえ」みたいなことを言われますよね、悔しい(笑)。
頓花:いま大阪でNTT西日本さんと毎日放送さんがやってる梅田お化け屋敷「ふたご霊」で協力させてもらってますが、その中の施策の一つで、どれだけビビったか、という数字が出てくるんです。実際に計測しているのは、どれだけ楽しんだかということで、NTT西日本さんがつくった複雑な計算のもとで数字として出している。ギャーギャー言って楽しんだ人ほど高得点が出る。そういう指標を持って楽しめるようになってもいいのかなと思ったりします。

ふたご霊
ホラーの世界観のバリエーションを、多彩にアートディレクションする
笠井:ホテルでやられた企画もありましたね。
頓花:USJに隣接している公式ホテル「ホテルユニバーサルポート」でハロウィーンシーズンに行いました。ホテルの一室だけ、期間はそんなに長くなくて、ウェブプロモーション的なことは一切しなかったのですが、昨年結構予約が埋まったと聞いています。

ホテルユニバーサルポート企画
笠井:鏡に血がバーッとか、そういうことですよね。
頓花:あまり詳細を言うと面白くないけど、映像で人がガーンと出てきたりするんです(笑)。宿泊客は夜中2時ぐらいまで脅されます。壁にディスプレーを仕込んだ鏡を埋め込んでいるんですけれど、そこにさまざまな演出が起きるのですね。
笠井:お客さんは、若いカップルなどですか。
頓花:基本的にR15にしていたので、15歳未満は泊まれない部屋です。苦情が出ても困るので。そこらへんに血やら手首やら、散らばっているので(笑)。結構オールジャンル層でアンケートの評価もよかったみたいです。
笠井:寝れないでんすね、2時まで(笑)。
頓花:そう、夜中2時まで映像が出ますから(笑)。寝たら損ですよ。最大4人まで泊まれる部屋です。
笠井:じゃ結構ワイワイみんなで行けますね。
頓花:ええ。USJでハロウィーンを楽しんで、夜はホテルで謎解きを楽しみつつ泊まれるみたいな感じですね。
笠井:ちなみに、ホラー以外に好きなものはなんですか。
頓花:ホラーの仕事と隣接するんですけれど、テーマパークが好きですね、ジェットコースターとか。遊園地自体のアートディレクションに興味があって、ディズニーシーとか、岩の苔までこだわっていたりするじゃないですか。そんなのを眺めるのが好きで、岩だけを見てずっといられる(笑)。
今はホラーを扱うデメリットとして、皆さんご予算があまりないケースが多く、どこで妥協するのか、どこまでこだわるのかという戦いには毎度なってしまう。あと、スケジュールもタイトで、夏までにリリースしないといけないとか。予算が増えれば、もっともっとこだわり抜きたいですね。
笠井:家族みんなでホラーを楽しんでもらうブランディングが必要ですね。
いつかホラー×テクノロジーの大展覧会をつくりたい
頓花:ホラーイベントとなると、すぐお化け屋敷に集約しようとするんですが、そうじゃない形がいろいろある。普段の生活の延長線にホラーを注ぎ込んだら、すごく面白くなると思う。
笠井:新幹線で北海道から九州までホラートレインが走るとか、「はとバス」などでホラーツアーがあってもいいですし。面白そうですよね。みんなで叫べるし(笑)。
頓花:ちゃんとしたイベントとして成立できるところまでテクノロジーを使うと、繰り返し性やインタラクティブ性が強いこともできる。実はお化け屋敷も、入場者は女性の方が多いんですよ。USJのホラーイベントに行ったらびっくりします、女子ばっかりなので。女性は本気で叫べるというのが、楽しさや満足度につながっていると思う。
面白いテクノロジーもいっぱいあるんですよ。最近気に入っているのは先ほども挙げたSubPac。背中で感じる触感性のあるウーハーなんですけれど。重低音が体にズンズン響くのをうまく利用して、背中をそれこそ人がドーンと押しているみたいに感じるとか。
笠井:衝撃を受ける感じですか。
頓花:そうです。超でかい重低音のスピーカーを、背中に背負っているみたいなものです。それをうまく利用すると、車に乗って走りだす感じとか、心臓のドキドキ音を感じるとか、そういう感覚をつくれたりします。その他にも僕は、使えるガジェットを結構たくさん集めています。
笠井:ホラーに向くいろんな仕掛けを、アナログからデジタルまで。そういうの、ノウハウ知りたいです。やはりすごく努力しているんですね。
