DENTSU LIVE | 電通ライブ

新たな表現を追求し、可能性を切り開く。『spotlight』が目指すエンターテインメントの未来

  • December / 20 / 2022

2021年1月、電通ライブは、世界のライブ・エンターテインメント業界のプロフェッショナルとともに、リサーチや開発からクリエイティブ、制作、運営まで、新しいライブを創造するプロジェクトチーム『spotlight』 を発足させました。
ライブエンターテインメント業界が活気を徐々に取り戻し、今後日本から世界へ発信するコンテンツの重要性も増していく中、『spotlight』は世界の第一線で活用しているメンバーと共創し、New Normal時代に向けた新しいライブエンターテインメントの価値創出を目指します。

今回、プロジェクトメンバーの中からエグゼクティブプロデューサー、ショーデザイナーの経験を持つJames Tanabe 氏とLena Gutschank氏、空間演出プロデューサーの御厨浩一郎氏、プロデューサーである電通ライブの山田直人による座談会を実施。『spotlight』誕生の経緯や日本と海外の製作手法の違い、日本のライブエンターテインメントのポテンシャルなどを広く語り合いました。

 

クリエイティブを拡張させた、ワークショップ形式の企画づくり

 

山田:『Spotlight』は「New Normal時代を見据えた新たなライブエンターテインメントへの挑戦」を活動テーマに掲げるインターナショナルプロジェクトチームです。大きな特長の一つが、国内外で豊富な実績とノウハウを持つメンバーが参画していること。シルク・ドゥ・ソレイユのシニアディレクター兼アーティスティックディレクターとして活躍されてきたJamesさんや、Palazzoのアートディレクターやシルク・ドゥ・ソレイユのイノベーションコンサルタントを務めてきたLenaさん、他にも「O(オー)」や「KA(カー)」を手掛けてきたパフォーマンスディレクターや、元ドラゴーヌ・エンターテイメント・グループのアーティスティックディレクターなど、世界的なショービジネスに携わってきたプロフェッショナルを迎え入れています。日本からは、デジタルとライブ双方を取り入れた空間演出を手がける御厨さんをはじめ、電通ライブは、株式会社MIXIのライブエンターテインメントショー「XFLAG PARK」を担当したメンバーを中心に海外案件に強いメンバーも交えてチーム構成しています。

御厨:Jamesさんたちとライブチームがお会いした最初のきっかけが、「XFLAG PARK 2016」でしたよね。ゲームとサーカスを融合させたショーをやるために、シルク・ドゥ・ソレイユのアクターを紹介していただきました。そのショーが大盛況で非常に好評だったので、「XFLAG PARK 2018」ではチームを組んで一緒にショーを作ったんですよね。

 

御厨 浩一郎氏

 

山田:その時の製作プロセスがとても新鮮でした。日本では通常、クライアントに提案を重ねて数ヶ月かけて企画を固めるケースが多いのですが、われわれ製作チームときゃりーぱみゅぱみゅさんのチーム、そしてクライアントも参加して4日間のワークショップを開催し、そこで一気にシナリオやパフォーマンスを作ったんです。

James:あのワークショップは私とパフォーマンスデザインディレクターのBoris Verkhovskyがシルク・ドゥ・ソレイユでイノベーション・ラボを率いていた時に開発したものでした。最初に私たちが約400案のアイデアを出して、みなさんにインスピレーションが湧くアイデアを選んでもらう作業をしたのですが、同じプロセスでもシルク・ドゥ・ソレイユのチームとそれ以外のチームでは引き寄せられるインスピレーションが大きく異なることを学び、それは私たちにとっても非常に興味深い経験になりました。

山田:ちょうど海外のエンターテインメントを日本のマーケットに取り入れる方法を模索していたタイミングと重なったこともあって、ぜひチームを作ってチャレンジしていきたいという話をさせていただいて、コロナ前だったので海外のいろんなショーを見に行ったり、興行主やプロデューサーの方々をJamesさんに紹介していただきましたよね。実際、パッケージ化してクライアントに提案したこともありました。

山田 直人(電通ライブ)

 

James:私たちもシルク・ドゥ・ソレイユをさらに発展させるために、世界各地の都市のポテンシャルをリサーチしていた時期でした。人口や所得、教育レベルなどさまざまな要素を数値化していく中で、東京と大阪はエンターテインメントにとって非常に素晴らしい条件が整っていることが分かりました。しかし一方で、それほど大きな可能性を持った都市であるにもかかわらず、ブロードウェイのような世界的なライブエンターテインメントが存在しないことが不思議でした。日本は世界のマーケットの現実を知りたいし、世界は日本のマーケットの現実を知りたい。お互いのことを理解するための良いきっかけになったと思います。

 

日本と海外の製作プロセスの違いとは?

