2022/12/26
まわり、まわって。Vol.2樋口直哉氏
『料理と文章の、まわり。』
DENTSU LIVE | 電通ライブ
街の交差点に点在する画面、駅通路の巨大モニター、ライブ会場の大型スクリーンなど、ここ数年で映像の活用領域は驚異的な速度で進化を遂げ、日常・非日常を問わず人々の生活に浸透しています。そうした中、株式会社IMAGICA GROUPと電通ライブという、クリエーティビティとテクノロジーを兼ね備えた2つのチームがタッグを組み、あらゆる空間において映像表現による新たな体験を創造するソリューション「UN-SCALABLE VISION」(アンスケーラブルビジョン)の提供をスタートしました。
テクノロジーの進化によって、「空間」はこれからどのような可能性を発揮するのか。今後どのようなビジネスが期待できるのか。IMAGICA GROUPの中でも映像体験設計分野に特化した株式会社IMAGICA EEXの諸石治之氏と、当社の前澤克文にインタビュー。「UN-SCALABLE VISION」立ち上げの経緯や、同サービスがもたらすこれからのビジネスチャンスについて聞きました。
※本記事は、「Transformation SHOWCASE」からの転載となります。
Q.「UN-SCALABLE VISION」に携わった両社は、どちらもこれまで数多くの映像コンテンツを創出してきた実績がありますよね。それぞれどういった強みがあるのかをお聞きしたいと思います。まずは、IMAGICA GROUPについての概要と、諸石さんのご経歴からお話しいただけますか?
諸石:IMAGICA GROUPは、映画フィルムの現像を事業として1935年に創業しました。その後、映像テクノロジーの進化に伴い事業を多角化。現在はアニメやCG、広告やプロモーション、デジタルや空間体験の制作にも映像のシーンが広がっており、クリエーティブとテクノロジーを融合した幅広い領域で映像関連事業を展開しています。
私自身は、元はテレビの映像制作会社で、音楽やアート、科学番組の制作や高精細メディアを活用したコンテンツのディレクションをする仕事をしていました。その中で、メディアの進化や拡張の可能性を感じており、映像コンテンツをテレビ以外の分野で展開することに関心を持つように。以降は、博覧会などの大型イベントのコンテンツプロデュースなどを手掛け、やがてIMAGICA GROUPに参加することになりました。現在は、2020年7月に立ち上げたグループ会社のIMAGICA EEXで、エンターテインメントとテクノロジーを掛け合わせた事業に取り組んでいます。
Q.IMAGICA EEXについてもう少し詳しく教えていただけますか。2020年7月といえばまさにコロナ禍であったと思いますが、その時期にエンターテインメントの新しい会社を立ち上げられた、ということでしょうか。
諸石:そうですね。当時はコロナ禍でイベントが開催できない、人が集まれないという状況が深刻化していました。そうした状況だからこそ、クリエーティブとテクノロジーを融合し、エンターテインメントの新しい未来をつくり出せるんじゃないかという強い気持ちが起こりました。グループ内に新しい会社を立ち上げるといったことの前例は少ないのですが、社会全体が鉛色の雲の下にある中、自分たちの挑戦で光の兆しを生み出したいという強い意志がありました。
映像と通信の力を合わせたエンターテインメントで社会課題に向き合うことを目標にスタートして、最初はライブ配信が主な事業。そこでXRやヴォルメトリックキャプチャ(撮影した画像から3Dデータを構成する技術)などを活用して、映像だからできる新しいライブエンターテインメントを打ち出していきました。見てくださった方々も、新しいライブ体験として感じてくださいました。最近では、メタバースやデジタルツイン(物理的な空間をデジタル上に再現すること)などの概念を取り入れつつ、新たな体験価値の提供を進めています。
Q.前澤さんは、電通ライブでどのような仕事をされてきたのでしょうか。
前澤:私は電通ライブの前身である、株式会社 電通テックの頃から映像コンテンツのディレクターをしています。いわゆるワイド画面といわれるサイズの映像を作っていたのですが、その中で、数十メートル規模の画面の映像作品の依頼が増えてきたな、と感じていました。2019年頃には、70メートルものサイズの映像を作るようになっていました。
