2017/07/26
まわり、まわって。Vol.3 伊藤徹也氏
『カメラと旅の、まわり。』
- April / 20 / 2023
ハロー、みんな。ライブちゃんだよ。
新しい感動づくりのヒントを見つけるため、広告やイベントからちょっと外れた「まわり」のヒトやモノやコトに出会う旅を続けています。
今回は、『カメラと旅の、まわり。』を探ってみるよ!
ゲストは、カメラマンの伊藤徹也さん!
第二回目のゲスト、樋口直哉さんの“気になる「まわり」の人”です。
『BRUTUS』『Number』『FIGARO japon』など錚々たる雑誌の表紙や特集の写真を担当してきたスゴい人!
どんな「まわり」が広がるのか、とっても楽しみ!
それでは、「まわり、まわって。」スタートです。
卒業後はプータローに。諦めきれなかったカメラマンの道
――人物や料理、風景まで幅広いジャンルの写真を撮られている伊藤さん。日本大学芸術学部写真学科卒業とのことですが、そうすると大学入学前にはカメラマンになろうと思っていたんですか?
伊藤:全然(笑)
――えー!じゃあなんで写真学科に?
伊藤:日大の付属高校で、芸術学部の推薦がもらえたんだよね。日芸は8学科あって、美術学科や音楽学科みたいに試験に実技がある学科は、対策が間に合わないだろうなと。写真学科は実技がなかったし、写真なら自分にもできそうと思って、写真学科を選んだ感じかな。
――そうだったんですね!写真の勉強をしてみてどうでしたか?
伊藤:大学では、現像や印刷の基礎から学んだんだけど、まったく面白くなくて(笑)。写真学科には、写真が好きな学生か、カメラそのものが好きな学生のどちらかしかいなくて、良くも悪くもオタク気質。僕はアメフト部に入っていて、体育会系気質だったから雰囲気にも馴染めなかったんだよね。
――でも、結果的にはカメラマンの道を選んだわけですよね。
伊藤:そうだね。やっぱり写真学科を選んだ時点で腹を括っていて、カメラマンになるつもりではいたかな。大学の勉強はイマイチだったけど、入学後1ヵ月くらいしてから出版社でカメラマンのアシスタントのアルバイトをするようになって、それがすごく楽しかったんだ。雑誌『anan』の編集部だったんだけど、バブルで華やかだったし、雑誌が売れている時代だったから、18歳の自分にとってそれはもうキラキラした世界。ファッションが好きだったこともあって、すっかりのめり込んだよ。
――卒業後はすぐにカメラマンの道に進んだの?
伊藤:いや、プータローの道に進みました(笑)
――プ、プータロー!?
伊藤:そうそう。そもそも入社試験を受けたのは1社だけで、そこにあっさり落ちてしまって。フリーランスでカメラマンのアシスタントをしながら、材木店や倉庫で肉体労働のアルバイトをして生活してたんだ。もちろんカメラマンだけで食べられるようになりたかったから、同じような境遇のスタイリストさんと一緒にモデルさんを撮影して、作品を撮り貯めることは続けていたね。
35歳の決断。おせちをつくるバイトか撮影か
――今では引っ張りだこの人気カメラマンの伊藤さんですが、そんな下積み時代があったんだね。何か転機になる出来事があったのでしょうか?
伊藤:ひとつは23歳のとき。急きょカメラマンが必要になった撮影があって、僕に声がかかったんだよね。それが、お金をもらって写真を撮る最初の体験でした。気合いが入り過ぎて、機材を過剰に用意してしまって、撮影が終わったあとに説教されたんだよね。本気度を褒めて欲しかったんですけど(笑)。
――それがきっかけで撮影の仕事が入るように?
伊藤:それが、そうでもなくて(笑)。すぐにカメラマンとして食べられるようになったわけじゃなくて、半年後に撮影の案件が1本、さらに半年後に1本……みたいな感じで継続しなかったの。でも、写真を見てくれる編集者の人はいて、定期的に声をかけてくれて。少しずつ掲載される写真の枠が大きくなっていった感じかな。
――着実に実績を積み重ねていったんですね!すごい~!
伊藤:でも、ちゃんとカメラマンとして食べていけるようになったのは、35歳以降なんだよね。
――えぇ!?遅咲きだったんですね~!35歳のときに何が起きたのでしょう?
伊藤:その年の暮れに、お金が底を尽きそうになっちゃって(笑)おせちをつくるアルバイトをしたんだけど、年始に撮影の仕事の依頼が入ったの。それを受けるとおせちのアルバイトができなくなっちゃう。すごく悩んで、撮影の仕事を選びました。生活費は厳しくなっちゃうんだけど、カメラマン以外の仕事は考えられなかったし、やっぱり撮影が好きだったからね。
――その情熱、スゴすぎる~~~!
