2018/06/04
ホラーで、世界の感情を揺さぶる:頓花聖太郎(前編)
- August / 15 / 2017
ホラテク(ホラー×テクノロジー)って、たとえばどんなこと?
笠井:京都精華大学で講演されたときの資料をネットで見て、お会いしたいなと思いました。
頓花:いやー、講演もしてみるものですね(笑)。京都精華大学ではデザインを教えているんです。
笠井:闇はどんな会社か、教えていただけますか。
頓花:ホラーとテクノロジーで新しい体験、「恐怖感動」をつくりたいなと考えて立ち上げた会社ですけれど、僕がすごいホラーが好きというところから始まりました。親会社もテクノロジーに特化した、ウェブとかアプリを制作している会社で、そもそもテクノロジーは基本的に魔法みたいな体験がつくれるし、意外とホラーとテクノロジーの組み合わせを専業にやっている会社はあまり見当たらなかった。そこを頑張れば1等賞を取れるんじゃないかなと思って、エイプリルフールに会社を立ち上げました(笑)。
笠井:きっかけは、会社の肝試しだったんですよね。
頓花:そうです。「ホラーをテクノロジーと組み合わせて売りましょう」と会社にずっとプレゼンしていたんですけれど、社内にホラーを好きな人が全然いなくて、「そんな気色悪いことしたくないよ、もっと夢とか売っていこうぜ」みたいな感じで(笑)、僕はアウェーだった。「みんな、ホラーの魅力に気づいてへんだけちゃうか?」ということで、和歌山に社員旅行へ行くときに部下をかき集めて、上層部の意識を変えるぞと(笑)。
その時点では普通の肝試しにテクノロジーを組み合わせるのも難しかったので、そこに謎解きの要素を足して、ウオークラリーじゃないですけど、スマホで指示される地点に行ったら、次々メールが届いて指令が来るみたいなシステムをつくって、謎を解いていくというホラーイベントを突貫でつくったらすごく受けました。
僕は元々の会社の事業としてやっていけたらいいなと思っていたのですが、その会社の仕事はスタイリッシュな業種や子ども向けの事業も扱っているんですね。そこにホラーが交ざるのはどうかと。ちゃんと表現のスタイルを切り分けるような見え方をした方がいいという判断で子会社になり、あれよあれよという間に今は独立採算を果たしました。
5万円でつくったイベントと熱意で、社長の気持ちが動いた
笠井:ちなみに、その肝試しイベントにはいくらぐらいかかったのですか。
頓花:いや、安かったですよ。多分5万かかってないと思う。人件費を考えたら、それは恐ろしいことになっていますけれど。関わった社員を全員寝かさないという(笑)、ブラックな地獄を社員に味わわせているので、慰謝料とか取られたらどうするかなという話ではあるのですが。基本的にはシステムをつくって、メールとウェブサイトとナビアプリの制作のみをやったという感じです。
笠井:じゃあ5万円と熱意だけで、会社を立ち上げたんですね。
頓花:そうです。こっちが本気を見せることで、社長も本気でやろうかという話になった。会社をつくるまでの苦労は実はあまりなくて、ただ、事業の一環としてやるつもりだったので、自分が社長になるとは思っていませんでした。それが大変だなと今は思っていますけど。
笠井:立ち上げの日から、いきなり仕事が来たんですよね。
頓花:そうです。開始1時間で来ましたね。
笠井:それはどういう宣伝の仕方をされたんですか。
頓花:株式会社「闇」のウェブサイトをつくって、サイト自体が結構インパクトあった。たまたま関西の知り合いの制作会社の人のところにお化け屋敷の相談が来ていて、そのタイミングでわれわれが立ち上げたサイトを見て、ホラー専門の会社だったら信用できると思ってもらえたみたいです。

株式会社闇のサイト
笠井:検索で「株式会社」と探すと、「闇」は上位に出てきますね。
頓花:そうですね。グーグルでは、「株式会社」の検索で「闇」がレコメンドで出てくるので、ありがたいなと。ただ、全国の株式会社に迷惑をかけている(笑)。迷い込んでくる人も多いので、苦情も多いんですが。
笠井:苦情、多いんですか?
頓花:はい。主に男子中学生から、イタ電いっぱいかかってきます(笑)。肝試し的な感じなのかな。「この会社、本当にあるのかな?」みたいな。大体「あ、ほんまにあるわ!」と言ってブチッと切られるんです(笑)。
笠井:ピンポンダッシュ(笑)。
頓花:元々は親会社と同じ電話番号で共用してたんですが、いっぱいそんな電話がかかってくるから別回線にしました(笑)。
「ホラー」切り口なら、なんでも株式会社「闇」におまかせ
頓花:2015年4月に会社を立ち上げたのですが、会社の実体が分かりにくいというのもあるのかもしれないですけれど、ホラーの切り口ならどんな仕事でも飛んでくる。ホテルでホラールームをつくりたい、ホラーウェブサイトをつくりたい、ホラー謎解きさせたい、などなど。
脱毛サイトのプロモーションをホラーの切り口でとか。一方でイベントをやったりウェブサイトをつくったり、ストーリーを書いたり、使う筋肉がすごく幅広いんですね。ホラーというくくりは全部やらないといけないので、日々勉強中です。

脱毛キャンペーン
笠井:どの案件も、何かしらテクノロジーは必ず関わっているんですか。
頓花:最近、テクノロジーですらない依頼も飛んできますよ。ホラーイベントのストーリーを書いてくれとか。
笠井:世の中には、そんなにホラーを売りにしている競合がないということですね。
頓花:まだ少ないんじゃないかな。ホラー業界が狭いのか、そのおかげで結構憧れの人と会えます。五味弘文さんというお化け屋敷プロデューサーがいるんですけれど、僕は神のようにあがめていたんですが一発目の仕事で会えて、「あっ、超高速で夢がかなった!」という。
笠井:梅田お化け屋敷ですね。

梅田お化け屋敷
Jホラーには、インタラクションを引き出しテクノロジーを使う「間」がある
笠井:いろいろお仕事を見せていただくと、アメリカでよくあるようなスプラッターでバーン!みたいなものではなく、「闇」はいろいろ細やかな工夫をされていて、こだわりを感じました。
頓花:個人的には日本のホラーが好きなんです。もちろん洋画のホラーも好きですが、僕は和ホラー、Jホラーで育ってきたので。Jホラーはインタラクションとかテクノロジーが生きやすい。間や呼吸があるから。ちょっとずつ進むとか、ドアを開けるとか、そういう能動性が高いものに対してテクノロジーができることはいっぱいあるので、和ホラーとテクノロジーの相性はいいなと思っている。
笠井:いろんなものが向こうから来るというよりは、少し自分で何かアクションをして、来るな、来るな、来るな、やっぱり来たぁ、みたいなのがいいということですね。
頓花:そうなんです!
笠井:そもそもホラーを好きになったきっかけは何ですか。
頓花:もともと遊園地が大好きなんですが、僕はすごい田舎育ちだったんですね。だから、お化け屋敷って古い人形が並んでいて、出口でガスがバーッと出てくるぐらいの子どもだましなものしか見たことなかったんです。
大阪に来て「エキスポランド」というテーマパークの中で、「バイオハザード」をテーマにした、人が演じるタイプのお化け屋を体験したときに、同級生5~6人でギャーギャー言いながら、泣きそうになりながら走って出てきたんですが、出終わった後は全員で大爆笑して、すごく楽しい思い出になった。
ホラーって面白いんだと気づいて、そこからできるだけお化け屋敷を回るようになりました。
感情の揺れ、「すごく怖い」と「すごく安心する」、その落差が麻薬的に楽しくなってきたんです。でも僕は、基本はすごくビビりなんで、いまだにお化け屋敷は本当に怖いんですよ。
話題になるような、使える「ジェネレータ」をつくる
笠井:今年のエイプリルフールにやった、「応募者全員採用」も面白かった。

「闇」応募者全員採用
頓花:エイプリルフール用なので、ウソをつくツールをつくろうと。エイプリルフールって、企業がウソサイトつくるというのはいっぱいあるじゃないですか。違うアプローチとして「自分がウソをつけるツールを、つくってあげよう」と思ったんです。
株式会社「闇」に入社したといったら、その人の周りはびっくりするかなと。そう信じ込ませるようなジェネレーターをつくろうと思ったんですが、結構普通に応募が来ましたね(笑)。いまだにずっと応募が来るので、ちょっとややこしいことになっていますが(笑)。
ホラーで、世界の感情を揺さぶる:頓花聖太郎(後編)
- August / 15 / 2017
新しい「ホラーの概念」を、テクノロジーで拡張していく
笠井:ホラーってある種ワンパターンになりがちで、お化け屋敷もですけど、マンネリをどう打破していくか、気をつけていることはありますか。
頓花:それ、悩むんですよ。もちろんいろんな工夫がありますが、ホラーの文脈だけじゃなくて、できるだけホラー以外のエンターテインメントで、「これは見方を変えたらホラーになるよね」とかそういうところで、別の分野の概念から発想を輸入してこようとはしているつもりです。次にやりたいなと思うのは、漫画表現でホラーっぽいコンテンツをつくれないかなとか、ちょっとずつ表現を外側に広げています。
笠井:テクノロジーの変化、たとえばVRなどによって、ホラーは今後どう変わっていくと思いますか。
頓花:僕が基本的に思うホラーの楽しさって、一人で体験して終わるパターンより、みんなでギャーギャー言いながらというのが原体験になっています。スマホとか今のVRはどうしても一人の体験になりがちだと思うんですが、テクノロジーの進化で今まで共有できなかったものがぐんと広がっていくと思う。わざわざお化け屋敷へ行かないと体験できなかったものが、気軽に家で友達と一緒に、全国どこでも体験ができるようになると面白いですね。
笠井:楽しみ方が広がりますね。
頓花:ええ。僕はひとりでお化け屋敷へ行ったり、ホラー映画を見に行ったりもするんですが、やっぱりあまり面白くないんですよ。誰か隣の人にギャーギャー言いたい。あまり周りにホラー友達がいない人でも、テクノロジーがそこを解決していってくれるといいですね。それがこれからのテクノロジーの使いどころですね。
笠井:ホラーというと夏ですが、冬の仕事はどんな感じですか。
頓花:もちろん冬ホラーの分野を開拓したいなと思っていますよ! もしくは、季節を問わないホラー体験をつくっていかないと、今年来年は生き延びても、いつか会社が死ぬ(笑)。新しくホラーの概念を拡張していくようにしていかないといけないと常に思っています。
最近ニコニコ超会議で「町VRホラーカー」をつくって、それもすごい楽しかった。