そういう仕事に取り組んでいると、「大画面で何か表現したい」「スペースに合った変形画面にコンテンツをつくりたい」といった問い合わせが次々とやってくるようになりました。これは「空間×演出×映像」という新しいソリューションが必要かもしれない、と考え始めたところで、諸石さんと出会ったんです。これが「UN-SCALABLE VISION」の発端と言えますね。
IMAGICA GROUPさまとは以前から一緒に仕事をする機会があって、映像編集や配信技術の高さがトップクラスであることは実感していました。それにIMAGICA EEXは、コロナ禍を経てさらにチャレンジングな取り組みで、エンターテインメントを進化させようとしていたので、ぜひ協業したい、とお声掛けしたというわけです。
諸石:IMAGICA GROUPは、長年、コンテンツ制作でのさまざまな映像技術や表現のノウハウは持っていましたが、施工やスペース構築といった、映像をアウトプットしていく場づくりには課題がありました。電通ライブは、多くのクライアント企業さまとの連携やコミュニケーション関係がありますし、企画の出口もたくさん持っているので、両者が交われば良いものが作れるのでは、という確信がありました。
Q.まさにお互いの強みとニーズが合致しての今回のソリューションチームの結成に至ったのですね。続いて、「UN-SCALABLE VISION」の画期的なポイントを教えていただけますか。
前澤:空間そのものを演出するような大型映像の制作は、通常の映像制作とは異なるアプローチが必要となり、より多くの視点が不可欠となります。電通ライブは、施工を必要とするスペースづくりからイベントプロデュース、映像制作まで一気通貫で行っている会社ですので、この「スペース」「イベント」「映像」の3つの分野に経験豊富なプロデューサーが多数います。そこへ、IMAGICA GROUPのテクノロジーやクリエーティビティといったエンターテインメント力が加わることで、より拡張した表現ができるのではないかと思います。
諸石:日本のものづくりは、制作の過程が、ある意味フォーマット化されています。仕事を受注して、幾つかのセクションや役割分担の中、最終工程で、監督やクリエーターが加わってディレクションするというように、作業のプロセスが多いのも特長です。最初からアウトプットのイメージを持っているクリエーターが参加できるチームビルディングを行うことで、ゴールのアイデアを、みんなで膨らませることができるようになります。「UN-SCALABLE VISION」は新しい形のクリエーティブエコシステムです。チームの中で継続して知見を重ねていけるのも大きな利点だと思います。
Q.2023年5月に「UN-SCALABLE VISION」がリリースされたわけですが、その後の反響はいかがでしょうか。
前澤:まだリリースから間もないのですが、幾つかの大型イベントに関わっていく計画も動き出しています。われわれ電通ライブは、5年先、10年先のプロジェクトに携わっていることも多く、そこに「UN-SCALABLE VISION」を組み込んでいくというチャンスも多くなっていきそうです。
諸石:IMAGICA GROUPの社内の反応としては、とても期待値が高いです。電通グループとはこれまでも多くの案件でご一緒させていただいてきましたが、「UN-SCALABLE VISION」は、映像制作だけの限定的な関係ではなく、ワンチームとして全体的な枠組みでクリエーションやプロデュースに参加できる点がこれまでとの違いです。
コロナ禍で、テクノロジーは大きな変化を遂げました。とりわけ映像業界は10年かけて変化していくだろうと思っていたものが、3年で急激に変容したという印象です。当社としては、映像の大きな未来を見据え、取り組んでいきたいと思っています。そのためにも今回の「UN-SCALABLE VISION」は重要な位置付けとなっています。
前澤:総合的なクリエーティブチームとしては、より多くのパートナーとも協力していきたいですね。「UN-SCALABLE VISION」は、IMAGICA GROUPと電通ライブのチームではありますが、さらに日本のエンターテインメントを変えていくために、業界全体で取り組んでいきたいという気持ちがあります。海外のライブエンターテインメントチームと並ぶほどのクオリティーにするために、海外ネットワークを有効利用し先進的なクリエーターと協力して、より魅力的なコンテンツを生み出していきたいですね。
Q.「UN-SCALABLE VISION」の具体的な活用例としては、どういったものを想定していますか?
