2021/04/13
新しいあしたの体験をつくる。
「L!VE ON PROJECT」始動(前編)
- December / 24 / 2020
新型コロナウイルスの流行で人々の価値観や生活様式が大きく変わり、電通ライブが手がけているイベント/スペース領域においても、根底からその価値を問い直すことが求められています。こうした背景を受けて、2020年10月に立ち上がったのが、全社横断型プロジェクト「L!VE ON PROJECT」。
電通ライブが培ってきたイベントプロデュース力や空間デザイン力といった専門知見を統合しながら、イベント/スペースのオンライン化、バーチャル化対応など、New Normal時代の新しい体験創出にチャレンジしていきます。
今回は立ち上げメンバーの中から3人に、プロジェクト設立の経緯やそこに込められた思いを聞いてみました。
とある社員の書き込みから、すべては始まった
――はじめに、「L!VE ON PROJECT」を立ち上げた経緯を教えてください。
青木:電通ライブはオンラインでのコミュニケーション手段としてMicrosoft Teamsを活用しているのですが、そのチャットに書き込まれた一つの投稿からすべては始まりました。
西牟田:「誰かに聞いてみよう」という、仕事で分からないことを質問したり、パートナーの情報を聞いたりと、社員同士で情報交換できるチャットがあるのですが、そこに突然レディー・ガガのチャリティーコンサートのリンクを貼って、「こんなこと私たちもやりたいですよね」と書き込んだ人がいるんです。
青木:それが、ここにいる山本なんですけど(笑)。
山本:はい、私です……(笑)。当時、緊急事態宣言が発令されて会社に行けなくなり、当然イベントの仕事もなくなってしまい、「これからどうなるんだろう……」とすごく落ち込んでいました。その時、レディー・ガガさんがいろんなアーティストを集めて、医療従事者支援のためのオンラインライブを全世界に配信していて。ものすごく感動すると同時に、私たちもイベントを提供する立場なのに何もできていない、とモヤモヤしたんです。
青木:それで、あのTwitterのつぶやきみたいな思いをTeamsに……。
山本:はい、行き場のない思いを衝動的に書き込みました(笑)。すると、先輩や後輩が次々と反応してくれて、一気に話が盛り上がったんです。西牟田さんなんかは、いきなり「ステートメント書きます!」と言ってくれました。
西牟田:5分ぐらいでバッと書いて送ったよね。
山本:はい。リアルで会ったこともなかったのに、偉そうに「いいですねー」とか返信してましたよね……(笑)。でも、社内に同じ思いを持っている人がたくさんいることに気づいて、すごくうれしかったんですよね。

山本 毬奈
会ったことのない社員との議論で、頭のスイッチが切り替わる
――山本さんの突然の投稿を見て、皆さんはどんなことを感じたのでしょうか?
西牟田:コロナ禍でイベントの価値を根本から問い直さないといけなくなった時、僕としてはオンライン/オフラインを問わず、人々に体験を提供することが本質的な価値だと思ったんです。大変な時期だけど、今まで培ってきた力を活用しながら、新しいことにチャレンジする機会になるはずだと。そこに山本の書き込みがあって、一気にスイッチが入った感じです。
青木:最初は、何かひとつ仕掛けてみよう、くらいの軽い気持ちでした。イベントが中止になったから時間はあるし、暗いムードだから力を合わせて、何か世の中を元気づける楽しいことができればいいよねと。でも話せば話すほど、みんなの課題意識が変わってきた。出てくるアイデアもイベント/スペースの本質的な価値を考え直すことだったり、自分たちの領域自体をアップデートしていくものだったり。そこに共鳴する仲間もどんどん増えていったんです。

青木 峻
西牟田:当初はこのアイデアを、クライアントに提案しようと話していました。でも、ひとつのイベントとしてカタチにするだけでなく、みんなの思いや悩み、使命感など、この場で交わされている会話自体をプロジェクト化すべきだと。なぜなら、世の中に新しい価値を生み出すための議論を、これまで僕らは十分にできていなかったから。世の中の価値観が大きく変わっていく中で、会社がアップデートしていくためには、全社的なプロジェクトとして継続的に取り組むべきだと思いました。
青木:それこそ、同じ会社の人間なのに今まで一度も会ったことのない人、話したことのない人もたくさんいるんですよね。でも、山本の書き込みで頭のスイッチが切り替わった瞬間、初めましての人とも密なコミュニケーションが生まれた。全然知らなかった才能や発想と出会う。さらに、世の中に向けて新しい価値を生み出すという、これまで頻繁には使ってこなかった思考をみんなが少し持つ。それだけでも、僕らの仕事のやり方は変わると思うんです。これはコロナに関係なく大事なことですよね。
山本:チャットに参加してくれたのが、普段コミュニケーションを取ったことのない人たちばかりで、電通ライブにはこんなに面白い人たちがいるのか!と驚きました(笑)。本当にいろいろな性格や考え方の人がいて、発言ひとつ、アイデアひとつに、いつも刺激を受けています。
――チャットで始まった議論を、どのようにプロジェクト化していったのでしょうか?
山本:まずはとにかくみんなでアイデアや意見を出し合い、タイミングを見ながらプロジェクト発足の提案書としてまとめていきました。
青木:アイデア自体はどれも良いけれど、それを実装してカタチにするのはとても大変です。しかも僕らは体質的に、一つ一つの仕事で100点を取りにいく習慣が根付いているので、とりあえずチャレンジしてダメだったらまた次に挑戦する、という新陳代謝の早い進め方に慣れていないなと。
西牟田:クライアントワークだと、正解となるアイデアを決める作業が必ずあります。でも今回に関しては、基本的にみんなのアイデアはどれも正解なんです。だから取捨選択するのではなく、こういう未来もあるし、こういう未来もあるよね、という選択肢を残しながら進めていきました。

西牟田 悠
青木:当初、メンバーの中では年長者だからか、自然と僕や西牟田が資料のまとめ役をしていたけれど、僕ら自身はアイデアの正解・不正解を判断する立場ではありません。一つ一つの芽は大事にしつつ、小さな矢印がバラバラな方向に点在するのではなく、それぞれの方向は多少違っても、引いて見るとゆるやかに同じ方向を向いている。そんな大きな矢印=プロジェクトをつくれたらいいなと。
そこからアイデアの前段となるビジョンステートメントやロゴなどを考えて、役員にも提案し、正式なプロジェクトとして「L!VE ON PROJECT」が誕生しました。
<プロジェクトロゴ>

プロジェクト名には“既存の領域に新たな価値をプラスオンしていく”“新たなマインドでビジネス創出に取り組んでいくスイッチを「ON」していく”など、未来に向けた電通ライブの決意が込められています。
後編では、プロジェクトを立ち上げたことで社内に生まれた変化、そして今後、プロジェクトを通して実現したい未来について語り合います。
新しいあしたの体験をつくる。
「L!VE ON PROJECT」始動(後編)
- December / 24 / 2020
2020年10月に立ち上がった、全社横断型プロジェクト「L!VE ON PROJECT」。
電通ライブが培ってきたイベントプロデュース力や空間デザイン力といった専門知見を統合しながら、イベント/スペースのオンライン化、バーチャル化対応など、New Normal時代の新しい体験創出にチャレンジしていきます。
立ち上げメンバーにプロジェクト設立の経緯や、そこに込められた思いをインタビューした前編に続き、後編ではプロジェクトがきっかけで社内に生まれた変化や、今後プロジェクトを通して実現したいことを聞きました。
電通ライブ社員に生まれた、ゆるやかな仲間意識
――「LiVE ON PROJECT」を立ち上げて、新たに気づいたことや発見はありますか?
山本:私は、今までクライアントから課題を頂いてばかりで、自ら課題を発見することを全然やってこなかったんだと気づきました。良い意味で、すごく悩みました。
青木:「クライアントワークじゃないことが、こんなにも難しいとは思わなかった」という意見もありました。確かに、進め方もスピード感も普段のプロジェクトとは違うので、そこが大変であり、刺激的でもありますね。
西牟田:僕もこれまで、課題を漠然と考えていたことに気づきました。例えば同じ上京して一人暮らしの学生さんでも、コロナ禍でバイトができなくて困っている人もいるし、逆にオンラインでのコミュニケーションが増えて友達と仲良くなった人もいる。一人一人状況が違うんですよね。「L!VE ON PROJECT」自体が一人の悩みから生まれたものですしね。そういう意味で、身の回りの解像度が上がったというか、前よりも一人一人の悩みや思いに目を向けられるようになったと思います。
――会社に対する思いや、社員同士の関係も変わりましたか?
山本:もともと個人商店というか、一つのプロジェクトに対して電通ライブのメンバーは2〜3人、あとは協力会社とクライアントという座組みが多かったので、あまり社内の人と関わりがありませんでした。1000人ぐらいいますもんね?うちの会社。
西牟田:いや、1000人はいないんじゃないかな(笑)。500人ぐらい?
山本:失礼しました……(笑)。でも、そのくらい社員についてよく知らなかったのですが、今回のプロジェクトを通して急に距離が近くなった気がしました。今では勝手に仲間意識を感じています(笑)。

山本 毬奈
青木:プロジェクトの視点がどんどん中長期的なものへと変化していくうちに、僕らがこれをやる意味や、これから会社がどうあるべきかについても向き合うようになりました。そのプロセスを通じて、みんなの中で徐々に仲間意識が生まれてきたと思うんです。僕もこれまでは個人商店のような感覚で動いていて、隣の席の人が何をしているのかすら知らないこともありました。
西牟田:青木さんは基本的に席にいないですもんね(笑)。
青木:そうだね(笑)。でも、一つの会社にこれほどまで多種多様な才能や発想が集まっているのに、それを取り入れたり、逆に提供したりせずにいるのは、すごくもったいないことだと気づいたんです。もっと有機的につながることができるはずなのに、勝手に壁をつくってしまっていたんだと。山本の投稿をきっかけに、個人・部署・ユニット・地域といったセクショナリズムが一気に崩れて、逆に会社という大きなつながりを再認識して、ゆるやかな仲間意識が生まれた気がしています。