頓花:好きで集めてる。あと、指向性スピーカーはいいですよ。なかなか他では体験できない音の出し方ができます。
笠井:指向性スピーカーって、例えば私が歩くと音がついてくるとかですよね。
頓花:はい。超ピンポイントで狙えるようにつくれるので、耳元から誰もいないのに声がするとか。壁を狙ったら、その壁から反射で誰かがしゃべりかけてくるとか。キネクトみたいなセンサーを入れておいたら、自動的に顔を追尾するとかも可能です。
笠井:ホラープロポーズとか、ホラー結婚式の司会も面白そうですね。
頓花:いいですね、それ(笑)。ポピュラーに、そういう文化ができてほしいんです。
笠井:すごく楽しいですね!「ホラー×ラブ」みたいな。
頓花:「ホラー×○○」にすると、いろいろ放り込めるはずなんです。怖いという感情をどう使うかというメニューを広げたい。僕から言うと、エンターテインメントの中でホラーという席が「あれっ、空いてる」みたいな感じだったんです。「ここ、俺のもの!」という気持ち。
もちろん、ホラー界の先人の素晴らしさを否定することは全くないんですが、テクノロジーを掛け合わせるというところでいうと、僕らにもアドバンテージはあるかなと思ってます。
笠井:ぜひ、何か一緒にイベントをつくらせてください! 今日はとても勉強になりました。ありがとうございました。

頓花 聖太郎
株式会社闇 アートディレクター
1981年 兵庫県生まれ。元々はグラフィックデザイナー。 2011年 関西の制作会社 STARRYWORKSにアートディレクターとして入社。 大好きなホラーを仕事にすべく2015年、株式会社闇を設立。

笠井 真里子
株式会社電通 電通ライブ
2004年4月 電通入社。メディア局、プロモーション局を経て、現在のイベント&スペース・デザイン局に配属。リアル/バーチャルどちらの世界でも、共感を生み出す空間づくりを目指している。
日本酒を「世界に尊敬される」酒に戻す!:佐藤祐輔(後編)
- August / 22 / 2017
江戸時代は乳酸菌の力を使って、初めに酒母を立てていた
堀:ちなみに、今年もまたいろいろな改革を考えていらっしゃるんですか。
佐藤:今年は、ちょっとテクニカルな話になりますが、日本酒の造り方って明治以降はシンプルにしようとしてきたけれど、「新政」ではさらに複雑にしようと。伝統技術というのはどうしても複雑になるのです、いろんな菌を取り込むから。西洋科学だと、善玉菌と悪玉菌に分けて悪玉菌を皆殺しにする。東洋のやり方は、短絡的に善悪を問わないというか、ある特定の条件のもとだけで価値判断をしない。より自然に近い様々なフェーズの中で考えることで、悪玉菌にも最終的に良い働きをさせたりとか、視点を変えて可能性を引き出すことで、生命を利用しているという感じかな。
堀:人間の善玉コレステロール、悪玉コレステロールも一緒ですよね。どっちも必要ですよね。
佐藤:そう、どっちも必要なんですよ!自然の中には、不要な物ってないんです。科学が行き過ぎちゃうと、何でもかんでもコントロールしなきゃ気が済まなくて、気に入らないものを根絶しにかかるんですね。未来になって、あれは大事だったのに殺してしまったということが分かっても、取り返しがつかないですよ。
そういう意味では、日本酒は乳酸菌を悪玉菌扱いにしちゃったわけです。乳酸菌は一匹たりとも入れさせんと。江戸時代以前は乳酸菌の力をフル活用して素晴らしい発酵食品文化を創り上げてきたのに、突然、明治以降、酸味料を買ってきて入れればいいやという話が湧いて出た。しかも100年以上経った現代の酒造りにおいても、いまだに「乳酸菌は酒を腐らせる悪玉菌ですから要りません」となっている。実際にそうなんですよ。今でも大半の造り手はそう思っている。だから僕はいま、乳酸菌の肩を持とう、肩を持とうとしているわけです(笑)。
堀:むしろ乳酸菌推しで広告したら、女性はワインから日本酒にくら替えしますよ、絶対。発酵食品ブームですから。
佐藤:本当にそうだと思います。日本酒というのは、乳酸菌の扱いにかけては世界でもずば抜けた、神がかった技術を持っていたんですね、江戸時代までは。日本酒は研究室の中で造られていたんじゃない、現場で造られるんだ!
