DENTSU LIVE | 電通ライブ

まわり、まわって。Vol.6サトウユカ氏
『バイヤーとクリエイターの、まわり。』

  • May / 20 / 2024

ハロー、みんな。ライブちゃんだよ。
新しい感動づくりのヒントを見つけるため、広告やイベントからちょっと外れた「まわり」のヒトやモノやコトに出会う旅を続けています。

今回は、『バイヤーとクリエイターの、まわり。』を探ってみるよ!
ゲストは、バイヤーとしてショップに置く雑貨や食など幅広いアイテムの目利きや買い付けを数多く担当、あの有名なアーティストのツアーグッズを手掛けてきた、サトウユカさん!第五回目のゲスト、朝倉洋美さんの“気になる「まわり」の人”です。

「モノ変態」の異名で呼ばれるほど、世の中に存在するあらゆるアイテムに愛を注いでいるサトウさん。
どんな「まわり」が広がるのか、とっても楽しみ!
それでは、「まわり、まわって。」スタートです。

 

 

「モノの展示」を追求するべく、仕事を辞めて博物館学を学びに再度大学へ

 

――サトウさんは、商品の企画や販売計画を立てるマーチャンダイザー(MD)や、アーティストグッズの企画など、マルチに活動されてきたそうですね!すっごく楽しそう~~~!最初はどんなお仕事をされてきたのですか??

サトウ:大学卒業後は外資系アパレル企業に就職しました。当時、その企業が日本に進出して、数年くらいの頃で、学生時代に店舗で販売アルバイトをしていたときに、従来の洋服の売り方と全然違う売り方に興味を持ったのがはじまり。

例えば、家族連れが多いお店の場合、店舗の入口に女性と子ども向けにディスプレイするのに対して、ビジネス街はディスプレイを男性向けに変える、みたいな。他にもいろいろな戦略があって、それがバシッとはまるところに凄さを感じたの。システマティックなマーケティングの手法が面白いな、自分もやってみたいな、と思って、アルバイトからそのまま入社することにしたんです。

入社後しばらくして、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)のセクションに配属。VMDは顧客の視点に立って、見やすくて、選びやすくて、買いやすい売り場をつくる仕事のこと。まさに、興味を持っていたマーケティングのど真ん中の仕事で、視覚効果を考えながら商品をディスプレイしたり、店頭をデコレーションしたりする仕事を任されていたんだよ。

――へーーーっ!そんな専門的なお仕事があるんだね~!視覚的な観点から来店した人の購買行動にアプローチしているってことだよね!僕も知らず知らずのうちに影響を受けているかも。

サトウ:とくにその会社は先進的なVMDを展開していたから、すごく勉強になったかな。

――電通ライブも、空間の見せ方を戦略的に考えるお仕事をしているから、共通していることが多い気がする!! VMDのお仕事は楽しかったの??

サトウ:ものすごく楽しかったよ~。だけど、興味を持てば持つほど「これを学問として深く掘り下げられないかな?」って思うようになったの。出身大学の教授にも話を聞いてみると、人がどうやって物を鑑賞するのかを学べる「博物館学」がいいんじゃないかって助言してもらって。

博物館学はVMDと共通するところが多くて、「もう一度大学で勉強しよう」と決めて、大学の人文学部博物館学課程で学ぶことにしたんだ。大学では、標本作りから展示物を魅力的にみせる方法まで幅広く学んだよ。

 

多様な顧客の店舗企画と運営を支援。ジャンルにとらわれないバイヤーの道へ

 

――博物館学、はじめて聞いたな~!仕事で興味を持ったことを大学で学び直すっていう決断もすごい。大学で学んだあとは、どうしたの??

サトウ:当時好きだったプロダクトデザイナーの製品を販売していたイタリアの家具メーカーに就職したの。母親が家具メーカーで働いていて、昔から家具に興味を持っていたから。ただ、1社の製品だけじゃなくて、色々な製品を扱いたいっていう気持ちが芽生え始めて、ジョブチェンジを決意。セレクトショップのCIBONE(シボネ)に就職しました。

ちょうどCIBONEが国立新美術館に出店するタイミングでもあり、準備室でバイヤーアシスタント業務を担当することに。商品の提案やディスプレイ、ギャラリースペースの企画・設営を担当したことが、バイヤーとしてのキャリアのはじまりかな。

それからしばらくして、外注ディレクターから「企業のショップディレクションやイベントの企画を手掛ける会社を立ち上げるから一緒にどう?」と声を掛けられたの。それで、method(メソッド)という会社に初期メンバーとして参画して、本格的にバイヤー兼VMDのキャリアを歩み始めたんです。

――具体的には、どんなお仕事をしていたの??

