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人が集う「演劇という場所」をつくる:藤田貴大(後編)

  • July / 31 / 2017

演劇だけでは形容できない、中間的な何かを空間にちりばめる

藤田卓也(以降、卓):客の時間のパイは決まっているじゃないですか。どのように関心の接点をつくるかが難しいですね。

藤田貴大(以降、貴):インターネットさえあれば個人も映像表現で何だってできるし。でもその中で演劇のようなアナログなジャンルは、どうやって生き残れるのか。家でできることと、外に出て体験しなきゃだめなことの折り合いをどうつけていくか。やはり家を出てもらって、今回の「書を捨てよ町へ出よう」の場合4800円払って「見てよかった」と言わせたいですよね。

演劇だけで本当に2時間お客さんを座らせることができるのか。演劇じゃない要素の時間があったり、これは演劇だけでは形容できないなみたいな、中間的な何かがちりばめられていたり、どこに満足してもらうかというさまざまな要素を空間に散らばせたいと思っています。

 

卓:まさに、藤田さんの演出は、階層的につくられている感じがすごくしました。フックをたくさんつくっているということなのですね。

貴:今は僕がそういうことを試みている時期だし、そういう問題に僕が直面しちゃっているために、スタッフはみんな大変なんです。いろんなコラボレーションが一作品において同時並行で起こっている。全方面で音楽や服ともコラボをやっているし、言葉の補強では又吉直樹さんとか穂村弘さんとも関わっているし。

一方でいつかはこういうスタンスじゃなくて、本当に演劇だけに戻ってみてもいいんじゃないかとも思っています。一回またシャープにしてみて、どれだけの人がついてきてくれるか。今年僕は30歳になったんですが、30歳代は多分そういう時間の使い方になっていくのかもしれませんね。でもシャープするにしても、一回風呂敷を広げてノイズにまみれてみて、その後にシャープになったもののシャープさの方が信用できると思う。

卓:すごく共感できます。広告コミュニケーションを考えるプロセスも、まさにそうですよ。アイデアを広げて、最後はシャープに収れんさせるという意味で。

観客に対して「嘘のない空間」を演出することにこだわる

貴:20歳前後のときに演出助手をやっていた時代があって、パネルの裏にはけてきた俳優さんが、パネルの裏にはけた瞬間に『ジャンプ』を読み出したんですよ(笑)。上演時間は1時間半とか2時間ぐらいじゃないですか。その時間さえ『ジャンプ』を読むことを我慢できなかったのかと驚いた。袖のパネルを全部スケルトンにした方が面白いんじゃないかと思いました(笑)。だけどお客さんは、本当にその2時間舞台に向き合っているわけだから、その2時間ぐらいは我慢してもよくない?と思います。僕は来たお客さんに対して、嘘のない空間を目指しているんです。

藤田 貴大氏

卓:上演時間中の役者さんには、絶対にそのテンションを保ってもらわなければならないと考えているんですね。

貴:はい、だから、はけさせません(笑)。大体みんな、(役者は)舞台上にいますよ。演劇ではお客さんに見えないところで水とかを飲むけど、水飲む作業もお客さんの前でやらせているから。

卓:ドリフの場面転換みたいですね(笑)。ここでしか見られないものを見た、という感じにつながるというか、僕もイベントの企画をするときには体験の希少性を突き詰めるよう心がけています。その体験を口で説明できないところぐらいまで持っていきたいというのを目標にしています。今回の「書を捨てよ町へ出よう」でも、席の後ろの通路を演者の人が走ったりすると、前の方の客は振り返ったりして、空間全体が緊張感のある舞台になっていましたね。

貴:一回性に賭けていく部分があって、しかもその部分をどれぐらい作品に最終的にパッケージングさせていくか。希少価値の高いものを見せることは妥協しちゃだめだと、こんな時代だからこそ特に思いますね。

公演を見る土地によっても、見え方が全然変わってくるものなのです。だから地方の公演に行って、そこの土地ではどういうご飯を食べているのかとか、どんな歴史があるかをなるべく現地の人に教えてもらうことにしています。演劇って、音楽もできるし、照明とかビジュアルのこともこだわれる、しかもストーリーも全てゼロから作れる、まさに総合芸術ですから。

常に次の「違う化学反応が起こる」ことを目指して

卓:各方面とのコラボレーションは、どのようにディレクションしているんですか?

