2017/08/22
「ライブマーケティング」は、街全体が舞台!(前編)
- January / 30 / 2017
電通ライブが目指す、「真実の瞬間」をつくるライブマーケティング
内藤:1月4日に、電通ライブという会社がスタートしました。
齋藤&柴田:おめでとうございます!
内藤:ありがとうございます。電通のイベント&スペース・デザイン局という部署と、電通テックのイベント部門が一緒になって、新たにイベント&スペース領域を強めていこうという考えなのですが、電通ライブとして標榜しているのがライブマーケティングです。
ライブマーケティングにはいろいろ捉え方があるのですが、例えばかつてのマスマーケティングは、テレビ、ラジオ、新聞や雑誌が主に担ってきました。デジタル革命以降それだけでは広告が効かなくなってきたということで、近年は齋藤さんがやられているようなデジタルマーケティングやそれを使った表現が注目されてきました。
個人がいろいろなレイヤーの情報を入手できるようになってきて、さらにその情報は拡散するので情報量はあふれている。そういった状況では逆説的に言えば、人はなかなか情報のみでは動かなくなっているんじゃないかと。
となると、やはり人を動かす基本は「人と人とのコミュニケーション」や「リアルな出会いの場の演出」で、ある種の感動体験、感動共感を通してこそ、いろいろなモノやコトが動いていくのではないかということで、その一連の動きをライブマーケティングと名付けています。
電通ライブのスローガンは、「MOMENT OF TRUTH(真実の瞬間)」なんです。ちょっと映画のタイトルみたいですけれど。
柴田:そのスローガン、すごくいいですよね。
情報にあふれ整理できないとき人は、心に届くものだけの中から人間性を形成する
内藤:ありがとうございます。このような「ライブマーケティング」について、お二人はどのように考えていますか。
齋藤:僕も世代的にはマスマーケティングを浴びて育ちましたが、21世紀の最大の発明は、スマートフォンとパソコンがこれだけ小さくなったのと、あとは衛星、要はGPSですね。それがこれだけ発達したのが、21世紀の僕たち人間の生活を大きく変えたと思います。
前に電通の営業の方に、「打ち合わせを8時間やっているのと、そこにいる営業や僕たち全員で新橋駅にティッシュを配りに行くのと、どちらの方が費用対効果として高いかな」という疑問を投げ掛けたことがあります。会議ばかりしていてもしょうがない。
ライゾマティクスを立ち上げて2、3年目、今から7、8年前のころはデジタルマーケティング、要はウェブバナーとかで、例えば柴田さんがイチゴについて調べていたら、できるだけイチゴに近いものを横のバナーに出してあげたりするなんてことをやっていた。追随型というんですが。
マスマーケティングで行う全投下型の広告が弱くなってきた、CMだけでは効果が出ないと言われ始めて、デジタル技術で情報をパーソナライズし、個人にカスタムして情報をお渡しするという流れにきていますけれど、僕はこの2年くらい、それはそれでちょっと落とし穴があるなと気付き始めているんです。
柴田:そういう手法にも、受け手は慣れてきちゃいますよね。
齋藤:そう、いつも見慣れている風景だから、変わりがなくなってきちゃう。僕が今すごく、ライブマーケティングという言葉が響くなと思ったのは、そこのリアルな体験が何をもたらしてくれるのかが大事。
いくらテレビが、さらにVRが何かを訴えようが、音や何かのエフェクトがありつつも、最終的には人間の体がどうそれに共鳴して、そして実際に体感して、それが最終的に拡散していく方が、情報を伝達する広告として一番プリミティブな状態の優れたシステムだと思う。ライブマーケティングというのはそういう意味で、一番今当てはまるのかなと。
柴田:確かにそうですね。「ライブ」は「リアル」という言葉に置き換えてもいいんじゃないですか。
齋藤:昔のイベントでは体験できる人数がすごく少なくて、ただ濃い体験としては個人の中に一生残っていた。CMはリーチできる人は多いけど、体験としては薄い。今のイベント的な体験はSNSとか個人メディアの発達によって、何万人から何百万人にも伝わるということが起こりますよね。だから手法が大分変わってきたのかなとも思います。
内藤:柴田さんはどうですか。
柴田:私は、思いのある料理人とか、経営者の思いを形にしようとこつこつ商業店舗や飲食店をつくってきました。それがだんだん広がるうちに商業施設一棟全部をつくったり、さらに街づくりも手掛けているんですけれど、店舗でもショッピングモールでも、物を売っているだけでは全く響かないし売れなくて。それよりも心に届く体験、一つの屋上などがもたらす効果の方が、何十倍も何百倍も大きい。
屋上がその商業施設のシンボルや集客の装置になったり、人がもたらす施設への感想の中心になったりする。人は情報にあふれて、どう整理したらいいか分からないときに、心に届くものだけの中から自分の人間性を形成していって、またそれが他の人にものを伝えるエンジンになる。場所をつくるときは、そこが本当に心まで届く内容のある深いものなのか精度を高めないと、見せかけだけのものになってしまいます。単なるトレンドではなく、非効率でもそれが人の心に行き着く真実なのだから、そこを深めていくことに答えがあると思っています。
広告予算を投資して、ライブな街やコトをつくる
内藤:なるほど。今、柴田さんが場所という話をしましたが、ライブマーケティング、真実の瞬間というときに、「じゃあその真実の瞬間って、どこなの?」となる。場所性ってあらためて大事だなと思っています。今までわれわれがやっていたイベントは、俗にいう展示会場だったり、ホテルの宴会場でのパーティーだったりが結構多かったのですが、ここ数年はそういった範疇から飛び出て、どういう場所でどういう人をターゲットに何をやるか、ということが重要だと思い始めているんです。