青木 峻
自発的にアクションを起こす「体質」を根付かせることが大事
――先ほど、会社の未来に向き合うきっかけにもなったという話が出ましたが、具体的にどのようなことを考えたのでしょうか?
山本:コロナ禍でリアルな体験が全面的に良しとされない世の中になり、私たちの価値ってなんだろうとすごく悩みました。私たちにしかできないことは何か、私たちの強みは何か、みんなで議論して、たどり着いた答えは、「リアル/バーチャルという線引きで考えず、感動する体験を時代に合わせて提供し続ける」ということ。そのためのポテンシャルを磨き続けることが大事だと思うようになりました。
西牟田:これまで、僕たち自身が誰よりも、リアルとバーチャルを強く線引きして考えていた気がします。それがもしかすると、新しいことにチャレンジする上で足かせになっていたかもしれません。

西牟田 悠
青木:それから、良くも悪くも僕らには黒子文化が身についています。自分の仕事だけれど、あくまで最終的にはクライアントのモノ。それはある意味で正しい姿勢かもしれないけれど、この先、リアルとバーチャルの線引きがなくなって可能性がグンと開けたとき、もっと自分の意思や個性をぶつけて課題と向き合わないと、新しい価値を生み出すことはできないのではないかと思います。
西牟田:クライアントから具体的な課題を与えられるだけでなく、僕らがこれはやるべきだ、やった方がいいという思いから仕事を生み出すことも大切ですよね。
東日本大震災の時もそうでしたが、社会が大きな困難と直面したとき、クリエイターやアーティストは自分たちが持っている力を使ってすぐに動きます。一方、僕らのような組織は、お金やリソースをどう動かすかという問題もあるし、自発的に行動することに慣れていなかったりします。だからこそ、自分たちで課題を見つけてアクションを起こすという「体質」を、このプロジェクトを通して根付かせておくことが重要だと思っています。もしも、またイベントという価値の根底を揺るがす何かが起きたとき、この「体質」があれば、どんな苦難も乗り越えていけるのではないでしょうか。
イベントの枠を超えた体験価値を、パートナーと一緒につくりたい
――最後に、「L!VE ON PROJECT」でこれから実現していきたいことを教えてください。
西牟田:僕は「L!VE ON PROJECT」で、新しい体験のカタチをつくりたいと思っています。イベントという枠組みを超えて、もっと広い意味で、ブランドや企業のアクティベーションにつながるような体験価値を生み出す。これは1社だけでできることではないので、クライアントやパートナーとの連携を増やして、一緒に取り組んでいきたいと思います。
山本:私もクライアントと一緒に課題を発見したり、私たちと同じ課題意識を持つクライアントやパートナーと、一緒に新しい仕事をつくりたいです。また、このプロジェクトを通じて社内の一人一人が個性を発揮しやすくなるといいなと思います。個人が輝くことで、会社ももっと輝いていくと思います。
青木:今、さまざまな業界で、個人の発信や熱量のあるレコメンドがマスコンテンツ以上に強い共鳴を生んでムーブメントになるケースが増えていると思います。イベントやスペース領域においても、僕は個人の熱量や「好き」という思いこそが他にはない個性となり、唯一無二の体験価値を生み出すと思っています。
だからこそ、まずは社員の「好き」や「熱量」を発掘することから始めたいです。それぞれに熱量のある人間がもっと関わることができれば、それはクライアントにとっても、その先のユーザーにとっても間違いなく良いことですよね。
西牟田:それから、今回のように小さくチャレンジして育てていくという仕事のつくり方を増やしていけるといいですよね。
山本:以前、青木さんが「一度きりの大きな波を起こすのではなく、さざ波がずっと続いている状態をつくりたい」と言っていましたが、まさにそれですね。
青木:こういうプロジェクトは、すぐに結果を出そうと気負い過ぎると続かないんです。分かりやすい結果が出なくても、考えていたプロセスが他のプロジェクトに与える影響は少なくありません。小さな波を起こし続ければ、いつか大きな波につながると信じています。
西牟田:続けることが価値になると思います。そのためにも、社内外に向けてさらに情報発信をして、新しいプロジェクトをどんどん生み出していきましょう!

青木 峻(あおき しゅん)
電通ライブ 2020オリンピック・パラリンピックユニット プランナー/プロデューサー
2007年電通テック入社。国内外の大型展示会やPRイベント、プロモーション・ブランディングイベントなど、幅広くイベント/スペース領域のプロデュースに携わる。2015年のミラノ万博、2016年のリオオリンピック・パラリンピックなど、国際的な超大型イベントも経験。テクノロジーを掛け合わせた体験やパフォーマンスの企画・制作を得意分野とし、電通ライブ発足後は、クライアント直案件や来場者参加型の展覧会の企画プロデュースなど、既存の枠組みや領域にとらわれない活動に積極的に取り組んでいる。

西牟田 悠(にしむた ゆう)
電通ライブ クリエーティブユニット プランナー
2009年電通入社。イベント/スペースデザイン領域で、プランニング・プロデュース業務に携わる。2017年から電通ライブへ。大型展示会やプライベートショー、プロモーションイベント、施設・ショップのプロデュースなど、国内外の実績多数。さまざまな領域のパートナーとコラボレーションし、新しい表現に挑戦している。

山本 毬奈(やまもと まりな)
電通ライブ プロデュースユニット プロデューサー
2011年電通テック入社。印刷販促物・ウェブなどのプロモーションに携わった後、イベント/スペース領域のプロデュースに転向。大型展示会の主催事務局や、プライベート展の他、化粧品クライアントのポップアップイベントやPR発表会の企画制作などを手掛ける。1児の母。「作る人も参加する人も、感動するイベントづくり」がモットー。
拠点を超えて共鳴するアイデア。
「L!VE ON PROJECT」がもたらす
化学変化とは?
- April / 13 / 2021
2020年10月に電通ライブで立ち上がった社内横断型プロジェクト「L!VE ON PROJECT」。New Normal時代の新しい体験創出にチャレンジすべく、年次や部署、そして拠点も越えたコミュニケーションが生まれています。
今回は同プロジェクトのサポートメンバーである、東京本社の梅枝真衣、関西支社の中辻謙一、名古屋支社の河合はるかに、プロジェクトを通して生まれている変化や、具体的なアクションについて聞いてみました。
各拠点で生まれていた、「何かできることはないか?」
―はじめに、「L!VE ON PROJECT」に参加した経緯をそれぞれ教えていただけますか?
中辻:もともと関西支社では、2020年に緊急事態宣言が発出されたタイミングで「何か次の手を打たなければ」という課題意識から、部署や年次を越えて情報共有や勉強会を行うタスクフォースを立ち上げていました。そこでは週次でオンラインミーティングを実施し、みんなが持っている強みや事例、アイデアなどを共有し合い、ディスカッションをしたりアウトプットを模索したりしていました。そのタスクフォースに名古屋支社の河合さんも入っていただいたんですよね?
河合:はい。コロナ禍で全社的にスタートした「ライブノラジオ」という社内向けラジオに出演したことがきっかけで、中辻さんに声をかけていただきました。関西と名古屋は距離が近いはずなのに、話してみると意外と知らないことが多く、フランクに情報交換する中で自然に東名阪のつながりが生まれてきました。
梅枝:その頃、東京では前回のインタビューにもあったようにTeamsのスレッドで「この時期だからこそ、何かできることはないかな?」という議論が盛り上がり、そこに私も参加していました。すると、「関西と名古屋でも同じようなことを考えている人たちがいるらしいよ?」という噂が流れてきて(笑)。他のチームでも似たような動きが生まれていたので、みんなに声をかけて徐々に一緒に活動するようになりました。
―部署や年次だけでなく、地域の壁も越えて活動していく中で、生まれた変化や気付きはありますか?
河合:東京、関西、名古屋でミーティングの進め方や空気感がけっこう違うんですよね。例えば、関西はアットホームで雑談しながらアイデアを生み出していったり。
中辻:議題とまったく関係ない日常の話をしたり(笑)。
河合:すごく良い空気感ですよね。もちろん、地域で一括りにできることではなくて、人によって打ち合わせのやり方、議事録の作り方ひとつ取っても異なるので、それが見られるだけでも若手にとっては刺激になります。
梅枝:私は部署柄、関西との交流も度々あったので、支社のこともよく知っているつもりでした。でも実際に「L!VE ON PROJECT」で色々な人たちと交流するようになると、知っていたのはほんの一部でしかないし、自分の中で勝手にイメージを作っていた部分もあったのだと気付かされました。
河合:わかります。東京は「カッコいい人たちの集まり」っていう先入観を持っていました(笑)。今もそのイメージは大きく変わらないですけれど、フラットにコミュニケーションしていくことで、一人ひとりの個性や強みがより具体的に見えてきました。
中辻:社内にいるタレントの多さを発見できましたよね。
全社アンケートで、社員の強みや個性を見える化
―プロジェクトを通してタレントの多さを発見できたとのことですが、具体的にどうやって社員の強みや個性を見つけているのでしょうか?
梅枝:色々とあるのですが、個人的に便利だと感じているのが「Milanote」というツールです。もともとTeams上で生まれたプロジェクトを経緯も含めてストックし、見える化するためのツールとして活用し始めたのですが、その一環として全社員にアンケートを取ったんです。
河合:「L!VE ON PROJECT」は社員全員のプロジェクトなので、私たちサポートメンバー以外の人たちの意見や考えていることも可視化したいという思いがありました。
梅枝:その中で、自分が得意なことや好きなことも答えてもらったんですよね。結果を見ると、「こんな特技を持っている人がいるのか!」と驚きの連続で。
中辻:めっちゃ分かります。これまであまり公言していなかった特技やバックグラウンドを書いてくれた人もいますからね。
梅枝:「この分野に詳しい人いないかな?この案件、得意な人いないかな?」と考えるとき、今までは自分のつながりの中でしか探せなかったのですが、選択肢が一気に広がりました。助けてほしいときに投げかければ、社内に答えを持っている人が必ずいるという心強さ、会社としての強さを感じています。
河合:博物館の学芸員の経験があったり、ダンスがめっちゃ得意だったり。実際に社会福祉士の資格を持っている人にシニアプロジェクトの相談をする動きなども生まれていて、これまで活かしきれていなかった社員の才能や興味を一気に引き出すことができるようになりましたよね。
中辻:ヨーヨー検定員とか、どんな資格!?って思うものもいっぱいありますよね(笑)。でも、このプロジェクトはみんなが主体的に参加することが重要なので、一人ひとりの興味や持っているものと向き合うことが大切なんです。社員の個性を見える化できたことは、大きな一歩ですよね。
「L!VE ON PROJECT」から生まれた「検温のエンタメ化」プロジェクト
―「L!VE ON PROJECT」の中から生まれたアイデアやプロジェクトを教えていただけますか?
河合:月1回、「L!VE ON VOICE」というウェビナー形式の社内共有会を設けているのですが、そこで私が仲間と一緒に発表したのは「検温」と「ARフィルター」を掛け合わせたアイデアです。今や、あらゆる施設で入場時の検温は当たり前のものになりつつあります。でも、コンサートやイベントでワクワク感が昂っているとき、検温があると一気に現実に引き戻されてしまうと思ったんです。そこで、検温機器にARフィルターを取り入れることで、検温画面にキャラクターが登場するとか、好きなアイドルが耳元で「36.5C°だよ」と囁いてくれるとか(笑)、検温という行為自体をエンタメ化できないかと考えました。
中辻:イベントや空間を感動体験に変えるという、電通ライブの理念にマッチしたすごく良いアイデアですよね。
河合:発表時は「どうビジネスにするか?」という部分が見えていなかったのですが、発表後に検温機器メーカーとコネクションがある人から情報共有してもらったり、マネタイズ化するためのアドバイスをいただけて、実際にプロジェクト化に向けて動き始めています。
中辻:このアイデアは若手起点のものですが、他にも関西支社の大先輩が新しいプロジェクトを発表してくださったり、電通グループの中にあるソリューションや取組みとの協業を企画したりと、さまざまなレイヤーからアイデアが生まれているのが良い傾向ですよね。
梅枝:個人的に応援したいなって思ったのが、2年目の若手が発案した「協力会社でのインターン制度」。コロナ禍もあって、なかなか現場で経験を積む機会が少ない中、照明会社や什器メーカーなどの協力パートナーに身を置くことで実際のモノづくりを学びたいというもの。自分が不安に感じていること、課題だと思っていることを全社に向けて発信してくれたことに意味があるし、これを発表して終わりではなく、形にするところまで持っていくのが私たちサポートメンバーの役割だと改めて感じました。
思いを発信できる人、その声に耳を傾けてくれる人が増えた
―「L!VE ON PROJECT」をきっかけに、会社全体に少しずつ良い変化が生まれているように感じたのですが、その実感はありますか?
中辻:今まで自分の思いやアイデアに蓋をしていた人たちが、発信できる空気感が生まれているような気がします。もちろん全員ではないですが、少しずつ声を出せる人が増えて、耳を傾けてくれる人も増えてきましたよね。正直、これまでは自分が携わっていない案件はどこか他人事のような意識があったかもしれません。それがどんどん自分ゴトになっていくし、場合によっては自分も参加することだってできる。この変化は、意外と今までなかったんじゃないかと思います。
河合:実際に携われるかどうかは別にして、少なくとも自分が関わりたいと思ったらチャットで気軽に参加できる雰囲気がありますよね。
梅枝:みんなも自分が好きなこと、得意なこと、自分が持っているネットワークを惜しみなく共有してくれるようになった気がします。
河合:年代、部署、地域に関係なく、アンケートで集まった社員のプロフィールを見て、チーズのことはこの人に聞いてみよう!焼き鳥の案件はこの人に相談してみよう!とフラットに考えられるようになったことは大きな変化ですよね。
中辻:本当にそう思います。チーズとか焼き鳥とか、例が偏っているのは気になるけど(笑)。
<プロジェクトロゴ>

