2021/03/11
まわり、まわって。Vol.9 大橋弦也氏
『デジタルアートとAIデザインの、まわり。』
- July / 07 / 2025
ハロー、みんな。ライブちゃんだよ。
新しい感動づくりのヒントを見つけるため、広告やイベントからちょっと外れた「まわり」のヒトやモノやコトに出会う旅を続けています。
今回は、『デジタルアートとAIデザインの、まわり。』を探ってみるよ!
ゲストは、アートとテクノロジーを追求するクリエイティブユニット「株式会社NOLL」の代表で、デジタルアートや生成AI を使用したプロダクトなどを手がける大橋弦也さん。第八回目のゲスト、shuntaroさんの“気になる「まわり」の人”です。
大橋さんは、大学でグラフィックデザインを学んだのち、インターネット系広告会社に新卒で入社する前にアプリの開発や子会社の立ち上げまで経験した異色の経歴の持ち主。
その後、独立してデジタルアート領域にも果敢に打ち込み、現在は画像生成AIを駆使した画期的なデザインを次々に発表している注目の人なんだ。
どんな「まわり」が広がるのか、とっても楽しみ!
それでは、「まわり、まわって。」スタートです。
美大出身のデザイン青年が新卒で子会社設立。ターニングポイントはふらっと足を運んだ展覧会
――大橋さんはデジタルアートを制作したり、AIを使ったデザインをたくさん手掛けていたりしているって聞いたよ〜〜!いつ頃から今のお仕事を志すようになったのですか??
大橋:実は、中学を卒業する頃に、漠然とデザイナーになりたいと思ってたんだ。どんなデザインのジャンルがいいかまでは全然見えていなかったんだけど、僕はなんとなく美術が得意だったから、地元にある名古屋芸術大学芸術学部のグラフィックデザインコースに進学。当時好きだったデザイナーは、ユナイテッドアローズのロゴを作った葛西薫さんだったな〜。
――わぁー!!おしゃれな学生だったんだねっ。じゃあデザイナーとしての原点は大学時代にあるのかな???
大橋:そうだねー、そういえば教授に言われたことをたまに思い出すんだ。学生時代はやる気に満ち溢れてたから、教授に「夏休み期間中に、何かした方がいいことってありますか?」って聞いたら、「そんなの、遊べばいいでしょ!」って言われて(笑)。
そのときは「はあ〜、そういうのが聞きたいんじゃないんだけど!」と思ったけど、今になって、それが仕事に活きている気がする。
義務感に駆られて闇雲に情報をインプットするんじゃなくて、自分の好きな展覧会とかに足を運んで、楽しみながら興味の惹かれるものを探していくスタイル。それが自分には合っているし、デザイナーとしても大事にしてることなんだ。
――いい教授に出会ったんだね〜!大学卒業後は、どのようなキャリアを選んだのかな???
大橋:サイバーエージェントに入社したよ。当時のサイバーエージェントは、自分にそっくりなキャラクターを作ってネット上で遊ぶ「アメーバピグ」みたいに、みんなで共有できる体験を作り上げていて、インターネット系の広告会社の中でも、革新的だな〜と思ったんだ。
面白そうだから、友達に誘われて面接を受けに行ったら内定をもらえた。でも入社する前に、会社から呼び出しを食らったの。
――えーっ!ドキドキするね…!なんで〜〜〜???
大橋:サイバーエージェントって、入社前から内定者が交流する機会が多くて、同期のチームでアプリを作ったんだよね。そのアプリを会社と関係ないビジネスコンテストに出したら賞をいただけることになって。
でも、怒られるどころか、「大橋くんのチームで起業して、サイバーエージェントの子会社にならないか?」ってお誘いをいただいて。だから入社前に同期のチームで子会社を立ち上げて、僕はアプリのデザイナーになったんだ。
――すごいなぁ〜〜〜!新卒で子会社を立ち上げちゃうなんてビックリ。それからどうしたの?