町VRホラーカー
頓花:車の中でヘッドセットをつけて体験するVRなんですけれど、背中にSubPacという振動を感じるウーハーをつけているので、本当に車が走っていて、どんどん襲われてくるような感じの演出が味わえます。しかも体験を終わった人が次に体験する人を、車を揺らしたりして脅かせるアナログな仕組みもあるんです。お客さん自身が次の客を脅かすなんて、ちょっとばかばかしいけど、そのことが「一緒に盛り上げている感覚」をつくれて面白かったですね。
笠井:それはどこで体験できるんですか?
頓花:ニコニコ町会議のイベントの一環としてですね。今年の夏は、日本中を回りますよ。お化け屋敷文化には新しい進化、イノベーションがしばらく起きていないような気がしている。ホラーの見せ方にテクノロジーを使った発明が加われば、従来型の「ザ・お化け屋敷」というフォーマットじゃない形のイベントをいろいろつくれるはずです。
「怖い」という感情を楽しむ文化、ホラーの楽しみ方の普及
頓花:怖いということの、楽しみ方を普及させなきゃいけないと思っているんです。怖さって、敷居は確かにあるんですけれど、ちょっとしたお作法を覚えると誰でも楽しめる。
映画を見て、めっちゃ泣くとか、めっちゃ笑うとか感情を揺さぶられるじゃないですか。めっちゃ怖がるという一手においても、怖さほど心が動く体験ってそうそうないと思うんです。でも恐怖という感情だけは我慢しようとしちゃう、耐えることをが目標になってる。そこを楽しめるマインドにスイッチを切りかえたら、すごく感動できるはず。
怖さを乗り越えられた自分であったり、それが終わったときの安心感との感情の落差だったりを見いだせるようになってきたら、絶対誰でも楽しめる。その楽しみ方まで提供できたらいいなと思っている。例えば、楽しみ方のコツのひとつは、我慢せずに声を出すことなんですよ。
笠井:大きな声で叫ぶ。
頓花:そう、怖かったら素直にギャーッと言うと、めっちゃ楽しいんですよ。
笠井:確かに。楽しんでやろうという気持ちで参加することが大事ということですね。
頓花:嫌々行ったらひとつも楽しくない。少しでも前のめりで、どんどん声出していこうというつもりで行くと、めっちゃ楽しいです。だから僕、一人で行ってもギャーギャー叫びながらお化け屋敷を巡るんですよ(笑)。ホラーに関しては泣き叫ぶのが恥ずかしくないという、感情をぶつける文化をつくりたい。
笠井:それ、大事かもしれない。いかに叫ぶの我慢するかで、その我慢がすごいストレスなんですよね。とくに私も含めた女子には。叫んだらストレス発散にもなりますよね。
頓花:日本人って、肝試しとかもそうですけど、ビビらないというのが目的になっていたりするじゃないですか。逆ですよ。ビビるのを楽しもうよ(笑)。
笠井:「何怖がってんだよ~、おまえ」みたいなことを言われますよね、悔しい(笑)。
頓花:いま大阪でNTT西日本さんと毎日放送さんがやってる梅田お化け屋敷「ふたご霊」で協力させてもらってますが、その中の施策の一つで、どれだけビビったか、という数字が出てくるんです。実際に計測しているのは、どれだけ楽しんだかということで、NTT西日本さんがつくった複雑な計算のもとで数字として出している。ギャーギャー言って楽しんだ人ほど高得点が出る。そういう指標を持って楽しめるようになってもいいのかなと思ったりします。

ふたご霊
ホラーの世界観のバリエーションを、多彩にアートディレクションする
笠井:ホテルでやられた企画もありましたね。
頓花:USJに隣接している公式ホテル「ホテルユニバーサルポート」でハロウィーンシーズンに行いました。ホテルの一室だけ、期間はそんなに長くなくて、ウェブプロモーション的なことは一切しなかったのですが、昨年結構予約が埋まったと聞いています。

ホテルユニバーサルポート企画
笠井:鏡に血がバーッとか、そういうことですよね。
頓花:あまり詳細を言うと面白くないけど、映像で人がガーンと出てきたりするんです(笑)。宿泊客は夜中2時ぐらいまで脅されます。壁にディスプレーを仕込んだ鏡を埋め込んでいるんですけれど、そこにさまざまな演出が起きるのですね。
笠井:お客さんは、若いカップルなどですか。
頓花:基本的にR15にしていたので、15歳未満は泊まれない部屋です。苦情が出ても困るので。そこらへんに血やら手首やら、散らばっているので(笑)。結構オールジャンル層でアンケートの評価もよかったみたいです。
笠井:寝れないでんすね、2時まで(笑)。
頓花:そう、夜中2時まで映像が出ますから(笑)。寝たら損ですよ。最大4人まで泊まれる部屋です。
笠井:じゃ結構ワイワイみんなで行けますね。
頓花:ええ。USJでハロウィーンを楽しんで、夜はホテルで謎解きを楽しみつつ泊まれるみたいな感じですね。
笠井:ちなみに、ホラー以外に好きなものはなんですか。
頓花:ホラーの仕事と隣接するんですけれど、テーマパークが好きですね、ジェットコースターとか。遊園地自体のアートディレクションに興味があって、ディズニーシーとか、岩の苔までこだわっていたりするじゃないですか。そんなのを眺めるのが好きで、岩だけを見てずっといられる(笑)。
今はホラーを扱うデメリットとして、皆さんご予算があまりないケースが多く、どこで妥協するのか、どこまでこだわるのかという戦いには毎度なってしまう。あと、スケジュールもタイトで、夏までにリリースしないといけないとか。予算が増えれば、もっともっとこだわり抜きたいですね。
笠井:家族みんなでホラーを楽しんでもらうブランディングが必要ですね。
いつかホラー×テクノロジーの大展覧会をつくりたい
頓花:ホラーイベントとなると、すぐお化け屋敷に集約しようとするんですが、そうじゃない形がいろいろある。普段の生活の延長線にホラーを注ぎ込んだら、すごく面白くなると思う。
笠井:新幹線で北海道から九州までホラートレインが走るとか、「はとバス」などでホラーツアーがあってもいいですし。面白そうですよね。みんなで叫べるし(笑)。
頓花:ちゃんとしたイベントとして成立できるところまでテクノロジーを使うと、繰り返し性やインタラクティブ性が強いこともできる。実はお化け屋敷も、入場者は女性の方が多いんですよ。USJのホラーイベントに行ったらびっくりします、女子ばっかりなので。女性は本気で叫べるというのが、楽しさや満足度につながっていると思う。
面白いテクノロジーもいっぱいあるんですよ。最近気に入っているのは先ほども挙げたSubPac。背中で感じる触感性のあるウーハーなんですけれど。重低音が体にズンズン響くのをうまく利用して、背中をそれこそ人がドーンと押しているみたいに感じるとか。
笠井:衝撃を受ける感じですか。
頓花:そうです。超でかい重低音のスピーカーを、背中に背負っているみたいなものです。それをうまく利用すると、車に乗って走りだす感じとか、心臓のドキドキ音を感じるとか、そういう感覚をつくれたりします。その他にも僕は、使えるガジェットを結構たくさん集めています。
笠井:ホラーに向くいろんな仕掛けを、アナログからデジタルまで。そういうの、ノウハウ知りたいです。やはりすごく努力しているんですね。
頓花:好きで集めてる。あと、指向性スピーカーはいいですよ。なかなか他では体験できない音の出し方ができます。
笠井:指向性スピーカーって、例えば私が歩くと音がついてくるとかですよね。
頓花:はい。超ピンポイントで狙えるようにつくれるので、耳元から誰もいないのに声がするとか。壁を狙ったら、その壁から反射で誰かがしゃべりかけてくるとか。キネクトみたいなセンサーを入れておいたら、自動的に顔を追尾するとかも可能です。
笠井:ホラープロポーズとか、ホラー結婚式の司会も面白そうですね。
頓花:いいですね、それ(笑)。ポピュラーに、そういう文化ができてほしいんです。
笠井:すごく楽しいですね!「ホラー×ラブ」みたいな。
頓花:「ホラー×○○」にすると、いろいろ放り込めるはずなんです。怖いという感情をどう使うかというメニューを広げたい。僕から言うと、エンターテインメントの中でホラーという席が「あれっ、空いてる」みたいな感じだったんです。「ここ、俺のもの!」という気持ち。
もちろん、ホラー界の先人の素晴らしさを否定することは全くないんですが、テクノロジーを掛け合わせるというところでいうと、僕らにもアドバンテージはあるかなと思ってます。
笠井:ぜひ、何か一緒にイベントをつくらせてください! 今日はとても勉強になりました。ありがとうございました。

頓花 聖太郎
株式会社闇 アートディレクター
1981年 兵庫県生まれ。元々はグラフィックデザイナー。 2011年 関西の制作会社 STARRYWORKSにアートディレクターとして入社。 大好きなホラーを仕事にすべく2015年、株式会社闇を設立。

笠井 真里子
株式会社電通 電通ライブ
2004年4月 電通入社。メディア局、プロモーション局を経て、現在のイベント&スペース・デザイン局に配属。リアル/バーチャルどちらの世界でも、共感を生み出す空間づくりを目指している。
音楽とは空間と時間をつくること:渋谷慶一郎(前編)
- July / 31 / 2017
空間に、どう音楽を存在させるか
藤田:日頃プランニングの基点をいろいろ探る中で、音楽というものをいま一度整理して、自分の蓄えにできたらと思っています。今日はクリエーションをするときの発想の源泉をお伺いしていきます。
イベントの企画では、照明と音は予算が切られがちなのですが、音はものすごく大事だと思います。人間は音から情報を得る部分が多いじゃないですか、もしかしたら視覚より多いかもしれない。
渋谷:どういう音や音響がいいかということは、結局言い切れないと思う。僕が最近、衝撃を受けたのはドーバーストリートマーケット。館内放送で音楽をかけるのをやめてiPhoneを差したラジカセみたいなコンポをぼこぼこ置いて、音楽を鳴らしているんですよ。館内を一つの音楽で統一するのをやめた。
※ドーバーストリートマーケットギンザ:ファッションデザイナー川久保玲氏がディレクションするコンセプトストア。
これは商空間の場合、どうせ大したスピーカーを入れられないのなら、決してハイファイの音ではないけれど、サテライト的、同時多発的に音を鳴らす方が現代的なリアリティーがあるということだと思うんです。それはディレクターの川久保玲さんの明確な方向性というか同時代性に対する感覚なのかもしれないですけど、多分20年後の究極にシンプルなセッティングがこれなんだろという、未来から今を見た視点なのかもしれないと思ったりもします。
僕は美術やダンス、ファッションともいろいろコラボレーションするけれど、究極的には彼らは「音楽なんてどうでもいい」と思っていますよ(笑)。どうでもいい、というのは自分のクリエーションに比べてという意味ね。逆に音楽が大事にしてもらえるのは、コンサートとかオペラのような音楽中心のイベントだけです。美術家にとって大事なのは美術で、自分の作品。視覚が重要で音なんかなくてもいいんです。
でも、なくてもいいものを、なきゃいけないものにするとしたら、どういう方法があるかを考えるところから、僕のコラボレーションが始まる。これは今思いついていない、音と何かの関係をつくり出すということです。ですから、ことさら音の優位性とか、どんなときだって音楽は大事だなどと言う気はない。いっそ音はなしにしましょうとか、音をイメージさせるスピーカーだけ置きましょうとか、そういうこともあります。
藤田:なるほど。面白いなあ。そういうつき合い方もありますよね。例えば高音質にしたとしても、お客さんも実際はほとんど分からないですし。
渋谷:でも、圧倒的に質がいいのは分かりますよ。どんな素人でも、未経験の人でも、ギャルでも老人でも、誰でも分かりますよ、圧倒的な音の良さは。でも圧倒的じゃないと分からないでしょうね。
「リアリティー」と「スピーカーのリアリティー」は、使い分けて考える
藤田:渋谷でやった時のボーカロイド・オペラ「THE END」に行かせてもらいました。ノイズミュージックも取り入れているのに、全然耳が痛くならないですね。
渋谷:サウンドシステムは、予算にすごく左右される。「THE END」の場合はオペラだから、音楽がもちろん一番大事です。渋谷のBunkamuraでやったときのPA機材は、横浜アリーナでロックのコンサートをやるときと同じくらいの規模のものを入れました。アリーナでコンサートやるのと同じ物量を入れてやるのは、アリーナみたいな音にしたいからじゃなくて、余裕を持って鳴らさないと特に電子音楽は耳が痛いんです。金切り声みたいにならないように、ぎりぎり余裕を持って音を出すには、100台以上スピーカーを持ち込んで総量8トンになりました。でも、それが必要なのです。