貴:衣装にしても音楽にしても、コラボレーションをする方たちに、こちらのイメージや希望だけを押し付ける事は絶対にしたくないと思っています。それは可能性をすごく狭めてしまうと思うので。例えば、衣装だとこのシーンにこういう服が欲しいんですという話はしたことなくて、このシーンは一応こういうシーンだけど、この役者に似合う服であれば何でもいいです、という感じですね。いろんなものが共存し合い過ぎちゃうと、それってすごくリスクも高くて、散漫なノイズになってしまうということもあり得るわけですが、遠回りの調整をあえて、ずっとしているという感じです。

卓:つくっているクリエーターをリスペクトしているということですよね。違った角度から見ると「農家の顔が見える」みたいな効果もあるのかな(笑)。

藤田 卓也氏

貴:まさにそうですね、最初はできるだけ漠然としたところから始めた方が多分、違う化学反応が起こるんじゃないかな。

卓:勇気の要ることですね。

貴:作品づくりのポテンシャルって幾つかあると思うんですよ。僕も劇場に「この12月に寺山修司さんのこの作品をやってほしい」というオーダーを受けるわけです。じゃあどういうことをすればいいのか、最初は迷いますよね。藤田のコラボレーション力をフルに使いたいのか、役者とがっぷり四つになって演出するのか、寺山修司へのオマージュをやりたいのか、いろいろ方法はあると思う。そこを絞り過ぎちゃうとポテンシャルを引き出せないことになるから、組み合わせのバランスが難しい。

卓:ディレクションの幅を広げて、可能性を最大限に引き出しているんですね。

貴:オーダーされる側は、絞ったことを指示してくれた方が安心するけど、やりやすさって本当は危ないんです。微妙な限界値を上げるための言い方が難しい。

卓:相手が深く考えざるを得ないような状況を、うまくつくってるわけですね。

貴:ドSな感じがあるのかな(笑)。ただ、これまでには失敗もあって、たくさん相手に怒られてきています(笑)。

卓:藤田さんが映像作品や他の分野のクリエーションもやられると面白いんじゃないかなと、今日の話を聞いていて思いました。コンテンツはまだまだ、いろいろな組み方で拡張の可能性がたくさんあると感じました。藤田さんなら、広告の分野との協働でも、一緒に面白いことができそうです。今日は、すごく勉強になりました。

 

<公演情報>
「夜、さよなら」「夜が明けないまま、朝」「Kと真夜中のほとりで」
作・演出 藤田貴大
2016.2.11-2.28/彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
http://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/3387

チャレンジふくしまパフォーミングアーツプロジェクト!「タイムライン」
2016.3.26 sat/福島県文化センター(福島県福島市)
作・演出 藤田貴大 音楽 大友良英 写真 石川直樹 振付 酒井幸菜
出演 福島県の中高生 主催 福島県
http://www.fukushima-performingarts.jp

LUMINE0オープニングイベント レパートリー作品三作同時上演
2016.4.28 thu – 5.8 sun/LUMINE0
「カタチノチガウ」 2016.4.28 thu – 4.30 sat
「あっこのはなし」 2016.5.2 mon – 5.4 wed
「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」2016.5.6 fri – 5.8 sun
http://mum-gypsy.com

藤田 貴大氏プロフィール写真

藤田 貴大

マームとジプシー主宰/演劇作家

1985年生まれ、北海道伊達市出身。桜美林大学文学部総合文化学科で演劇を専攻。 2007年マームとジプシーを旗揚げ。以降全作品の作・演出を担当する。ほぼ2ヶ月に1作という驚異的な数と質で作品を発表し続けている。11年以降、さまざまな分野の作家との共作を積極的に行う。10年6月、坂あがりスカラシップ2010対象者に選抜される。11年6~8月に発表した三連作「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で第56回岸田國士戯曲賞を26歳で受賞。また、演劇以外の活動としては、共作漫画「mina-mo-no-gram」(秋田書店)や「cocoon on stage」(青土社)などを出版。また、初の短編小説である「N団地、落下。のち、リフレクション。」(新潮社)など、活動は多岐にわたる。

藤田氏プロフィール写真

藤田 貴大氏プロフィール写真

株式会社電通 イベント&スペース・デザイン局 プランナー(2016年当時)

2003年4月電通入社。入社以来、イベント・スペース関連部署に所属。 イベント・スペース領域に加え、マーケティング、クリエーティブ、プロモーションなど領域にとらわれないプランニングを実践。