2017/05/24
クリエーティブな街を、どのようにつくるか:黒﨑輝男(前編)
- July / 26 / 2017
クリエーティブな人が集まるところに、クリエーティブな街ができる
黒﨑:今まさに、Creative City Lab、創造的都市をどう作って行くのか-という本を作っています。ポートランドの開発局とか、昨日も友人のジョン・ジェイと会って話してます。Urban Gleaners=都市の落ち穂拾いの活動をしている知り合いがいて、それは何かというと植物や食べ物の再生なの。日本では農家でとってきたものを流通の基準に合わせで10~15%捨てて、さらに料理の無駄や、リテールもお店が終わったら残りを賞味期限切れで捨てるから、合計すると25%ぐらいの食べ物を捨てている。
僕たちが青山でファーマーズマーケットをやっていて最近よく考えるのは、天の恵み、自然の恵みとしての野菜であり、食べ物だという視点を提供していくこと。お酒なんていうのは「御神酒」というぐらいで、もともと売り物じゃなかったわけです。神社で配るものだった。それが今や全部「商品」になっちゃっているのを、ちょっと考え直して、「NOT FOR SALE」というブランドの酒をこれから造ろうとしています。
宮口:素敵ですね。ポートランドに興味を持っている人は多いと思いますが、黒崎さんは通算どのくらいポートランドに行かれているんですか。
黒﨑:40~50回かな。
宮口:頻度としては?
黒﨑:年に4~5回。僕の弟がポートランドの人と結婚して、35年間住んでいるから。
宮口:ポートランドは、クリエーティブな街づくりの話をすると、必ず話題に出る街になっていますね。それ以外で、今ご興味がある都市はどこですか。
黒﨑:LAののダウンタウンとか、ニューヨークのブルックリン、デトロイト…。結構ヤバイっていわれるところかな。ロンドンだとイーストエリアのショーディッジ、それからコペンハーゲンとかパリでも一部ある…。あやしいところがどうなっていくかというのを見ているのが、一番面白いです。
LAのベニスビーチは、昔は貧しい人たちが住んでいたけど、今はアーティストがたくさん住んでいる。そうなると、グーグルとかが移ってくるわけ。ポートランドにマイクロソフトの事務所ができたりね。要するにクリエーティブな人材を求めて、大企業自体が動いていく。
宮口:クリエーティブな人たちが集まりやすいのは、あやしい雰囲気があるところということですか?
黒﨑:というか、価値観の変化がある場所。例えばUberやAirbnbも、日本では道路運送法や旅館業法から入るじゃないですか。向こうは、ただ自分の車や家を生かせばいいという感じで始めるからね。
宮口:日本の法律とか規制が多いということが、世界のクリエーティブの潮流と逆方向に行っているということですね。
ファーマーズマーケットには、1日2万人も集まる
黒﨑:たとえば、僕らがやっているファーマーズマーケットの場所、国連大学の周りは特に週末はほとんど人通りのない広場だったんです。
宮口:あそこではそんなイベントはできないと、つい思い込んじゃいます。われわれの常識では。
黒﨑:そうでしょう。でも、国連大学との共同開催でやることにしました。
宮口:国連大学含め関わる人たちの売り上げも上がり、地方の農家の人たちももうかって帰るんですね。
黒﨑:そう。若者たちにも仕事のチャンスが与えられる。パン祭りを開催すると、1日2万人来たりする。パンが1日で1000万円売れる。めちゃくちゃでしょう。最近、こだわってハンドドリップでコーヒーを入れる若者が増えているけど、1日2~3万しか売れない。でも、ファーマーズマーケットでコーヒーフェスティバルをやると、1日15万売れる。
お金掛けてないですよ。広告宣伝費も取らないし。クリエーティビティーを求めて、フェスティバルとかイベントに対して、コンセプト、コンテンツプランニング、マネジメント、情報発信の全てを、15~20人の少人数でやるのが面白いの。大企業ではファーマーズマーケットのプロデュースはなかなかできない。
