DENTSU LIVE | 電通ライブ

SCALE OUR FUTURE vol.3
『業界5社が共創!サステナブルイベント協議会が描く未来』

  • February / 16 / 2024

国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、あらゆる企業がサステナビリティへの貢献を期待されています。イベント業界においても建材や装飾材等の廃棄量削減、搬入・輸送時等に発生するCO2排出量削減、多様性に配慮した運営など、すべてのイベント関係者にサステナビリティの視点が求められています。

こうした状況を踏まえ、業界全体のサステナビリティ促進・リテラシー向上を実現すべく、イベント・スペースを事業領域とする丹青社、乃村工藝社、博報堂プロダクツ、ムラヤマ、電通ライブの5社で「サステナブルイベント協議会」を発足。活動の第1弾として、JAPAN MOBILITY SHOW 2023のOut of KidZania内にて「サステナブル・イベント スタジオ」を開発しました。

今回は、本プロジェクトを担当した各社メンバーにインタビューを実施。活動内容やそこから得られた気づきについて、協議会メンバーの電通ライブ 大髙良和がお聞きしました。

<参加メンバー>
株式会社丹青社:米田美優氏
株式会社乃村工藝社:後藤慶久氏
株式会社博報堂プロダクツ:ボンド雅ミシェル氏
株式会社ムラヤマ:山下千穂氏
株式会社電通ライブ:永川裕樹

(ファシリテーター:電通ライブ 大髙良和)

 

 

競合企業の枠を超えて5社が連携し、イベント業界の変革を目指す

 

大髙:本日はよろしくお願いいたします。電通ライブでは2022年に社内プロジェクト「サステナビリティPJ」を立ち上げ、電通と共同でイベント業界におけるサステナビリティ促進の指針となる「サステナビリティに配慮したイベントガイドライン」を作成しました。しかし、業界全体にサステナビリティを根付かせていくためには、一社一社が単独で活動するのではなく、各社が連携して取り組む必要があります。そこで、まずは業界の中でも特に影響力の大きい4社にお声がけして、2023年10月に共同でサステナブルイベント協議会を立ち上げました。

永川:お声がけした中には、普段からお付き合いがある会社さんもあれば、いつもコンペでバチバチに競い合っている会社さんもあります(笑)。でも、サステナビリティの取り組みは1社だけで実現できることは限られていますし、業界全体を変革するような大きなインパクトは生み出せません。特に国内のイベント業界のサステナビリティ対応は遅れていると言われているからこそ、競合の枠組みを取り払って積極的に連携していかなければならないと考えました。

大髙:皆さんは、最初に話を聞いた時の印象はどうでしたか?

後藤:当社は案件ベースでサステナビリティを取り入れるだけでなく、「ソーシャルグッドR&D」という有志プロジェクトの中で、サステナビリティやDE&Iを推進する研究開発に取り組んでいます。そこから新規事業が生まれるなど一定の成果が得られた一方で「1社だけで頑張っても社会は変わらない」という課題感も抱えていました。だからこそ、協議会の存在意義は非常に大きいと感じました。当然ながら、自社の知見や情報を競合先に共有することでビジネス機会を損失するリスクはありますが、同時に社会や環境を本気で変えていくチャンスでもあるなと。

米田:私たちも案件ベースでサステナビリティ対応に取り組んでいるほか、インテリア関連メーカー各社と連携して廃番になった建材や照明器具などを扱うECサイト「4earth(フォーアース)」を運営しており、サステナビリティに対する課題意識には共感するものがありました。ただ、それこそ乃村工藝社さんやムラヤマさんは普段コンペで勝ち負けを競い合っている間柄なので、はじめは「競合会社とこんなにコミュニケーションを取っていいの?」という、未知の領域に手を触れるような感覚がありました(笑)。

山下:当社もクライアントからの要望を受けてサステナビリティ対応に取り組むほか、部門をまたいでサステナビリティを推進するチームを立ち上げています。私自身、そのチームに携わっていたことで協議会メンバーに入らせてもらったのですが、すでに先進的な活動を展開している他の会社さんと一緒にやらせてもらうことは、自分にとっても新しいチャレンジになるとポジティブに捉えていました。

ムラヤマ・山下千穂氏

 