逆に、最近だと年末に青山のスパイラルホールで比較的規模の大きなピアノソロのコンサートをやる前に、本当のアンプラグドを小さいホールで2日間だけやってみた。一晩100人と人数がすごく少ないから、告知もしなかったんだけど一晩でチケットが売り切れてほとんどの人は体験できなかったんだけど(笑)。音がいいのは当然で、スピーカーも使わず固体振動というか、ピアノを弾いてそのモノが実際にたたかれて揺れているのを同じ空間で体験するのはすごくぜいたくでした。で、スピーカーを使って楽器がつくる空気振動に近づける、もしくはそれとは違うディレクションを示すのはハードルが高いのですけど、それにトライしたのが年末のスパイラルホールのピアノソロでした。状況によってはっきり使い分けていますね。

2015年12月26日 ピアノソロのコンサート
自分の作品をやるときは、完全に満足いくセッティングじゃないと嫌だけど、例えばクラブイベントなんかの場合はスピーカーを持ち込むのは不可能だし、じゃあやらなければいいかというと発見もあるし、やりたいじゃないですか(笑)。だから、ほとんどコンピューターからマーシャルのギターアンプに突っ込んで鳴らしているようなチューニングしたりしてます。映像も薄っ茶けたプロジェクションは嫌だからストロボの点滅だけとか。ピアノだったらすごく新しいPAの仕方を試すかアンプラグドでやるか。そんなふうに使い分けてます。
藤田:空間の広さ、例えば教会みたいなところでやるのと、ライブハウスでやるのとは違うじゃないですか。シチュエーションによる部分ではどうですか。
渋谷:音楽というのは空間と時間をつくることだから、まず場所ありき。場所に最適化するようにしますね。例えばいいPAの人はすごく照明を気にします。PAのエンジニアと打ち合わせして、入ってくるなり最初に照明をチェックする人というのは、いいPAエンジニアです。スピーカーがどうとか、電源がどうとかずっと言っている人は、大体だめなPAエンジニアですね(笑)。聞こえ方は環境にすごく左右されるというのが分かっているかどうかなんですけど。
昔、クラシックのコンサートホールで完全にアンプラグドでやったときに、真っ暗にしてみた。なかなか完全に暗くならないから、スポットライトも消して譜面灯だけで、もう本当にぎりぎり譜面が僕も見えるか見えないかくらい。そうしたらたらお客さんのアンケートで「スピーカー何台使っているんですか? どういう立体音響なんですか?」とか書いてる人がたくさんいたんです(笑)。何も通してなくても、真っ暗で視覚を奪われて音に集中すれば、勝手に音が立ち上がっているように聞こえたりもする。
藤田:引き算ですね。目が不自由な方が聴覚が鋭くなったりすることも、あるそうですしね。
渋谷:そう、あると思います。僕はまさに、視力はすごく弱くて、コンタクト外すと何も見えないのです。ベッドからトイレまでも行けない(笑)。でも、朝起きてメガネをかけるまでの何も見えない時間、耳だけというか感覚だけみたいな空白の時間というのは、僕にとってすごく大事で、レーシック手術しようかなと思うんだけれど、あの時間がもったいなくてできない(笑)。

2014年 supervision
「場所」のディレクションを、アーティスティックディレクターに任せたら?
渋谷:空間と音ということでいうと、日本で気になるのは劇場のディレクションがはっきりしないことです。「こういうことをやりたいんだ」という主張、コンセプトをはっきり持っている場所が少ない。それは僕から見ると心細いというか、もったいなく見えます。2020東京オリンピックに向けて、ハコモノがどんどんできるじゃないですか。今のやり方でいくと無駄なものが大量にできるということになりますよね。それぞれの場所でアーティスティックディレクターを明確に決めて、責任持ってやらせるべきです。
アーティストのプロデューサーって、日本の場合は名前貸しみたいなプロデュースが多いけど、プロデュースの半分くらいは予算の管理というか対費用効果ですよね。例えば、僕がこの前やった「Digitally Show」という「MEDIA AMBITION TOKYO」のオープニングライブイベントの場合、出演者のギャラを含めた予算を預かった上でコンテンツを決めています。何人にしてくれとも言われてなくて、「予算これだけです。ギャラも配分してください」と言われて、予算内でどれだけクオリティー高いものを見せらるかということです。こういうことができないアーティストはだめだということは全くないんだけど、任せて面白いことをできるアーティストにはやらせた方がいいと思います。
※MEDIA AMBITION TOKYO (MAT) :最先端のテクノロジーカルチャーを東京から世界へ発信することをテーマに、2013年から六本木ヒルズをはじめとした会場で実験的な都市実装の試みを行っている。
なぜかというと、そうじゃないやり方は、日本の場合あまり成功を期待できないんです。劇場のキャラクターがそんなに強くないし、KAAT(神奈川芸術劇場)とかYCAM(山口情報芸術センター)とか幾つか方向性が明確なところはあるけど、この劇場ってこういうカラーだよねという個性を感じさせるところは本当に少ない。
藤田:確かに海外には多いですね。
渋谷:僕はパリでは、シャトレ座というところをレジデンスにしているけれど、彼らは新しいものも古典的なものも、オペラもミュージカルも全部やる。現代においてクオリティー高いものをやるんだという明確なビジョンがある。劇場がクリエーションのリアルな現場であり、文化のコアになっている。劇場に実際に人が集まって、遅くまでわいわい、かんかんがくがく議論してつくっていくという経験のプロセスがある。それはネットが進化しても、唯一絶対なくならない「場の価値」だとは思います。こういうと保守的に聞こえるかもしれないけど。
藤田:クリエーティブは、効率化なんか絶対できないですからね。
渋谷:できない。日本の場合は誰がこれを考えて実行しているのかをもっと明確にしないと何も変わらないでしょうね。劇場の芸術監督といっても実際どこまでの権限があるのかあまり見えない。2~3年の契約でアーティストを決めちゃって、予算も大まかに任せてプログラム組ませるということをやっていかないと個性のない場所ばかりがどんどんできて、日本の文化状況ももっとつまらないことになる気がしています。

2014年 Perfect Privacy

渋谷 慶一郎
作曲家/アーティスト
1973年生まれ。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベルATAKを設立、国内外の先鋭的な電子音楽作品をリリースする。代表作に 「ATAK000+」「ATAK010 filmachine phonics」など。09年、初のピアノソロ・アルバム「ATAK015 for maria」を発表。2010年には「アワーミュージック 相対性理論 + 渋谷慶一郎」を発表。 以後、映画「死なない子供 荒川修作」「セイジ 陸の魚」「はじまりの記憶 杉本博司」「劇場版 SPEC~天~」、TBSドラマ「SPEC」など数多くの映像作品で音楽を担当。コンサートのプロデュースや、初音ミク主演による世界初の映像とコンピューター音響による人間不在のボーカロイド・オペラ「THE END」を制作、発表。パリ・シャトレ座や、オランダ・ホランドフェスティバルでの公演も話題となった。 最近ではJWAVEの新番組「AVALON」のサウンドプロデュースを手掛け、ヘビーローテーションされているテーマ曲が大きな話題となった。この5月にはパリでオペラ座のダンサー、ジャレミーベランガールらとのコラボレーションによる新作公演「Parade for The End of The World」が控えている。

藤田 卓也
株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 プランナー(2016年当時)
2003年4月電通入社。入社以来、イベント・スペース関連部署に所属。 イベント・スペース領域に加え、マーケティング、クリエーティブ、プロモーションなど領域にとらわれないプランニングを実践。
デジタルコミュニケーションで、人類を前進させる:杉山知之(前編)
- August / 08 / 2017
人類がデジタルでつながっているという、情報の「総量」が大事
金子:僕はデジタルハリウッド大学院を2期生として10年以上前に修了しました。通っていたころはプロダクションでプランナーをやっていましたが、修了してすぐ電通の社員になりました。デジタルハリウッドの教育は、10年前と何が大きく変わりましたか?
杉山:結局、人類がどのぐらいデジタルでつながっているかという総量が大事で、10年前はスマホもなかったでしょ。iPhoneが出たのが2007年なんです。
僕の感覚ではスマホは、パソコンで電話もできるという感じ。電話でメールもできるというのと、パソコンに電話機能がつくという感覚とでは、ビジネスの文脈が完全に変わった。だからこそスマホは、値段が高いにもかかわらず、先進国だけじゃなくて世界中に爆発的に広がっていったわけですね。全人類がネットにつながるという状況がとても加速しました。
若い人は、基本的に人類みんなつながっているという前提でビジネスを考えられる。アプリでも何でも、ネットの市場に出した瞬間に、世界中で売れる可能性がある。
僕が今相手にしている18歳くらいの学生は、物心ついたときにはスマホがあった。そうなるとSNSみたいなものが日常というか、ない世界は考えられないですよね。いつでも友達とつながっているし、つながり合っているぞというのをお互いに確認していないと関係が危ういという問題が起きるわけです。LINEで送ったのに返ってこないと「嫌なやつだ」とすぐなってしまったり。
金子:ネット内での生活のルールというか、お作法が変わってしまっている。むしろ、ネットのルールそのものが、リアルな友達関係の、リアルなお作法になってきたという感じがしますね。
「デジタルコンテンツづくりは全産業の発展に波及する」ことをたたき込む!
金子:学校に入ってきて最初に教えることに変化はありますか。
杉山:10年前はまだ、コンテンツ産業そのものを僕自身でプロモーションしているところがあって、まず「コンテンツ産業とは何ですか?」というところから始めました。放送、新聞、出版、音楽、ゲーム、モバイルと、みんな縦割りの業界になっていた。それがデジタルによって横につながってしまうので、昔の言葉ですけれどもワンソースマルチユースですね、一個原作があったら全てに展開できる。コンテンツ産業ではIP(知的財産)をいかに上手に使っていくか、映画化権もあれば、ゲーム化権、小説化権もあるわけですから。そんな始まりでした。
電通がやっている仕事でもありますけれど、コンテンツ産業はそういうダイナミックな産業なんだなということをまず世間にも学生にも、分かってもらう必要がありました。その中で、自分の得意をどこにつくるんだという教育が重要だと。
コンテンツ産業の持つ、要するに人の心を動かす技術というか、その総合プロデュースは、今や全産業界で必要。大学院生たちは次々と、ファッションテクノロジー分野、デジタルヘルス分野、または金融へ行ってフィンテックの分野とか、学んだ後の応用範囲をどんどん広げている現実があります。どの業界もビジュアライゼーションの知識や技術は核になっているわけです。そういうことを最初に徹底的にたたき込みます。
金子:本当に、新分野も含めて、全産業への影響になってきちゃいましたね。
杉山:18歳なので、ゲームが好きで来たとか、アニメが好きで来たという感じの学生も多いわけです。高校の先生や保護者から、「ゲームづくりをやりたいというけど、そんなことで食っていけるのか」とか言われながら入学して、でもここに来たら僕が、「なんなら全部の産業、どこにも行けるぜ」という話を最初するわけです。
最近、中央教育審議会から、専門職大学をつくりなさいという答申が出ましたが、日本の大学のカリキュラムが、ビジネス界に役に立たないようなことばかり教えているという判断が背景にあるように感じます。大学生でも職業観みたいなものを持てないまま卒業してフリーターになっちゃう子も実際多いので、専門職大学という形で、職業に通じる学士号を出そうということですよね。
デジタルハリウッド大学は、すでに専門職大学のようだと言われます。たしかにCGアニメーターやウェブデザイナーとして巣立つ学生も多いですが、僕の感覚でいえば普通の4年制大学の基礎教養科目みたいなものだと思っているのです。デジタルで自分が言いたいことを表現するのは、日本語の論文がきちんと書けるのと似たようなもの。22世紀に向けた教養学部と言ってしまってもいいぐらいの感覚です。たまたま強くそういう人材を求めているのが、現状ではゲーム産業であったり、ICTを基盤としている産業だというだけの話です。