堀:映画のセリフみたいですね(笑)。
佐藤:それが、日本酒が売れなくなり、全体に均質化してしまった最大の理由です。僕にしたら、全部自前の伝統方式でやれよっていう話です、はっきり言えば。そうすれば、少なくとも自分らしい酒ができるはずです。それに、そのほうが本当のお客さんがつくと思うんです。
堀:「新政」の場合は、今、停滞した市場の中で、「自分らしいものを、自分らしい手法でつくる」というところが、競争を勝つポイントだったということですね。
佐藤:うん。でも、どちらかというと、競争に勝つというより、逆に誰とも競争したくなくて、こういう方向へ流れたというのが近いかもしれないです。
日本の酒蔵は、1000社くらいしかもう残っていない
堀:「6号酵母」「生酛系酒母」「純米」「秋田県産米」にこだわって「新政」の酒は近年、立て続けに全国酒造鑑評会で金賞を受賞されました。それだけの成果を、佐藤さんが2007年くらいから始めて、10年に満たない時間で改革をなし遂げたというのは驚きですね。
佐藤:未知じゃないからね、酒造りって。江戸時代とかの文献を読み解いてやっている。ゼロからの勉強ではないから。
堀:それは「新政」の蔵に残った文献ですか?
佐藤:いや、アマゾンとかでも売ってますよ。古くて700年代から1600年くらいまでの文献は、一般にも少しは売られているんです。昔の酒造りの担い手というのはほとんど農民だったから、字が書けないので本が少ない。こういう本は、現場に入るのが好きな酔狂な蔵元なんかが隠れてつけたレシピのようなものなんですが、あってよかったと本当に思います。だから、未知のものを発明するわけではなく、過去の先達の道筋もあったし単に伝統に学んでいるだけなんです。誰にでもできることですよ。どこの蔵も4、5世代より前はやっていたのですから。僕じゃなくてもできるはずですよ。
堀:「新政」に触発された酒蔵が、改めて伝統的な江戸時代の手法でお酒を造る時代が、これからやって来るかもしれないですね。
佐藤:いま日本の酒蔵は1000社くらいしか生き残っていないから、これ以上減ってくると、世界的に展開していくにはちょっときつい。やっぱりある程度玉がそろっていないと、遺伝子多様性が低い動物みたいに、ちょっとしたことでみんなが死んでしまう。蔵がいっぱいあって、訳の分からない蔵がウジャウジャウジャウジャしているというのが、本当は健康な業界だと思う。
例えば、自分より教養が高い人にモノを売るのって超困難でしょ。特に酒のような嗜好品は。提供する側が、まず基本的なところでお客さんと同じところに立って、しかも酒文化ではちょっと目線が上にいることができてこそ、お客さんの人生を楽しませることができる。そういう意味では、日本酒はもっと社会性を高めないと新しいお客さんを取り込めないような気がします。これからの日本酒はもっと文化的に武装して、日本酒が世界に誇る醸造酒であることを広めてゆかねばならないと思います。日本酒の本質、哲学や世界観、倫理観を魅惑的に体現し、かつ説明することができるなら、世界中の誰しもがファンになってくれるはずと思います。たとえ一流の料理人やら食通やら、ソムリエやらバーテンダーやらが相手でも、感動させて一発で宗旨変えさせることだって難しくはないはずなんです。
堀:哲学、倫理ですか。
佐藤:それが一番、大切です。単に製法をすべて生酛に統一しただけでも、ワインになんか負けた気がしないわけですよ。「ワインは亜硫酸塩がないと発酵がなかなかうまくいかないし、日持ちもしませんよね。でも日本酒は一切何も加えなくても、健康な酒ができるんですよ。古今東西、日本酒こそ最高の自然派アルコール飲料なんです」って胸張って言える(笑)。ほかに例えばワインの世界の潮流を見ても、ビオディナミとか、テロワールとか、ナチュールとかの単語に代表される「自然との共存」みたいな考えが、ここ最近30~40年くらい盛り上がってきてます。でも、こうした考え方は、もともとは東洋が得意とする考えです。東洋は、特に日本はもっと自己のルーツに自信をもたなくてはいけない。前述のワインの用語なんかも、本来あんまり使う必要もないように思います。思想の核心部分については、一切借り物ではない。我々こそ本来知っていたはずのなんだから。僕はワインのソムリエに対しても、「日本酒をやってください」と言って堂々と勧めています。日本の酒を、日本の文化を、日本の言葉と文脈で語る機会も持って欲しいのです。
