2019.02.05Tuesday, February 5, 2019

イヤホンをしているあなたは、もうサイボーグなのかも知れない(前編)

塚本昌彦
神戸大学大学院工学研究科教授 
日塔氏プロフィール写真
日塔史
電通ライブ 第1クリエーティブルーム チーフ・プランナー。

電通ライブでは世の中に感動や驚きを生み出すべく、日々さまざまな挑戦をしています。 この連載では、今注目されている「ヒアラブル」に焦点を当て、電通ライブでAIを中心とした「加速するテクノロジー」を活用したソリューション開発業務を担当している日塔史社員に語っていただきます。

今回はその最終回スペシャルとして、2019年1月16日~18日、東京ビッグサイトにて「第5回ウェアラブルEXPO」(主催:リードエグジビジョンジャパン株式会社)が開催され、大ホールでその基調講演をされたウェアラブルの伝道師として名高い神戸大学・塚本昌彦教授にインタビューを行いました。

塚本教授の講演の締めくくりでは「予言:私は15年以内にサイボーグになる」という衝撃的な発言もされ、18年間もの間ヘッドマウントディスプレイ(以下「HMD」)を自ら装着し続け、身体で研究をされています。今回の対談では、どんなお話が聞けるのでしょうか。

(左から)神戸大学・塚本昌彦教授、日塔史社員

「ヒアラブル」という言葉に囚われず「聴覚拡張」の機器として捉えよう。

塚本:実は、ヒアラブルという言葉自体は去年の1~2月くらいがピークで、トレンドサーチをみてもかなりの露出がありました。CES2018、2019のイノベーションアワードでも、イヤホン・ヘッドホン分野はものすごく数が多いです。
しかし、今年は「ヒアラブル」という言葉は1年前に比べてあまり使わなくなりました。ワイヤレスイヤホンが「音楽を聴く」という基本機能を強化することで急速に普及していますが、実はその中にソニーのXperia Ear Duoのように「ヒアラブル」というのにふさわしい多機能がついている。でも言葉としては使っていません。イヤホンの市場が大きいので、イヤホンの本業の部分で展開しているのが今の姿だと思います。

日塔:iPhoneは、「SIM付きのコンピュータ」「ポケットに入るコンピュータ」なのに「電話」として売り出しました。ヒアラブルも同じように「耳に入るコンピュータ」なのですがヒアラブルとかウェアラブルとかわざわざ言わなくても、「イヤホン」としてみんなもう持っています。マーケティング的には「ワイヤレスイヤホンはウェアラブルとして捉えられていない」ということかも知れませんね。

塚本:イヤホンに関しては、元々ある膨大な音楽を聴くことに特化した市場の中で進化が起こっていることもあり、ヒアラブルという新しい使い方に関してはフィーチャーされていないという印象です。
ただ強調したいのは、人間のいろいろな感覚の機能を拡張していく中で、HMDが「視覚拡張」であるように、ヒアラブルは「聴覚拡張」なのです。
本質的に(人間にとって重要な「目」と「耳」を拡張する)HMDとヒアラブルは、多機能な汎用デバイスとして10年後みんなが当たり前に使うものになってもおかしくないと思います。だからヒアラブルという言葉もまた出てくる可能性は充分にあって、「音楽だけではなく色々なことに使えるイヤホン」という形で、今後広まっていくと思う。

日塔:私たちは「スマートホンの次のデバイス」を探るためにウェアラブル全体を見渡したときに、「ボイスインターフェース」に注目して、「マイクが付いたワイヤレスイヤホンは、小さいのに話し言葉でインプットとアウトプットがワンストップでできるからすごいのでは?!」という仮説を立てました。実はその後に「ヒアラブル」という言葉を知ったので、ヒアラブルでなくても新しいマーケティング用語を塚本先生と一緒につくれたらいいなと思いました。

塚本:「ウェアラブルという言葉が良くない」というのは20年前から言われているんですね。言いにくいし、分かりにくいし、もうちょっといい言葉ないの?と言われていました。今まで聞いたことがない新しい言葉が出てきたら、それを契機に一気に世の中に広まるっていうことはあり得ると思います。

「ディープデータ」としての生体情報をエンタメ空間に使えないか?