杉山:入学して最初に、実習でデジタルツールの使い方をバババッと覚えて、何かつくろうというときに初めて、「物語を語らなきゃいけない」という問題にぶつかる。そのときに18歳の子の頭の中に、どれほどの数の物語があるかというと引き出しがない。この引き出しって何だろう、それが教養というものだよ、ということを理解してもらって、2年生以降には宗教、哲学、歴史などの教養科目をたくさん置いています。
例えば日本の近代史に詳しい先生であれば、一番面白いところだけ8回やってくださいと。それで面白いと思えば、今はネットに行けばいくらでも学べるし、自分で吸収できる。
金子:アクティブラーニング手法で、さらに火をつけるんですね。
杉山:デジタルハリウッドはデジタルツールのオンライン教育を10年以上やっているので、教材がかなり充実しているんですよ。例えばフォトショップを習いますとか、イラストレーターを習います的なやつですね。それは全部オンラインの教材として基礎から応用までそろえているので、それを院生と大学生には全て無料で開放しました。
金子:僕のころはなかった!
杉山:すみません(笑)。だから、先生が言ったことが分からなければ、家へ戻って、全部それを見直すとか、やる気がある子は2週間で全部やっちゃうとか。「フリップラーニング」(反転学習)ですね。家で勉強して、学校は議論の場にしたい。学校は、リアルな場所に通う意味を持たせなければならないのです。
論理的思考を構築できれば、起業家は目指せる
金子:最近は「G’s ACADEMY」(※)でプログラミング教育を始めてみたり、デジタルハリウッドの変化のキャッチアップへの源泉は何なんでしょうか。
※G’s ACADEMY:「セカイを変えるGEEKになろう。」をコンセプトに、デジタルハリウッドが2015年に創設した、エンジニアを育成するためのプログラミング専門のスクール。


杉山:僕たちの学校というのは、卒業したんだけど関係が切れない。むしろその境をうやむやにしているんです。卒業しても関わりたければ、何にでも関われる。
金子:確かに僕も、関係がうやむやです(笑)。
杉山:この人は何の立場でここに出入りしているのかなとあまり問わない。何年か前に修了した人らしいよ、ぐらいで大丈夫(笑)。そうすると入りやすいから、「今こんなことをやっています」と教えてくれたり「こんなことを一緒にやりませんか」と言ってくれる。「僕、アイデアがあるけど場所がないので、場所を貸してくれませんか」と言ってくる人もいます(笑)。
とにかく出入りしやすくしておくというのが、秘訣のような気がしますね。トレンディーな話題の研究会、外のいろんな企業の方が普通に出入りする場です。そういうワイガヤの状態から、いろんな人が知り合って、スタートアップのヒントにどんどんなっていく。
金子:その関係で出資を受けたり、資金調達が成り立っちゃうような事業化を考えている学生もいるわけですね。
杉山:そうですね。いわゆるインキュベーションとか、ファンドの事業をやっていらっしゃる会社がたくさんありますよね。そういう方がここに来てくれるので、教わるだけじゃなくて会社をつくるのも手伝ってくれるし、何なら資本金を入れてくれる人まで現れると思ったら、当然ながら活気づきますよね。シードアクセラレーションというのかな。
金子:ベースとして在校生や卒業生の多くが「起業しよう」という目標を持つように、教育として何をたたき込んでいるんですか。今、企業で人を育てる立場の人は、ぜひともアントレプレナーシップを持っていてほしいと願いながら人を育てていると思います。
杉山:そこを分かってもらいたいので、半年しかうちで学ばない人にも、僕が必ず直接授業をやっているんです。「デジタルコミュニケーション概論」という4時間の授業があって、いかにデジタルコミュニケーションによって全産業が革新するかという話をしているんですね。もちろん事例も見せながら。出席できなかった人も、必ずビデオで見なきゃいけないことになっています。
金子:僕も杉山学長のお話を聞きました。また必修科目の事業家の先生方が、各分野で濃いんですよね。「やばいぞ、これは」と何か電気のようなものが走って(笑)、あとは必死で勉強するみたいな(笑)。
杉山:僕は少しは研究者なので、単純な未来予測は結構できるわけです。いつかはこうなるだろう的な話ですが。でも学校は、「いつそれを教えるべきか」という問題もあるんですよ。あまり先過ぎると、教える人もいなければ、教えたところでどこにも理解されなくて就職できない。ちょうどいい頃合いというのがあると思ってます。

杉山 知之
デジタルハリウッド大学 学長/工学博士
1954年東京都生まれ。87年からMITメディアラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年 日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月 デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、学長を務めている。 2011年9月、上海音楽学院(中国)との合作学部「デジタルメディア芸術学院」を設立、同学院の学院長に就任。福岡コンテンツ産業振興会議会長、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員を務め、また「新日本様式」協議会、CG-ARTS協会、デジタルコンテンツ協会など多くの委員を歴任。99年度デジタルメディア協会AMDアワード・功労賞受賞。 著書に「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」(祥伝社)、「クリエイター・スピリットとは何か?」(ちくまプリマー新書)他。

金子 正明
株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局(2016年当時)
デジタルハリウッド大学大学院修了。2006年6月電通入社。新聞局で新領域案件に従事。 プロモーション事業局で人材育成を経験。イベント&スペース・デザイン局でエクスペリエンス・テクノロジー部のソリューション検討メンバー。
光の特性を使い切るデザイン:岡安泉(後編)
- August / 15 / 2017
光の特性をつかみ、それを適切にデザインすること
藤田:LEDの新しい使い方については、何を考えていらっしゃいますか?。
岡安:見え方でしょうね。LEDが出てきたときの、ネガティブ側の印象というのは、光が冷たいとか汚いとか、かなりろくでもない物言いをされていた。だけど、当時は実際そうだったんです。
藤田:汚いというのは、どういう状態なんですか。
岡安:色が一色になりきらない。白だけど、ちょっとピンクっぽい白だったりして。
たまたま2010年に、東芝がヨーロッパにLEDの市場をつくりたいという話で、建築家の谷尻誠さんにミラノサローネに誘われたのですが、そのときにつくったのが、煙を流して、煙の裏側にLEDを入れて、LEDで煙の色を変えるということ。フルカラーを再現できるのがLEDのアドバンテージなので、そこをちゃんと見せようと思った。
その上で煙という流体をフィルターにすれば、色は混じり合うし、光の明るさも混じり合うので、LEDのバラつきは分からなくなる。その状況と鑑賞するための場をちゃんとつくれば十分感動できるものになると思った。つまり、LEDと人間の距離感をどう縮めるということをやった。そういう実験を今もやり続けているという感じです。

2010
Toshiba Milano Salone “Lucèste”
サポーズデザインオフィス
藤田:ピンチをチャンスに変えるというか、すごく面白いですね。流体といえば、2011年の東芝の水の作品もそうですよね。
岡安:そうですね。
建築家の田根剛さんとやったんですが、LEDの特徴の一つに高速応答性があって、信号を送るとすぐそれに反応する。それまでの光源はオン・オフとか調光とかすると、寿命にダイレクトに影響があったけど、LEDにはそれがない。その価値を魅力に変えたくて、ただ筋状に滝みたいに落ちている水に高速点滅するLEDの光を当てると、すごく小さな火花が空中に舞っているように見える。火花が明滅しているような見え方になるんです。

2011
Toshiba Milano Salone “Luce Tempo Luogo”
DORELL.GHOTMEH.TANE / ARCHITECTS
©Daici Ano
光は「ポータブルなもの」になり得るか?
藤田:次に狙っている方法論はありますか。
岡安:今、大きく目標に置いているのは、ポータブルなもの。例えば歴史をずっと遡って、百数十年前まで遡ると、火を使っていた時代までいくじゃないですか。そのころは、例えばろうそく1本だとしたら、それを中心に20センチ四方ぐらいで、せいぜい20ルクスの明るさしかとれないんです。それが現代の技術をもってすると、例えば六畳間に60ワットの電球1個あれば、くまなく同等の明るさがとれる。
想像ですが、白熱電球が生まれたときに、電球を前提に生活を変えていくというデザインの流れの中で、電球にふさわしい器具の形やいろんなものが決まっていったのではないかと思っています。その上で白熱電球の特徴を生かして、ダウンライトという形状ができたり、スポットライトみたいなものができたり。明かりに火を使っているころは、常に体のそばにあって火と人間が1対1で動いていますよね、空間に1個じゃなくて。
白熱電球が使えるようになってハイパワーなものができて、遠くから照らしても十分明るさがとれるから手元にある必要ないし、それ自身は熱いものだし感電もするから、白熱電球の特性を生かすという意味で照明器具が天井に向かっていったんだと思う。でもLEDはもともと弱電で、直流で動く半導体なので、感電の心配もないし発熱も小さくなっている。
そのようにエンジニアリングが進化したのだから、光がポータブルなものになってもいいんじゃないかと。みんなのポケットにはケータイもあるし、ケータイが光源になったって構わないというふうに考えていくと、光のポータブル化で次の豊かな何かがデザインできないかなと思っています。
それとは別に個人的な興味としては、流体にも相変わらず止まらない興味があるんですが、物の解像度にすごく興味があって。現象の解像度が変わるという行為で、人間の原初的な感情を揺さぶる何かをつくりたいなと、ずっと考えています。
今、春日大社の国宝館の常設で、インスタレーションをやらせてもらえることになっていて、10月1日から公開です。常設なので期間限定のいろいろな試みもやっていきたいと思っています。
テクノロジーを科学者に任せていると、生活の豊かさにはならない
藤田:世界的にテクノロジーとうまく付き合おうという機運がすごく高いですが、岡安さんはテクノロジーとどう向き合っていますか。
岡安:テクノロジーの活用方法を技術者とか開発者だけに任せておくと、人間をコントロールするような世界観に行きがちで、豊かさとリンクしない場合が往々にしてあると思うんです。一歩先のライフスタイルみたいなものをちゃんとデザインしておいた中にはまるテクノロジーじゃないと、生活が苦しいものになってしまうような気がします。
朝トイレで用を足すことによって健康状態が分かるといったときに、わざわざ健康チェックのためにトイレに行かなきゃいけないみたいなことが義務化するとか、人間を支配するような動きになりかねないですよね。だから、常に先回りしたビジョンをちゃんと考えておかなきゃいけないということだと思うんです。いったんテクノロジーが関係ないところで、究極気持ちいい暮らしとか、究極気持ちいいピクニックの仕方とかを常に考えて、そこにテクノロジーをどう当てはめるかというふうに考えていかないと、結局どちらもほどほどのものになっちゃう。
普段の仕事でもそうですが、クライアントからのオファーありきで物事を考え始めると、その範疇でのぎりぎりのものにしかならない。でも日常のいろんな行為への究極アイデアを僕なりに考えておくと、あるオファーが来たときに、それにかぶせることができる。
視覚以外の、「五感」の二つ目は必ず用意しておく
藤田:視覚は人間の体感に強く影響を与えるけど、照明で視覚以外のところにアプローチする、例えばダイレクトに触覚にアプローチするわけではないけど、あたかも触ったような感じになるとか、他の聴覚的な何かとか、そこらへんで目がある方法論はありますか。
岡安:難しいなあ。ただ、少なくとも僕がミラノでやるようなインスタレーションとか、今回の春日大社の作品でもそうですけれど、五感のうちの二つ目は必ず何か見つけておかないといけないというのが常にありますね。特にインスタレーションの場合は、視覚だけというのはだめで、五感のうちの二つ目を必ずうまく組み込んでおかないと、感動にまではたどり着けない。
二つ目が何になるかというのはすごく重要で、建築家の谷尻誠さんとやったときだと、前室の床に段ボールのチップを敷ことで、足から感じる感覚をまず変えちゃう、ということを谷尻さんがデザインしました。その空間に入る前の心の準備みたいなことかもしれないんですが、五感のうちの視覚は当然僕がやるとして、その次の第二感、第三感をちゃんと意識してコントロールするというのをやらないとうまくいかないですね。毎回違うんですけどね。何をターゲットにするかというのは。

