2017/08/15
まわり、まわって。Vol.5 朝倉洋美氏
『アートとデザインの、まわり。』
- November / 24 / 2023
ハロー、みんな。ライブちゃんだよ。
新しい感動づくりのヒントを見つけるため、広告やイベントからちょっと外れた「まわり」のヒトやモノやコトに出会う旅を続けています。
今回は、『アートとデザインの、まわり。』を探ってみるよ!
ゲストは、クリエイティブグループ「Bob Foundation(ボブファウンデーション)」のグラフィックデザイナー、朝倉洋美さん!第四回のゲスト、阿部太一さんの“気になる「まわり」の人”です。
「プロフェッショナルな図画工作」をモットーに、アートディレクション・グラフィックデザイン・イラストレーションなど幅広いジャンルのデザインを手掛けています。
自分の世界観を表現するアートと、仕事で依頼されるデザインの境界を行き来しながら活動の場を広げてきた朝倉さん。
どんな「まわり」が広がるのか、とっても楽しみ!
それでは、「まわり、まわって。」スタートです。
板チョコを紙にこすりつけたことも。幼少期の探求心をそのままにロンドンへ
――いろんなアートディレクションやデザインを手掛けている朝倉さん。子どもの頃から、ものづくりが好きだったのですか?
朝倉:うん、そうだね。小学校4年生くらいかな、文房具がとても好きで、とくに匂いのする消しゴムが大好きだったの。それで、チョコレートの匂いがするオリジナルペーパーをつくろうと思って、板チョコを紙に擦り込んだことも(笑)。それが、自分で何かをつくったっていう原体験かな。
――ひょえーーー!そこまで凝る子は、あんまりいない気がする~~~。デザイナーになりたいと思ったのは、いつ頃だったの?
朝倉:中学生くらいかな。シンセサイザーみたいな電子楽器を使ったイギリスのテクノにハマって。
というのも、母親が近所の子に英語を教えることになったんだけど、当時は反抗期MAXの時期だったから、お母さんが英語を教えるなら、私は英語を勉強しない!みたいな(笑)。
「みんな英語の歌詞なんて分からないのに洋楽聴いちゃってさ」とひねくれていた私には、歌詞がないテクノがすごくしっくりきたんだよね。そのUKテクノのレコードのジャケットみたいなグラフィックをつくってみたいって思ったのが、デザイナーを志したきっかけかな。
――ほ~、UKテクノにハマるとは、大人な中学生だなぁ~。その後、朝倉さんは、ロンドンの名門芸術大学(セントラル・セント・マーチンズ)に進学しているけど、それもUKテクノの影響なの?
朝倉:うん、当時好きだったのが、映画『トレインスポッティング」のアートワークを手掛がけたことでも有名なロンドンを拠点に活躍する世界的デザイン集団「TOMATO(トマト)」。UKテクノのミュージシャンだと「Underworld(アンダーワールド)」と「Aphex Twin (エイフェックス・ツイン)」。イギリス一色だったから、必然的にイギリスで勉強したいと思ったんだよね。
社会人の船出は難航するも、人の縁を味方に仕事の場を広げる
――セントラル・セント・マーチンズでは、どんなことを学んだのですか?
朝倉:まず、ファウンデーションコースで幅広い分野の基礎を1年間学びました。セラミック、イラスト、ファッション、グラフィック、とにかく全部の基礎を学んで、後期からは自分が行きたいコースを決めるんだけど、私はもともと専攻したかったグラフィックを選んだの。
大学で学んだことで印象に残っているのは、色づかいかな。例えば、日本だと紫色を公共のデザインに使うことってあまりないと思うんだけど、イギリスだと割と使うんだよね。色に対するイギリスならではの価値観とか新しい捉え方を知れたことは、すごく良かったと思う。
あとは、大学で学んだわけじゃないんだけど、イギリスのアイロニカルな思考がすごく好きだなって。例えばここにある絵ハガキ。「Greetings from London」ってプリントして、工事現場の写真を使うとか、すごく皮肉だけどセンスあるなって。
――えっえっ!どういうことぉ~~~?
朝倉:普通だったらタワーブリッジのかっこいい写真を見せるでしょ?でも、ロンドンの観光地って大抵工事してるの。それをそのまま、逆に「ロンドンらしい光景です」って自慢して、クスッと笑える方向にもっていくデザインに仕上げている。肝が据わっているというか、勇気があるというか、大英帝国には敵わないなと思わされるよね(笑)。
――なるほど~~~!それは、日本人には乏しい感覚かもしれないなぁ。イギリスの人はユーモアのセンスが抜群っていわれるけど、デザインも同じなんだね。大学卒業後はイギリスで社会人デビューしたのですか?
