DENTSU LIVE | 電通ライブ

「無駄づくり」発明家・藤原麻里菜さんに聞く、自由なアイデアを生み出し続ける方法

  • October / 05 / 2023

世の中の常識や価値観が大きく変化する中、イベント・スペース領域においても既存の枠組みにとらわれない自由な発想や、新しい「問い」の見つけ方が求められています。

そこで電通ライブの社内ワークショップ「New WORKSHOP」では、「無駄づくり」をテーマにしたコンテンツを作り続けている発明家・コンテンツクリエイターの藤原麻里菜さんを講師に迎え、イベント現場を題材にした「無駄づくり」のアイデア設計を実践。日々、現場で感じている課題や気になることを起点にした、ユニークなアイデアがたくさん生まれました。

藤原さんは、どのようにして自由なアイデアを生み出し続けているのか?その面白さとは?電通ライブの河合はるかがお聞きします。

 

 

 

役に立つかどうかではなく、自由に思い付いたアイデアを形にしてみる

 

河合:ワークショップ、ありがとうございました。参加者の皆さんがとても楽しそうに取り組んでいて、アイデア発表の時間も非常に盛り上がりましたね。

藤原:あっという間でしたね。出てきたアイデアも面白かったです。やはり、現場にいる人にしか分からないような悩みからアイデアを考えているところがすごく良かったと思います。

 

河合:イベント現場の必需品であるトランシーバーのイライラから来るアイデアが多くて面白かったですよね(笑)。それにしても、「無駄」という切り口で考えるとこんなにも自由な発想が生まれるのかと驚いたのですが、改めて「無駄づくり」のコンセプトを教えていただけますか?

藤原:「無駄づくり」の根底にあるのは、アメリカの教育者、エイブラハム・フレクスナーの『「有用性」という言葉を捨てて、人間の精神を解放せよ。』という言葉です。役に立つ/役に立たないという価値観でアイデアをふるい落とすのではなく、自由に思い付いたものを作ってみようというマインドを大切にしています。

河合:そのマインドで作られた発明品は200個以上、YouTubeチャンネルは登録者数10万人を超える人気ぶりですが、最初に作った「無駄」は覚えていますか?

藤原:はい、10年前に作った「お醤油を取る無駄装置」です。テーブルの上に本や割り箸で作った装置を置き、スタート地点からボールを転がすとストッパーが外れて醤油差しが落ちるというもの。醤油が離れたところにあるのが面倒という食卓の「あるある」を、昔から好きだったルーブ・ゴールドバーグ・マシン、いわゆるピタゴラ装置で表現しました。

河合:YouTubeで見ました!わざわざ家の中にあるものだけで醤油を取ってくれる装置を作るところが、まさに「無駄」といいますか、新しい発想で面白かったです。そのような自由な感性はいつ頃から生まれたのでしょうか?

藤原:小学生の時、学校からの帰り道でサングラスをかけたおばさんが道端に立って芋けんぴを食べている姿を見かけたんです。その時に「すごく自由だなぁ~」と思って。当時は「無駄」を明確に意識していたわけではないのですが、そのおばさんの姿から自由を見出せる自分の感性を大切にしたいとは思っていました。

株式会社無駄 藤原 麻里菜氏

 

河合:確かに自由ですね(笑)。でも、「自分の感性を大切にしたい」という考え方は、とても素敵ですね。今年で「無駄づくり」をスタートしてから10年が経つということですが、もともと長期的に続けるつもりだったのでしょうか?

藤原:いえ、考えていませんでした。好きで続けていたら10年経っていたという感覚です。

河合:そうなんですね。10年続けてきた中で、作ることが辛くなったことはありますか?

藤原:一時期、「無駄づくり」でお金を稼ぐためにSNSのフォロワー数を増やす方法などを考えていた時は、他人からの評価が気になって辛くなってしまったことがあります。でも、「別に稼げなくてもいいや」「いいねの数も気にしない」と開き直ってみると、気持ちが楽になりました。好きなことを続けるためには、他人の評価軸の枠組みから逃れることが大切だと思います。

河合:結果的に「無駄づくり」でお仕事をされていて、多くのファンにも支持されているところがすごいです。私たちも仕事でものづくりに携わる中で、「何者かにならないといけない」とか、「相手が喜ぶものを作らないといけない」というプレッシャーに直面することもあるのですが、そのような評価軸をいったん横に置いて発想してみることがブレイクスルーになるかもしれないですね。

藤原:そうですね。ものづくりを仕事にしている限り、誰かに評価されることからは絶対に逃れられないじゃないですか。だから、評価が良くても悪くても自分のことを嫌いにならないために、言葉なり考え方なりで評価軸からの逃げ道を作っておくといいと思います。例えば、「自分には才能がないから評価Cでも仕方ないよね。でも好きだから続けるけどね」という感じで、自分を追い込まない考え方を持っておくことが大事だと思います。

 

 

アイデアを生み続けることで、見えてくる景色がある

 

河合:ちなみに、クライアントから依頼されたお仕事も発想法やアプローチは普段の「無駄づくり」と変わらないのでしょうか?

藤原:変わりません。クライアントからテーマをいただくことや、「この新商品を使ってコンテンツを作ってください」というオーダーをいただくこともありますが、作り方自体はほかのコンテンツと一緒ですね。

河合:先方から指定されるテーマや素材を、「制約」と捉える感覚はありますか?