2010
Toshiba Milano Salone “Lucèste”
サポーズデザインオフィス
岡安:そこで見えているものが美しいプラス、つい考えてしまうという、頭を使いたくなってしまうような状況をちゃんと用意しておくと、五感のうちの触覚だとか味覚はコントロールしていなくても、十分に二つ目の感覚を揺さぶるものになるんじゃないかなとも思っていて、春日大社で今やっている作品に関して言うと、「信仰の場」として、自然に考えたくなっちゃうような状況を作品で用意している。考えるための誘導を、見た目の次に用意しているという感じです。
藤田:僕がプランニングで、どういうものに出合ってもらうかをデザインするときも、それがモチベーションをデザインするというところまで落ちていないと、刹那的というか消え物的になってしまう。考えさせるデザインという発想は、目ウロコです。岡安さんにも、難産だった仕事なんてありますか。

岡安:結局一番難産なのは、ただ普通の照明計画をして終わったものですね。思い悩んで苦しんで、苦しんだけど何もできませんでしたというのは、ただの照明計画になってしまうんですよね。
僕の仕事も多分半数ぐらいは実はそうなってしまっていて、何か価値のある提案を提供したいし、こういうことをやりたいと思ってもいたけど、予算がこれしかないとかの条件でできないとか、施主さんを説得しきれなくてグレードが下がってしまったりします。何でもないものをつくるということが一番苦しくて、出来上がりを見るのもつらい。
藤田:深いなあ。他の人の仕事で、「これはやられた」と感じたものってありますか。
岡安:僕は、デザインに興味があって始めたんじゃないので、あまり人の情報を知らない。多分、経験と知識のない中でやると、人と違うものができるということなんじゃないかな。下手に知らないのが、いい側に働いている可能性はありますね。
藤田:距離感は大事ですよね。普段の生活の中で、一番興味があることは何ですか。
岡安:何だろう。やっぱり光かな。光だったり、水だったり…。趣味ないんですよ、僕。普段何やっているかというと、隅田川の光の反射を見ていたりとか。なんかだめな人間なんです(笑)。何となく、いつも光を見ていたりします。雨の日の街灯をずっと見るとか。
藤田:まさに岡安さんにとって照明デザインは天職ですね! 今日は本当にありがとうございました。

岡安 泉
岡安泉照明設計事務所 照明デザイナー
1972年神奈川県生まれ。1994年日本大学農獣医学部卒業後、生物系特定産業技術研究推進機構、照明器具メーカーを経て、2005年岡安泉照明設計事務所を設立。 建築空間・商業空間の照明計画、照明器具のデザイン、インスタレーションなど光にまつわるすべてのデザインを国内外問わずおこなっている。 これまで青木淳「白い教会」、伊東豊雄「generative order-伊東 豊雄展」、隈研吾「浅草文化観光センター」、山本理顕「ナミックステクノコア」などの照明計画を手掛けるほかミラノサローネなどの展示会において多くのインスタレーションを手掛けている。

藤田 卓也
株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 プランナー(2016年当時)
2003年4月電通入社。入社以来、イベント・スペース関連部署に所属。 イベント・スペース領域に加え、マーケティング、クリエーティブ、プロモーションなど領域にとらわれないプランニングを実践。

頓花 聖太郎
株式会社闇 アートディレクター
1981年 兵庫県生まれ。元々はグラフィックデザイナー。 2011年 関西の制作会社 STARRYWORKSにアートディレクターとして入社。 大好きなホラーを仕事にすべく2015年、株式会社闇を設立。

笠井 真里子
株式会社電通 電通ライブ
2004年4月 電通入社。メディア局、プロモーション局を経て、現在のイベント&スペース・デザイン局に配属。リアル/バーチャルどちらの世界でも、共感を生み出す空間づくりを目指している。
ホラーで、世界の感情を揺さぶる:頓花聖太郎(後編)
- August / 15 / 2017
新しい「ホラーの概念」を、テクノロジーで拡張していく
笠井:ホラーってある種ワンパターンになりがちで、お化け屋敷もですけど、マンネリをどう打破していくか、気をつけていることはありますか。
頓花:それ、悩むんですよ。もちろんいろんな工夫がありますが、ホラーの文脈だけじゃなくて、できるだけホラー以外のエンターテインメントで、「これは見方を変えたらホラーになるよね」とかそういうところで、別の分野の概念から発想を輸入してこようとはしているつもりです。次にやりたいなと思うのは、漫画表現でホラーっぽいコンテンツをつくれないかなとか、ちょっとずつ表現を外側に広げています。
笠井:テクノロジーの変化、たとえばVRなどによって、ホラーは今後どう変わっていくと思いますか。
頓花:僕が基本的に思うホラーの楽しさって、一人で体験して終わるパターンより、みんなでギャーギャー言いながらというのが原体験になっています。スマホとか今のVRはどうしても一人の体験になりがちだと思うんですが、テクノロジーの進化で今まで共有できなかったものがぐんと広がっていくと思う。わざわざお化け屋敷へ行かないと体験できなかったものが、気軽に家で友達と一緒に、全国どこでも体験ができるようになると面白いですね。
笠井:楽しみ方が広がりますね。
頓花:ええ。僕はひとりでお化け屋敷へ行ったり、ホラー映画を見に行ったりもするんですが、やっぱりあまり面白くないんですよ。誰か隣の人にギャーギャー言いたい。あまり周りにホラー友達がいない人でも、テクノロジーがそこを解決していってくれるといいですね。それがこれからのテクノロジーの使いどころですね。
笠井:ホラーというと夏ですが、冬の仕事はどんな感じですか。
頓花:もちろん冬ホラーの分野を開拓したいなと思っていますよ! もしくは、季節を問わないホラー体験をつくっていかないと、今年来年は生き延びても、いつか会社が死ぬ(笑)。新しくホラーの概念を拡張していくようにしていかないといけないと常に思っています。
最近ニコニコ超会議で「町VRホラーカー」をつくって、それもすごい楽しかった。

町VRホラーカー
頓花:車の中でヘッドセットをつけて体験するVRなんですけれど、背中にSubPacという振動を感じるウーハーをつけているので、本当に車が走っていて、どんどん襲われてくるような感じの演出が味わえます。しかも体験を終わった人が次に体験する人を、車を揺らしたりして脅かせるアナログな仕組みもあるんです。お客さん自身が次の客を脅かすなんて、ちょっとばかばかしいけど、そのことが「一緒に盛り上げている感覚」をつくれて面白かったですね。
笠井:それはどこで体験できるんですか?
頓花:ニコニコ町会議のイベントの一環としてですね。今年の夏は、日本中を回りますよ。お化け屋敷文化には新しい進化、イノベーションがしばらく起きていないような気がしている。ホラーの見せ方にテクノロジーを使った発明が加われば、従来型の「ザ・お化け屋敷」というフォーマットじゃない形のイベントをいろいろつくれるはずです。
「怖い」という感情を楽しむ文化、ホラーの楽しみ方の普及
頓花:怖いということの、楽しみ方を普及させなきゃいけないと思っているんです。怖さって、敷居は確かにあるんですけれど、ちょっとしたお作法を覚えると誰でも楽しめる。
映画を見て、めっちゃ泣くとか、めっちゃ笑うとか感情を揺さぶられるじゃないですか。めっちゃ怖がるという一手においても、怖さほど心が動く体験ってそうそうないと思うんです。でも恐怖という感情だけは我慢しようとしちゃう、耐えることをが目標になってる。そこを楽しめるマインドにスイッチを切りかえたら、すごく感動できるはず。
怖さを乗り越えられた自分であったり、それが終わったときの安心感との感情の落差だったりを見いだせるようになってきたら、絶対誰でも楽しめる。その楽しみ方まで提供できたらいいなと思っている。例えば、楽しみ方のコツのひとつは、我慢せずに声を出すことなんですよ。
笠井:大きな声で叫ぶ。
頓花:そう、怖かったら素直にギャーッと言うと、めっちゃ楽しいんですよ。
笠井:確かに。楽しんでやろうという気持ちで参加することが大事ということですね。
頓花:嫌々行ったらひとつも楽しくない。少しでも前のめりで、どんどん声出していこうというつもりで行くと、めっちゃ楽しいです。だから僕、一人で行ってもギャーギャー叫びながらお化け屋敷を巡るんですよ(笑)。ホラーに関しては泣き叫ぶのが恥ずかしくないという、感情をぶつける文化をつくりたい。
笠井:それ、大事かもしれない。いかに叫ぶの我慢するかで、その我慢がすごいストレスなんですよね。とくに私も含めた女子には。叫んだらストレス発散にもなりますよね。
頓花:日本人って、肝試しとかもそうですけど、ビビらないというのが目的になっていたりするじゃないですか。逆ですよ。ビビるのを楽しもうよ(笑)。
笠井:「何怖がってんだよ~、おまえ」みたいなことを言われますよね、悔しい(笑)。
頓花:いま大阪でNTT西日本さんと毎日放送さんがやってる梅田お化け屋敷「ふたご霊」で協力させてもらってますが、その中の施策の一つで、どれだけビビったか、という数字が出てくるんです。実際に計測しているのは、どれだけ楽しんだかということで、NTT西日本さんがつくった複雑な計算のもとで数字として出している。ギャーギャー言って楽しんだ人ほど高得点が出る。そういう指標を持って楽しめるようになってもいいのかなと思ったりします。

ふたご霊
ホラーの世界観のバリエーションを、多彩にアートディレクションする
笠井:ホテルでやられた企画もありましたね。
頓花:USJに隣接している公式ホテル「ホテルユニバーサルポート」でハロウィーンシーズンに行いました。ホテルの一室だけ、期間はそんなに長くなくて、ウェブプロモーション的なことは一切しなかったのですが、昨年結構予約が埋まったと聞いています。