伊藤:おせちをつくるバイトを断って以来、自分の意識が変わったのか、理由はよくわからないんだけど少しずつ雑誌の仕事が入るようになったんだ。特に動物や旅の撮影が増えたんだよね。叩き上げでいろいろな仕事をしているせいか、条件が悪い状況での撮影には自信があったんだ。動物や旅の撮影はスタジオで撮影するのと違って、不確実な要素が多いから、それまでの経験が生きたんだと思う。あと、旅の撮影は何日も一緒に行動するので、ウザい人は嫌じゃないですか(笑)。自分で言うのは恥ずかしい気がするけど、そんなにウザいキャラじゃないのも良かったのかな。
写真が溢れている時代、自分らしい写真を追求
――いろいろなジャンルの撮影をしている伊藤さん、なかでも旅の特集をたくさん手がけられている印象ですが、印象に残っている企画はありますか?
伊藤:ひとつはカナダでの犬ぞりの撮影。犬ぞりに乗りながら撮影したり、スノーモービルで先回りして犬ぞりが駆け抜けるところを待ち続けたり、極寒の中で朝から夕方までかけて撮影したの。犬ぞりってロマンを感じるじゃない?でも、乗ると分かるんだけど、めっちゃ寒いんだよね。
――ひぇ~~~!過酷すぎる~!
伊藤:カナダではオーロラも撮影したんだけど、それも印象深かった。夜8時くらいに小さな小屋にこもって、ウイスキーを飲みながら待っていたら、すぐにオーロラが出現して。しかも、「爆発する」って呼ぶんだけど、緑じゃなくて赤っぽくボワッ!っていう感じのオーロラ。なかなか見られないタイプらしくて、すごく記憶に残ってる。
――大変そうだけど、普通は経験できないようなことだからうらやましいなぁ。旅の写真で意識しているポイントはどんなところでしょうか?
伊藤:自分らしい写真という意味では、「風景に人を入れ込むこと」は意識しています。綺麗な写真だったら、SNSにも溢れているし、あえてカメラマンが撮影する必要がないわけで。風景にどのようなワンポイントを入れようか考えることが重要だと思うんです。小道具として人がいると空間の大きさも分かるし、被写体が引き立つんだよね。
――なるほど~!アクセントを入れることで「らしさ」を出しているんですね。
伊藤:あと、人物を撮影するときは、思いやりを意識しています。男女問わず、綺麗に撮影してもらえた方が嬉しいじゃない?例えば、ビーチで女の子のスナップ写真の撮影のとき、正午頃からスタートする予定だったんだけど、夕方の光のほうが絶対に綺麗に撮れると思って、時間帯をずらすことを提案したこともあった。
――どんな被写体でも、どんな状況でも、ベストな写真を撮り切れるところが、伊藤さんの強みなんですね~!
伊藤:叩き上げだからね(笑)。日芸の写真学科を出たら、写真作家になって好きな写真を撮ったり、師匠に弟子入りしたり、賞を取って名前を売ったりっていうルートが、当時のカメラマンのキャリアの王道だったの。だから、自分のキャリアはコンプレックスでしかなかったんだよね。でも、写真を真ん中にしたときに、人や風景、食事とか、一つのジャンルに絞らずにいろいろな撮影を経験したからこそ、自分ならではの写真を撮れるようになったと思う。
――なるほど~!「まわり」に目を向けてきたからこそ、伊藤さんらしい写真がかたちづくられたということですね。ちなみに、伊藤さんを“気になる人”に挙げてくれた樋口直哉さんは、「伊藤さんは色気のある写真を撮る」って言ってました。色気って何でしょう?
伊藤:言葉で説明するのは難しいけれど、具体的にはしっかりとテーブルセッティングをしないで少し崩したり、ストロボでライティングをしないでその場の光と影を生かしたりすることかな。これも旅の経験を生かしていて、例えば「レストランでご飯を食べていたときに、早朝とか昼下がりの光が良かったな」っていう記憶を頼りに撮影することもあるんだ。いろいろな場所を訪れているからこそ、どんな光と影なら被写体を魅力的に捉えられるか、経験値から導き出せるのかも。
あと、特に料理は作っている最中や鍋の中に色気があると思っているので、出来上がるまでのプロセスは光と影を駆使して撮影するようにしてる。だから、プロセスの写真はよくエロいねって言われるんだよね(笑)
一瞬を切り取る技術が武器。これからは映像にも挑戦したい
――なるほど~!確かに伊藤さんの写真は、きちっとしているというよりは、なまめかしい雰囲気が漂っている気がするなぁ。あと、雑誌で娘さんとお酒の連載を持たれてますよね。お酒、好きなんですか?
