2023/11/24
まわり、まわって。Vol.5 朝倉洋美氏
『アートとデザインの、まわり。』
DENTSU LIVE | 電通ライブ
2021年10月1日にアラブ首長国連邦ドバイにて開幕した「2020年ドバイ国際博覧会」(以下、ドバイ万博)。
192カ国が参加するドバイ万博で、日本が出展する「日本館」の展示は「Where ideas meet アイディアの出会い」をテーマに、6つのシーンを通して日本が紡いできた「アイディアの出会い」を表現し、そこから新しい未来をつくる体験を創出しています。
今回はシーン3「現代日本のテクノロジー」で、日本の伝統文化「見立て」によるミニチュア展示作品を担当した株式会社MINIATURE LIFE 田中達也氏にインタビュー。展示の狙いや「見立て」という手法の魅力、そして田中氏自身のアイディア発想法について、日本館展示プロデューサーの電通ライブ永友貴之がお話を伺いました。
永友:日本館の企画が始まった頃、たまたまテレビで田中さんのことを知り、「見立て」という言葉に感銘を受けたことを覚えています。みんなが知っているものを別の風景に変換する「見立て」は、ものごとを異なる視点から見ることで新しい発見や気づきが生まれる「アイディアの出会い」と、とても近い考え方だなと。田中さんにこのテーマを表現していただいたら、すごく良い「アイディアの出会い」が生まれる予感がして、お声がけさせていただいたんです。
田中:最初にお話を頂いた時、まさに僕の作品にぴったりなテーマだと思いました。「見立て」は、既成のもの同士を組み合わせることで生まれるので、そういう意味では僕の作品自体が「アイディアの出会い」ですよね。さらに、僕の作品に出会った方々が新しい発見やアイディアを生み出してくれることを目指しているので、このテーマは本当にしっくりくるなと感じました。
永友:そうですよね。田中さんの「見立て」というアプローチを、ぜひ海外の皆さんに体感していただきたいと思いました。
田中:海外で「見立て」を翻訳しようとすると、「similar to〜」のように少しニュアンスの異なる表現になるんですよね。例えば日本のお弁当がヨーロッパでも「BENTO」として認知されつつあるように、「MITATE」という概念が海外に広まるきっかけにできると良いなと思っていました。
永友:ふと思ったのですが、どうして日本は「見立て」という独特の考え方が成立するのでしょうか?
田中:さまざまな要因があると思いますが、古くから島国ならではの苦労を乗り越えてきた歴史が関係しているのではないでしょうか。「見立て」は補う力でもあるわけです。ただ見た目を変えるだけでなく、何かに行き詰まった時に代わりのものを持ってくることで課題を解決することも「見立て」の役割だと思っていて。
永友:なるほど。確かに日本ならではの文化である「侘び寂び」も、足りないものや余白を想像力で補うところから美意識が生まれていると聞いたことがあります。
田中:そうです。お寺の枯山水も、水が引けない場所に岩や砂などを用いて山水に見立てることで新しい価値を生み出しています。土地が狭い、地震が多いなど、それなりの制約がある中で工夫をしてきた国だからこそ、日常に「見立て」が根付いているのではないでしょうか。
永友:シーン3で紹介している日本のテクノロジーも、厳しい自然環境に抗うのではなく、共生していくという発想から生まれたものがたくさんあります。その意味では、日本は「見立て」を通じて発展してきた国であると考えることもできそうですね。
永友:田中さんご自身の「見立て」のルーツはどこにあるのでしょうか?
田中:思い返してみると、双子だったことが影響しているのかもしれません。僕らの場合は同じおもちゃを一人に一つずつ買ってもらわないと気が済まない双子だったので、2人いるにも関わらず遊びのレパートリーはその半分になってしまうんです。常におもちゃが足りないわけですから、自然にティッシュ箱をビルに見立てて遊んでいたりしたんですよね。その経験が今につながっているのかは分かりませんが、小さい頃から工夫して補ってきたのかなって思います。
永友:面白いですね。うちにも3歳の子どもがいるのですが、電車の窓から見える電信柱を「アスパラ!」って言うんです。それを聞いた時、まるで田中さんのおっしゃる見立ての考え方みたいだなって思ったことがあって。だから、子どもの率直な感性のようなものが作品制作のルーツにあると聞いて納得しました。他のアーティストや写真家との違いを感じることはありますか?
田中:多くの作品が、そのアーティストだけに見えている世界や、その人ならではの個や感性を表現していると思うのですが、僕の場合はみんなが共有できることから新しい発見や気づきを表現しようとしています。そこがアプローチの方法として大きく違うところかもしれません。
永友:みんなが知っているものを題材にしながら、新しいものを生み出すのってかなり難しいと思うのですが、そのあたりの葛藤はあるのでしょうか?