エキセントリックな江戸独自の文化を、自分の酒造りにも取り込む
堀:お話を聞いていると、佐藤さんの酒造りは、確かに大改革ですね。
佐藤:僕は絵とか陶芸も好きですけれど、結局、江戸の物が一番世界で受けているような気がする。絵だってそうだし、和食、すしも完全に江戸文化が中心だからね。僕は日本酒のいろいろな製法をやるわけで、この間は生米こうじ(中国の紹興酒のこうじ)を作ったり、「菩提もと」という室町時代の製法に基づく酒をつくってみたりしてる。いろいろな時代の酒を試作してみたけど、結局、江戸より前の時代の日本酒って、中国や朝鮮の影響が非常に強い。言い方はきついけど、紹興酒の亜流のようなものを1000年遅れでやっているような感じなんです。ところが、江戸に入って鎖国してから、日本酒の製法は突然オリジナルになってゆくんです。日本人の創造性が爆発した感じです。生酛の手法なんかもそのひとつです。江戸はすごく良いです、真の「ザ・日本」なんですよ。ところがもったいないことに、明治になると途端に、鹿鳴館みたいな和洋折衷文化になってくる。ああゆうものは、あまり魅力的に感じません。見たければ、ヨーロッパに行けばもっとすごいホンモノが見られるわけですからね。
堀:面白いなあ(笑)。
佐藤:江戸は世界中の各国の文化の中でも、飛び抜けてエキセントリック。人類の多様性を思わせて素晴らしい。そういう優れた日本の文化を、自分のプロダクトにも取り入れていきたい。先祖がやっていたことなのですから、そんなに難しくもないはずです。
堀:製法を全部生酛に切りかえるというビジョンは、初めから描いていましたか。
佐藤:全部切りかえられたのは、厳密に言うと去年です。2012年から速醸はやめている。でも、江戸時代の方式の生酛にするにはものすごく人手もかかるから。利益があまり出ていなかったので、二人も三人もその部署につけることができなかったけれど、だんだん利益も出るようになったので、酒母のパートに人員をグッと集めて実現しました。
日本酒のファンと共に、世界に尊敬される酒文化をつくっていく
堀:こういう新しいお酒に対して、新しい飲み手たちがちゃんと育ち、選べる舌を持っているというのは、佐藤さんにとって励まされる材料ですね。
佐藤:そういうこと。僕は、才能あるいいファンが、日本酒文化をこれから支えていくと思って、そういう人のためにお酒を造って、そういう人たちに真っ先に届けるように工夫しています。
堀:ファンの才能か。僕も一人のファンとしてプレッシャーを感じますね。
佐藤:お客さんの能力が、きっとこのジャンル自体の実力になるんだと思う。
堀:今年、アーティストの村上隆さんとも、コラボレートされましたね。

Takashi Murakami×NEXT5
佐藤:村上隆さんがたいへん日本酒に理解が深くて、奇跡的にコラボレーションが実現しました。製法に生酛を採用したり、酒の内容面についても、村上さんとはよく相談させていただきましたね。あと、村上隆さんのファンの方や、日本酒に詳しくない方でも比較的楽に入手できるようにと配慮して、一般発売の機会を設けたんです。中野ブロードウェイ内にある「Bar Zingaro」という、村上隆さんが経営されているカフェで行いました。