伊藤:うん、大好き(笑)。お酒は自分にとって、人生の潤滑油だと思う。海外でもお酒があると、打ちとけやすいんだよね。仕事終わりに一緒に仕事をした人と飲むことをモチベーションに仕事してるくらい。あと、自分が東京生まれ、東京育ちだから、地酒にとても惹かれるんだ。地方のその土地ならではのものに憧れがあるんだよね。
――へぇ~!でも、なんか分かるかも~!
伊藤:特に思い出深いのは、撮影の仕事で白川郷に行ったとき。「イワナの骨酒」が有名なんだけど、泊まっていた宿のしきたりで、お客さん全員で回し飲みしないといけなかったの。悲しいことにその日は全員おじさんばかり。2周目になるとイワナが崩れて、それはもうグロテスクで(笑)。良くも悪くも、記憶にしっかり刻まれる思い出ができるから、お酒はやめられないな。
――たくさんの編集者さんやライターさんから信頼を寄せられている伊藤さん、きっとお酒が大好きなところも含めて愛されているんですね!そんな伊藤さんが気になる「まわり」とは?
伊藤:映像かな。やっぱり時代の流れで、求められている気がするし、写真で培ったスキルも生かせると思うんだ。写真って一瞬で空間を切り取るから、編集しながら撮っているようなもの。この「目」は映像でも武器になるし、細かい画づくりができる気がしてるんだ。
――伊藤さんが撮る映像、とっても素敵だと思う~!じゃあ、最後に気になる「まわりの人」を教えてください!
伊藤:4人います!まずは、ブックデザイナー兼アートディレクターの吉田昌平くん。何度か一緒にお仕事したことがあって、紙や本を主な素材にしたコラージュ作品を数多く制作しているんだよね。彼がシベリア鉄道の車内で、乗客からいらない紙のゴミ、切符、雑誌の切れ端をもらって、コラージュする作品をつくっていて、すごい面白い人だなと思った。コラージュって気が遠くなる作業だから、頭の中がどうなっているか知りたいよね。
あとは、マガジンハウスの元編集者で、今はフリーランスのエディターとして独立、タコス屋をはじめた阿部太一さん。地域のハブのような存在だった蕎麦屋さんをご両親から受け継いで、新しいことをはじめようとしているみたい。彼が地域で何をしようとしているのか、すごく気になってる。
それと、僕が大好きなパン職人。大都会新宿で薪窯でパンを焼いている「パン屋 塩見」の塩見聡史くんと、北品川でめちゃくちゃ美味しいベーグルをつくっている「Bob Bagel(ボブ ベーグル)」の目黒裕規くん。ちなみに、塩見くんは僕が撮影を担当した雑誌のパン特集を目にしたことがきっかけで、宗像堂で働きはじめたらしくて、少なからぬ縁を感じています。
パンって同じ材料でも、その人が触るか触らないかで味が違うから面白い。というか、とにかく二人のパンは絶品だから、たくさんの人に食べてもらいたいな。
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長い下積み時代を経て、人生をかけて好きな写真の仕事を貫いている伊藤さん。チャンスを引き寄せたのは、高い撮影スキルだけじゃなくて、チャーミングな人柄も大きなポイントなのかも。いろんな人が一緒に仕事をしたくなるのも頷けるよね。
ちなみに、今回は伊藤さんイチ押しのお店「鳥からあげ うえ山」で取材をしました。個店の料理屋さん激戦区の蒲田で、圧倒的な人気を誇る鳥の素揚げ専門店なのです。手づくりのおばんざいとめずらしい日本酒も見逃せません~!
取材後にはライブちゃんも伊藤さんと一緒に美味しいご馳走とお酒を堪能しちゃいました。女将さんも「伊藤さんはいつも場を和ませてくれる常連さんなんです」と人柄について太鼓判。僕も伊藤さんのように酒場で愛される大人になるぞっ!
次回はそんな伊藤さんが気になる「まわり」を、巡っていきます。
楽しみにしててね。それでは、またね!
取材・編集協力/末吉陽子
撮影/小野奈那子
協力/鳥からあげ うえ山
伊藤 徹也(いとう てつや)
写真家
1968 年生まれ。日本大学藝術学部写真学科卒業。旅、ポートレート、ランドスケープ、建築、インテリアを中心に撮影。長女との酒連載「伊藤家の晩酌」も人気。https://hanako.tokyo/tags/itohke/
Instagram @ito_tetsuya
ライブちゃん
電通ライブ所属のインタビュアー/調査員
本名は、「ドキドキ・バックン・ウルルンパ2世」。心を動かす、新しい感動体験の「種」を探し求めている。聞き上手。感動すると耳らしきところが伸びて、ドリーミンな色に変色する。
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