プロジェクト名には“既存の領域に新たな価値をプラスオンしていく”“新たなマインドでビジネス創出に取り組んでいくスイッチを「ON」していく”など、未来に向けた電通ライブの決意が込められています。
「L!VE ON PROJECT」を企業文化にしたい
―今後さらにプロジェクトを活性化させるために、どのようなアクションが必要だと思いますか?
河合:「LiVE ON PROJECT」から生まれたプロジェクトの担当者にヒアリングしたところ、「アイデアを出す段階では自由にやりたいことを言えるけれど、実際にプロジェクト化して動き始めると当然ながら責任が出てくる。チームや部署を越えたメンバー構成だと、各々が抱えている業務量や、得意/不得意な作業がわからなかったりする」というフィードバックを頂きました。そこはサポートメンバーも一緒に考えていかなければならない課題だと感じています。
梅枝:組織が大きくなるほど、マネジメントの役割が重要になりますよね。通常業務との折り合いがつかないと、結局「L!VE ON PROJECT」が後回しになっていき、どんどん停滞してしまいますからね。
中辻:このプロジェクトは、ロングテールで継続すべきもの。短期的に何かを生み出すことにこだわるのではなく、何か新しいことを生み出すときの起点としてずっと寄り添い続けて、やがて企業文化として定着していけると良いなって思っています。
梅枝:色々なアイデアが集まる中で、「マネタイズはどうするの?」「クライアントはどこにいるの?」という課題にぶつかっているものもたくさんあります。そこを乗り越えることができれば、個人のビジネスパーソンとしても、組織としても強くなれると思います。
河合:そうですよね。イベント/スペースという枠組みを越えるアイデアも生まれているので、それを実際にプロジェクト化して世の中に価値提供できれば、会社の可能性も拡がっていくと思うんです。もしかすると10年後、電通ライブはイベント/スペースの会社じゃなくなっているかもしれない。そのきっかけが「L!VE ON PROJECT」だった。そんな未来も素敵だなって思います。
中辻:二人のコメントが的確過ぎるので、僕からはもう何も言うことはありません(笑)。こんなに話していますけれど、実は対面でお会いしたことがないんですよね。
梅枝:そうなんですよ。中辻さんが本当に実在する人なのか、AIなのかはまだわかりません(笑)。
中辻:コロナが落ち着いたら、リアルで集まって対面でも議論したいですね。
梅枝:ぜひぜひ!合宿したいです(笑)。
河合:行きましょう!チーズと焼き鳥持っていきます!

中辻 謙一(なかつじ けんいち)
電通ライブ リージョンユニット プロデューサー/プランナー
2007年電通テック入社。イベントを起点とした統合的なソリューション企画・設計を中心に、領域に捉われない360°の体験デザインを核として、プランニング・プロデュース業務に取り組む。電通ライブでは音楽を通じたコンテンツビジネスにも携わり、行政や企業とのコラボレーション開発も実践。また、グローバル企業の国内ローンチやコミュニティ運用のファンマーケティングなどの実績多数。未来の顧客体験を考えるイベントのDX化など、オールラウンドでの価値創出に取り組む。

梅枝 真衣(うめがえ まい)
電通ライブ クリエーティブユニット プランナー
2017年電通ライブ入社。プロモーションイベント、B to Bイベント、施設・ショップ等のプロデュース現場を経て、マーケティングプランニングに従事。中央省庁、地方自治体から自動車や食品メーカー、エンタメ業界まで幅広く担当。電通食生活ラボのメンバーとしても活動中。イベントの枠にとらわれず「新しい仕事を作る」ことを目指している。

河合 はるか(かわい はるか)
電通ライブ プロデュースユニット プランナー
2018年電通ライブ入社。名古屋を拠点に、イベントプロモーション領域で、プランニング・プロデュース業務に携わる。自動車関係の大型展示会の演出、スポーツイベントの運営を経験。「誰も取り残されないイベント」をモットーに、インクルーシブな視点を大切にしている。支社の垣根を越えたコミュニケーションを通じて、まだないコラボレーションの可能性・ビジネス展開を模索中。
問いと対話から未来の価値を創る
「New WORKSHOP」
- June / 25 / 2021
新型コロナウイルスの流行は、私たちの価値観と生活様式に大きな変化をもたらしました。ビジネスにおいても、これまでの「公式」が通用せず、新しい答えの出し方、新しい課題の見つけ方を求められるシーンが増えています。
私たち電通ライブはこれからどんな仕事に取り組むべきか。どんな力をつけていくべきか。そんな「問い」そのものを創出するためのワークショップが、「New WORKSHOP」です。
今回は運営メンバーの飯塚七海と、第1回のファシリテーターを務めた株式会社MIMIGURI の小田裕和氏に、プロジェクト立ち上げから初回ワークショップ実施までのエピソードを語り合ってもらいました。
<New WORKSHOPについて>
社内横断型プロジェクト「L!VE ON PROJECT」から生まれた、これからの時代に電通ライブが向き合うべきテーマそのものの発見を目指すワークショップ。2021年5月に第1回「新しい五感の可能性を開発する、ワークショップ」をオンライン形式で開催した。
<株式会社MIMIGURIについて>
2021年3月、株式会社ミミクリデザインと株式会社DONGURIが合併して設立された新会社。DONGURIが専門としてきた「マネジメント」と「デザイン」の実践知。ミミクリデザインが専門としてきた「ファシリテーション」の実践知と理論的基盤。そして両社が大切にしてきた「遊び心」と「クラフトマンシップ」の思想を継承し、多種多様なクライアントの事業や組織に関わる支援を実践している。
「公式」が通用しない時代。そもそもの「問い」を生み続ける場が必要
―はじめに、New WORKSHOP立ち上げの経緯を教えてください。
飯塚:リアルを生業としていた電通ライブにとって、コロナショックはとてつもなくインパクトのある出来事でした。仕事のやり方が一変し、今までとは違う新しい仕事を生み出していかなければならない状況の中、「そもそも電通ライブの価値ってなんだろう?」という問いがL!VE ON PROJECTメンバーを中心によく議論されていました。そこで、これからの時代に必要な新しい「問い」自体をみんなで考える場を作ろうと試行錯誤した結果、ワークショップという形式にたどり着いたのです。
―MIMIGURIに協力を仰いだのはなぜでしょうか?
飯塚:短期的なプロジェクトではなく、継続的に社内から新しい問いが生まれ続ける場を作りたいと考えていました。そのためには、運営チームがワークショップのファシリテーションスキルや、問いを生み出すスキルを学び続ける必要があります。MIMIGURIは、「ワークショップデザイン」や「問いのデザイン」をはじめとした、組織やチームの創造性を引き出す知見について高度に研究・実践されている企業なので、ぜひ色々と教えていただきたいと思ってお声掛けしました。
―小田さんは最初に話を聞いたときの印象はどうでしたか?
小田:コロナ禍で前提が大きく変わってしまい、今までのアプローチがうまくいかずに悩んでいる企業の方は多くいらっしゃいます。僕らもずっと対面でワークショップをやってきたので、この機会に自分たちを見直すことがたくさんありました。その際、オフラインの価値をオンラインで届ける方法をつい考えてしまいがちなのですが、そもそも今の時代に良いとされるものはなんだろう?という前提に立ち返ることが重要だと考えています。その意味で、「そもそもの問い自体を考える」という視点に共感しましたし、ワクワクしたことを覚えています。