大橋:アプリのサービスはそのまま続いたけど、子会社は2年で解散することになっちゃった。
その後はサイバーエージェントに移って、クリエイティブの仕事に携わったんだ。すごく面白かったし、今でも仲間たちとは仲がいいよ。ただ、幅広い層に向けた案件が多かったから、僕はもっと尖ったデザイン性を発揮できる仕事に挑戦したくなって、約3年でサイバーエージェントを辞めてフリーランスになったんだ。
――フリーランスになってから、どうやって仕事を増やしていったの?
大橋:ありがたいことにフリーランスバブルで、サイバーエージェントを中心にいろんな方からお声がけいただくようになったんだ。WEBとグラフィックの仕事がメインで、企業にUIやUXの提案もしていたよ。
――独立してから、困ったことはなかったのかな?
大橋:1回だけ本当に困ったことが起きて……。
たぶん僕は考え方が極端だから「お金にならないカッコいい仕事」に特化して、仕事を断っていたら、依頼もお金も徐々になくなっちゃって。そこから仕事を基本的に断らないようにしたら、ご紹介でお仕事が広がっていって、どんどん好転していったんだ。
――それは良かった〜〜!フリーランスはやりたいことが自由にできるけど、お金のこともちゃんと考えないといけないもんね。そのバランスをどうやって取ったのかな?
大橋:7割はWEBやデザインの仕事、3割を新しいジャンルの仕事や勉強に費やしたよ。デジタルアートを具体化するための勉強をしたり、電子工作を手がけてみたり。あとはせっかくフリーランスになったから、会社時代から大きく方向転換したくて、音楽に関連する仕事をはじめたんだ。
――実際に何か作ってみたの〜〜?
大橋:紙巻きオルゴールって知ってる?輪っかになった紙にはパンチで開けた穴が開いていて、弁が穴に引っかかって音が鳴る仕組みなのね。僕は穴を開けた紙に裏から光を透過させて、光の絵をつくって、その光をセンサーで読み取り音に変化させる大きな装置をつくったんだ。
2〜3メートルある装置をどうやって動かすか。紙を回すローラーを自動で回す仕組みを考えて、中の基盤も考えなくちゃいけない。溶接は自分たちでやるけど、金属加工は業者さんにお願いしないと出来上がらない。もう何回も何回も作り直して、完成品が出来るまでに1年かかったよ。
――すごすぎる〜〜〜〜!でも、そんな大がかりなものをどうして作ろうと思ったの?何かきっかけでもあった〜〜〜〜?
大橋:2012年10月〜2013年2月まで東京都現代美術館で開催された「アートと音楽-新たな共感覚をもとめて」っていう展覧会の影響かな。総合アドバイザーに坂本龍一さんを迎えた展覧会で、音楽とデジタルアートの密接な関係が垣間見られて、すごく面白かったんだ。
何しろ僕の好きな実験的な音楽ジャンルの作品が多くて。僕が一番好きだったのはターンテーブルの上に樹齢何百年の年輪が刻まれた木材の断面が回っているドイツのアーティストBartholomäus TRAUBECKの「Years」って作品。年輪の溝や色の違いなどをレコード針が読み取ると、真ん中に進むにつれて読み取るスピードがどんどん速くなっていく。
時間が経つにつれて、アート作品を通して、僕自身、叙情的な気持ちになっていくのがすごく良くて。作品自体は人が介在していないのに、「観ているだけで、こんなに面白くなるのか!」みたいな興奮がある。あのときに「デジタルアートはすごく面白いな」と思って、会社を辞めている今こそ、デジタルアートの方向性にシフトしていきたいなと思ったんだよね。
大手企業のビジュアルを全部AIで作成。デジタルヒューマンたちだけで広告をつくれる時代が目前
――現在、大橋さんが代表を務める「NOLL」は、2021年に立ち上げたと聞いたよ。フリーランスでも充実していたのに、どうして会社組織にしたの〜〜〜〜〜?