日塔:電通ライブではリアルなセンシング情報などを「ディープデータ」と呼んでいます。身体からしか得られないウェアラブルからの「深い情報」をエンターテインメント化した体験の付加価値として使えないかと。例えば、ライブ会場でみんなが興奮すると心拍があがり、呼吸が荒くなります。それを演出に使ったり、一体感を生むために使うことで盛り上がる仕掛けができないかと。

塚本:面白いですね。視点は一見変わっていますが、それはあり得る。ライブパフォーマンスはビジネスとして非常に伸びているので、いかにそこにITやウェアラブルで新しい価値を作っていくかというところは、ビジネスの視点としては重要です。
この会社(塚本研究室出身者で博士の藤本実が大学発ベンチャーとして立ち上げたmplusplus株式会社。ダンスに電飾服の光を同期させた演出 ”Lighting Choreographer” がEXILEのツアー「SAMURIZE from EXILE TRIBE」に採用されている)がウェアラブルでのライブパフォーマンスでうまく行っているのですが、さらに生体情報を加えるのは面白いでしょうね。
自分の心拍に合わせて、ライブ会場での自分の服が光って、一緒に音楽聞いて一緒の動きをすると心拍も全部同期していくみたいなことになると面白いですね。

Lighting Choreographer(Cannes Lions International Festival of Creativity 2018)

 


日塔:
今は歓声や首・手を振ったり、ジャンプしたりなどで一体感を感じますが、心拍と同期しちゃうととてつもない一体感が生まれるかも知れません。

塚本:すごい。呼吸は体の動きと連動しますのでみんな一致させるのはひょっとしたら可能かもしれません。

日塔:はい。だからアーティスト自身のそのような生体情報もみんなに見せてしまって、「観客もそれに同期していくのか?」とか基礎実験としては面白そうだと思っています。

塚本:ええ、観客の興奮度とかもビジュアル化できるといいですね。

日塔:でも、あまり聞いたことないですよね。

塚本:ウェアラブルEXPOの基調講演では、ウェアラブルは、「生活の何気ない便利なこと」に活用するのが重要と言いました。具体的にはあまり考えていませんでしたが実は、「生活空間を楽しくすること」にもっと活用できるのではと思います。そういう意味ではライブエンターテインメントで生体情報をどんな使い方ができるのかを考えるのは、正しい道かも知れません。今まで誰も考えていない道です。
例えば、彼女とデートしている時にそれを活用したらなんか盛り上がるとか、そんな使い道の方が、ビジネスとして成長するかも知れません。それが何かは割と難しい話ですけど。

日塔:その答えがあったら我々も嬉しいですけれど今はないので頑張ります!先生の前で宣言してどうするって話ですが(笑)。

後編につづく。

  • 塚本昌彦 神戸大学大学院工学研究科教授  1964年生まれ。京都大学卒。京都大学大学院工学研究科修了。シャープで無線通信等の開発に携わったのち、95年大阪大学講師に。96年同助教授。2004年に神戸大学に移り工学部電気電子工学科教授。2004年よりNPO法人「ウェアラブルコンピュータ研究開発機構(チームつかもと)」の理事長も務める。

  • 日塔史 電通ライブ 第1クリエーティブルーム チーフ・プランナー。 テクノロジーを活用したビジネス・プロデュースを手掛けており、現在「ヒアラブル」(聴覚の拡張デバイス)によるソリューション開発などを行っている。日本広告業協会懸賞論文「論文の部」金賞連続受賞(2014年度、2015年度)。電通Watsonハッカソン「日本IBM賞」受賞(2017年)。AIおよび先端テクノロジーに関する講演、寄稿多数。

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