DENTSU LIVE | 電通ライブ

SCALE OUR FUTURE vol.2
『サステナビリティに配慮したイベントとは? ガイドラインを軸に考えるこれからのイベント制作』

  • July / 04 / 2023

近年、SDGs推進に向けて企業の取り組みが加速し、さまざまな領域でサステナビリティの視点が求められるようになっています。そんな中、電通ジャパンの「サステナビリティ推進オフィス」、株式会社 電通の「電通 Team SDGs」、株式会社電通ライブは、イベント領域でのサステナビリティ推進を目指し、指針となる「サステナビリティに配慮したイベントガイドライン(環境編)」を作成・公開しました。このガイドラインでは、サステナブルなイベントの基礎知識を整理するとともに、イベント企画・制作フロー、イベント制作フェーズ別に実行すべきアクションをまとめたチェックリストを掲載しています。

今回の記事では、作成に携わった電通ライブの永川裕樹、石橋宏平、鈴木瀬里菜に、ガイドラインを設定した目的と、その活用法についてインタビューを実施。ガイドライン作成に至った背景、公開後の反響について語ってもらいました。

 

※本記事は、「Transformation SHOWCASE」からの転載となります。

 

 

イベントもモノを作る仕事。求められるサステナビリティの視点

 

Q.まず最初に、「サステナビリティに配慮したイベントガイドライン」を作成するに至った背景や経緯を教えてください。

永川:電通グループには「電通 Team SDGs」という、お客さまのSDGs推進をサポートするプロジェクトチームがあり、これまでにも「サステナビリティ・コミュニケーションガイド」などを発行していました。そこにイベント・スペース事業を手掛ける電通ライブも参画して、「これからはイベントも、サステナビリティの視点が欠かせない。これからのイベントにふさわしいガイドラインを作る必要があるのでは」ということが議論されるようになりました。そして準備期間を経て、イベントにおけるサステナビリティについて課題や考えを整理しながらどこに力を入れるべきか本格的な検討が進みました。

Q.「イベントにもサステナビリティの視点が必要」とのことですが、それはクライアントさまやパートナー企業からの要請でしょうか。それとも、電通グループや電通ライブ内から声が上がったのでしょうか?

永川:もちろん両方の声があったのですが、検討初期はやはり「電通グループとして取り組むべき」という声が大きかったですね。そこからガイドラインの作成を具体的に始めていく中で、クライアントさまからの声も届くようになりました。外資系のクライアントさまを中心に、サステナビリティに対する意識が強い企業も増えてきたため、ガイドラインの作成は急務だと思いました。

Q.今回は「環境編」ですが、「ダイバーシティ編」なども発出される予定と聞いております。既に作成は進んでいるのでしょうか?

永川:「ダイバーシティ編」に関しては、2023年中の公開を目標にしています。環境編のガイドラインについても、今回発出したものが完成形とは考えていないので、今後も見直しと更新をしていく予定です。

電通ライブ 永川 裕樹

 

マニュアル化するのではなく、各社がより良い方法を考えるための指針に

 

Q.「サステナビリティに配慮したイベントガイドライン(環境編)」の作成にあたり、大切にした考え方や、電通グループならではのノウハウが詰まったポイントはありますか?

永川:作成にあたり、やるべきことを細かく定めたマニュアルにするか、方針を示すにとどめたほうがいいのかとても迷いました。結果として、選んだのは後者。これがとても大事だと思っています。SDGsの推進には正解がありませんし、どこを切り取るかによって答えも変わります。私たちが正解を提示するのではなく、イベントの主催者・出展者・協賛社・企画者・制作者それぞれが話し合い、時にはガイドラインに書かれていないことも検討しつつ、より良い方法を考えるために使えるようなガイドラインにしています。

石橋:イベント制作にはさまざまな企業が関わるため、ガイドラインの作成にあたっては、どこか1社ではなく、全員が意思を持って話し合うためのツールになるよう意識しました。ガイドラインで方針を理解していただき、ディスカッションしながらチェックリストをもとに企画・制作を行うという使い方を想定しています。

鈴木:私は主にチェックリストの作成を担当しました。ひと口にサステナビリティと言っても範囲は広く、フードロス削減や地産地消といった食のことから、CO2排出量削減、ペーパーレス化など多岐にわたります。何をしていいのか分からない企業も多いと考え、「こうすれば環境負荷低減につながるのではないか」という施策をさまざまな分野にわたって提示しました。もちろんリストに記載したことだけが正解ではないので、ガイドラインやチェックリストを見た方それぞれが、サステナビリティについてさらに踏み込んで考えていくきっかけになればと思います。

電通ライブ 鈴木 瀬里菜

 

ガイドラインを活用しながら、改善点をアップデート

 

Q.2022年12月に公開して以降、現時点でどのようなリアクションがありますか?