ホテルユニバーサルポート企画
笠井:鏡に血がバーッとか、そういうことですよね。
頓花:あまり詳細を言うと面白くないけど、映像で人がガーンと出てきたりするんです(笑)。宿泊客は夜中2時ぐらいまで脅されます。壁にディスプレーを仕込んだ鏡を埋め込んでいるんですけれど、そこにさまざまな演出が起きるのですね。
笠井:お客さんは、若いカップルなどですか。
頓花:基本的にR15にしていたので、15歳未満は泊まれない部屋です。苦情が出ても困るので。そこらへんに血やら手首やら、散らばっているので(笑)。結構オールジャンル層でアンケートの評価もよかったみたいです。
笠井:寝れないでんすね、2時まで(笑)。
頓花:そう、夜中2時まで映像が出ますから(笑)。寝たら損ですよ。最大4人まで泊まれる部屋です。
笠井:じゃ結構ワイワイみんなで行けますね。
頓花:ええ。USJでハロウィーンを楽しんで、夜はホテルで謎解きを楽しみつつ泊まれるみたいな感じですね。
笠井:ちなみに、ホラー以外に好きなものはなんですか。
頓花:ホラーの仕事と隣接するんですけれど、テーマパークが好きですね、ジェットコースターとか。遊園地自体のアートディレクションに興味があって、ディズニーシーとか、岩の苔までこだわっていたりするじゃないですか。そんなのを眺めるのが好きで、岩だけを見てずっといられる(笑)。
今はホラーを扱うデメリットとして、皆さんご予算があまりないケースが多く、どこで妥協するのか、どこまでこだわるのかという戦いには毎度なってしまう。あと、スケジュールもタイトで、夏までにリリースしないといけないとか。予算が増えれば、もっともっとこだわり抜きたいですね。
笠井:家族みんなでホラーを楽しんでもらうブランディングが必要ですね。
いつかホラー×テクノロジーの大展覧会をつくりたい
頓花:ホラーイベントとなると、すぐお化け屋敷に集約しようとするんですが、そうじゃない形がいろいろある。普段の生活の延長線にホラーを注ぎ込んだら、すごく面白くなると思う。
笠井:新幹線で北海道から九州までホラートレインが走るとか、「はとバス」などでホラーツアーがあってもいいですし。面白そうですよね。みんなで叫べるし(笑)。
頓花:ちゃんとしたイベントとして成立できるところまでテクノロジーを使うと、繰り返し性やインタラクティブ性が強いこともできる。実はお化け屋敷も、入場者は女性の方が多いんですよ。USJのホラーイベントに行ったらびっくりします、女子ばっかりなので。女性は本気で叫べるというのが、楽しさや満足度につながっていると思う。
面白いテクノロジーもいっぱいあるんですよ。最近気に入っているのは先ほども挙げたSubPac。背中で感じる触感性のあるウーハーなんですけれど。重低音が体にズンズン響くのをうまく利用して、背中をそれこそ人がドーンと押しているみたいに感じるとか。
笠井:衝撃を受ける感じですか。
頓花:そうです。超でかい重低音のスピーカーを、背中に背負っているみたいなものです。それをうまく利用すると、車に乗って走りだす感じとか、心臓のドキドキ音を感じるとか、そういう感覚をつくれたりします。その他にも僕は、使えるガジェットを結構たくさん集めています。
笠井:ホラーに向くいろんな仕掛けを、アナログからデジタルまで。そういうの、ノウハウ知りたいです。やはりすごく努力しているんですね。
頓花:好きで集めてる。あと、指向性スピーカーはいいですよ。なかなか他では体験できない音の出し方ができます。
笠井:指向性スピーカーって、例えば私が歩くと音がついてくるとかですよね。
頓花:はい。超ピンポイントで狙えるようにつくれるので、耳元から誰もいないのに声がするとか。壁を狙ったら、その壁から反射で誰かがしゃべりかけてくるとか。キネクトみたいなセンサーを入れておいたら、自動的に顔を追尾するとかも可能です。
笠井:ホラープロポーズとか、ホラー結婚式の司会も面白そうですね。
頓花:いいですね、それ(笑)。ポピュラーに、そういう文化ができてほしいんです。
笠井:すごく楽しいですね!「ホラー×ラブ」みたいな。
頓花:「ホラー×○○」にすると、いろいろ放り込めるはずなんです。怖いという感情をどう使うかというメニューを広げたい。僕から言うと、エンターテインメントの中でホラーという席が「あれっ、空いてる」みたいな感じだったんです。「ここ、俺のもの!」という気持ち。
もちろん、ホラー界の先人の素晴らしさを否定することは全くないんですが、テクノロジーを掛け合わせるというところでいうと、僕らにもアドバンテージはあるかなと思ってます。
笠井:ぜひ、何か一緒にイベントをつくらせてください! 今日はとても勉強になりました。ありがとうございました。

頓花 聖太郎
株式会社闇 アートディレクター
1981年 兵庫県生まれ。元々はグラフィックデザイナー。 2011年 関西の制作会社 STARRYWORKSにアートディレクターとして入社。 大好きなホラーを仕事にすべく2015年、株式会社闇を設立。

笠井 真里子
株式会社電通 電通ライブ
2004年4月 電通入社。メディア局、プロモーション局を経て、現在のイベント&スペース・デザイン局に配属。リアル/バーチャルどちらの世界でも、共感を生み出す空間づくりを目指している。
音楽とは空間と時間をつくること:渋谷慶一郎(前編)
- July / 31 / 2017
空間に、どう音楽を存在させるか
藤田:日頃プランニングの基点をいろいろ探る中で、音楽というものをいま一度整理して、自分の蓄えにできたらと思っています。今日はクリエーションをするときの発想の源泉をお伺いしていきます。
イベントの企画では、照明と音は予算が切られがちなのですが、音はものすごく大事だと思います。人間は音から情報を得る部分が多いじゃないですか、もしかしたら視覚より多いかもしれない。
渋谷:どういう音や音響がいいかということは、結局言い切れないと思う。僕が最近、衝撃を受けたのはドーバーストリートマーケット。館内放送で音楽をかけるのをやめてiPhoneを差したラジカセみたいなコンポをぼこぼこ置いて、音楽を鳴らしているんですよ。館内を一つの音楽で統一するのをやめた。
※ドーバーストリートマーケットギンザ:ファッションデザイナー川久保玲氏がディレクションするコンセプトストア。
これは商空間の場合、どうせ大したスピーカーを入れられないのなら、決してハイファイの音ではないけれど、サテライト的、同時多発的に音を鳴らす方が現代的なリアリティーがあるということだと思うんです。それはディレクターの川久保玲さんの明確な方向性というか同時代性に対する感覚なのかもしれないですけど、多分20年後の究極にシンプルなセッティングがこれなんだろという、未来から今を見た視点なのかもしれないと思ったりもします。
僕は美術やダンス、ファッションともいろいろコラボレーションするけれど、究極的には彼らは「音楽なんてどうでもいい」と思っていますよ(笑)。どうでもいい、というのは自分のクリエーションに比べてという意味ね。逆に音楽が大事にしてもらえるのは、コンサートとかオペラのような音楽中心のイベントだけです。美術家にとって大事なのは美術で、自分の作品。視覚が重要で音なんかなくてもいいんです。
でも、なくてもいいものを、なきゃいけないものにするとしたら、どういう方法があるかを考えるところから、僕のコラボレーションが始まる。これは今思いついていない、音と何かの関係をつくり出すということです。ですから、ことさら音の優位性とか、どんなときだって音楽は大事だなどと言う気はない。いっそ音はなしにしましょうとか、音をイメージさせるスピーカーだけ置きましょうとか、そういうこともあります。
藤田:なるほど。面白いなあ。そういうつき合い方もありますよね。例えば高音質にしたとしても、お客さんも実際はほとんど分からないですし。
渋谷:でも、圧倒的に質がいいのは分かりますよ。どんな素人でも、未経験の人でも、ギャルでも老人でも、誰でも分かりますよ、圧倒的な音の良さは。でも圧倒的じゃないと分からないでしょうね。
「リアリティー」と「スピーカーのリアリティー」は、使い分けて考える
藤田:渋谷でやった時のボーカロイド・オペラ「THE END」に行かせてもらいました。ノイズミュージックも取り入れているのに、全然耳が痛くならないですね。
渋谷:サウンドシステムは、予算にすごく左右される。「THE END」の場合はオペラだから、音楽がもちろん一番大事です。渋谷のBunkamuraでやったときのPA機材は、横浜アリーナでロックのコンサートをやるときと同じくらいの規模のものを入れました。アリーナでコンサートやるのと同じ物量を入れてやるのは、アリーナみたいな音にしたいからじゃなくて、余裕を持って鳴らさないと特に電子音楽は耳が痛いんです。金切り声みたいにならないように、ぎりぎり余裕を持って音を出すには、100台以上スピーカーを持ち込んで総量8トンになりました。でも、それが必要なのです。




逆に、最近だと年末に青山のスパイラルホールで比較的規模の大きなピアノソロのコンサートをやる前に、本当のアンプラグドを小さいホールで2日間だけやってみた。一晩100人と人数がすごく少ないから、告知もしなかったんだけど一晩でチケットが売り切れてほとんどの人は体験できなかったんだけど(笑)。音がいいのは当然で、スピーカーも使わず固体振動というか、ピアノを弾いてそのモノが実際にたたかれて揺れているのを同じ空間で体験するのはすごくぜいたくでした。で、スピーカーを使って楽器がつくる空気振動に近づける、もしくはそれとは違うディレクションを示すのはハードルが高いのですけど、それにトライしたのが年末のスパイラルホールのピアノソロでした。状況によってはっきり使い分けていますね。

2015年12月26日 ピアノソロのコンサート
自分の作品をやるときは、完全に満足いくセッティングじゃないと嫌だけど、例えばクラブイベントなんかの場合はスピーカーを持ち込むのは不可能だし、じゃあやらなければいいかというと発見もあるし、やりたいじゃないですか(笑)。だから、ほとんどコンピューターからマーシャルのギターアンプに突っ込んで鳴らしているようなチューニングしたりしてます。映像も薄っ茶けたプロジェクションは嫌だからストロボの点滅だけとか。ピアノだったらすごく新しいPAの仕方を試すかアンプラグドでやるか。そんなふうに使い分けてます。
藤田:空間の広さ、例えば教会みたいなところでやるのと、ライブハウスでやるのとは違うじゃないですか。シチュエーションによる部分ではどうですか。
渋谷:音楽というのは空間と時間をつくることだから、まず場所ありき。場所に最適化するようにしますね。例えばいいPAの人はすごく照明を気にします。PAのエンジニアと打ち合わせして、入ってくるなり最初に照明をチェックする人というのは、いいPAエンジニアです。スピーカーがどうとか、電源がどうとかずっと言っている人は、大体だめなPAエンジニアですね(笑)。聞こえ方は環境にすごく左右されるというのが分かっているかどうかなんですけど。
昔、クラシックのコンサートホールで完全にアンプラグドでやったときに、真っ暗にしてみた。なかなか完全に暗くならないから、スポットライトも消して譜面灯だけで、もう本当にぎりぎり譜面が僕も見えるか見えないかくらい。そうしたらたらお客さんのアンケートで「スピーカー何台使っているんですか? どういう立体音響なんですか?」とか書いてる人がたくさんいたんです(笑)。何も通してなくても、真っ暗で視覚を奪われて音に集中すれば、勝手に音が立ち上がっているように聞こえたりもする。
藤田:引き算ですね。目が不自由な方が聴覚が鋭くなったりすることも、あるそうですしね。
渋谷:そう、あると思います。僕はまさに、視力はすごく弱くて、コンタクト外すと何も見えないのです。ベッドからトイレまでも行けない(笑)。でも、朝起きてメガネをかけるまでの何も見えない時間、耳だけというか感覚だけみたいな空白の時間というのは、僕にとってすごく大事で、レーシック手術しようかなと思うんだけれど、あの時間がもったいなくてできない(笑)。