ボンド:当社は全社的にサステナビリティ活動を推進し、活動方針やガイドライン策定、ゴミやCO2排出量の可視化に加え、企業のサステナブルアクションを加速させる専門チーム「SUSTAINABLE ENGINE(サステナブルエンジン)」を発足し取り組んでいます。個人的にはお声がけいただいたのが、オランダ研修で先進的なサステナブル事例を学び、まさに競合こそ共創していくべきという気付きを得られた直後だったため、すぐに実践できることにワクワクしていました。

大髙:よかったです。協議会を立ち上げた理由の一つとして、5年後10年後の変革を担う若い世代の人たちが交流できる場をつくりたいという思いもありました。企業の枠組みを超えて情報交換し、切磋琢磨しながら業界を盛り上げていけるといいなと思っていました。

電通ライブ・大髙良和

 

フラットな関係だからこそ、意思決定の難しさに直面。モック制作やゴール設定が突破口に

 

大髙:協議会の活動第1弾となったのが、Out of KidZaniaでの取り組みですよね。

永川:はい、JAPAN MOBILITY SHOW 2023の「Out of KidZania」内にて、イベント運営・制作時におけるサステナビリティの重要性について、子どもたちが楽しみながら学ぶことができるブース「サステナブル・イベント スタジオ」を開発しました。子どもたちが「イベントデザイナー」としてモビリティショーのブースを作り上げる体験を提供し、サステナブルな素材を自由に組み合わせて模型を作ることで、環境に配慮したイベントデザインの手法を学ぶことができます。また、ブース自体もリサイクルできる素材を用いるなど、サステナビリティ対応を実現している点もポイントの一つです。

イベント業界をサステナブルに変革していくためには、イベント・スペース領域の会社が変わるだけでなく、クライアントやその先にいる生活者の意識変革も欠かせません。そこで、将来を担う子どもたちやその保護者層にイベントにおけるサステナビリティ配慮の重要性を伝えたい。そのような目的で生まれたのが今回のプロジェクトです。

大髙:今回は企画アイデアを出し合うところから5社で取り組みました。ただ正直、最初はかなり探り探りでしたよね。

永川:そうですね。5社が横並びのプロジェクト、しかも事業領域が被っている企業同士なので、お互いに様子を見ながらコミュニケーションを取っていた印象です。

後藤:ファシリテーターは電通ライブさんがやってくれますが、会議のオーナーシップは全員にあるんですよね。対等な関係だからこそ、意思決定が難しい場面がありました。

米田:みんなに決定権があるので、お互いを尊重しすぎて結論がなかなか出せないという。クライアントが存在しないプロジェクトの難しさを実感しました。

ボンド:逆に私たちは企画内容がある程度固まった段階から参加したので、それまでの経緯や温度感をあまり理解せずに、けっこう好き勝手に発言してしまったかもしれません(笑)。

博報堂プロダクツ・ボンド雅ミシェル氏

 

大髙:そのような難しさに直面する中で、ブレイクスルーが起きたタイミングがありましたよね。

永川:丹青社さんが模型のモックを作ってきてくださった時ですよね。そこから意見交換が一気に活性化し、制作の方向性がどんどん決まっていきました。

大髙:明らかに空気感が変わりましたよね。僕はちょうど海外出張中だったのですが、たまにリモートで会議に参加すると、和気あいあいと意見を交わしていて、一人だけ取り残された気持ちになるほどでした(笑)。そして、先ほどボンドさんがおっしゃっていたように、後から博報堂プロダクツさんが参加したことも追い風になったのかなと思います。

後藤:確かに。新しいメンバーが入ってきたことで、「もっとしっかりしなきゃ」と改めて気を引き締めた部分もあるかもしれません(笑)。

山下:キッザニアに出展するにあたって時間制限などの諸条件が決まったことも、議論が進みやすくなった一因かもしれないですね。制限があるからこそ、目指すべきゴールが明確になった印象です。

米田:そうですね。それから、みんなで実際にキッザニアを体験しに行き、施設の方々にヒアリングできたことも大きかったと思います。子どもたちが模型を作るとどんな気持ちになるのかをリアルに考えられたことで、プロジェクトにエンジンがかかった気がします。

丹青社・米田美優氏

 

協議会メンバーもスタッフとして参加。子どもたちの反応や他社との交流が刺激に

 

大髙:イベント当日の感想やお客さんからの反応で印象に残っていることを教えてください。

山下:私は初日にスタッフを務めたのですが、最初は緊張気味だった子どもたちも、説明を聞いて実際に手を動かし始めると没頭していき、スタッフとも徐々に打ち解けてくれました。最後に「ありがとう」と言ってハグしてくれる子もいたり。そういった反応をダイレクトにもらえるのが嬉しかったですね。