朝倉:ううん、イギリスでは働けなかったの。でも、私としては、日本で仕事をしてみたかったのと、イギリスは楽しかったけどちょっと疲れたなと感じていたこともあって、大学卒業後は帰国しました。
帰国後はデザイン事務所に入ったの。でも、電話の受け答えから何から、社会人になる準備が何もできていなくて、プレッシャーで急性胃腸炎になり、3カ月で退職しちゃったんだ。
――社会の洗礼を浴びた船出になってしまったのかぁ。。。デザイン事務所を辞めてからは、どんな活動をしていたの?
朝倉:ロンドン時代の友人に「書き溜めていた短編集を出版社に持ち込みたいからデザインを考えてほしい」って相談されて、それを手伝ったことが実質的にデザイナーとしてのスタートかな。
そうこうしていたら、ご縁でスウェーデン大使館が主催する、日本のクリエイターをスウェーデンに紹介する「東京スタイル in ストックホルム」にお誘いされたの。
当時、今のパートナーの朝倉充展と一緒に活動する機会が増えていたので、出展を機にグループ名を決めようってことで、「Bob Foundation(ボブファウンデーション)」にしました。ボブっていう名前はいろいろ手伝ってくれる気のいい兄ちゃんを連想するからで(笑)、ファウンデーションはデザインの土台をつくりますよっていうことを伝えたかったんだよね。
個人の表現とプロの仕事、まわりまわって高まるデザイン力
――「東京スタイル in ストックホルム」には、どんな作品を出展されたんですか?
朝倉:スウェーデンのテキスタイルが好きだったから、自分たちならではのテキスタイルデザインをつくってみようということで、生地づくりから始めてみることに。採算度外視で50メートルの布を完成させたの。それをエプロンやオーブンミトンなどのプロダクトにして出展したら、それを見てくれた方から仕事を依頼されるようになりました。
あと、例の友人の短編集はそのままでの出版は難しかったんだけど、とある出版社から気に入ってもらえて、形を変えて出版されることに。ブックデザインなんてやったこともなかったけど、1冊まるごと担当することに(笑)。今思えば、この2つがデザイナーとしてのターニングポイントだったのかもしれないなぁ。
――朝倉さんの実力で、人との出会いの運を仕事につなげたんだね~~~!デザインといっても範囲が広いけど、朝倉さんは特にどんなことを得意にしているの?
朝倉:グラフィックデザイナーであることは間違いないんだけど、その時々でいろいろな仕事を受けているから、どれが得意かって聞かれると難しいなぁ……。一時期はイラストをすごく描いていたんだけど、今だとテキスタイルデザインのような仕上がりをリピートパターンデザインにもっていくことが多いかな。最近、「私はライフスタイルの中に入り込むパターンデザインが好きなんだ」と改めて思い出して、なるべくその方向の仕事にもっていくようにしています。
――生活に身近なデザインだと、最近はどんなお仕事をしているの?
朝倉:生活に身近なものが多いかな。例えば、クルマ。イギリスのブランド「ランドローバー」のDEFENDERというクルマのラッピングカーをデザインしたよ。あとは、防災バッグブランドのディレクションとデザイン。もともと防災グッズが好きで自分でいろいろ用意するタイプなんだけど、ずっと防災バッグをつくりたいなと思っていたの。だからこのオファーはとても嬉しかったなぁ。発売前だけど、ライブちゃんも楽しみに待っていてね!
――うわぁ~~~!すごく楽しみ。あと、朝倉さんは個人プロジェクトでもデザインの活動をしているよね。
朝倉:そうそう。企業と議論しながら同じ目標を達成するためにデザインを考えることも楽しいんだけど、やっぱり自分の作品をつくることも好きなんだよね。シルクスクリーンで印刷することは長らくやっているよ。
仕事と個人プロジェクトの違いは何かって聞かれると難しいけど、仕事だけだとしんどいから、やっぱり自分の感性だけで表現する機会は必要だと思う。あと、個人プロジェクトで使った技法がすごく良かったから仕事でも使ってみる、またその逆もしかりで、そうすることでデザインの幅が広がっている気がしてる。
以前の私は、デザインをひとつ生み出したら、それはもう使えなくて新しいデザインをどんどん作っていかないといけないって思い込んでたんだ。でも、自分が良いと思ったデザインや技法は、アイディアを発展させて使ってもいいんだと思えたのも、仕事と個人プロジェクトを両立してきたからこそかなって。
皆に好かれるのは無理。「万人受けは狙わない」という哲学を貫く
――社会人歴3ヵ月にもかかわらず、デザイナーとしての実績を重ねている朝倉さん。きっと才能があるからこそなんだろうな~~~。ライブちゃんも才能がほしい……!