宮口:耳が痛いです(笑)。そのやり方のほうが元気な街になりますよね。自然にみんなが参加してお金もちゃんと回っていく。僕らもいろんなイベントをやりますが、本当に難しくて…。
黒﨑:大企業が仕切ると、コンプライアンスやルールが、いっぱい入ってくるじゃないですか。何があったらどうだとマイナス面を全部ふさいでいくじゃないですか。、肉体労働だけど、誰もやめないんだよ、面白いから。ファーマーズマーケットは、毎土日に組み立てて、終わったら畳んで倉庫にしまう。えらい重労働ですよ。什器もすごく重くて、重石だけでも何トンもある。でも大変でもやめないよ。お客さんも、なかなか帰らないの(笑)。ずーっといたがるんですよ。
宮口:楽しかったら学園祭と一緒で、大変さも苦にならないでしょうね。
都市の情報化を、どうプロデュースするか
宮口:日本の街づくりは、規制緩和すれば変わるでしょうか。
黒﨑:都市が情報化している。今までの不動産って、建物が所有権になっているじゃないですか。あるディベロッパーは生前イベントホールをたくさんつくって、情報の拠点としてテレビ局やラジオ局、必ずメディア会社を入れているの。それは意図的にやっていたんです。だから広告会社が、これから不動産のプロデュースに向かうのは正しいと思う。情報化がキーだから。
最近伸びている会社は、だいたい誰の座席も決まっていないわけ。入り口だけはセキュリティーの関係上チェックするけど、トップも誰一人スーツ着ている人がいなくて、ソフトウェアの会社と同じでみんなカジュアルな感じ。少人数でやっていて、それが3兆円企業だったりするわけ。そういうふうに、会社もものすごい勢いで変わっているよね。
電通もそうあるべきですよ。例えば古いビルをきれいにしたところに少数精鋭チームがいて、東京を再生するみたいな大きなことをしていったほうがいいんじゃないかなと思います。
宮口:リノベーションは流行っていますしね。古いビルが東京はいっぱい出てきていますから。
黒﨑:ポートランドで伸びているACE HOTELも、Tシャツを着た人が「いらっしゃい。どうぞ、どうぞ」って友達を迎え入れるような感じ。Airbnbのように、自分の家に招待するような。ホテルって、最終的には自分の家にいるように心地いい、というのを目指せばいいんじゃない?
車も同じだと思います。お金持ちになって、リムジンやロールス・ロイスに乗って、お城のような家に住むって、成り金的な発想だよね。本当に豊かだったら別にそんなことは求めない。ACE HOTELは投資効率がめちゃくちゃいいと思います。古いビルをアートできれいにしている。
宮口:人の出入りが激しい、いろんな人が集うのもクリエーティブですよね。
黒﨑:そうそう。泊まっていない人もロビーを使っていて、働けるという状態。だけど、日本の高級ホテルだと、宿泊者専門とかスペースが分かれているでしょう。時代の価値観みたいな大きな転換を理解して、クリエーティブであるということが気持ちがいいとか、面白いとか、そういうことになってきているのだから、電通もいち早くそういうことを察知しながらディレクションしていくといいと思う。
黒﨑 輝男
流石創造集団株式会社 CEO
1949年東京生まれ。「IDĒE」創始者。 オリジナル家具の企画販売・国内外のデザイナーのプロデュースを中心に「生活の探求」をテーマに生活文化を広くビジネスとして展開、「東京デザイナーズブロック」「Rプロジェクト」などデザインをとりまく都市の状況をつくる。 2005年流石創造集団株式会社を設立。廃校となった中学校校舎を再生した「IID 世田谷ものづくり学校」内に、新しい学びの場「スクーリング・パッド/自由大学」を開校。Farmers Marketのコンセプト立案/運営の他、,「IKI-BA」「みどり荘」などの「場」を手がけ、 最近では“都市をキュレーションする”をテーマに、仕事や学び情報、食が入り交じる期間限定の解放区「COMMUNE 246」を表参道で展開中。
宮口 真
株式会社電通
電通ライブ
1998年電通入社。展示会、ショールーム、店舗開発など、イベント&スペース領域の業務を推進。 2014年7月からシティ・ブランディング部で、まちづくり開発案件やシティ・プロモーション業務を中心に活動中。