小田 裕和氏
―MIMIGURIのワークショップに対する考え方についても少し教えていただけますか?
小田:ワークショップと聞くと、付箋を使ってみんなでブレストして……というイメージが強いと思いますが、そこは本質ではないと考えています。ワークショップは100年以上の歴史がある中で、人々の物事に対する考え方や価値観の変容、そしてミミクリデザイン時代のスローガンでもある「創造性の土壌を耕す」ことに大きく寄与してきました。合併し、MIMIGURIに社名が変わってからも、組織やチームの創造性を引き上げるための営みとしてワークショップを活用し、その方法や場のデザインについて日々研究と実践を続けています。
飯塚:「答えを出すこと」を目的とした研修はたくさんあったのですが、本質的な問いを生み出す方法を学びたいと思ったとき、まさにMIMIGURIが実践されているワークショップにヒントがあるはずだと確信しました。
企業理念「MOMENT OF TRUTH」を問い直す
―第1回ワークショップのテーマ「新しい五感の可能性を開発する」にたどり着くまで、どのようなディスカッションを行いましたか?
飯塚:電通ライブは「MOMENT OF TRUTH」という企業理念を掲げています。私は入社して3年目になりますが、意外とこの言葉の意味を深く考える機会がなかったと気付いて。真実の瞬間ってなんだろう?という議論を小田さんたちと交わしながら、少しずつテーマを固めていきました。
小田:最初から「答えをください」というスタンスではなく、自分たちで理想の姿を考えていく姿勢だったので、僕もワークショップのベースになる考え方はレクチャーしつつも、教える立場というよりは一緒に探求する立場で関わることができました。
飯塚:いやいや、たくさん教えていただきましたよ。例えば、私が最初に教えていただいたのは「質問」と「発問」と「問い」の違い。何がどう違うのか分からなかったのですが、「質問は相手が答えを持っていて、発問は聞く人が答えを持っていて、問いはどちらも答えを持っていなくて両者で深めていくもの」と教わったとき、今までに使っていなかった脳を使う感覚があって(笑)。これまで企画を考える機会はたくさんあったけれど、こういう視点で物事を考えたことはなかったので、それを参加者にも感じてもらえるワークショップにしたいと思いました。

飯塚 七海
小田:ありがとうございます(笑)。僕の立場から「こうした方がいい」と答えを出してしまうと、それを言った瞬間に皆さんが自分ゴト化できなくなることも多々あります。僕らが客観的に良し悪しを評価するテーマでもないので、答え探しではなく、皆さんが問いを深めていくための対話をすることを心掛けていました。
飯塚:はい、対話を経て最終的にまとまったのが、「真実の瞬間に五感は欠かせない」という視点。そこで、五感に焦点を当てたワークショップを実施することにしました。
回り道するからこそ到達できる、より深く本質的な「問い」
―当日のワークショップの様子について教えてください。
飯塚:「五感の失われた状況を描く」というテーマで、視覚・味覚・触覚・嗅覚・聴覚の5グループに分かれ、視覚グループなら視覚が失われた子どもを抱える家族の暮らしやコンテクストをイメージすることから始めました。その後、失われたことで分かる五感の価値を言語化し、最終的には電通ライブの価値を探るための「問い」を立てるところまで実施しました。
小田:「電通ライブの価値を五感で整理してみましょう」というアプローチ方法もありますが、人間の思考プロセスにおいて、その人が本当に考えていることや深い思考には最短距離ではたどり着かないことが分かっています。普段、仕事で企画を作るときに五感が失われた状況なんていちいち考えないと思うんです。でも回り道をしてイメージしてみると、いつもとは異なる思考がどんどん膨らんでいき、結果的に新しい物事の捉え方や考え方が生まれます。
飯塚:味覚グループでは、単純に食べ物の味がしない状況の話から「食事から広がるコミュニケーションってなんだろう?」と発展していき、「食事中に感想を共有し合うことが、美味しさを増幅させる」という価値にたどり着きました。さらに食事をイベントに置き換えて「感想を共有し合うことが、イベントの“味わい深さ”につながるんじゃないか」と、だんだん仕事の話に近づいていったのが印象的でした。これは「電通ライブの価値ってなんですか?」と聞かれてもすぐには出てこなかった視点ですよね。

WSではオンラインホワイトボードツールを活用して問いを生み出し、深めていった
小田:「味わう」という言葉が、問いをデザインする上で非常に大切なワードですよね。「楽しむ」と意味は同じようで、例えば「オンラインでコミュニケーションを楽しむ体験を作るには?」と「オンラインでコミュニケーションを味わう体験を作るには?」では、出てくる答えの深さや質は変わると思うんです。そこが問いのデザインの価値ではないでしょうか。
飯塚:参加者からも「イベントと五感が密接に関係していることに改めて気付けた」「通常の業務でも、すぐ解決策に飛びつくのではなく、そもそもの課題自体を見つめ直すことが大事だと感じた」といった好意的な感想をたくさん頂けました。
変革期に生き残るのは、本質的な答えを考え抜いた企業
―今回のワークショップをワークショップで終わらせないために、小田さんからアドバイスを頂けますか?
小田:問いがあるからといってすぐアイデアにつながるわけではないので、今回生まれた問いを日常に落とし込んで問い続けることが大切です。かつて上野公園で休憩する労働者の寝相と服装をひたすら観察し続けた今 和次郎の考現学のように、例えば「味わう」であれば「今日は何を味わえただろうか?」と内省したり、「目の前を歩いているこの人たちは何を味わっているのだろう?」と考え続けることで、新しい価値を生み出すことができるのではないでしょうか。
飯塚:3年目の私としては、良くも悪くも会社のやり方や答えの出し方に慣れてきている部分もあります。でも今回のワークショップを体験して、自分の中でクエスチョンが生まれたときは立ち止まって問い続けたいと思いました。
小田:コロナ禍で多くの人や企業が通勤する意味や東京に住む意味、オフィスを持つ意味などを問い直したように、人間の本質的な営みが変わる変革期に僕らは立っています。そこにお決まりの答えなどはなく、一人一人が、一社一社がそれぞれの答えを出していかないといけません。そのためには、如何に本質に近づけるかが重要で、歴史を振り返ってみてもそれを考え抜いた人たちが残り、その場凌ぎの人たちは淘汰されています。
本質を問う、と聞くと難しいイメージを持たれるかもしれませんが、本質的な問いを投げ掛けるのが一番上手なのは子どもなんです。ロジックは気にせずに素朴に問う、それこそ楽しみながら問う。それができる環境を企業として用意することも大事だと思います。例えば、上司部下の関係で素朴な問いを歓迎するとか。
飯塚:そうですよね。ワークショップから生まれた問いを共有して、電通ライブのみんなで触れていく機会を作りたいなって思います。
小田:その問いを社内だけでなく、ぜひクライアントにも広げていただき、一緒に問い合う関係性から新しいものが生まれることを楽しみにしています。
飯塚:問いを立てること自体が新しい感覚だったので、今後プランニングをする際にも今までとは違うアプローチにチャレンジできる気がしました。今回の問いはさらに探求していき、新しいソリューションを生み出すことや、新しい電通ライブの価値を発見することにつなげていきたいと思います。小田さん、本日はありがとうございました!

小田 裕和(おだ ひろかず)
株式会社MIMIGURI マネージャー
1991年生まれ。千葉県出身。千葉工業大学大学院工学研究科工学専攻博士課程修了。博士(工学)。新たな価値を創り出すための、意味のイノベーションやデザイン思考といったデザインの方法論や、教育と実践のあり方について研究を行っている。MIMIGURIでは、新たな意味をもたらすための商品・事業の開発プロジェクトを中心に担当している。主な著書に『リサーチ・ドリブン・イノベーション-「問い」を起点にアイデアを探究する』(共著・翔泳社)がある。