米田:分かります。私は4日間スタッフとして参加していたので、毎日子どもたちの楽しんでいる姿を見られたことがとても嬉しかったです。自分が携わった施設やイベントの利用者をここまでじっくりと見られる機会はないので、自分たちの仕事が笑顔につながっているのだと実感できたことは、すごくモチベーションにつながりました。その一方で、低学年の子の中にはスタッフがサポートしないと説明を理解できないケースもあったので、誰もが分かるプログラムを作ることの難しさも学びました。

ボンド:そうですね。私たちの仕事やイベントサステナビリティについて知ってもらうだけでなく、楽しい体験も提供しなければなりません。限られた時間の中でどこまでていねいに説明するのか、その塩梅を考えるのが非常に難しかったし、勉強になりました。でも、当初の想定以上にみんな楽しんでくれて、サステナビリティのこともちゃんと考えながら体験してくれている子もいたので、こちらの思いを伝えられた部分もあるのかなと思います。

永川:子どもたちに興味を持ってもらうだけでなく、その保護者の方々も「こういうのって大事だよね」と言ってくださっていましたよね。

後藤:僕はオランダに出張中でイベントには参加できなかったのですが、スタッフを務めた社内のメンバーに感想を聞くと、やはり参加者のリアルな表情や感想をダイレクトに受けられたことが良かったと言っていました。また、世代の若い子たちは競合他社の人たちと同じ空間を過ごす機会がほとんどないので、そこでコミュニケーションを取ったり、他社のデザイナーさんがどういうことを考えているのかを聞けたりしたことが、すごく刺激になったようです。

乃村工藝社・後藤慶久氏

 

「共創」の時代。競合企業も一緒に社会課題解決に取り組む姿勢が大切

 

大髙:今回のプロジェクトを通して、5社の関係性やご自身のマインドに変化を感じますか?

ボンド:会社としては競合同士かもしれないのですが、個人的には同じ領域に取り組んでいる他の会社の人たちと交流できたことが純粋に楽しかったです。受発注とか上下がないフラットな関係なので、分からないことがあれば遠慮なく聞けますし、すごくいろんなことを学ぶことができたと思っています。

永川:そうですね。これからの時代に「共創」が必要になるということは、今回のように企業や個人が横並びで協働するプロジェクトが今後も増えてくると思うんです。こうして同じ業界の企業が集まり、いろいろと試行錯誤しながら、「共創」のやり方を学べたことはとても良かったですよね。

後藤:そう思います。5社で活動していることを社外に発信すると、非常にポジティブな反応が多いんです。取り組んでいる内容の一つ一つがどうとかではなく、そうやって競合企業が一緒に手をつなぎ、社会課題の解決にチャレンジする姿勢そのものを評価していただけます。

ボンド:同じ課題を持つ者同士で、一緒に悩みながら取り組めること自体が素晴らしいですよね。

大髙:最後に、今後サステナブルイベント協議会で取り組んでいきたいことや、興味関心があるテーマなどを教えてください。

永川:まずは自社の知見やノウハウをしっかりと高めていくことが大切なので、社内へのアプローチ方法も考えていく必要があります。また、クライアントもサステナビリティ対応の必要性を感じているケースが増えてきているので、ワークショップなどを通して一緒に考える機会をつくっていきたいと考えています。やはりサステナビリティって正解は一つではないですし、企業によって考え方が異なる部分もあると思うので、今後も協議会を中心にさまざまな会社とコミュニケーションを取りながら、いろんな答えを持っておけると良いのかなと思います。

電通ライブ・永川裕樹

 

米田:私たちも社内に浸透させる仕組みを考えたいと思っているので、協議会でも積極的に意見交換ができると嬉しいです。また、将来的にはこの活動を5社だけでなく業界全体に広げていければと思うので、そのPRや啓発活動にも注力していきたいです。

後藤 :たくさん作り、使い終わったら壊す、という従来のイベントのビジネス構造に厳しい目が向けられる中で、電通ライブさんが作っている「サステナビリティに配慮したイベントガイドライン」が業界スタンダードとして認知されるようになれば、世の中のイベントに対する見方が変わると思うんです。サステナブルなイベントづくりが企業や生活者の利益になるという認識に変えることで、ビジネス構造そのものに変革をもたらすことができると考えています。5社が集まっている意味もそこにあると思うので、今後も一緒に業界の変革にチャレンジしていきたいですね。