永川:イベント関連業界団体から参考にしたいというお話をいただいています。また、社内やグループ内では公開前から多くのリアクションがあり、こうしたガイドラインが求められていることを実感しました。ガイドラインの発表を受け、まさにこれからが活用実績を作るフェーズだと思っています。

Q.電通ライブの社内では、既にガイドラインを使い始めているのでしょうか。ガイドラインを作成したことによって、イベント制作の進め方に変化はありますか?

永川:社内では、ロールプレイングを活用しながら、本格導入を進めています。いざ現場にガイドラインを導入していくと、「もっとこうしたら使いやすい」という改善すべき点はたくさん出てくると思いますし、さまざまなケースに応用していかないと分からないこともあるでしょう。とはいえ、サステナブルなイベント制作の第一歩として今回のガイドラインを公開したので、まずは「こういう視点も持たないといけないよね」という気付きを得てもらえたらと思います。

 

サステナブルなイベント制作のコンサルティング業務も視野に

 

Q.「サステナビリティに配慮したイベントガイドライン(環境編)」を作成した皆さんは、今後このガイドラインを関係各社にどのように活用してほしい、もしくは電通ライブとしてどう発展させたいとお考えでしょうか。

永川:2点あります。まず、今後はイベント業界に対して、このガイドラインをきっかけとして、サステナビリティの推進を呼び掛けていきたい。例えば、ディスプレイ会社に「環境に優しいマテリアルを積極的に採用しよう」とアプローチしていくなど、さまざまなパートナーに対して、具体的なご提案をしていきたいと思っています。もう1つは、サステナビリティに配慮したイベント制作について、私たちがコンサルティングできるようになりたいと考えています。そして、お客さまへのご提案にもガイドラインの内容を反映していきたいです。

Q.ガイドラインをより充実させるには、例えば「CO2排出量をこれだけ削減できた」というエビデンスをきちんと示したり、電通ライブが環境配慮型素材を用意したりする必要も出てくるのではないでしょうか?

永川:今後、協力会社と連携しつつ、効果を算出するための方法や、環境負荷を減らす具体的なソリューション提供もしっかり対応していきます。加えて、DEI(ダイバーシティ:社会の多様性、エクイティ:公平性、インクルージョン:包摂性の略称)の視点からもチェックリストを作っていかなければいけないと思っています。「ガイドラインを作ったから終わり」ではなく、幅広い局面で使えるように定期的に見直し、アップデートしていかなければいけないですよね。

 

リアルかメタバースか。イベントプランニングの未来

 

Q.環境負荷を考慮すると、イベント来場者への特典をデジタル配布物にするといった案も考えられます。とはいえ、特典は物理的なものとしてもらった方がうれしいという方も多いのではないでしょうか。つまり、「サステナビリティの視点」と「イベントの体験価値」を天秤にかけたときに、何らかのハレーションが起きることも考えられますが、その点についてはいかがでしょうか?

永川:極論を言えば、環境負荷を低減するにはイベントを開催しないのが一番です。しかし、企業が活動する上でイベントが必要になる局面はあります。今回のガイドラインは、イベントの価値を最大化するためにもサステナビリティに配慮しようという思いで作成しました。クライアントさまに対し、「こういう施策を打つなら、ここは工夫できるのでは?」など、新しい視点でのご提案の幅が広がるのでは、と考えています。

鈴木:私はサステナブルな取り組みをすることで、イベントの体験価値が下がるというトレードオフにはしたくないと思っています。例えば、来場者への特典も、データでも価値が下がらないものはデジタル化しつつ、実物をもらった方がうれしいグッズに関しては環境に配慮した素材で作るなど、まさに工夫のしどころではないでしょうか。イベントの体験価値を下げずに、できることはたくさんあるはず。そういったご提案をしていきたいです。

Q.サステナビリティに配慮すると、イベントのプランニングそのものも変わってくるでしょうか。

永川:まずは、従来型イベントの価値を最大限に打ち出しつつ、環境への配慮をしっかり押さえていく。例えば、設営ブースの素材を環境に配慮したものに変えるなど、ネガティブな要素を可能な限り減らしていく、というプランニングはまず必須だと思います。
一方で、「イベントはメタバース空間で行う」というように、デジタルをフル活用するプランニングもますます重要になってくるでしょう。私たちもデジタルの知見を増やし、グループ全体で連携しながら、お客さまと共にどういうイベントにすべきか根本から話し合う必要が出てくると思います。