藤原:むしろ、制約がある中で自由にアイデアを考えたほうが良いものが生まれると思うんです。私自身、自分になにかと縛りを与えてアイデアを出すことが好きなので、制約はポジティブに捉えていますね。

河合:ものづくりの業界には、もともと考えることが好きな人が多いと思うのですが、仕事を通じてさまざまな経験を重ねたり、責任が大きくなったりする中で、自由な発想が失われていくケースもあると思います。私も10年前の自分と比べると、アイデアや企画を考えることに対して少し臆病になっている気がします。だからこそ、藤原さんのコンテンツを見て「アイデアってもっと自由でいいんだ」と救われた気持ちになるのですが、アイデアや企画と楽しく向き合うコツはありますか?

電通ライブ 河合 はるか

 

藤原:やっぱり、アイデアがないと新しいことは何も生まれないので、とにかくアイデアを考え続けることがすべてだと思います。「無駄づくり」も、一番大切なのは「無駄」なことではなく、「作る」ことです。私は「無駄」に対して強いこだわりがあるわけではなくて、自分が思い付いたものを形にすることが「無駄づくり」なんです。なので、無駄であろうとなかろうと、自分がワクワクすることを想像して形にする。それを毎日続けることが大事だと思います。

河合:アイデアを生み出すことをルーティン化すると、なかなか良いアイデアが思い浮かばなくて苦労する時もありそうですが、続けるために心がけていることはありますか?

藤原:ハードルを下げることですね。最初から面白いアイデアを考えようと決めると生み出すのが大変なので、ほんのちょっとしたことでも何か思い付いたら、それをアイデアとして書き留めるようにしています。これは作ることも同じです。最初はクオリティを気にせずに、とにかくたくさん形にする。作り続けることで技術や質は高まってくるし、自分が表現したいことや大事にしていることも見えてくるので。

河合:なるほど、質よりも量が大事ということですね。確かに、最初から最高のものを作ろうとか、一発で課題解決につながる答えを出そうとしても、そんなに簡単には辿り着けないですよね。

藤原:はい、アイデアを考える時も、何かの問題や不満を「解決」することではなく、「解答」することが大切だと考えています。解決に導くのではなく、むしろ開き直って解答する。そうすることで、「無駄づくり」らしい自由なアイデアが出てくると思います。

 

 

アイデアとは、生活に潤いを与えてくれるもの

 

河合:改めて、藤原さんが考える「ものづくりの魅力」を教えていただけますか?

藤原:人間が手を動かして何かを作るという行為は昔から行われてきて、その積み重ねで社会が発展してきたわけで。無駄だと思われることでもいいから、とりあえず頭に浮かんだものを作ってみることが、豊かな社会を作ることにつながるんじゃないかなと思います。

私自身、「無駄づくり」を通して自分の中にある鬱屈とした感情やモヤモヤをエンタメに昇華した結果、自分の世界を生きやすくすることができました。アイデアを自由に考えると前向きになれるし、ネガティブな気持ちを少しポジティブに変えていくこともできます。アイデアは生活に潤いを与えてくれるものだと思っています。思い付いたアイデアを実行する。そんなふうに自分の時間を使っていくという感じがすごく好きです。

 

河合:ちなみに興味がある分野やテーマはありますか?

藤原:ワークショップは定期的に開催していきたいと思っていますが、子どもたちへの教育にも興味があります。私が小さい頃は両親と学校の先生ぐらいしか大人との交流はなかったのですが、ある時にインターネットを通じて変なブログを書いている人とか、面白いものづくりをしている人たちに出会い、いろんな大人がいることを知って少し気が楽になったんです。私もそういう存在になりたいなと。こんな大人になっても生きていけるんだっていうロールモデルというか、こんな生き方があってもいいということを伝えていけるといいなって思います。

河合:小さなアイデア1つで、明日が変わる。明後日が、そして未来が楽しくなる!と感じ、「企画って面白い。楽しい。」というピュアな感情に立ち返ることができました。やっぱり作り続けることをやめられそうにありません(笑)。
藤原さんの頭の中にあるアイデアと「無駄づくり」の創造、これからも楽しみにしています!藤原さん、ありがとうございました!

藤原 麻里菜(ふじわら まりな)

株式会社無駄 代表取締役社長/コンテンツクリエイター、文筆家

頭の中に浮かんだ不必要なものを何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。
2013年からYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始。現在に至るまで200個以上の不必要なものを作る。2016年、Google社主催「YouTube NextUp」に入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展-無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。25,000人以上の来場者を記録した。2021年 Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30 UNDER 30 JAPANに選出される。青年版国民栄誉賞TOYP会頭特別賞受賞。
https://www.yukonagayama.co.jp/ 

河合 はるか(かわい はるか)

電通ライブ プロデュースユニット プランナー

2018年電通ライブ入社。大阪を拠点にイベントプロモーション領域で、プランニング・プロデュース業務に携わる。自動車関係の大型展示会の演出、スポーツイベントの運営を経験。「誰も取り残されないイベント」をモットーに、インクルーシブな視点を大切にしている。支社の垣根を越えたコミュニケーションを通じて、まだないコラボレーションの可能性・ビジネス展開を模索中。