飯塚 七海(いいづか ななみ)
電通ライブ クリエーティブユニット プランナー
2019電通ライブ入社。体験デザインに軸足をおき、入社時より多領域のイベント企画・実施とスペース開発に従事。これまで、国際的スポーツ大会の式典、各種ブランドのPOP-UPイベントやPRイベントなどを担当。直近ではオンライン上のファンコミュニティの企画開発およびマーケティング活用にも携わっている。
人から社会までも潤すグランピングへ(前半)
- March / 11 / 2021
多くのメディアで取り上げられ、今やアウトドアの楽しみ方として定着したグランピング。その広がりはやがて、個人だけではなく社会まで癒やす力となり得るのではないか――。
そんな可能性に貢献するため2019年、「ABC Glamp&Outdoors」は朝日放送や電通グループなどの出資で設立されました。中心となったのは、日本初のグランピング・マガジン「Glamp」の発行責任者・編集長の吉村 司氏。日本におけるグランピングの先駆者です。そこで、これからのグランピングと電通ライブの役割、そして「ABC Glamp&Outdoors」が目指すものについて、吉村氏と弊社の成影 大にたっぷり語り合ってもらいました。
前半では、グランピングの現状から設立の経緯までを語ります。
グランピングの現在。
成影:コロナの影響で屋外での体験価値が高まっていることもあり、グランピングもすっかり世間に定着しました。その魅力は何だと思いますか?
吉村:インドアとアウトドアのいいとこ取りをスタイリッシュにできる点ですね。キャンプだと自分で購入したギアを自分で建てて、食材も持参して、火を起こして、料理をする。テントを建てるだけでも初心者にとってはハードルが高い。だけど、グランピングは手ぶらでいいんです。テントもベッドも食材もバーベキュー設備も、みんなある。トイレもあるし、シャワーもあるから女性も困りません。それで自然を楽しむことができる。人気は出ますよね。
成影:キャンパーからは「そんなのアウトドアじゃない」って厳しい声もありました。
吉村:その通りなんですから反論のしようがない(笑)。グランピングはスタイルなんです。日本の気候にも合った、大人から子どもまで楽しめる、ひとつのアウトドアスタイル。四季のある日本は、実はテントを中心としたキャンプには厳しいところがある。梅雨をはじめ雨は多いし、風も強い。初めてのキャンプの日が悪天候だと、女性の方はもうそれ以後は無理となります。
成影:キャンパーを目指す男性は、雨に打たれて一人前になっていくと思っている人が多くて、どんな環境下でもキャンプを楽しもうとがんばったりしますよね(笑)。

(左奥)成影 大、 (手前)吉村 司
吉村:それじゃ特定の人の限られた楽しみで終わるじゃないですか。自分のテントじゃないけれど自然を感じることができる空間があってもいいよねという考えが、ドーム型のテントになったり、宿泊施設になったり。昔は寝袋で寝るもんだったのがベッドになり、風呂やトイレなど水まわりも整うことで清潔になり、女性なら化粧もできるようになる。つまりこれまでの常識にとらわれず、いかに自然を快適に楽しむか、それを突き詰めているのがグランピング。これなら私でも楽しめると気づいた女性がその感動を広めていったんです。
成影:女性が、グランピングの人気拡大の鍵となったということですね。われわれイベントの世界でも、集客の30%はSNSで、その中心は女性です。そういった面では、イベントとグランピングは同じですね。
吉村:昼はアウトドアを楽しんで、夜はテント内のベッドに持ち込んだクッションやファブリックで自分らしい空間を演出できる。えっ、これがアウトドアなの?そんな“映える”画像や映像がどんどん発信されて、キャンプとはまったく異なるグランピングというスタイルが定着していったんですね。
「ABC Glamp&Outdoors」設立のきっかけ。
成影:吉村さんと弊社の出会いは、兵庫県のリゾート施設のリニューアルプロジェクト。施設内のエンターテインメントエリアの相談が弊社にありました。リサーチするとその商圏に大人向けプールがなかったので、大型スライダーを含むプール施設を企画&プロデュースしたのですが、それだけではまだ足りない。立地を考えて浮かんできたのが、当時、話題になりかけていたグランピングです。
吉村:6年ほど前ですから、グランピングはアウトドアリゾートの新しいカタチという認識程度でした。
成影:アイデアはいいとしても、誰とチームを組めばいいか。そこからのスタートでした。いろいろ調べると関西には「Glamp」というグランピング・マガジンを編集されている吉村さんがいるじゃないか、となったわけです。海外の事例にも詳しいので最適だと。
吉村:私も淡路島などで小さなプロジェクトは担当していましたが、そのときのご相談ほど大きな案件は初めてでした。ほとんど電通ライブさんにおんぶにだっこという感じで勉強させていただきました(笑)。
成影:ご謙遜を(笑)。われわれは設計施工や行政との調整は得意だけれど、グランピングの企画やオペレーションのノウハウがない。価格設定とか、ファシリティーやゴミの収集管理など、それはその道の専門家と組まなければいけない。
吉村:反対に、われわれはアイデアやノウハウはあるけれど、空間のデザインや、補助金などの仕組みも申請手続きも疎い。グランピングに関するそれぞれの凹凸をうまく補うパートナーシップが築けました。
成影:西日本で最初の大規模グランピング施設だったので、それこそ食材のルート開発からスタッフィングまで、何から何まで一からのスタートでした。大変でしたけど、それを乗り越えたことで、実績とノウハウを手にすることができました。
吉村:私にも、いろいろとプロジェクトの声がかかるようになったのですが、大きな案件は個人ではまかないきれません。それで電通ライブさんに協力をお願いすることが何度かあって、やがて“グランピングには将来性がある”という話になったんですよね。
成影:吉村さんと電通だけでは弱いところがある。もう一社参加してくれれば大きな円になると思っていたところ、朝日放送さんが参加していただけることになって「ABC Glamp&Outdoors」が立ち上がりました。
吉村:その最初の事例になったのが、「SETOUCHI GLAMPING(せとうちグランピング)」。JR西日本が岡山県児島・鷲羽山エリアに2020年9月~2021年1月の期間限定でオープンした施設でした。

SETOUCHI GLAMPING

SETOUCHI GLAMPING
成影:地域や行政を巻き込む形ともなれば、グランピングもスケールの大きなプロジェクトとなります。設計や施工、デザインなど個別な案件と同時進行して、行政との調整や建築関係の申請などが必要です。弊社はそれに関するスキルもあればプロフェショナルをネットワークすることもできます。プランニングから納品まで、いろいろな局面でサポートできるのが強みです。
吉村:電通ライブさんとグランピングがつながらない、という人もいますが、感動体験を与える点ではイベントも自然も同じ。エンターテインメントとして、グランピングには大きな可能性がありますよね。
成影:はい。私は大学時代に自転車部だったので、合宿や新人歓迎会でキャンプへよく行ったものです。父の友人がヨットを持っていて、瀬戸内を巡って島でキャンプしたことも大事な思い出です。仕事だけの人生では息がつまります。都会で暮らしながらも、たまには自然と交流しなければ心身のバランスが取れないこともあるでしょう。そういう意味では弊社も同じ。スポーツや音楽、博覧会だけでなく、そこに自然をプラスすることで、提供できる感動体験も、広く、深まっていくと思いますね。
後半ではグランピングの可能性、そして将来の取り組みへと話は展開していきます。ご期待ください。
*後編につづく

吉村 司(よしむら つかさ)
ABC Glamp&Outdoors 代表取締役COO
1960年大阪生まれ。甲南大学卒業後、朝日ファミリーニュース社を経て、フリーライターに。1990年にマガジンハウス入社。ハナコウエスト編集部で、デスク、副編集長、編集長を歴任して、独立。編集プロダクションや飲食店、PR会社を設立後、2012年に淡路島の五色町にキャンプ場「FBI」を仲間たちと開業。のちに鳥取県・大山にFBI2号キャンプ場も開業。日本の「グランピング」の先駆者となるべく活動開始。2015年9月には、日本初のグランピング・マガジン「Glamp」を講談社より創刊。発行責任者、編集長に就任。2017年大阪駅前で都市型グランピングパーク「ウメキタ!!グランピング&リゾート」、大阪・肥後橋で屋上グランピングレストラン「アンバー・グランピング」をプロデュース。2018年、「ウメキタ‼グランピングパーク第2期」「パームガーデン舞洲」プロデュース。2019年、朝日放送、電通、Glamp株式保有の新会社ABC Glamp&Outdoors を設立。代表取締役COOに就任。

成影 大(なるかげ だい)
電通ライブ リージョンユニット パブリックプロジェクト部 部長
ニューヨークに語学留学後、電通テック入社。1995年の阪神・淡路大震災後に始まった神戸ルミナリエの立ち上げに参画後、中核メンバーとして継続してイベントディレクションを担当。その後、国内外のアーテイストとのコラボなどにより御堂筋ランウェイ、日本橋ストリートフェスタ、京の七夕、神戸マラソン、花火大会他、数々の行政イベントの立ち上げや民間企業のプロジェクトをプロデュース。

青木 峻(あおき しゅん)
電通ライブ 2020オリンピック・パラリンピックユニット プランナー/プロデューサー
2007年電通テック入社。国内外の大型展示会やPRイベント、プロモーション・ブランディングイベントなど、幅広くイベント/スペース領域のプロデュースに携わる。2015年のミラノ万博、2016年のリオオリンピック・パラリンピックなど、国際的な超大型イベントも経験。テクノロジーを掛け合わせた体験やパフォーマンスの企画・制作を得意分野とし、電通ライブ発足後は、クライアント直案件や来場者参加型の展覧会の企画プロデュースなど、既存の枠組みや領域にとらわれない活動に積極的に取り組んでいる。

西牟田 悠(にしむた ゆう)
電通ライブ クリエーティブユニット プランナー
2009年電通入社。イベント/スペースデザイン領域で、プランニング・プロデュース業務に携わる。2017年から電通ライブへ。大型展示会やプライベートショー、プロモーションイベント、施設・ショップのプロデュースなど、国内外の実績多数。さまざまな領域のパートナーとコラボレーションし、新しい表現に挑戦している。