ボンド:そうですね。そのためには、イベントのサステナビリティにお金や時間をかける意義をもっと伝えていく必要があると思っています。そして、やらなきゃいけないからやるのではなく、「こっちのほうがクールだよね」っていう意識が世の中に根付くと、イベント業界のビジネス構造まで変えることができるのではないかと思っています。生活者が直感的にクールだと思えるようなコミュニケーション施策にも取り組んでいきたいです。

山下:分かります。現実的にはサステナブル素材を選択することで、コストがかかってしまったり、意匠性が変わってしまったりすることが、導入障壁になっているケースがよくあります。自分たちの意識を変えただけでは難しいと思うので、協力会社さんはもちろん、クライアントやその先にいる生活者も含めて、業界全体でイベントサステナビリティに対する意識変革に取り組んでいく必要があると思っています。これは社内に対しても同じです。協議会に参加していない社内のメンバーにも情報発信していくことで、業界としてのサステナブル意識の底上げみたいなところにつなげていきたいです。

大髙:ありがとうございます。上場企業におけるScope3の情報開示義務化が始まると、イベントのプロモーションに関するCO2排出量や社員の通勤から生じるCO2排出量まで算出して報告しなければなりません。そこに向けて協議会がどのような活動をしていくべきなのか、これからメンバーと一緒に考えていきたいと思います。そして、皆さんがおっしゃるように協議会の認知度を高めていくことがイベント業界の変革にもつながると思うので、国内外の有識者とも連携を取りながらサステナブルイベントを発展させていきたいと思います。皆さん、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

米田 美優

株式会社丹青社

文化・交流空間事業部コミュニケーションスペース統括部に所属。前職では、現場管理としてホテル改装、また営業として百貨店内のハイブランドの新設やメンテナンスを担当する。現在はビジネス空間を担当し、主にオフィスやショールームの改装や新設などに携わっている。最近はサステナビリティに関する問い合わせが増えていることもあり、ご要望に合った提案ができるよう情報収集に励んでいる。

後藤 慶久

株式会社乃村工藝社

クライアントであった欧米のファッションメゾンが環境配慮を先進的に進めていた影響で、2020年頃から環境分野に深くかかわり始める。メーカーとの素材開発、クライアントワークでのコンサルティング業務、社内外での講演など、空間におけるサステナブル・デザインを実装するために活動を続けている。現在は、ソーシャルグッド戦略部に所属し、環境だけでなく地域、文化、人といったより広域な社会貢献活動に従事している。

ボンド雅ミシェル

株式会社博報堂プロダクツ

2021年博報堂プロダクツ入社。プロデューサーとして、企業と企業、企業と生活者の接点を作り上げる体験設計を企画〜制作〜運営まで対応。全社で取り組んでいる企業のサステナブルアクションを加速させる専門チーム「SUSTAINABLE ENGINE(サステナブルエンジン)」、事業本部内SDGsプロジェクトのメンバーとして、オランダでのサーキュラーエコノミー視察での体験を活かし、顧客体験でサステナビリティを実現するソリューション設計を模索している。

山下 千穂

株式会社ムラヤマ

2020年に入社以来、主にVMD領域のアカウントとして空間づくりに従事。グローバルブランドの直営店・Wholesale店舗のVMDサポート業務、バイヤー向け展示商談会の装飾を担当。担当ブランドの環境配慮への取り組みからサステナビリティの必要性を感じ、社内サステナブル会議体へ参加するようになる。昨年より本協議会へ参加。

永川 裕樹

株式会社電通ライブ

2015年電通ライブ(旧電通テック)に入社。スペース部門に所属し、ショールーム、店舗開発、大規模展示会、国際スポーツイベントなど幅広い案件の空間プロデュース業務に携わる。現在は社内のサステナビリティチームにも所属し、設計・施工の知識を生かしながら、イベント領域のサステナビリティ推進活動に邁進。2022年に電通ライブが発出したサステナブルイベントガイドライン制作をはじめ、様々な活動に取り組んでいる。

大髙 良和

株式会社電通ライブ

ディスプレイ会社を経て電通ライブ(旧電通テック)に入社。ショールームやオフィス、ディーラー店舗開発、国内外モーターショー、大型スポーツイベントなどのスペースプロモーションを手掛ける。社内サステナビリティチームのリーダーとしてJACEサステナビリティ委員会にも所属。イベントガイドライン発出や各種メディア出稿・ウェビナー登壇など社内外問わずサステナブルイベントの実現に向けて積極的に活動している。