 

山田:その後、COVID-19の流行によって世界中のエンターテインメント業界が危機的な状況に直面しましたが、われわれはNew Normal時代に向き合った新しいライブエンターテインメントの可能性を開拓すべく、『spotlight』を立ち上げました。おかげさまで大規模イベントやアリーナのスポーツエンターテインメント、海外での水族館ショー、地方創生など複数のプロジェクトがスタートしていますが、実際にJamesさんやLenaさんが日本のプロジェクトに携わる中で抱いている日本の印象や、日本と海外の違いはありますか?

James:まず第一に、私たちは世界中のいろんな場所でプロジェクトを実施してきましたが、その中でも日本でプロジェクトに携わることはとても楽しく、大好きな国の一つです。

Lena:私も日本で働くのが本当に好きです。なぜなら、日本では長期的にプロジェクトを継続できるので、その中でお互いのスキルを理解したり、信頼関係を構築しながら一緒に学べるのは素晴らしいことだと思っています。また、日本のパートナーは何をやるにしても信頼度が高いです。彼らが責任を負い、提供すると言っているものに関しては、必ず約束どおりに実行されます。そこに対して非常に高い満足感があります。

(左から)Lena Gutschank氏、James Tanabe氏

 

James:一方、日本で初めて仕事をする海外のパートナーにいつも伝えているのは、「いつもよりも小さなスペースで、より短期間で集中して作らなければならない」ということ。それから、「日本では提供すべきものをいつも以上に前もって準備して、全部揃えて置く必要がある」ということ。私たちの場合はクリエイティブと実製作を一緒に進めていくのですが、日本はクリエイティブと実製作が別々の段階で行われており、100%合意が得られたクリエイティブを作ることになります。すなわち、実製作の段階で探求したり、実験したり、失敗したり、誰よりも優れたものを生み出すかもしれない幸せな偶然を経験することが難しいのです。そして、これにはより多くの時間とスペースが必要になることも事実です。

御厨:確かにヨーロッパや北米では、一度決めたプランも製作途中でもっと良いアイデアが出てくれば変えることもありますし、それで予算が足りなくなるなら追加するなど、ものづくりのプロセスに柔軟性があるイメージです。

山田:そうですね。日本の商習慣などもあるので全てを変えることは難しいと思いますが、それこそワークショップ形式のシナリオ作りのように、新しい製作プロセスにチャレンジすることでクリエイティビティを拡張させる余地は大いにあるのではないでしょうか。

 

小さなショーを作る海外のトレンドは、日本文化にフィットする

 

山田:国内でも徐々にライブエンターテインメントが息を吹き返しつつありますが、世界的なマーケットの潮流も踏まえて、今後日本のライブエンターテインメント業界にはどのような可能性があると思いますか?

James:北米ではラスベガスやシルク・ドゥ・ソレイユが再開し、最初はためらう人もいましたが、今では多くの人がショーに訪れ、パンデミック以前までニーズが増えていると感じます。しかし、パンデミック中に多くのパフォーマーやプロフェッショナルが仕事を変えたり引退してしまったので、人手不足が問題になっています。こうした潮流は日本にもやがて訪れるのではないかと思います。

Lena:ヨーロッパも北米と同じく、ライブエンターテインメントに対する人びとの大きなニーズがあり、同時にショーで働いていた人たちの人手不足、特に技術者の減少が顕著です。また、観客の財布の紐が固くなっているので、投資家など支援する側も大金を出して大きなショーを作るのではなく、よりコンパクトに、親密な関係を築きながら、クオリティの高いショーを作るケースが増えています。

山田:そう考えると、日本はもともと大規模のショーを作るのが難しい環境ではあるので、むしろポストパンデミック以降、小さなショーを作るという海外の潮流は日本にフィットしそうですよね。