朝倉:才能なのかなぁ(笑)。ただ、純粋に「こういうものが作りたいんだ」みたいなことを、その時々できちんとプレゼンできていたのかなって。もちろん「こいつ何なんだ」って思われたこともあるだろうし、自分のキャラクターを受け入れてもらえなかったこともあるよ。絶対に苦手だなって思う人もいるはずなので。でもそれはしょうがないし、全員に好かれようなんて、到底叶わないわけで。
ただ、少なくとも相手を嫌な気分にしないっていうのは、うっすら心に決めているよ。例えば、クライアントからのデザインのオファーに対して自分たちなりの答えは出すものの、こうしてほしいというフィードバックがあれば、どんどん変えていくようにしてる。なぜならば、クライアントが満足したものを作ることが一番良いことだと思うから。もちろん譲れないポイントもあるので、そこは説明して納得してもらうように調整する。自分だけ「良い」と思っているものを作るならクライアントワークではなく個人プロジェクトでやればいいと思っているよ。
――表現を仕事にすることって、依頼主の意向と、自分の思い入れやこだわりとのバランスの取り方が難しそう。でも、きっと朝倉さんは上手にバランスを取っているんだろうなぁ。そんな朝倉さんにとって「まわり」の領域とは何ですか?
朝倉:デザインの延長線上にはなってしまうんだけど、マスプロダクトにグラフィックデザインを落とし込むことかな。デザイン性を求められてない実用品が、自分にとっての「まわり」かもしれない。
このデザインが当たり前だと思っているマスプロダクトって、たくさんあると思うんだけど、ちょっとしたデザインひとつで変わると思うんだ。没個性的なデザインは使いやすいし、確かにニーズはあるよね。でも、ちょっとでもデザインが加わると、目にした人が「自分はこれが好みなのか」って発見にもなるはず。それが生活の豊かさにもつながると思うの。だから、これからも自分のコアな領域からちょっとはみ出したマスプロダクトに挑戦していきたいと思っています。
――では、最後に気になる「まわりの人」を教えてください!
朝倉:フリーのバイヤー兼マーチャンダイズ(商品企画)の仕事をしている友だち、サトウユカちゃんです。一緒に仕事をしていると振り幅の広さに刺激を受けるんだ。ユカちゃんが買い付けた「これ何に使うのかな?」っていうアイテムを販売する「CRAZY KIOSK(クレイジー キオスク)」も面白いよ。「自分の好き」をちゃんと形にして、商売にもつなげているところもすごい。デザインの領域にも近い人だから、彼女の活動はとっても興味深いんだ。
朝倉さんにお話を伺っていると、デザインに対する好奇心の高さがひしひしと伝わってきました。そして何より、屈託のないチャーミングな笑顔がとっても素敵!それはきっと仕事とライフワークのどちらにも大好きなデザインが存在していて、毎日心から楽しみながら活動しているからこそなのかも。ライブちゃんも憧れちゃう~~~!
次回はそんな朝倉さんが気になる「まわり」を、巡っていきます。
楽しみにしててね。それでは、またね!
取材・編集協力/末吉陽子
撮影/小野奈那子
朝倉洋美(あさくら ひろみ)
グラフィックデザイナー
イギリスの「Central Saint Martins College of Art & Design」でグラフィックデザインを学んだ後、2002年に朝倉充展と「Bob Foundation」を設立。日用品ブランド〈DAILY BOB〉も展開。個展での作品発表と同時に様々な分野のデザインやコンセプト提供などの活動を展開している。
https://www.bobfoundation.com/
ライブちゃん
電通ライブ所属のインタビュアー/調査員
本名は、「ドキドキ・バックン・ウルルンパ2世」。電通ライブ所属のインタビュアー/調査員。心を動かす、新しい感動体験の「種」を探し求めている。聞き上手。感動すると耳らしきところが伸びて、ドリーミンな色に変色する。
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