山本 毬奈(やまもと まりな)
電通ライブ プロデュースユニット プロデューサー
2011年電通テック入社。印刷販促物・ウェブなどのプロモーションに携わった後、イベント/スペース領域のプロデュースに転向。大型展示会の主催事務局や、プライベート展の他、化粧品クライアントのポップアップイベントやPR発表会の企画制作などを手掛ける。1児の母。「作る人も参加する人も、感動するイベントづくり」がモットー。
新しいあしたの体験をつくる。
「L!VE ON PROJECT」始動(後編)
- December / 24 / 2020
2020年10月に立ち上がった、全社横断型プロジェクト「L!VE ON PROJECT」。
電通ライブが培ってきたイベントプロデュース力や空間デザイン力といった専門知見を統合しながら、イベント/スペースのオンライン化、バーチャル化対応など、New Normal時代の新しい体験創出にチャレンジしていきます。
立ち上げメンバーにプロジェクト設立の経緯や、そこに込められた思いをインタビューした前編に続き、後編ではプロジェクトがきっかけで社内に生まれた変化や、今後プロジェクトを通して実現したいことを聞きました。
電通ライブ社員に生まれた、ゆるやかな仲間意識
――「LiVE ON PROJECT」を立ち上げて、新たに気づいたことや発見はありますか?
山本:私は、今までクライアントから課題を頂いてばかりで、自ら課題を発見することを全然やってこなかったんだと気づきました。良い意味で、すごく悩みました。
青木:「クライアントワークじゃないことが、こんなにも難しいとは思わなかった」という意見もありました。確かに、進め方もスピード感も普段のプロジェクトとは違うので、そこが大変であり、刺激的でもありますね。
西牟田:僕もこれまで、課題を漠然と考えていたことに気づきました。例えば同じ上京して一人暮らしの学生さんでも、コロナ禍でバイトができなくて困っている人もいるし、逆にオンラインでのコミュニケーションが増えて友達と仲良くなった人もいる。一人一人状況が違うんですよね。「L!VE ON PROJECT」自体が一人の悩みから生まれたものですしね。そういう意味で、身の回りの解像度が上がったというか、前よりも一人一人の悩みや思いに目を向けられるようになったと思います。
――会社に対する思いや、社員同士の関係も変わりましたか?
山本:もともと個人商店というか、一つのプロジェクトに対して電通ライブのメンバーは2〜3人、あとは協力会社とクライアントという座組みが多かったので、あまり社内の人と関わりがありませんでした。1000人ぐらいいますもんね?うちの会社。
西牟田:いや、1000人はいないんじゃないかな(笑)。500人ぐらい?
山本:失礼しました……(笑)。でも、そのくらい社員についてよく知らなかったのですが、今回のプロジェクトを通して急に距離が近くなった気がしました。今では勝手に仲間意識を感じています(笑)。

山本 毬奈
青木:プロジェクトの視点がどんどん中長期的なものへと変化していくうちに、僕らがこれをやる意味や、これから会社がどうあるべきかについても向き合うようになりました。そのプロセスを通じて、みんなの中で徐々に仲間意識が生まれてきたと思うんです。僕もこれまでは個人商店のような感覚で動いていて、隣の席の人が何をしているのかすら知らないこともありました。
西牟田:青木さんは基本的に席にいないですもんね(笑)。
青木:そうだね(笑)。でも、一つの会社にこれほどまで多種多様な才能や発想が集まっているのに、それを取り入れたり、逆に提供したりせずにいるのは、すごくもったいないことだと気づいたんです。もっと有機的につながることができるはずなのに、勝手に壁をつくってしまっていたんだと。山本の投稿をきっかけに、個人・部署・ユニット・地域といったセクショナリズムが一気に崩れて、逆に会社という大きなつながりを再認識して、ゆるやかな仲間意識が生まれた気がしています。

青木 峻
自発的にアクションを起こす「体質」を根付かせることが大事
――先ほど、会社の未来に向き合うきっかけにもなったという話が出ましたが、具体的にどのようなことを考えたのでしょうか?
山本:コロナ禍でリアルな体験が全面的に良しとされない世の中になり、私たちの価値ってなんだろうとすごく悩みました。私たちにしかできないことは何か、私たちの強みは何か、みんなで議論して、たどり着いた答えは、「リアル/バーチャルという線引きで考えず、感動する体験を時代に合わせて提供し続ける」ということ。そのためのポテンシャルを磨き続けることが大事だと思うようになりました。
西牟田:これまで、僕たち自身が誰よりも、リアルとバーチャルを強く線引きして考えていた気がします。それがもしかすると、新しいことにチャレンジする上で足かせになっていたかもしれません。

西牟田 悠
青木:それから、良くも悪くも僕らには黒子文化が身についています。自分の仕事だけれど、あくまで最終的にはクライアントのモノ。それはある意味で正しい姿勢かもしれないけれど、この先、リアルとバーチャルの線引きがなくなって可能性がグンと開けたとき、もっと自分の意思や個性をぶつけて課題と向き合わないと、新しい価値を生み出すことはできないのではないかと思います。
西牟田:クライアントから具体的な課題を与えられるだけでなく、僕らがこれはやるべきだ、やった方がいいという思いから仕事を生み出すことも大切ですよね。
東日本大震災の時もそうでしたが、社会が大きな困難と直面したとき、クリエイターやアーティストは自分たちが持っている力を使ってすぐに動きます。一方、僕らのような組織は、お金やリソースをどう動かすかという問題もあるし、自発的に行動することに慣れていなかったりします。だからこそ、自分たちで課題を見つけてアクションを起こすという「体質」を、このプロジェクトを通して根付かせておくことが重要だと思っています。もしも、またイベントという価値の根底を揺るがす何かが起きたとき、この「体質」があれば、どんな苦難も乗り越えていけるのではないでしょうか。
イベントの枠を超えた体験価値を、パートナーと一緒につくりたい
――最後に、「L!VE ON PROJECT」でこれから実現していきたいことを教えてください。
西牟田:僕は「L!VE ON PROJECT」で、新しい体験のカタチをつくりたいと思っています。イベントという枠組みを超えて、もっと広い意味で、ブランドや企業のアクティベーションにつながるような体験価値を生み出す。これは1社だけでできることではないので、クライアントやパートナーとの連携を増やして、一緒に取り組んでいきたいと思います。
山本:私もクライアントと一緒に課題を発見したり、私たちと同じ課題意識を持つクライアントやパートナーと、一緒に新しい仕事をつくりたいです。また、このプロジェクトを通じて社内の一人一人が個性を発揮しやすくなるといいなと思います。個人が輝くことで、会社ももっと輝いていくと思います。
青木:今、さまざまな業界で、個人の発信や熱量のあるレコメンドがマスコンテンツ以上に強い共鳴を生んでムーブメントになるケースが増えていると思います。イベントやスペース領域においても、僕は個人の熱量や「好き」という思いこそが他にはない個性となり、唯一無二の体験価値を生み出すと思っています。
だからこそ、まずは社員の「好き」や「熱量」を発掘することから始めたいです。それぞれに熱量のある人間がもっと関わることができれば、それはクライアントにとっても、その先のユーザーにとっても間違いなく良いことですよね。
西牟田:それから、今回のように小さくチャレンジして育てていくという仕事のつくり方を増やしていけるといいですよね。
山本:以前、青木さんが「一度きりの大きな波を起こすのではなく、さざ波がずっと続いている状態をつくりたい」と言っていましたが、まさにそれですね。
青木:こういうプロジェクトは、すぐに結果を出そうと気負い過ぎると続かないんです。分かりやすい結果が出なくても、考えていたプロセスが他のプロジェクトに与える影響は少なくありません。小さな波を起こし続ければ、いつか大きな波につながると信じています。
西牟田:続けることが価値になると思います。そのためにも、社内外に向けてさらに情報発信をして、新しいプロジェクトをどんどん生み出していきましょう!

青木 峻(あおき しゅん)
電通ライブ 2020オリンピック・パラリンピックユニット プランナー/プロデューサー
2007年電通テック入社。国内外の大型展示会やPRイベント、プロモーション・ブランディングイベントなど、幅広くイベント/スペース領域のプロデュースに携わる。2015年のミラノ万博、2016年のリオオリンピック・パラリンピックなど、国際的な超大型イベントも経験。テクノロジーを掛け合わせた体験やパフォーマンスの企画・制作を得意分野とし、電通ライブ発足後は、クライアント直案件や来場者参加型の展覧会の企画プロデュースなど、既存の枠組みや領域にとらわれない活動に積極的に取り組んでいる。

西牟田 悠(にしむた ゆう)
電通ライブ クリエーティブユニット プランナー
2009年電通入社。イベント/スペースデザイン領域で、プランニング・プロデュース業務に携わる。2017年から電通ライブへ。大型展示会やプライベートショー、プロモーションイベント、施設・ショップのプロデュースなど、国内外の実績多数。さまざまな領域のパートナーとコラボレーションし、新しい表現に挑戦している。