サトウ:ショップの出店を検討しているクライアントから依頼を受けて、どんなターゲットに向けたお店づくりをするのか、どんなアイテムを置くのか、コンセプトを決めるところから、スタッフの教育まで幅広く担当したよ。

――アイテムをセレクトしたり展示方法を選んだりするだけじゃなくて、コンサルティングも担当していたんだね!なんだか、とてもかっこいい。クライアントはどんな会社だったんですか??

サトウ:クライアントは個人商店さんから大企業まで規模も業種も本当に幅広くて、買い付けるアイテムも雑貨、食べ物、アート、衣服など何でもあり。バイヤーは会社や店舗に所属して働くことがほとんどなんだけど、メソッドという会社に所属して、色々なクライアントや案件を担当していたから、扱うアイテムも多種多様だったなぁ。

methodではバイヤーやVMDなどのMD業務を10年間担当する中で、たくさんのクライアントや仕入れ先とお付き合いさせてもらったことで、幅広いネットワークを構築できたんだ。それは今でも私の財産になってるよ。

 

「モノ変態」が開花。サカナクションとの出会いでツアーグッズのブランディング

 

――メソッドには10年間所属したとのことだけど、その後はどうしたの??

サトウ:ずっと誰かが作ったモノを見つけて売る仕事をしてきたんだけど、いつしか「自分で何かを生み出せる仕事はないかな」と考えるようになったんだよね。そんなとき、デビュー10周年を控えて、ツアーグッズの見直しを検討していたサカナクションから声をかけてもらったんだ。

チームと何度か話し合った結果、「一緒にやりましょう」ということになって、前職を辞めたタイミングも重なり、フリーランスの道を歩むことに。それから、サカナクションのグッズ関連のディレクションも行いながら、フリーランスのMDとしても活動して、今に至るって感じかな。

――有名なアーティストに認められるなんてすごいなぁ!どんなグッズを企画したの?

サトウ:ファンに楽しんでもらえるような面白い仕掛けがあるグッズや、普段使いできるグッズを意識して色々なモノを企画したよ。

サトウ:面白い仕掛けで言うと、6種類のキーホルダーとシークレットアイテムも加えて、ブラインドパッケージで販売したことかな。狙いのひとつは重複したときに近くにいる人と「交換しませんか?」みたいな会話のネタにしてもらうこと。実際にファン同士の輪が広がったきっかけになった話も聞いて、嬉しかったな。

普段使いできるグッズとしては、バッグやポーチのデザインをスタイリッシュな感じにしたり、さらに全国ツアー「懐かしい月は新しい月 “蜃気楼”」のときは世界観を反映して、カップにお皿のデザインが映ると蜃気楼のように月が現れるカップ&ソーサーをつくってみたりしました。

あと、「魚偏に動く」でサカナクションを一文字の漢字にして紛れ込ませた湯飲みは、面白さと普段使いの両方の要素が混ざっているかも。ライブで共有した経験や感動を家に持ち帰り、日常生活の中でそれを再体験できるグッズをつくることを大切にしていたよ。

――すごい!グッズを一からつくるのは、サカナクションのツアーグッズが初めてなのに、どれもユニークだし、おしゃれ。僕も欲しくなっちゃう~~~!こういった経験からも、他の人にはない自分の強みは何だと思う?

サトウ:自分で言うのは恥ずかしいな(笑)。けど、サカナクションの山口さんから「サトウさんは『モノ変態』だね」って言われたことがあって、尋常じゃないくらい「モノ」が好きだから、アイデアにつながる引き出しが多いのかもしれないなぁ。

――「モノ変態」って初めて聞いた!文具とか雑貨とかグッズが好きな人はたくさんいると思うけど、どんなところが尋常じゃないんですか??