James:ロンドン、ニューヨーク、ラスベガスなど大規模なショーが行われる常設劇場を備えた都市のスタイルを日本でやるのは難しいと思いますが、それこそシルク・ドゥ・ソレイユやPalazzoがやったように、人が集まる場所にテントを移動させてその街の規模に合わせたショーをやるスタイルがフィットすれば、それは人びとがエンターテインメントを身近に感じる下地作りになるという意味でも大きな意味を持つと思います。そうすると、今後国内で大規模なショーが行われる際も人びとが受け入れやすくなるのではないでしょうか。そもそも日本には地方で小屋を作ってショーを行う“KABUKI”が、昔ながらの文化として根付いていますからね。

御厨:確かに地方の小屋で歌舞伎を見ていた人たちが、江戸の歌舞伎を見て感動する、という構図に似ていますね。

山田:面白い意見をありがとうございます。最後に、Jamesさんにお聞きしたかったのは、なぜ『spotlight』のプロジェクトに情熱を捧げていただけるのか?ということ。毎週ミーティングを重ねるなど貴重な時間を割いてもらっていますが、日本とのコラボレーションやこのチームにどのような思いを持って参加されているのでしょうか?

James:私はこのプロジェクトを旅のように感じています。旅で最も重要なのはどこに行くのかではなく、一緒に旅をする仲間たちだと思うのです。ライブエンターテインメントに情熱を捧げ、可能性を感じてアプローチにチャレンジしている人たちと話すこと、それ自体が報酬です。以前Lenaとも話していたのですが、目的にたどり着く必要はなくて、仲間たちと一緒に情熱を持って会話や議論を重ね、斬新なアイデアや創造性を生み出すこと、そのプロセス自体を楽しむこと自体が幸せだと思うんです。

御厨:新しいエンターテイメントビジネスのマーケットにおいて、世界中から注目されているのが日本、その受け皿はまだ少ないのが現状です。国内のプロダクションの体制も国際化はまだまだ、更に対外国への施策も含めて考えると日本のマーケットは未開拓、無限の可能性が秘められています。
『spotlight』が世界基準の知識を持って、日本のみならず世界のマーケットを目指せるチームになって行ければと思います。

山田:チーム立ち上げ以降は、『spotlight』ネットワークを活用し、海外の多くのクリエーターやプロデューサーとディスカッションをするなど、チームで知見を高めてきました。現在では、国内外での企画・制作プロジェクトも具体的に進行しているので、是非また皆さんに共有できればと思います。

 


『spotlight』 https://www.dentsulive.co.jp/wordpress/ss/2021/01/20210112JP.pdf

James Tanabe

ライブエンターテインメントビジネスエキスパート

元シルク・ドゥ・ソレイユのビジネス&クリエイティブ戦略のシニアディレクター兼ショーのアーティスティックディレクター
マッキンゼー・アンド・カンパニーではグローバルライブエンターテインメントのエキスパートとしても活躍。マサチューセッツ工科大学、ウォートン・ビジネススクール、カナダ国立サーカススクールを卒業。

Lena Gutschank 

ショーデザイナー

元Palazzo(ヨーロッパで展開する一流のエンターテイメントディナーショー会社)の共同アートディレクター。
シルク・ドゥ・ソレイユのイノベーション・ラボ「C-Lab」でイノベーションコンサルタントを務め、世界各国でヒューマンパフォーマンスのイノベーションワークショップを開催。ドイツ国立サーカス学校を卒業し、受賞歴のあるエアリアル&コントーションアーティストでもある。

御厨浩一郎(Koichiro Mikuriya)

空間演出プロデューサー

ハイビジョンの黎明期から最新の映像技術を始めとした新しい表現方法を探求。映像の演出から始まり、現在では空間全体の演出を手掛ける。最先端のインタラクティブな演出システムを独自に設計するなど、デジタルとライブ双方を取り入れた演出を得意としている。また、海外の演出チームやプロダクションとの幅広いネットワークを構築、ライブパフォーマンス分野における国内のイノベーションを推進中。

山田直人( Naoto Yamada)

ライブエンターテインメントプロデューサー

2004年電通テック(現 電通プロモーションプラス)入社。2017年、電通ライブに転籍。
漫画、アニメ、ゲーム、映画、音楽、伝統芸能などのライブエンターテインメント領域のショーコンテンツやイベントの企画・プロデュースを得意とする他、事業投資型イベントやデジタルコンテンツ企画開発、漫画IP展覧会、都市の演劇フェスティバルなど幅広く手掛ける。また、劇場映画の原案やプロデュース、音楽アーティストのコミュニケーションプランや、オンラインライブ企画など領域を限定せず活動の場を拡張している。