大橋:独学でわからないなりにデジタルアートをつくっていくと、時間も労力もものすごくかかっちゃう。デジタルアートって、アイデアそのものの魅力と見た目のインパクトの両方がやっぱり重要。
どちらも仕事として成立させるにはお金がどうしてもかかるし、僕がやりたいアート作品をつくり上げるには、ある程度人数が必要なんだ。
だから社会的信用も得ながら、稼いだお金をアートに昇華していく活動ができたら理想的だなと思って、会社を立ち上げたの。実際、会社組織にしてから、すごく動きやすくなったよ。
――そうだったんだね〜〜〜!ちなみに、どんなお仕事でブレイクしたのかな?
大橋:2023年に全部生成AIでデザインをつくった「Rakuten Fashion Week TOKYO」かな。Christian Diorのプロジェクション・マッピングの映像をつくったり。TiffanyでAR版の飛び出す絵本をつくっていたり。
大橋:フリーランスのときはなかなか実現できなかったパーティの空間演出みたいなことも、会社組織になったことで請け負えるようになったから、仕事の幅が広がった。あと、AIを活用して存在しないものまでつくれるようになって、会社としての独自色を出せるようになりはじめたよ。
――AIを仕事に取り入れようと思ったきっかけは何だったのかな??
大橋:2022年に研究開発で制作したデジタルアート作品がきっかけになったよ。
「現実世界に存在しない人間」いわゆるデジタルヒューマンを持ち主とするスマホを額縁に飾って、その持ち主がマッチングアプリを開くと、たくさんのデジタルヒューマンが出現。
個々に、プロフィールや名前が自動的につけられていて、持ち主は横スワイプをしながら「Like」「Dislike」と、存在しない人間たちを判断していくんだよね。
AI同士でマッチングさせて、マッチングが成立したら、二人の顔を掛け合わせた子どもをつくる。最初、小さかった子どもが少しずつ大人になっていく。実在しないはずの彼ら同士で趣味嗜好や相性を判断するのって、なんか面白いよね?
――え〜〜、SFみたい!すご〜〜〜〜い!!!!!
大橋:人工生命体が自我を持ち、何かしらのコミュニケーションを取ることが違和感なくできる。早くて来年には、能動的な意思疎通ができるデジタルヒューマンが誕生すると思うよ?
大橋:ただ、デジタルヒューマンをつくるなら、もっと人間のことを知らないといけないと思ってるんだ。創造する人の能力や、やり方次第で良いものの悪いものもできるからね。「人間一人つくるって、めちゃくちゃ大変だな〜」って思いつつも、僕はデジタルヒューマンの創出に関わる仕事ってものすごく面白いと思っているんだよね。
――でも、AIの仕事って、大変じゃない? だって、勉強しなきゃいけないスキルとかいっぱいあったでしょ??
大橋:そうなの、全部のプロジェクトで毎回勉強ばかりしているよ。
企業と一緒にやらせていただく研究開発プロジェクトもあるけど、それ以外のクライアントワークも、僕らがAIでできることを話すと、「じゃあ、こういうこともできますか?」って、ご質問をいただくケースがいっぱいあって。100%実現化できないケースもあるから、毎回検証と研究の繰り返しなんだ。
――勉強ばっかりしていたら、他のお仕事が回らなくなりそう〜〜〜〜!
大橋:確かにバランスが難しいけど、今ある仕事って、明日にはすぐに変わってなくなっちゃう可能性があると思っているんだ。だから新しい研究やチャレンジを常にしていかないと……!!って、すごく危機感を持っているんだよね。
――なるほどぉ〜〜〜〜〜!!!!危機感ってどういうときに感じるの?
大橋:実は僕、嫉妬魔なの(笑)。他のデザイナーの素敵なクリエイティブを目にしたときとか、AIの新しい技術や活用方法を知ると、どんどん焦っちゃう。毎日、危機感を感じているよ。
軸は自分自身。ちゃんと心と身体が驚いて、疲れているかを確認
――やきもちが大橋さんの原動力なんだねっ!せっかくだから、もうちょっとAIのことを聞いてもいい? 大橋さんって、そもそもなんでそんなにAIが好きなの?