サトウ:最近はそこまでじゃないけど、朝起きて最初にすることはAmazonチェック。関連商品がどんどん出てくるから、深掘りしちゃうの。それからインスタチェックに移って流行を確認。さらにやばいときはヨドバシやビックカメラのサイトにも飛んで、気づいたら何時間も経ってる、みたいな。

あと、友だちには「パトロールだね」って言われるんだけど、仕事の合間にとにかくお店をくまなくチェックします。渋谷だったら、ヒカリエ、スクランブルスクエア、ロフト、ハンズ、パルコ…と巡回。5時間くらい平気で経ってることもあるよ。刑事みたいに足で情報を仕入れてる感じです(笑)。

――変態って言われる理由が分かった気がする!(笑)

サトウ:でしょ?(笑)。趣味と仕事の境界がないんだよね。例えば、過去に数回ほど個人的な展示会「CRAZY KIOSK(クレイジーキオスク)」を開催しているんだけど、私が衝動買いしたモノを仕入れ値と同じ価格で売る、利益ゼロっていう狂った企画で(笑)。私が衝動買いしたモノを、みんなにも衝動買いしてもらって「買い物体験って楽しい」って思ってもらうための企画展で、モノを媒介して「衝動」を持ち帰ってもらいたいなって。たとえば、「衝動買いの個展 “食べもの編”」という切り口で、衝動買いの食べもの代表「駄菓子」を中心に企画を立てたこともあるよ。

CRAZY KIOSK(2015年)。ロゴはサトウさんを紹介してくれた、Bob Foundation朝倉さんが手がけたとのこと

CRAZY KIOSK 2(2017年)

 

デジタルほど情報が整理されていない「リアルな空間での買い物」は豊かで楽しい

 

――CRAZY KIOSK、すっごく気になる~!自分の大好きなモノは、皆にも知ってもらいたいものだよね!

サトウ:ライブちゃんがわかってくれて嬉しい!人におすすめしたい気持ちがあるから、どんなモノでも売れてほしいっていう思いはあるんだよね。

だから商品を紹介するポップも、本来は店員さんがつくるんだけど、私は自分で書きたいタイプ。ポップは商品名と価格だけでは伝わらないことを伝える、重要なツールだと思うの。短い文章であっても、そこに何を書くかを大切にしているよ。

例えば、桜の花びらの紙吹雪を詰めたクラッカーのポップに「晴れの日のクラッカー」って書いたんだけど、これは結構話題になった。花びらがはらりと散る様子は、すごく記憶に残るし、合格発表や卒業式みたいな特別な日にもぴったりだなって。ただ、「桜のクラッカーです」って伝えるより、「晴れの日のクラッカー」って書くことで、なんか特別感が出るかなと思ったんだ。

グッズの陳列もポップも、びっくりマーク「!」を大切にしてるんだ。気づきっていうか、足を止めてもらわないと何も始まらないからね。

――なるほどぉ~~~!ちなみに、デジタル空間でも色々な発見ができる時代だけど、リアルな空間でびっくりマーク「!」の体験をする価値って何だと思う?

サトウ:やっぱり五感をフル活用するところじゃないかな。例えば、音楽ライブは配信でパフォーマンスや音楽を楽しむこともできるけど、リアルでしか体感できない音圧や熱気もあるじゃない?デジタルは情報がきれいに整っているけど、リアルはデジタルほど情報が整理されていない空間だよね。だからこそ五感が刺激されて、より記憶に残る体験ができる。そこが価値なんじゃないかなと思っているよ。

――僕もリアルな体験が大好きだよ~~~!サトウさんのお仕事は、電通ライブのお仕事にもよく似ているなぁ。サトウさんは企画やバイヤーのお仕事を通して、電通ライブはイベントを手がけることで、クライアントの魅力を引き出すお手伝いをしているんだけど、企業の理念や全体のコンセプトと、具体的な企画やアイテムをどうやって結び付けているの?