2014年 supervision
「場所」のディレクションを、アーティスティックディレクターに任せたら?
渋谷:空間と音ということでいうと、日本で気になるのは劇場のディレクションがはっきりしないことです。「こういうことをやりたいんだ」という主張、コンセプトをはっきり持っている場所が少ない。それは僕から見ると心細いというか、もったいなく見えます。2020東京オリンピックに向けて、ハコモノがどんどんできるじゃないですか。今のやり方でいくと無駄なものが大量にできるということになりますよね。それぞれの場所でアーティスティックディレクターを明確に決めて、責任持ってやらせるべきです。
アーティストのプロデューサーって、日本の場合は名前貸しみたいなプロデュースが多いけど、プロデュースの半分くらいは予算の管理というか対費用効果ですよね。例えば、僕がこの前やった「Digitally Show」という「MEDIA AMBITION TOKYO」のオープニングライブイベントの場合、出演者のギャラを含めた予算を預かった上でコンテンツを決めています。何人にしてくれとも言われてなくて、「予算これだけです。ギャラも配分してください」と言われて、予算内でどれだけクオリティー高いものを見せらるかということです。こういうことができないアーティストはだめだということは全くないんだけど、任せて面白いことをできるアーティストにはやらせた方がいいと思います。
※MEDIA AMBITION TOKYO (MAT) :最先端のテクノロジーカルチャーを東京から世界へ発信することをテーマに、2013年から六本木ヒルズをはじめとした会場で実験的な都市実装の試みを行っている。
なぜかというと、そうじゃないやり方は、日本の場合あまり成功を期待できないんです。劇場のキャラクターがそんなに強くないし、KAAT(神奈川芸術劇場)とかYCAM(山口情報芸術センター)とか幾つか方向性が明確なところはあるけど、この劇場ってこういうカラーだよねという個性を感じさせるところは本当に少ない。
藤田:確かに海外には多いですね。
渋谷:僕はパリでは、シャトレ座というところをレジデンスにしているけれど、彼らは新しいものも古典的なものも、オペラもミュージカルも全部やる。現代においてクオリティー高いものをやるんだという明確なビジョンがある。劇場がクリエーションのリアルな現場であり、文化のコアになっている。劇場に実際に人が集まって、遅くまでわいわい、かんかんがくがく議論してつくっていくという経験のプロセスがある。それはネットが進化しても、唯一絶対なくならない「場の価値」だとは思います。こういうと保守的に聞こえるかもしれないけど。
藤田:クリエーティブは、効率化なんか絶対できないですからね。
渋谷:できない。日本の場合は誰がこれを考えて実行しているのかをもっと明確にしないと何も変わらないでしょうね。劇場の芸術監督といっても実際どこまでの権限があるのかあまり見えない。2~3年の契約でアーティストを決めちゃって、予算も大まかに任せてプログラム組ませるということをやっていかないと個性のない場所ばかりがどんどんできて、日本の文化状況ももっとつまらないことになる気がしています。

2014年 Perfect Privacy

渋谷 慶一郎
作曲家/アーティスト
1973年生まれ。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベルATAKを設立、国内外の先鋭的な電子音楽作品をリリースする。代表作に 「ATAK000+」「ATAK010 filmachine phonics」など。09年、初のピアノソロ・アルバム「ATAK015 for maria」を発表。2010年には「アワーミュージック 相対性理論 + 渋谷慶一郎」を発表。 以後、映画「死なない子供 荒川修作」「セイジ 陸の魚」「はじまりの記憶 杉本博司」「劇場版 SPEC~天~」、TBSドラマ「SPEC」など数多くの映像作品で音楽を担当。コンサートのプロデュースや、初音ミク主演による世界初の映像とコンピューター音響による人間不在のボーカロイド・オペラ「THE END」を制作、発表。パリ・シャトレ座や、オランダ・ホランドフェスティバルでの公演も話題となった。 最近ではJWAVEの新番組「AVALON」のサウンドプロデュースを手掛け、ヘビーローテーションされているテーマ曲が大きな話題となった。この5月にはパリでオペラ座のダンサー、ジャレミーベランガールらとのコラボレーションによる新作公演「Parade for The End of The World」が控えている。

藤田 卓也
株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 プランナー(2016年当時)
2003年4月電通入社。入社以来、イベント・スペース関連部署に所属。 イベント・スペース領域に加え、マーケティング、クリエーティブ、プロモーションなど領域にとらわれないプランニングを実践。
デジタルコミュニケーションで、人類を前進させる:杉山知之(前編)
- August / 08 / 2017
人類がデジタルでつながっているという、情報の「総量」が大事
金子:僕はデジタルハリウッド大学院を2期生として10年以上前に修了しました。通っていたころはプロダクションでプランナーをやっていましたが、修了してすぐ電通の社員になりました。デジタルハリウッドの教育は、10年前と何が大きく変わりましたか?
杉山:結局、人類がどのぐらいデジタルでつながっているかという総量が大事で、10年前はスマホもなかったでしょ。iPhoneが出たのが2007年なんです。
僕の感覚ではスマホは、パソコンで電話もできるという感じ。電話でメールもできるというのと、パソコンに電話機能がつくという感覚とでは、ビジネスの文脈が完全に変わった。だからこそスマホは、値段が高いにもかかわらず、先進国だけじゃなくて世界中に爆発的に広がっていったわけですね。全人類がネットにつながるという状況がとても加速しました。
若い人は、基本的に人類みんなつながっているという前提でビジネスを考えられる。アプリでも何でも、ネットの市場に出した瞬間に、世界中で売れる可能性がある。
僕が今相手にしている18歳くらいの学生は、物心ついたときにはスマホがあった。そうなるとSNSみたいなものが日常というか、ない世界は考えられないですよね。いつでも友達とつながっているし、つながり合っているぞというのをお互いに確認していないと関係が危ういという問題が起きるわけです。LINEで送ったのに返ってこないと「嫌なやつだ」とすぐなってしまったり。
金子:ネット内での生活のルールというか、お作法が変わってしまっている。むしろ、ネットのルールそのものが、リアルな友達関係の、リアルなお作法になってきたという感じがしますね。
「デジタルコンテンツづくりは全産業の発展に波及する」ことをたたき込む!
金子:学校に入ってきて最初に教えることに変化はありますか。
杉山:10年前はまだ、コンテンツ産業そのものを僕自身でプロモーションしているところがあって、まず「コンテンツ産業とは何ですか?」というところから始めました。放送、新聞、出版、音楽、ゲーム、モバイルと、みんな縦割りの業界になっていた。それがデジタルによって横につながってしまうので、昔の言葉ですけれどもワンソースマルチユースですね、一個原作があったら全てに展開できる。コンテンツ産業ではIP(知的財産)をいかに上手に使っていくか、映画化権もあれば、ゲーム化権、小説化権もあるわけですから。そんな始まりでした。
電通がやっている仕事でもありますけれど、コンテンツ産業はそういうダイナミックな産業なんだなということをまず世間にも学生にも、分かってもらう必要がありました。その中で、自分の得意をどこにつくるんだという教育が重要だと。
コンテンツ産業の持つ、要するに人の心を動かす技術というか、その総合プロデュースは、今や全産業界で必要。大学院生たちは次々と、ファッションテクノロジー分野、デジタルヘルス分野、または金融へ行ってフィンテックの分野とか、学んだ後の応用範囲をどんどん広げている現実があります。どの業界もビジュアライゼーションの知識や技術は核になっているわけです。そういうことを最初に徹底的にたたき込みます。
金子:本当に、新分野も含めて、全産業への影響になってきちゃいましたね。
杉山:18歳なので、ゲームが好きで来たとか、アニメが好きで来たという感じの学生も多いわけです。高校の先生や保護者から、「ゲームづくりをやりたいというけど、そんなことで食っていけるのか」とか言われながら入学して、でもここに来たら僕が、「なんなら全部の産業、どこにも行けるぜ」という話を最初するわけです。
最近、中央教育審議会から、専門職大学をつくりなさいという答申が出ましたが、日本の大学のカリキュラムが、ビジネス界に役に立たないようなことばかり教えているという判断が背景にあるように感じます。大学生でも職業観みたいなものを持てないまま卒業してフリーターになっちゃう子も実際多いので、専門職大学という形で、職業に通じる学士号を出そうということですよね。
デジタルハリウッド大学は、すでに専門職大学のようだと言われます。たしかにCGアニメーターやウェブデザイナーとして巣立つ学生も多いですが、僕の感覚でいえば普通の4年制大学の基礎教養科目みたいなものだと思っているのです。デジタルで自分が言いたいことを表現するのは、日本語の論文がきちんと書けるのと似たようなもの。22世紀に向けた教養学部と言ってしまってもいいぐらいの感覚です。たまたま強くそういう人材を求めているのが、現状ではゲーム産業であったり、ICTを基盤としている産業だというだけの話です。


杉山:入学して最初に、実習でデジタルツールの使い方をバババッと覚えて、何かつくろうというときに初めて、「物語を語らなきゃいけない」という問題にぶつかる。そのときに18歳の子の頭の中に、どれほどの数の物語があるかというと引き出しがない。この引き出しって何だろう、それが教養というものだよ、ということを理解してもらって、2年生以降には宗教、哲学、歴史などの教養科目をたくさん置いています。
例えば日本の近代史に詳しい先生であれば、一番面白いところだけ8回やってくださいと。それで面白いと思えば、今はネットに行けばいくらでも学べるし、自分で吸収できる。
金子:アクティブラーニング手法で、さらに火をつけるんですね。
杉山:デジタルハリウッドはデジタルツールのオンライン教育を10年以上やっているので、教材がかなり充実しているんですよ。例えばフォトショップを習いますとか、イラストレーターを習います的なやつですね。それは全部オンラインの教材として基礎から応用までそろえているので、それを院生と大学生には全て無料で開放しました。
金子:僕のころはなかった!
杉山:すみません(笑)。だから、先生が言ったことが分からなければ、家へ戻って、全部それを見直すとか、やる気がある子は2週間で全部やっちゃうとか。「フリップラーニング」(反転学習)ですね。家で勉強して、学校は議論の場にしたい。学校は、リアルな場所に通う意味を持たせなければならないのです。
論理的思考を構築できれば、起業家は目指せる
金子:最近は「G’s ACADEMY」(※)でプログラミング教育を始めてみたり、デジタルハリウッドの変化のキャッチアップへの源泉は何なんでしょうか。
※G’s ACADEMY:「セカイを変えるGEEKになろう。」をコンセプトに、デジタルハリウッドが2015年に創設した、エンジニアを育成するためのプログラミング専門のスクール。


杉山:僕たちの学校というのは、卒業したんだけど関係が切れない。むしろその境をうやむやにしているんです。卒業しても関わりたければ、何にでも関われる。
金子:確かに僕も、関係がうやむやです(笑)。
杉山:この人は何の立場でここに出入りしているのかなとあまり問わない。何年か前に修了した人らしいよ、ぐらいで大丈夫(笑)。そうすると入りやすいから、「今こんなことをやっています」と教えてくれたり「こんなことを一緒にやりませんか」と言ってくれる。「僕、アイデアがあるけど場所がないので、場所を貸してくれませんか」と言ってくる人もいます(笑)。
とにかく出入りしやすくしておくというのが、秘訣のような気がしますね。トレンディーな話題の研究会、外のいろんな企業の方が普通に出入りする場です。そういうワイガヤの状態から、いろんな人が知り合って、スタートアップのヒントにどんどんなっていく。
金子:その関係で出資を受けたり、資金調達が成り立っちゃうような事業化を考えている学生もいるわけですね。
杉山:そうですね。いわゆるインキュベーションとか、ファンドの事業をやっていらっしゃる会社がたくさんありますよね。そういう方がここに来てくれるので、教わるだけじゃなくて会社をつくるのも手伝ってくれるし、何なら資本金を入れてくれる人まで現れると思ったら、当然ながら活気づきますよね。シードアクセラレーションというのかな。
金子:ベースとして在校生や卒業生の多くが「起業しよう」という目標を持つように、教育として何をたたき込んでいるんですか。今、企業で人を育てる立場の人は、ぜひともアントレプレナーシップを持っていてほしいと願いながら人を育てていると思います。
杉山:そこを分かってもらいたいので、半年しかうちで学ばない人にも、僕が必ず直接授業をやっているんです。「デジタルコミュニケーション概論」という4時間の授業があって、いかにデジタルコミュニケーションによって全産業が革新するかという話をしているんですね。もちろん事例も見せながら。出席できなかった人も、必ずビデオで見なきゃいけないことになっています。
金子:僕も杉山学長のお話を聞きました。また必修科目の事業家の先生方が、各分野で濃いんですよね。「やばいぞ、これは」と何か電気のようなものが走って(笑)、あとは必死で勉強するみたいな(笑)。
杉山:僕は少しは研究者なので、単純な未来予測は結構できるわけです。いつかはこうなるだろう的な話ですが。でも学校は、「いつそれを教えるべきか」という問題もあるんですよ。あまり先過ぎると、教える人もいなければ、教えたところでどこにも理解されなくて就職できない。ちょうどいい頃合いというのがあると思ってます。