堀:1店舗でしか売らなかったので、僕は朝から並んで買いに行きました。その瞬間から、前のほう100人ぐらい転売の人たちだらけで(笑)。外に止めてある、開けっ放しにしたバンに、どんどん積み込んでいっているわけです。その後10~20倍の値段が付きネット上で売られているのを見ると、なんだか心配になりました。
佐藤:そうなんだよね。結局、日本酒は全体に値付けが安いから、市場にゆがみが生じている。ワインは適正な値段で売っているから、そこまではならないでしょう。
堀:自由に値付けがされていけば、健全な価格で落ち着くわけですよね。
佐藤:うちは、ほぼすべて四合瓶しか造っていないんです。地元向きの常温対応の酒がちょっとありますが、それ以外一升瓶はない。その理由ですが、飲食店ですぐ飲み切られるようにです。昔から気になってたことがあって、それは日本酒よりも劣化しにくいワインのほうがよっぽど酸化を気にして扱われていることです。ワインバーではすぐ飲み切られるようにボトルサイズが基本。マグナムなんか買わない。温度管理以上に、常に瓶の中の空気を抜いたりと酸化への配慮をしている。一方、日本酒の世界はというと一升瓶ばかり。最近は冷蔵管理も浸透しましたが、何週間も瓶に飲み残しのままの酒が放置してある例もよく見ます。フレッシュで繊細な吟醸酒を扱う場合、開栓後のケアが重要。飲食店では四合瓶で回転率をあげたほうが客のためなんですが。しかしそうはなりにくい。なぜかというと一升瓶のほうが安いからです。メーカーが量の多い一升瓶をお得価格に設定しているんです。それでは市場は変わらない。そこで我々は一升瓶をやめることにしました。
堀:お客さんの手元に届くまでを厳しく管理しようとしたら、全てを直販するという手もありますよね。
佐藤:そうだね。ただ、酒販店も歴史がある産業だから。たとえば、ワインの業界でソムリエみたいなのは要らんと切ってしまったら、確かにソムリエが取っていた取り分はなくなるかもしれないけど、文化的には大ダメージになるじゃないですか。ソムリエでも酒販店でも、文化を伝えて第三者的に価値を高めてくれる機能はやっぱり要ると思うんです。
堀:だからこそ、酒販店は、ある程度選んでお付き合いをされていると。
佐藤:そういうこと。酒販店は、酒への知識、能力が高くて、そこに行けば僕のとこの酒がもっと良くお客さんに分かる、伝わる、そういう機能がないといけないよね。そうでないと、なんのために、店が蔵と客の間にいて、利益を得ることができるのか意味が通らなくなってしまう。酒販店を経由することで、より日本酒の魅力が増す、そういう相乗効果にならないといけません。そういう意味では、より若くて元気のある特約店の店主を私は常に応援しています。彼らを育成することは、日本酒業界の未来にとっても大切なことだと思っています。
堀:今日は改めて佐藤さんの酒造りの哲学を聞いて、大の日本酒ファンの僕も、目からウロコのことばかりでした。今後も注目し、どんどん飲んでいきますし応援しています。今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました。

佐藤 祐輔
新政酒造 代表取締役社長
1974年秋田市生まれ。東京大学文学部卒業後、出版をはじめとする様々な職を経て、編集者、ジャーナリストとして活躍。 2005年に日本酒に開眼。06年より酒類総合研究所研究生、07年より生家の新政酒造へ入社。12年より同社代表取締役社長に就任。

堀 雄飛
株式会社電通 電通ライブ
1982年生まれ。さいたま市育ち。早稲田大学理工学部建築学科卒業。 2006年電通入社。10年間OOHメディアのセールス、開発、プランニングに携わり2016年から現局に在籍。 国際会議における政府展示や大型展示会の企画・運営、ショップやショールームのディレクションが主な活動領域。1児の父。趣味は日本酒。
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