山本 毬奈(やまもと まりな)
電通ライブ プロデュースユニット プロデューサー
2011年電通テック入社。印刷販促物・ウェブなどのプロモーションに携わった後、イベント/スペース領域のプロデュースに転向。大型展示会の主催事務局や、プライベート展の他、化粧品クライアントのポップアップイベントやPR発表会の企画制作などを手掛ける。1児の母。「作る人も参加する人も、感動するイベントづくり」がモットー。
拠点を超えて共鳴するアイデア。
「L!VE ON PROJECT」がもたらす
化学変化とは?
- April / 13 / 2021
2020年10月に電通ライブで立ち上がった社内横断型プロジェクト「L!VE ON PROJECT」。New Normal時代の新しい体験創出にチャレンジすべく、年次や部署、そして拠点も越えたコミュニケーションが生まれています。
今回は同プロジェクトのサポートメンバーである、東京本社の梅枝真衣、関西支社の中辻謙一、名古屋支社の河合はるかに、プロジェクトを通して生まれている変化や、具体的なアクションについて聞いてみました。
各拠点で生まれていた、「何かできることはないか?」
―はじめに、「L!VE ON PROJECT」に参加した経緯をそれぞれ教えていただけますか?
中辻:もともと関西支社では、2020年に緊急事態宣言が発出されたタイミングで「何か次の手を打たなければ」という課題意識から、部署や年次を越えて情報共有や勉強会を行うタスクフォースを立ち上げていました。そこでは週次でオンラインミーティングを実施し、みんなが持っている強みや事例、アイデアなどを共有し合い、ディスカッションをしたりアウトプットを模索したりしていました。そのタスクフォースに名古屋支社の河合さんも入っていただいたんですよね?
河合:はい。コロナ禍で全社的にスタートした「ライブノラジオ」という社内向けラジオに出演したことがきっかけで、中辻さんに声をかけていただきました。関西と名古屋は距離が近いはずなのに、話してみると意外と知らないことが多く、フランクに情報交換する中で自然に東名阪のつながりが生まれてきました。
梅枝:その頃、東京では前回のインタビューにもあったようにTeamsのスレッドで「この時期だからこそ、何かできることはないかな?」という議論が盛り上がり、そこに私も参加していました。すると、「関西と名古屋でも同じようなことを考えている人たちがいるらしいよ?」という噂が流れてきて(笑)。他のチームでも似たような動きが生まれていたので、みんなに声をかけて徐々に一緒に活動するようになりました。
―部署や年次だけでなく、地域の壁も越えて活動していく中で、生まれた変化や気付きはありますか?
河合:東京、関西、名古屋でミーティングの進め方や空気感がけっこう違うんですよね。例えば、関西はアットホームで雑談しながらアイデアを生み出していったり。
中辻:議題とまったく関係ない日常の話をしたり(笑)。
河合:すごく良い空気感ですよね。もちろん、地域で一括りにできることではなくて、人によって打ち合わせのやり方、議事録の作り方ひとつ取っても異なるので、それが見られるだけでも若手にとっては刺激になります。
梅枝:私は部署柄、関西との交流も度々あったので、支社のこともよく知っているつもりでした。でも実際に「L!VE ON PROJECT」で色々な人たちと交流するようになると、知っていたのはほんの一部でしかないし、自分の中で勝手にイメージを作っていた部分もあったのだと気付かされました。
河合:わかります。東京は「カッコいい人たちの集まり」っていう先入観を持っていました(笑)。今もそのイメージは大きく変わらないですけれど、フラットにコミュニケーションしていくことで、一人ひとりの個性や強みがより具体的に見えてきました。
中辻:社内にいるタレントの多さを発見できましたよね。
全社アンケートで、社員の強みや個性を見える化
―プロジェクトを通してタレントの多さを発見できたとのことですが、具体的にどうやって社員の強みや個性を見つけているのでしょうか?
梅枝:色々とあるのですが、個人的に便利だと感じているのが「Milanote」というツールです。もともとTeams上で生まれたプロジェクトを経緯も含めてストックし、見える化するためのツールとして活用し始めたのですが、その一環として全社員にアンケートを取ったんです。
河合:「L!VE ON PROJECT」は社員全員のプロジェクトなので、私たちサポートメンバー以外の人たちの意見や考えていることも可視化したいという思いがありました。
梅枝:その中で、自分が得意なことや好きなことも答えてもらったんですよね。結果を見ると、「こんな特技を持っている人がいるのか!」と驚きの連続で。
中辻:めっちゃ分かります。これまであまり公言していなかった特技やバックグラウンドを書いてくれた人もいますからね。
梅枝:「この分野に詳しい人いないかな?この案件、得意な人いないかな?」と考えるとき、今までは自分のつながりの中でしか探せなかったのですが、選択肢が一気に広がりました。助けてほしいときに投げかければ、社内に答えを持っている人が必ずいるという心強さ、会社としての強さを感じています。
河合:博物館の学芸員の経験があったり、ダンスがめっちゃ得意だったり。実際に社会福祉士の資格を持っている人にシニアプロジェクトの相談をする動きなども生まれていて、これまで活かしきれていなかった社員の才能や興味を一気に引き出すことができるようになりましたよね。
中辻:ヨーヨー検定員とか、どんな資格!?って思うものもいっぱいありますよね(笑)。でも、このプロジェクトはみんなが主体的に参加することが重要なので、一人ひとりの興味や持っているものと向き合うことが大切なんです。社員の個性を見える化できたことは、大きな一歩ですよね。
「L!VE ON PROJECT」から生まれた「検温のエンタメ化」プロジェクト
―「L!VE ON PROJECT」の中から生まれたアイデアやプロジェクトを教えていただけますか?
河合:月1回、「L!VE ON VOICE」というウェビナー形式の社内共有会を設けているのですが、そこで私が仲間と一緒に発表したのは「検温」と「ARフィルター」を掛け合わせたアイデアです。今や、あらゆる施設で入場時の検温は当たり前のものになりつつあります。でも、コンサートやイベントでワクワク感が昂っているとき、検温があると一気に現実に引き戻されてしまうと思ったんです。そこで、検温機器にARフィルターを取り入れることで、検温画面にキャラクターが登場するとか、好きなアイドルが耳元で「36.5C°だよ」と囁いてくれるとか(笑)、検温という行為自体をエンタメ化できないかと考えました。
中辻:イベントや空間を感動体験に変えるという、電通ライブの理念にマッチしたすごく良いアイデアですよね。
河合:発表時は「どうビジネスにするか?」という部分が見えていなかったのですが、発表後に検温機器メーカーとコネクションがある人から情報共有してもらったり、マネタイズ化するためのアドバイスをいただけて、実際にプロジェクト化に向けて動き始めています。
中辻:このアイデアは若手起点のものですが、他にも関西支社の大先輩が新しいプロジェクトを発表してくださったり、電通グループの中にあるソリューションや取組みとの協業を企画したりと、さまざまなレイヤーからアイデアが生まれているのが良い傾向ですよね。
梅枝:個人的に応援したいなって思ったのが、2年目の若手が発案した「協力会社でのインターン制度」。コロナ禍もあって、なかなか現場で経験を積む機会が少ない中、照明会社や什器メーカーなどの協力パートナーに身を置くことで実際のモノづくりを学びたいというもの。自分が不安に感じていること、課題だと思っていることを全社に向けて発信してくれたことに意味があるし、これを発表して終わりではなく、形にするところまで持っていくのが私たちサポートメンバーの役割だと改めて感じました。
思いを発信できる人、その声に耳を傾けてくれる人が増えた
―「L!VE ON PROJECT」をきっかけに、会社全体に少しずつ良い変化が生まれているように感じたのですが、その実感はありますか?
中辻:今まで自分の思いやアイデアに蓋をしていた人たちが、発信できる空気感が生まれているような気がします。もちろん全員ではないですが、少しずつ声を出せる人が増えて、耳を傾けてくれる人も増えてきましたよね。正直、これまでは自分が携わっていない案件はどこか他人事のような意識があったかもしれません。それがどんどん自分ゴトになっていくし、場合によっては自分も参加することだってできる。この変化は、意外と今までなかったんじゃないかと思います。
河合:実際に携われるかどうかは別にして、少なくとも自分が関わりたいと思ったらチャットで気軽に参加できる雰囲気がありますよね。
梅枝:みんなも自分が好きなこと、得意なこと、自分が持っているネットワークを惜しみなく共有してくれるようになった気がします。
河合:年代、部署、地域に関係なく、アンケートで集まった社員のプロフィールを見て、チーズのことはこの人に聞いてみよう!焼き鳥の案件はこの人に相談してみよう!とフラットに考えられるようになったことは大きな変化ですよね。
中辻:本当にそう思います。チーズとか焼き鳥とか、例が偏っているのは気になるけど(笑)。
<プロジェクトロゴ>

プロジェクト名には“既存の領域に新たな価値をプラスオンしていく”“新たなマインドでビジネス創出に取り組んでいくスイッチを「ON」していく”など、未来に向けた電通ライブの決意が込められています。
「L!VE ON PROJECT」を企業文化にしたい
―今後さらにプロジェクトを活性化させるために、どのようなアクションが必要だと思いますか?
河合:「LiVE ON PROJECT」から生まれたプロジェクトの担当者にヒアリングしたところ、「アイデアを出す段階では自由にやりたいことを言えるけれど、実際にプロジェクト化して動き始めると当然ながら責任が出てくる。チームや部署を越えたメンバー構成だと、各々が抱えている業務量や、得意/不得意な作業がわからなかったりする」というフィードバックを頂きました。そこはサポートメンバーも一緒に考えていかなければならない課題だと感じています。
梅枝:組織が大きくなるほど、マネジメントの役割が重要になりますよね。通常業務との折り合いがつかないと、結局「L!VE ON PROJECT」が後回しになっていき、どんどん停滞してしまいますからね。
中辻:このプロジェクトは、ロングテールで継続すべきもの。短期的に何かを生み出すことにこだわるのではなく、何か新しいことを生み出すときの起点としてずっと寄り添い続けて、やがて企業文化として定着していけると良いなって思っています。
梅枝:色々なアイデアが集まる中で、「マネタイズはどうするの?」「クライアントはどこにいるの?」という課題にぶつかっているものもたくさんあります。そこを乗り越えることができれば、個人のビジネスパーソンとしても、組織としても強くなれると思います。
河合:そうですよね。イベント/スペースという枠組みを越えるアイデアも生まれているので、それを実際にプロジェクト化して世の中に価値提供できれば、会社の可能性も拡がっていくと思うんです。もしかすると10年後、電通ライブはイベント/スペースの会社じゃなくなっているかもしれない。そのきっかけが「L!VE ON PROJECT」だった。そんな未来も素敵だなって思います。
中辻:二人のコメントが的確過ぎるので、僕からはもう何も言うことはありません(笑)。こんなに話していますけれど、実は対面でお会いしたことがないんですよね。
梅枝:そうなんですよ。中辻さんが本当に実在する人なのか、AIなのかはまだわかりません(笑)。
中辻:コロナが落ち着いたら、リアルで集まって対面でも議論したいですね。
梅枝:ぜひぜひ!合宿したいです(笑)。
河合:行きましょう!チーズと焼き鳥持っていきます!

