2018/05/01
「ヒアラブル」の実験①~イヤホンで手ぶら決済「ヒアペイ」
- June / 04 / 2018
前回、「ヒアラブルとは何か?」をご説明しました。今回は具体的な取り組みとして、イヤホンを通じた決済実験についてご紹介します。
進化するキャッシュレス決済
現在クレジットカード、SuicaのようなICカードでの支払いや、スマートホンを利用した支払いのように、直接現金を使用しない「キャッシュレス決済」が多数登場しています。iPhoneで決済できる「ApplePay」が話題になりましたし、中国では既に「Alipay」「WeChatPay」でのスマホ決済が既に主流となっています。日本でも「楽天ペイ」「LINEペイ」などのスマホ決済が続々と登場していて、経済産業省はキャッシュレス決済比率を2015年時点で2割だったものを2025年までに倍の4割に高める目標を発表しました。
以上のように世界中で現金を使用する手間やわずらわしさを解消するためにキャッシュレス決済が進んでいます。海外では日本よりもキャッシュレス決済が進んでいる国が多数あり、例えば2016年時点で韓国では9割、中国では6割、アメリカでは5割弱くらいと言われていたので、今はもっと進んでいるでしょう。日本でも海外からの観光客(インバウンド)が増えていて、さらに沢山の観光客がやってくる2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、ますますキャッシュレス化が加速していくと考えられます。
イヤホンで手ぶら決済!
そのような中で、「もしかしたらヒアラブルを活用すれば、カードやスマホのように手を使う方法よりももっと便利なキャッシュレス決済体験を実現できるのではないか?」と考えました。これが今回ご紹介する「ヒアペイ」で、「聴く(Hear)」と「払う(Pay)」をくっつけました。「○○ペイ」が既に世の中に沢山でているので、それに合わせるのがストレートで分かりやすいからです。
もう少し具体的に言うと、ワイヤレスイヤホンを通じて音声でスマホを操作できるようになってきているので、店員さんから「お支払方法は?」と聞かれた時に「現金で」「カードで」と同じように、「ヒアペイで」といえば、スマホ決済を音声指令で自動化することによって、店員さんとの会話のやりとりだけで決済できるはずです。そうすれば、現金のように「ポケットやカバンから財布を取り出し、さらにそこからお金を取り出して、さらにおつりをうけとる」といった長い作業から解放されます。そして他のキャッシュレス決済と違い、カードやスマホを取り出す手間も必要なくなります。ここまで来るとイヤホンをつけていれば決済のための動作がほぼなくなり、夢のように便利ではないか、と考えました。
ちなみにアメリカではAmazonが「Amazon Go」という実験店舗を発表していて、店舗内のカメラ画像や様々なセンサーを組み合わせて決済を自動化しています。しかしこのAmazon Goであっても、入店の時のチェックインではスマホを取り出す必要があるので「手」はまだ使用しています(とはいえ、AmazonGoのポイントは「レジがいらない」ということなので、違った次元で画期的です)。
イヤホンで生体認証ができる
「ヒアペイ」では、NECが開発しているイヤホンでの生体認証技術が活用できると考えました。これはマイク付イヤホンで耳の奥に音を発信し、その反響音をマイクで拾うことで耳の穴の形(外耳道)を計測できるので、その耳穴の形状の個人差で生体認証するというものです。その背景として生体認証による決済はホットな領域で、様々なトライアルがなされていることがあげられます。例えば、顔認証で本人確認をして社食の支払いをしたり、指紋認証で利用者側はデバイスなしで決済する、といったものです。
まずヒアペイの第一歩としてスタジアムでの屋台販売で実験することにしました。自分のスポーツ観戦を思い出すと、「すでに焼きそばポップコーンを買っていて、さらにビールも欲しいけど、手が焼きそばとポップコーンで塞がっているので財布はおろかカードも取りだせない」といったことが発生します。そのような時にイヤホンでハンズフリー決済ができれば便利ですし、同じようなことが起こる他イベント(音楽フェス等)にも応用できるからです。
幸いにしてJリーグチーム「湘南ベルマーレ」とのコラボレーションが決定し、「Shonan BMW スタジアム平塚」で行われた2017年の最終試合の日(11月19日)に、野外ビール販売で実証実験を行うことができました。あらかじめ湘南ベルマーレのホームページで一般のお客様を対象にモニター募集の告知をしてもらい、天候にも恵まれ、69名の皆様にヒアペイによるハンズフリー決済を体験して頂きました。
決済体験を無くしていきたい
アンケートではほぼ全員(96%)の方から「新しい決済経験である」、多くの方(84%)の方から「便利である」という好意的な回答を頂きました。
しかし、映像をご覧いただければ分かりますが、まだ試行錯誤をしている段階のため「ヒアペイで」と言えば即支払いができるものには至っておらず、店員さんが複数いるヒアペイ利用者のうち、誰が今お支払をしたいお客様なのかを判別するためのキーワード(映像中では「ベルマーレビール大好き!」「ヒアペイ最高!」などの合言葉)が必要となりました。
ヒアペイでは、現在ヒアラブルや生体認証技術を活用して決済を便利にすることにチャレンジしていますが、そもそも利用者としては「お金を支払う」という行為自体がわずらわしいので、目指すのは「決済体験自体をなくすこと」と考えています。
次回は、ヒアラブル端末を活用して働く人々をコンピュータ・ネットワークでサポートする「サイバー・アシスト」の取り組みをご紹介いたします!
日塔史
電通ライブ 第1クリエーティブルーム チーフ・プランナー。
テクノロジーを活用したビジネス・プロデュースを手掛けており、現在「ヒアラブル」(聴覚の拡張デバイス)によるソリューション開発などを行っている。日本広告業協会懸賞論文「論文の部」金賞連続受賞(2014年度、2015年度)。電通Watsonハッカソン「日本IBM賞」受賞(2017年)。AIおよび先端テクノロジーに関する講演、寄稿多数。
#Column
2017/08/09
2017/07/31
2018/06/04
2017/07/26