前澤:活用イメージの1つは、大型展示会や大型イベントにおける、超大型スクリーンサイズでの映像体験です。アクティング、ライティング、サウンド、ホログラムなどの技術を複合して新しいエンターテインメント体験がつくり出せます。また、屋外ビジョンとして、ビルの壁面をはじめ、駅の柱、電車の中、店頭などあらゆる場所を映像プラットフォームとして、空間演出を可能にします。空間のシンボルづくりなどにも活用していただけると思います。
そして今後、よりニーズの高まりが期待できるのが、街づくりやアリーナ開発ですね。多機能複合都市やIoTを導入した次世代スマートアリーナなど、地域の活性化や継続的な発展に役立てることができると思っています。
諸石:「UN-SCALABLE VISION」の強みは、従来のフレームにとらわれず、あらゆる空間をメディア化できることだと思っています。空間の中にモニターがあって、そこにコンテンツが流れているということではなく、映像も含めた空間そのものがメディアになることで、これまでにない体験価値が生まれていきます。
今はテクノロジーの進化によって、扱える情報量が無限大になっていますから、その場に最適な形で、オリジナリティーの高いアウトプットすることが求められています。そういう観点で考えると、「UN-SCALABLE VISION」はフォーマットの枠を超え、フレームから解放された自由な発想でキャンバスをつくり、多彩なテクノロジーという絵の具で、自在な絵を描くというコンセプトなので、高精細や低遅延などのメディアテクノロジーの劇的な進化と伴走している、と言えるかもしれません。
前澤:仮に20メートルの壁面に「UN-SCALABLE VISION」の技術を用いるとすると、まずは、前を通る人や近隣のオフィスに勤める人など、その場所を利用する人の立場で空間の意味を考えます。その空間を利用する人に「心地良い」と感じてほしいからです。海外のオフィスでは、壁面映像をインテリアとして活用している事例も映像クオリティーの進化と共に増えてきました。木目調の壁かと思えば、革製の壁になるというように、変化するインテリアとして捉えることもできるのです。
Q.お話を聞いていると、「UN-SCALABLE VISION」は「映像の外」までも意識した、空間での体験を設計する取り組みだと感じます。空間がメディアになり、そこにコミュニケーションが生まれていくという、時間的にも空間的にも広がっていく体験づくりですね。最後に、今後の展望について教えてください。
前澤:イベントに関わる人だけでなく、映像制作とは程遠いと感じているようなビジネスパーソンこそが、「UN-SCALABLE VISION」を取り入れてみたくなるような提案もしてみたいですね。先にお話したようなインテリアとしての可能性があれば、オフィスプランニングにも使えるのではないかと。
これまでの映像体験は、見る者にとって受動的なものが多かったと思います。テレビ番組やCMなどもそうですよね。「UN-SCALABLE VISION」は、既に出来上がったコンテンツを楽しむといった面だけではなく、人とナチュラルに共存するようなイメージで、映像を作ることができます。その方向性をもっと掘り下げていきたいですね。
諸石:「UN-SCALABLE VISION」は、新しいコミュニケーション、エクスペリエンスになっていくという可能性があります。大型イベントや都市開発領域など、いろんなパートナーの方々と連携して、誰も見たことのない未来のスタンダードを生み出したいと思います。
また、物理的な空間だけに縛られず、リアルとサイバーを融合した世界で、AIやデジタルツインの概念を内包した新しい体験を提供したいとも思っています。新たな価値や文化を創造し、豊かな社会を実現していく意気込みで、これからも取り組んでいきたいと思います。
これまで規定のフレームから発信されるものだった映像が、屋外の大型ビジョンに拡大したり、プロジェクションマッピングなどであらゆるものをキャンバスに変えたりすることで、新たな可能性が広がることとなりました。
IMAGICA GROUPと電通ライブという、クリエーティビティとテクノロジーを兼ね備えた2つのチームがタッグを組み、さまざまなパートナーやクライアントと共創することで、これまでにない空間体験が生み出されることへの期待が高まります。
株式会社IMAGICA EEX 代表取締役社長、CEO、CCO、株式会社IMAGICA GROUP / グループ事業戦略推進部 / ゼネラルプロデューサー
最先端テクノロジーとクリエーティブを融合した事業のプロデュースやクリエーションを手掛ける。映像と空間を組み合わせた空間演出および体験設計、プロジェクションマッピング、8Kや12K 高精細メディア、XRやデジタルツインなど、クリエーティブとテクノロジーを融合したエクスペリエンスやコミュニケーションをデザインする。
株式会社電通ライブ コンテンツ&テクノロジー開発部 / チーフクリエイティブディレクター
グローバル系作品、大型スポーツイベント、エンタメ周りのデジタルコンテンツやライブ演出を多数ディレクション&プロデュース。バーチャルプロダクションを駆使した作品のアウトプットや、AR、VR、AI、脳波を使ったデジタル領域の拡張クリエーティブも幅広く展開している。「世の中をクリエーティブで楽しくする」を大切にしている。
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