杉山 知之
デジタルハリウッド大学 学長/工学博士
1954年東京都生まれ。87年からMITメディアラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年 日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月 デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、学長を務めている。 2011年9月、上海音楽学院(中国)との合作学部「デジタルメディア芸術学院」を設立、同学院の学院長に就任。福岡コンテンツ産業振興会議会長、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員を務め、また「新日本様式」協議会、CG-ARTS協会、デジタルコンテンツ協会など多くの委員を歴任。99年度デジタルメディア協会AMDアワード・功労賞受賞。 著書に「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」(祥伝社)、「クリエイター・スピリットとは何か?」(ちくまプリマー新書)他。

金子 正明
株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局(2016年当時)
デジタルハリウッド大学大学院修了。2006年6月電通入社。新聞局で新領域案件に従事。 プロモーション事業局で人材育成を経験。イベント&スペース・デザイン局でエクスペリエンス・テクノロジー部のソリューション検討メンバー。
光の特性を使い切るデザイン:岡安泉(後編)
- August / 15 / 2017
光の特性をつかみ、それを適切にデザインすること
藤田:LEDの新しい使い方については、何を考えていらっしゃいますか?。
岡安:見え方でしょうね。LEDが出てきたときの、ネガティブ側の印象というのは、光が冷たいとか汚いとか、かなりろくでもない物言いをされていた。だけど、当時は実際そうだったんです。
藤田:汚いというのは、どういう状態なんですか。
岡安:色が一色になりきらない。白だけど、ちょっとピンクっぽい白だったりして。
たまたま2010年に、東芝がヨーロッパにLEDの市場をつくりたいという話で、建築家の谷尻誠さんにミラノサローネに誘われたのですが、そのときにつくったのが、煙を流して、煙の裏側にLEDを入れて、LEDで煙の色を変えるということ。フルカラーを再現できるのがLEDのアドバンテージなので、そこをちゃんと見せようと思った。
その上で煙という流体をフィルターにすれば、色は混じり合うし、光の明るさも混じり合うので、LEDのバラつきは分からなくなる。その状況と鑑賞するための場をちゃんとつくれば十分感動できるものになると思った。つまり、LEDと人間の距離感をどう縮めるということをやった。そういう実験を今もやり続けているという感じです。

2010
Toshiba Milano Salone “Lucèste”
サポーズデザインオフィス
藤田:ピンチをチャンスに変えるというか、すごく面白いですね。流体といえば、2011年の東芝の水の作品もそうですよね。
岡安:そうですね。
建築家の田根剛さんとやったんですが、LEDの特徴の一つに高速応答性があって、信号を送るとすぐそれに反応する。それまでの光源はオン・オフとか調光とかすると、寿命にダイレクトに影響があったけど、LEDにはそれがない。その価値を魅力に変えたくて、ただ筋状に滝みたいに落ちている水に高速点滅するLEDの光を当てると、すごく小さな火花が空中に舞っているように見える。火花が明滅しているような見え方になるんです。

2011
Toshiba Milano Salone “Luce Tempo Luogo”
DORELL.GHOTMEH.TANE / ARCHITECTS
©Daici Ano
光は「ポータブルなもの」になり得るか?
藤田:次に狙っている方法論はありますか。
岡安:今、大きく目標に置いているのは、ポータブルなもの。例えば歴史をずっと遡って、百数十年前まで遡ると、火を使っていた時代までいくじゃないですか。そのころは、例えばろうそく1本だとしたら、それを中心に20センチ四方ぐらいで、せいぜい20ルクスの明るさしかとれないんです。それが現代の技術をもってすると、例えば六畳間に60ワットの電球1個あれば、くまなく同等の明るさがとれる。
想像ですが、白熱電球が生まれたときに、電球を前提に生活を変えていくというデザインの流れの中で、電球にふさわしい器具の形やいろんなものが決まっていったのではないかと思っています。その上で白熱電球の特徴を生かして、ダウンライトという形状ができたり、スポットライトみたいなものができたり。明かりに火を使っているころは、常に体のそばにあって火と人間が1対1で動いていますよね、空間に1個じゃなくて。
白熱電球が使えるようになってハイパワーなものができて、遠くから照らしても十分明るさがとれるから手元にある必要ないし、それ自身は熱いものだし感電もするから、白熱電球の特性を生かすという意味で照明器具が天井に向かっていったんだと思う。でもLEDはもともと弱電で、直流で動く半導体なので、感電の心配もないし発熱も小さくなっている。
そのようにエンジニアリングが進化したのだから、光がポータブルなものになってもいいんじゃないかと。みんなのポケットにはケータイもあるし、ケータイが光源になったって構わないというふうに考えていくと、光のポータブル化で次の豊かな何かがデザインできないかなと思っています。
それとは別に個人的な興味としては、流体にも相変わらず止まらない興味があるんですが、物の解像度にすごく興味があって。現象の解像度が変わるという行為で、人間の原初的な感情を揺さぶる何かをつくりたいなと、ずっと考えています。
今、春日大社の国宝館の常設で、インスタレーションをやらせてもらえることになっていて、10月1日から公開です。常設なので期間限定のいろいろな試みもやっていきたいと思っています。
テクノロジーを科学者に任せていると、生活の豊かさにはならない
藤田:世界的にテクノロジーとうまく付き合おうという機運がすごく高いですが、岡安さんはテクノロジーとどう向き合っていますか。
岡安:テクノロジーの活用方法を技術者とか開発者だけに任せておくと、人間をコントロールするような世界観に行きがちで、豊かさとリンクしない場合が往々にしてあると思うんです。一歩先のライフスタイルみたいなものをちゃんとデザインしておいた中にはまるテクノロジーじゃないと、生活が苦しいものになってしまうような気がします。
朝トイレで用を足すことによって健康状態が分かるといったときに、わざわざ健康チェックのためにトイレに行かなきゃいけないみたいなことが義務化するとか、人間を支配するような動きになりかねないですよね。だから、常に先回りしたビジョンをちゃんと考えておかなきゃいけないということだと思うんです。いったんテクノロジーが関係ないところで、究極気持ちいい暮らしとか、究極気持ちいいピクニックの仕方とかを常に考えて、そこにテクノロジーをどう当てはめるかというふうに考えていかないと、結局どちらもほどほどのものになっちゃう。
普段の仕事でもそうですが、クライアントからのオファーありきで物事を考え始めると、その範疇でのぎりぎりのものにしかならない。でも日常のいろんな行為への究極アイデアを僕なりに考えておくと、あるオファーが来たときに、それにかぶせることができる。
視覚以外の、「五感」の二つ目は必ず用意しておく
藤田:視覚は人間の体感に強く影響を与えるけど、照明で視覚以外のところにアプローチする、例えばダイレクトに触覚にアプローチするわけではないけど、あたかも触ったような感じになるとか、他の聴覚的な何かとか、そこらへんで目がある方法論はありますか。
岡安:難しいなあ。ただ、少なくとも僕がミラノでやるようなインスタレーションとか、今回の春日大社の作品でもそうですけれど、五感のうちの二つ目は必ず何か見つけておかないといけないというのが常にありますね。特にインスタレーションの場合は、視覚だけというのはだめで、五感のうちの二つ目を必ずうまく組み込んでおかないと、感動にまではたどり着けない。
二つ目が何になるかというのはすごく重要で、建築家の谷尻誠さんとやったときだと、前室の床に段ボールのチップを敷ことで、足から感じる感覚をまず変えちゃう、ということを谷尻さんがデザインしました。その空間に入る前の心の準備みたいなことかもしれないんですが、五感のうちの視覚は当然僕がやるとして、その次の第二感、第三感をちゃんと意識してコントロールするというのをやらないとうまくいかないですね。毎回違うんですけどね。何をターゲットにするかというのは。

2010
Toshiba Milano Salone “Lucèste”
サポーズデザインオフィス
岡安:そこで見えているものが美しいプラス、つい考えてしまうという、頭を使いたくなってしまうような状況をちゃんと用意しておくと、五感のうちの触覚だとか味覚はコントロールしていなくても、十分に二つ目の感覚を揺さぶるものになるんじゃないかなとも思っていて、春日大社で今やっている作品に関して言うと、「信仰の場」として、自然に考えたくなっちゃうような状況を作品で用意している。考えるための誘導を、見た目の次に用意しているという感じです。
藤田:僕がプランニングで、どういうものに出合ってもらうかをデザインするときも、それがモチベーションをデザインするというところまで落ちていないと、刹那的というか消え物的になってしまう。考えさせるデザインという発想は、目ウロコです。岡安さんにも、難産だった仕事なんてありますか。

岡安:結局一番難産なのは、ただ普通の照明計画をして終わったものですね。思い悩んで苦しんで、苦しんだけど何もできませんでしたというのは、ただの照明計画になってしまうんですよね。
僕の仕事も多分半数ぐらいは実はそうなってしまっていて、何か価値のある提案を提供したいし、こういうことをやりたいと思ってもいたけど、予算がこれしかないとかの条件でできないとか、施主さんを説得しきれなくてグレードが下がってしまったりします。何でもないものをつくるということが一番苦しくて、出来上がりを見るのもつらい。
藤田:深いなあ。他の人の仕事で、「これはやられた」と感じたものってありますか。
岡安:僕は、デザインに興味があって始めたんじゃないので、あまり人の情報を知らない。多分、経験と知識のない中でやると、人と違うものができるということなんじゃないかな。下手に知らないのが、いい側に働いている可能性はありますね。
藤田:距離感は大事ですよね。普段の生活の中で、一番興味があることは何ですか。
岡安:何だろう。やっぱり光かな。光だったり、水だったり…。趣味ないんですよ、僕。普段何やっているかというと、隅田川の光の反射を見ていたりとか。なんかだめな人間なんです(笑)。何となく、いつも光を見ていたりします。雨の日の街灯をずっと見るとか。
藤田:まさに岡安さんにとって照明デザインは天職ですね! 今日は本当にありがとうございました。

岡安 泉
岡安泉照明設計事務所 照明デザイナー
1972年神奈川県生まれ。1994年日本大学農獣医学部卒業後、生物系特定産業技術研究推進機構、照明器具メーカーを経て、2005年岡安泉照明設計事務所を設立。 建築空間・商業空間の照明計画、照明器具のデザイン、インスタレーションなど光にまつわるすべてのデザインを国内外問わずおこなっている。 これまで青木淳「白い教会」、伊東豊雄「generative order-伊東 豊雄展」、隈研吾「浅草文化観光センター」、山本理顕「ナミックステクノコア」などの照明計画を手掛けるほかミラノサローネなどの展示会において多くのインスタレーションを手掛けている。

藤田 卓也
株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 プランナー(2016年当時)
2003年4月電通入社。入社以来、イベント・スペース関連部署に所属。 イベント・スペース領域に加え、マーケティング、クリエーティブ、プロモーションなど領域にとらわれないプランニングを実践。