田中:難しいからこそ、見つけ出せた時が気持ち良いんです。シーン3の「はやぶさ2」を紹介する作品も、小惑星に着陸する際の目印になる「ターゲットマーカー」がお手玉から着想を得ているという話にたどり着き、お手玉を小惑星に見立てるというアプローチを行いました。だから、すでに題材となるモノ自体はまわりにあるんですよね、自分が気づいていないだけで。例えばドバイにいても、「トイレはこうなっているのか」「ホチキスは日本と同じような形だな」のように、ふだんの暮らしの中からヒントを探しています。
永友:なるほど。あの作品を見た時は、「どのような思考プロセスを踏んだら、お手玉を小惑星に見立てようというアイディアが生まれるのだろう?」と驚きました。
田中:テーマを考える時は、お手玉とか、小惑星とか、とにかく思いつく単語を書き出します。そこから全く異なる2つのグループを作り、似たものや関係性があるものを探すのです。「あ、お手玉と小惑星は、どちらも丸いから見立てられそうだな」という感じですね。ただ、あまり深掘りし過ぎると伝わりにくくなってしまうので、初見であまり興味がない人にも立ち止まってもらえるような見立てを意識しています。
永友:「はやぶさ2」の作品の「宇宙を手玉に取る」というタイトルなど、田中さんの作品はタイトルもユニークで大きな要素を占めていると思うんです。ネーミングにはどのようなこだわりがあるのでしょうか?
田中:もともと鹿児島でデザイナーをしていたので、キャッチコピーを考える機会も多かったんです。なので、少し広告的なアプローチもしつつ、言葉遊びや韻を踏んで「見立て」を表現することを意識しています。
永友:他の言語に翻訳するとニュアンスが伝わらないのがもどかしいぐらい、本当に秀逸なタイトルばかりでした。
永友:今後チャレンジしてみたいことはありますか?
田中:今はミニチュアのスケールで「見立て」を表現しているのですが、逆もアリだと思うんです。例えば、ブロッコリーを大きくすると人間がミニチュアになる。ということは、公園にある大木の横にスプーンを置いたり、マヨネーズをかけたりすると、大木をブロッコリーとして見立てることもできるかもしれません。今やっている表現をひっくり返してみると、また新しい発見や気づきが得られるのかなと思っています。やっぱり人は実寸でモノを見ている時は、なかなか見立てるのが難しいんです。その視点を強制的に変える手段として、モノのスケールを変えるのが一番分かりやすいですよね。
永友:確かに、スケールの大きな「見立て」は、また一味違った刺激がありそうです。田中さんのアプローチはとても分かりやすく、SNSでの拡散性も非常に高いので、作品を入口として新しいアイディアの出会いや課題解決のヒントをたくさん生み出していけると良いですよね。
田中:日本館の展示は、より良い未来社会を作るための第一歩となる「アイデアの出会い」を体感していただくことが大きなテーマでしたが、大きな課題を自分ごと化するためには、その課題を身近に感じてもらう必要があります。ともすると「自分には関係ない」と思ってしまいそうな課題を、いかに身近な生活に関わっていると感じてもらえるか。その手段の一つとして、「見立て」が果たすべき役割は大きいと信じています。
永友:今回の展示を通して、個人の身近な生活の中にもみんなの大きな課題解決へのヒントがあることに気づくきっかけになればよいなと思っています。ここで生まれたアイディアを絶やさずに、2025年の大阪・関西万博の「いのち輝く未来社会のデザイン」につなげていきたいですね。本日はありがとうございました!
株式会社MINIATURE LIFE ミニチュア写真家・見立て作家
1981年熊本生まれ。2011年、ミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立てたアート「MINIATURE CALENDAR」を開始。以後毎日作品をインターネットで発表し続けている。「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」が国内外で開催中。Instagramのフォロワーは340万人を超える(2022年月1月現在)。著書に「MINIATURE LIFE」、「MINIATURE TRIP IN JAPAN」など、他多数。
株式会社電通ライブ プロデューサー
2012年4月電通入社。入社以来、現在に至るまで、イベント・スペース関連部署に配属。国内大手自動車メーカーの大型展示会やその他国内外大型イベントにおいて、企画から現場制作までのプロデュース業務を担当。また、店舗開発や企業のショールーム・ミュージアムなども多数手掛け、企画設計、コンテンツディレクションから、建築施工現場管理、運営業務ディレクションまで幅広い知見と実績を有する。2020年ドバイ国際博覧会の日本館の各展示企画、運営業務に携わる。
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