石橋:個人的には、リアルイベントは今後もなくなることのないコミュニケーションツールだと思っています。その中でも、「従来型よりも、サステナブルなイベントに行く方がかっこいいよね」という流れを作れるよう取り組みたいですね。そのために、サステナブルなイベントの価値の広め方やアピール方法も同時に考えていく必要があると思っています。イベントは大きな花火を一発打ち上げるような側面もありますが、その都度スクラップ&ビルドするのではなく継続的な視点を持ったり、一部をデジタル化したり、さまざまな選択肢を提示できたらと。

電通ライブ 石橋 宏平

 

鈴木:サステナビリティを意識することが、「イベント演出を守りの姿勢で行う」とイコールになるとしたら、それもちょっと違うのではないかと個人的には思っています。あらためて環境負荷について見つめ直すことで、イベントそのものの体験価値を維持しつつも改善できる部分はたくさんあるのではないでしょうか。イベントの楽しさは大切にしながら、できるところから実施していきたいと考えています。

Q.クライアントさまのイベント・プロモーション担当の方々も、どこまでサステナビリティに配慮すればいいのか、どういう判断基準で考えたらいいのか分からないと悩まれることもあるのではないかと思います。そういった方々へのアドバイスをお願いします。

永川:サステナビリティや環境負荷低減については、「取り組まなければならないので仕方なくやる」というより、「どうすれば制限のある中で多くの方に楽しんでいただけるか」という視点で、一緒に考えていきたいと思っています。決してネガティブに捉えず、共にチャレンジさせていただきたいです。

石橋:何か1つでも、まずは取り組んでみることが大事。私たちとしても、ガイドラインをもとに、小さなことから相談していただける環境を作っていきたいです。

鈴木:サステナビリティに配慮した取り組みを付加していくことで、これまでよりお金も手間も掛かるという声もあるのですが、決してマイナスなことだけではなく、プラスになることも多いんです。イベントのたびに毎回作って壊して捨てて……を繰り返すより、再生可能な素材や環境に配慮したマテリアルを使った方が長い目で見るとコストが掛からないことも。また、今後のトレンドを見通せば、サステナブルな視点を持たないイベントはそれだけでレピュテーションを下げてしまうような影響を持つ可能性もあります。ハードルが高いと思わず、小さな一歩から始めていただければと思います。

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リアルイベントを最大限サステナビリティに配慮して開催するか、それともメタバース空間でのイベントに切り替え、環境負荷を低減するか。方法はさまざまですが、いずれにしても、イベントの目的、内容、客層などによって、主催者や制作会社はその都度あるべきイベントの形を模索することになるでしょう。その一助となるのが、「サステナビリティに配慮したイベントガイドライン(環境編)」です。今後公開予定の「ダイバーシティ」「安全衛生」に関するガイドラインとあわせて、3本柱でサステナブルなイベントの在り方を考えてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

永川 裕樹(ながかわ ひろき)

株式会社電通ライブ ソリューションユニット プロデューサー

2015年電通テック(現・電通プロモーションプラス)入社。以降、スペース部門に所属し、ショールーム、店舗開発、大規模展示会、国際スポーツイベントなど幅広い案件の空間プロデュース業務に携わる。現在は設計・施工の知識を生かして、イベント領域のサステナビリティ推進活動に邁進中。一級建築士・宅地建物取引士・SDGsコンサルタント資格を保有。

石橋 宏平(いしばし こうへい)

株式会社電通ライブ ソリューションユニット プロデューサー

2017年電通テック(現・電通プロモーションプラス)入社。以降、クリエイティブ部門やプロデュース部門を経験。幅広い案件のプランニング、プロデュース業務に携わる。SDGsコンサルタント資格を保有。

鈴木 瀬里菜(すずき せりな)

株式会社電通ライブ ソリューションユニット プロデューサー

2019年電通ライブ入社。以降、プロデュース部門に所属し、国際スポーツイベント・音楽イベントなど、大型案件を中心にアシスタントとして携わる。現在は、サステナビリティ推進活動含め、展示会・企業のインナーイベント・映像制作など、幅広い分野の案件に参画。SDGsコンサルタント資格を保有。