サトウ:まず、目的を徹底的に掘り下げるようにしてるかな。例えば、「東京駅に東京土産を販売する店舗を出したい」と依頼されたとして、ただ単に東京っぽさを感じるグッズを集めるんじゃなくて、背景にはどんな意図があるのかを探るんだ。

実際、話を進めていくうちに、「あ、実はお土産屋さんじゃなくて、駅構内という立地を活かして、日常的にも立ち寄れる、そして特別な日のプレゼントも選べる利便性も兼ね備えたお店が良いんだ」みたいな本当の目的が見えてくるんだよね。そこから店舗全体の構想を詰めて、その上でどんな商品や企画が合うか考えるんだ。

でも、自分のアイデアが100%はまるわけじゃないし、お店もイベントも、開けてみなきゃわからない部分があるから、最初から企画を固め過ぎずに微調整を続けることも重要かな。

TOKYO!!!(東京駅)。バレンタインの時期に、魚のパッケージに包まれたチョコレートを集め、普通のバレンタインとは違う、「大漁」という名目のバレンタイン企画を立案。面白さや目新しさで他店舗のバレンタインと差をつけたそう

TOKYO!!!(東京駅)

 

「まわり」にいる作り手とのつながりが、自分の世界を広げてくれる

 

――なるほど~!勉強になるなぁ。経験とともにキャリアの幅を広げてこられたサトウさん。いまのサトウさんの「まわり」の領域を教えてくださいっ!

サトウ:うーん、難しいなぁ。強いて言えば「クリエイティブ」ですかね。雑貨、飲食、音楽関連まで、ゼロからイチを生み出しているクリエイターの友人が周囲にたくさんいるし、企画を立てるという意味では、私のまわりでもあるかなって。

――確かに、サトウさんはクリエイターでもあるよね!まわりを広げていく大切さについてはどう思う??

サトウ:やっぱり自分の世界がどんどん広がって、毎日がもっと楽しくなるから、大切だなって思う。あと、私にとって人とのつながりってめちゃくちゃ大事で、自分一人だったら、小さな世界にずっと閉じこもってしまうかもしれないけど、まわりにいる人が「ほら、これも面白いよ」って教えてくれるから、新しいことに挑戦するきっかけになるんだよね。

まわりにいるクリエイターたちは、好きなことを仕事にしていて、作るモノすべてに深い愛を注いでいる人ばかり。生み出す過程の苦労はあるけれど、愛が強いなって。どうしても仕事だと売上を追求しないといけなくて頭を悩ませることもあるんだけど、クリエイターたちの想いを知ることが、私を原点に戻してくれるんだ。

――たくさんのまわりを広げることは、サトウさんの仕事や人生にもたくさんの好影響をもたらしているんだね!!とっても熱いお話をありがとうございます!最後に、サトウさんのまわりにいる気になる人を教えてください!

サトウ:日山豪さんという、前職で働いていた時に出会ったテクノミュージシャンで、プロダクトやグラフィックと同じように、目に見えない「音」にもデザインがある、という気づきを受けた方です。「音」を見つめ直す展示会「見えない展示」や、半永久的に新しい音楽を構築し続ける音楽システム「AISO」の開発など、いつも追い続けたくなる活動をしている友人です。

 

 


 

アーティストからも信頼される多才で情熱的なサトウさん。マーケティングや販売戦略をロジカルに考えるクールな頭脳と、「モノ変態」とも呼ばれるほどのアイテムに対する深い愛情が混在している、とっても魅力的な人でした!

趣味と仕事、ゼロからイチとイチからさらにその先を生み出す仕事、それぞれの境界は本来曖昧なものなのかも。曖昧さを超えるのは、シンプルだけど好きっていう気持ちの強さなのかもしれないなぁ~~~!サトウさんのお仕事のスタンスからそんなことを感じたよ!みんなはどうだったかな??

次回はそんなサトウさんが気になる「まわり」を、巡っていきます。
楽しみにしててね。それでは、またね!

 

 

取材・編集協力/末吉陽子
撮影/小野奈那子

サトウユカ

フリーランスマーチャンダイザー

東京生まれ。フリーランスのマーチャンダイザーとして、店舗や商品のコンセプトメイキング、バイイング、プランニング、VMDなどのディレクションを多角的に行う。
ロックバンド「サカナクション」のツアーグッズのプランニングや、東京駅のお土産物屋「TOKYO!!!(トーキョーみっつ)」をディレクションする。2015年より”衝動買い”をテーマにした店舗型個展「CRAZY KIOSK」を不定期開催。

ライブちゃん

電通ライブ所属のインタビュアー/調査員

本名は、「ドキドキ・バックン・ウルルンパ2世」。電通ライブ所属のインタビュアー/調査員。心を動かす、新しい感動体験の「種」を探し求めている。聞き上手。感動すると耳らしきところが伸びて、ドリーミンな色に変色する。