大橋:AIは、作品をつくるのにプロセスがものすごく簡易的で、他の人の力を借りなくても、ほとんど一人で作業が完結しちゃうんだ。
今、AIでつくっているビジュアル作品を例に話すと、今まで僕が携わった作品やニュースなどを自動でAIに学習させると、1日で100パターンのビジュアルを勝手につくることができちゃうの。
勝手にAIがデザインをつくってくれるから、僕は良いものを判断するだけでOK。でも、一番時間がかかるのは「判断すること」だから、さらにそこに集中できるようになれば、どんどんデザイン性を磨けると思うんだ。

浮世絵で描かれる人物を現代人に差し替える「丸の内エリアプロジェクションマッピング 東京大浮世絵」での制作物
――なるほど~~~!引く手あまたの大橋さん、羨ましいなぁ。ズバリ人気の理由は〜〜〜〜!?
大橋:自分で言うの照れるんだけど(笑)。うーん、そうだね、NOLLは伝統と革新を組み合わせた表現をコンセプトにしているから、そこを評価していただいているのかなって思ってる。
デジタルアートって、新しくてインパクトがあるでしょ?でも、それだけじゃなくて、情緒的な良さや印象的なこだわり、美しい様式美があると、人の心に残る。僕はそういうのが得意だから、NOLLがつくるものを良いと思っていただいているかもしれないね。
――新しい作品だけど、どこか懐かしさを感じるとうれしくなるよね〜〜〜〜。じゃあ、大橋さんのものづくりで、一番大事にしていることを教えて〜〜〜〜〜!
大橋:それはね〜、アートが発するパワーを全身で浴びたときにそういう身体が感じるストレス!悪い意味のストレスじゃなくて、展覧会とかで良い作品やものすごく斬新な作品を観ると、自分の中にないものを目にしているから、ちゃんと疲れちゃう。
「ああ、良い作品だな〜」って思うと、まだ半分しか見ていないのに、情報過多でもうしんどいってなっちゃう。だけど、それが心地良い疲れなんだよね。自分が驚いたり、疲れたり。そういう身体と心の動きを大事にしているよ。
――なるほど~~~!自分の感覚を信じているんだね。最後に、いまの仕事の領域を超えて、広げていきたいと考えている「まわり」を教えてほしいです。
大橋:一つ目は映像とかかな?AIと領域が近かったりするからね。二つ目はAIの研究領域……。論文にはよく目を通しているので、AI関連の研究者が近いかも。いずれにしても、これからもっとAIを使いこなすためには、日々学んで情報をアップデートしないとね!
AI時代になると、どんな仕事も物事も変化が目まぐるしくなるでしょ?のんびりはしていられないから焦る気持ちもあるけど、楽しみながら新しい「まわり」を広げていきたいな。
物腰のやわらかさとは裏腹に「誰かが良い作品つくると、嫉妬しちゃう」って、胸のうちを包み隠さず話してくれた大橋さん。自分に素直で興味関心の軸が全然ブレないから、みんなをあっと驚かせるすごい作品がつくれるんだろうなぁ。
ちなみに、AIの技術がどんどん進んで、自分の仕事が取って代わられるみたいなことは全然考えていないんだって。
むしろ、時間がなくていままでできなかった仕事をAIがどんどん片づけてくれるから、注力したい仕事に集中できるようになったとか。毎日アドレナリンが出まくって、さらに仕事を楽しめるようになったらしいよ!
次回はそんな大橋さんが気になる「まわり」を、巡っていきます。 楽しみにしててね。それでは、またね!

大橋弦也
NOLL代表
1985年、東京生まれ。名古屋芸術大学でグラフィックデザインを学び、インターネット系広告会社を経てフリーランスへ。2021年、株式会社NOLLを立ち上げ、代表取締役を務める。2023年、すべてAIで作り上げた「Rakuten Fashion Week TOKYO」のビジュアルが話題に。

ライブちゃん
電通ライブ所属のインタビュアー/調査員
本名は、「ドキドキ・バックン・ウルルンパ2世」。電通ライブ所属のインタビュアー/調査員。心を動かす、新しい感動体験の「種」を探し求めている。聞き上手。感動すると耳らしきところが伸びて、ドリーミンな色に変色する。
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