オリンピックまであと4年足らずになってきて、これからますます多くのお客さまが海外からやってくる。そうするとまず泊まるところをどうしようか、併せて企業のPRの場所や、それだけじゃなくて、日本自体を紹介するためにどういう場所が必要なのか。こういうことがこれからすごく問われる。
昨年、齋藤さんと「ウルトラパブリックプロジェクト」を立ち上げて、まさに街全体を舞台にして、いろいろな実験をやろうという話をしています。場所選びから始まって、そこに何を魂として入れるの?ということに真剣にトライしないと、新しい未来の感動体験はつくれないと思っています。
齋藤:2年ぐらい前にふと思ったのは、通勤電車や歩いている人がうつむいてスマホばかり一日中見ている。スマホの中の方が面白くて、日常の現実世界は面白くないと思っているんです。だからどうしてもスマホを見てしまう。僕も含めてですけれど。
「ポケモンGO」やARモノが出てきて、21世紀のすばらしい発明であるGPSとスマートフォンの組み合わせでデジタルコンテンツも場所性を持ち始めてきたけれど、みんなまだ街自体じゃなくて、スマホのバーチャルの中の方に興味がある。僕はまだ本当の街の面白さが発揮できていないような気がしている。
街づくりってすごく政治的に動くし、もちろん経済とも呼応しながら大きくなったり小さくなったりするし、特に東京はすごい速度で更地になったり建ったり新陳代謝するけれど、「ウルトラパブリックプロジェクト」ではもう一回、真っさらな目で街を見ようと。
東京だけではなくて地方も、この街はどういうふうにしたら、手あかがついていないような場所にできるのかを考えたい。今までは広告と街づくりは、全然別個の取り組みだったじゃないですか。だけどここ数年、双方がくっつき始めたような気がする。
内藤:そんな感じがしますよね。
齋藤:マスマーケティングやデジタルマーケティングって、比較的皆さん湯水のようにお金を使うんです(笑)。例えば数億円とか結構な予算をボーンとつぎ込んで、でも3カ月後には全部世の中に流し終わって、跡形もなくなってしまう。今までの広告費を街とか場所にも投資すれば、一つの街だって平気で様相を変えられると思います。
内藤さんがおっしゃった、場所があるからこそ、みんながそこに寄ってきたくなる、もしくはああでもないこうでもないと具体的に言いたくなる、それをスマホの画面の中だけでなくて実際にある街に足を運んで、何かを見て体験する。それが人間側にも求められているし、街自体もそうなりたいと思っているんじゃないかなと思います。
齋藤 精一
ライゾマティクス クリエーティブディレクター / テクニカルディレクター
1975年神奈川生まれ。建築デザインを米コロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。その後Arnell Groupでクリエーティブとして活動し、2003年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。
その後フリーランスのクリエーティブとして活躍後、2006年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品多数つくり続けている。2009~14年国内外の広告賞で多数受賞。現在、ライゾマティクス代表取締役、京都精華大学デザイン学科非常勤講師。
2013年D&AD Digital Design部門審査員、2014年カンヌライオンズBranded Content and Entertainment部門審査員。2015年ミラノ万博日本館シアターコンテンツディレクター、六本木アートナイト2015でメディアアートディレクター。グッドデザイン賞2015-2016審査員。
柴田 陽子
柴田陽子事務所 代表取締役
神奈川県生まれ。大学卒業後は、外食企業に入社し、新規業態開発を担当。
その後、化粧品会社での商品開発やサロン業態開発なども経験し、2004年「柴田陽子事務所」を設立。企業に対する戦略立案、業態・新事業プロデュース、商品開発、ブランディングを領域とするコンサルティング業務を請け負う。
2014年セブン&アイホールディングス「グランツリー武蔵小杉」総合プロデューサーを
務め、2015年東急電鉄「ログロード代官山」「渋谷ヒカリエ レストランフロア」のプロデュース、2015年ミラノ万博における日本館レストランプロデュース、パレスホテル東京「7料飲施設」、ローソン「Uchi café Sweets」、ルミネ、日本交通などのブランディングに携わる。
また、“「理念浸透型経営」と「プロフェッショナル育成」を実現するためのプログラム”として、さまざまな教育の仕組みの開発や導入も行っている。
また、都内で飲食店を直営店として経営するほか、「自分が本当に納得のできる、ものづくりがしたい」という思いから理想の洋服つくりを始め、2013年アパレルブランド「BORDERS at BALCONY」を立ち上げる。
内藤 純
株式会社電通 イベントスペース&デザイン局 局長
電通ライブ取締役副社長COO
1985年電通入社。
展示会、ショールーム、店舗開発、都市開発など、多くの実績を誇る。
2005年の愛・地球博トヨタグループ館の総合プロデューサー、2015年ミラノ万博日本館展示プロデューサーをはじめ、国際博覧会において数多くのパビリオンをプロデュース。
スペース、映像、グラフィック、プロダクトなど幅広い領域でのクリエーター人脈とプロダクションネットワークを有する。現在は電通ライブ所属。
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