中辻 謙一(なかつじ けんいち)
電通ライブ リージョンユニット プロデューサー/プランナー
2007年電通テック入社。イベントを起点とした統合的なソリューション企画・設計を中心に、領域に捉われない360°の体験デザインを核として、プランニング・プロデュース業務に取り組む。電通ライブでは音楽を通じたコンテンツビジネスにも携わり、行政や企業とのコラボレーション開発も実践。また、グローバル企業の国内ローンチやコミュニティ運用のファンマーケティングなどの実績多数。未来の顧客体験を考えるイベントのDX化など、オールラウンドでの価値創出に取り組む。

梅枝 真衣(うめがえ まい)
電通ライブ クリエーティブユニット プランナー
2017年電通ライブ入社。プロモーションイベント、B to Bイベント、施設・ショップ等のプロデュース現場を経て、マーケティングプランニングに従事。中央省庁、地方自治体から自動車や食品メーカー、エンタメ業界まで幅広く担当。電通食生活ラボのメンバーとしても活動中。イベントの枠にとらわれず「新しい仕事を作る」ことを目指している。

河合 はるか(かわい はるか)
電通ライブ プロデュースユニット プランナー
2018年電通ライブ入社。名古屋を拠点に、イベントプロモーション領域で、プランニング・プロデュース業務に携わる。自動車関係の大型展示会の演出、スポーツイベントの運営を経験。「誰も取り残されないイベント」をモットーに、インクルーシブな視点を大切にしている。支社の垣根を越えたコミュニケーションを通じて、まだないコラボレーションの可能性・ビジネス展開を模索中。
問いと対話から未来の価値を創る
「New WORKSHOP」
- June / 25 / 2021
新型コロナウイルスの流行は、私たちの価値観と生活様式に大きな変化をもたらしました。ビジネスにおいても、これまでの「公式」が通用せず、新しい答えの出し方、新しい課題の見つけ方を求められるシーンが増えています。
私たち電通ライブはこれからどんな仕事に取り組むべきか。どんな力をつけていくべきか。そんな「問い」そのものを創出するためのワークショップが、「New WORKSHOP」です。
今回は運営メンバーの飯塚七海と、第1回のファシリテーターを務めた株式会社MIMIGURI の小田裕和氏に、プロジェクト立ち上げから初回ワークショップ実施までのエピソードを語り合ってもらいました。
<New WORKSHOPについて>
社内横断型プロジェクト「L!VE ON PROJECT」から生まれた、これからの時代に電通ライブが向き合うべきテーマそのものの発見を目指すワークショップ。2021年5月に第1回「新しい五感の可能性を開発する、ワークショップ」をオンライン形式で開催した。
<株式会社MIMIGURIについて>
2021年3月、株式会社ミミクリデザインと株式会社DONGURIが合併して設立された新会社。DONGURIが専門としてきた「マネジメント」と「デザイン」の実践知。ミミクリデザインが専門としてきた「ファシリテーション」の実践知と理論的基盤。そして両社が大切にしてきた「遊び心」と「クラフトマンシップ」の思想を継承し、多種多様なクライアントの事業や組織に関わる支援を実践している。
「公式」が通用しない時代。そもそもの「問い」を生み続ける場が必要
―はじめに、New WORKSHOP立ち上げの経緯を教えてください。
飯塚:リアルを生業としていた電通ライブにとって、コロナショックはとてつもなくインパクトのある出来事でした。仕事のやり方が一変し、今までとは違う新しい仕事を生み出していかなければならない状況の中、「そもそも電通ライブの価値ってなんだろう?」という問いがL!VE ON PROJECTメンバーを中心によく議論されていました。そこで、これからの時代に必要な新しい「問い」自体をみんなで考える場を作ろうと試行錯誤した結果、ワークショップという形式にたどり着いたのです。
―MIMIGURIに協力を仰いだのはなぜでしょうか?
飯塚:短期的なプロジェクトではなく、継続的に社内から新しい問いが生まれ続ける場を作りたいと考えていました。そのためには、運営チームがワークショップのファシリテーションスキルや、問いを生み出すスキルを学び続ける必要があります。MIMIGURIは、「ワークショップデザイン」や「問いのデザイン」をはじめとした、組織やチームの創造性を引き出す知見について高度に研究・実践されている企業なので、ぜひ色々と教えていただきたいと思ってお声掛けしました。
―小田さんは最初に話を聞いたときの印象はどうでしたか?
小田:コロナ禍で前提が大きく変わってしまい、今までのアプローチがうまくいかずに悩んでいる企業の方は多くいらっしゃいます。僕らもずっと対面でワークショップをやってきたので、この機会に自分たちを見直すことがたくさんありました。その際、オフラインの価値をオンラインで届ける方法をつい考えてしまいがちなのですが、そもそも今の時代に良いとされるものはなんだろう?という前提に立ち返ることが重要だと考えています。その意味で、「そもそもの問い自体を考える」という視点に共感しましたし、ワクワクしたことを覚えています。

小田 裕和氏
―MIMIGURIのワークショップに対する考え方についても少し教えていただけますか?
小田:ワークショップと聞くと、付箋を使ってみんなでブレストして……というイメージが強いと思いますが、そこは本質ではないと考えています。ワークショップは100年以上の歴史がある中で、人々の物事に対する考え方や価値観の変容、そしてミミクリデザイン時代のスローガンでもある「創造性の土壌を耕す」ことに大きく寄与してきました。合併し、MIMIGURIに社名が変わってからも、組織やチームの創造性を引き上げるための営みとしてワークショップを活用し、その方法や場のデザインについて日々研究と実践を続けています。
飯塚:「答えを出すこと」を目的とした研修はたくさんあったのですが、本質的な問いを生み出す方法を学びたいと思ったとき、まさにMIMIGURIが実践されているワークショップにヒントがあるはずだと確信しました。
企業理念「MOMENT OF TRUTH」を問い直す
―第1回ワークショップのテーマ「新しい五感の可能性を開発する」にたどり着くまで、どのようなディスカッションを行いましたか?
飯塚:電通ライブは「MOMENT OF TRUTH」という企業理念を掲げています。私は入社して3年目になりますが、意外とこの言葉の意味を深く考える機会がなかったと気付いて。真実の瞬間ってなんだろう?という議論を小田さんたちと交わしながら、少しずつテーマを固めていきました。
小田:最初から「答えをください」というスタンスではなく、自分たちで理想の姿を考えていく姿勢だったので、僕もワークショップのベースになる考え方はレクチャーしつつも、教える立場というよりは一緒に探求する立場で関わることができました。
飯塚:いやいや、たくさん教えていただきましたよ。例えば、私が最初に教えていただいたのは「質問」と「発問」と「問い」の違い。何がどう違うのか分からなかったのですが、「質問は相手が答えを持っていて、発問は聞く人が答えを持っていて、問いはどちらも答えを持っていなくて両者で深めていくもの」と教わったとき、今までに使っていなかった脳を使う感覚があって(笑)。これまで企画を考える機会はたくさんあったけれど、こういう視点で物事を考えたことはなかったので、それを参加者にも感じてもらえるワークショップにしたいと思いました。

飯塚 七海
小田:ありがとうございます(笑)。僕の立場から「こうした方がいい」と答えを出してしまうと、それを言った瞬間に皆さんが自分ゴト化できなくなることも多々あります。僕らが客観的に良し悪しを評価するテーマでもないので、答え探しではなく、皆さんが問いを深めていくための対話をすることを心掛けていました。
飯塚:はい、対話を経て最終的にまとまったのが、「真実の瞬間に五感は欠かせない」という視点。そこで、五感に焦点を当てたワークショップを実施することにしました。
回り道するからこそ到達できる、より深く本質的な「問い」
―当日のワークショップの様子について教えてください。
飯塚:「五感の失われた状況を描く」というテーマで、視覚・味覚・触覚・嗅覚・聴覚の5グループに分かれ、視覚グループなら視覚が失われた子どもを抱える家族の暮らしやコンテクストをイメージすることから始めました。その後、失われたことで分かる五感の価値を言語化し、最終的には電通ライブの価値を探るための「問い」を立てるところまで実施しました。
小田:「電通ライブの価値を五感で整理してみましょう」というアプローチ方法もありますが、人間の思考プロセスにおいて、その人が本当に考えていることや深い思考には最短距離ではたどり着かないことが分かっています。普段、仕事で企画を作るときに五感が失われた状況なんていちいち考えないと思うんです。でも回り道をしてイメージしてみると、いつもとは異なる思考がどんどん膨らんでいき、結果的に新しい物事の捉え方や考え方が生まれます。
飯塚:味覚グループでは、単純に食べ物の味がしない状況の話から「食事から広がるコミュニケーションってなんだろう?」と発展していき、「食事中に感想を共有し合うことが、美味しさを増幅させる」という価値にたどり着きました。さらに食事をイベントに置き換えて「感想を共有し合うことが、イベントの“味わい深さ”につながるんじゃないか」と、だんだん仕事の話に近づいていったのが印象的でした。これは「電通ライブの価値ってなんですか?」と聞かれてもすぐには出てこなかった視点ですよね。

WSではオンラインホワイトボードツールを活用して問いを生み出し、深めていった
小田:「味わう」という言葉が、問いをデザインする上で非常に大切なワードですよね。「楽しむ」と意味は同じようで、例えば「オンラインでコミュニケーションを楽しむ体験を作るには?」と「オンラインでコミュニケーションを味わう体験を作るには?」では、出てくる答えの深さや質は変わると思うんです。そこが問いのデザインの価値ではないでしょうか。
飯塚:参加者からも「イベントと五感が密接に関係していることに改めて気付けた」「通常の業務でも、すぐ解決策に飛びつくのではなく、そもそもの課題自体を見つめ直すことが大事だと感じた」といった好意的な感想をたくさん頂けました。
変革期に生き残るのは、本質的な答えを考え抜いた企業
―今回のワークショップをワークショップで終わらせないために、小田さんからアドバイスを頂けますか?
小田:問いがあるからといってすぐアイデアにつながるわけではないので、今回生まれた問いを日常に落とし込んで問い続けることが大切です。かつて上野公園で休憩する労働者の寝相と服装をひたすら観察し続けた今 和次郎の考現学のように、例えば「味わう」であれば「今日は何を味わえただろうか?」と内省したり、「目の前を歩いているこの人たちは何を味わっているのだろう?」と考え続けることで、新しい価値を生み出すことができるのではないでしょうか。
飯塚:3年目の私としては、良くも悪くも会社のやり方や答えの出し方に慣れてきている部分もあります。でも今回のワークショップを体験して、自分の中でクエスチョンが生まれたときは立ち止まって問い続けたいと思いました。
小田:コロナ禍で多くの人や企業が通勤する意味や東京に住む意味、オフィスを持つ意味などを問い直したように、人間の本質的な営みが変わる変革期に僕らは立っています。そこにお決まりの答えなどはなく、一人一人が、一社一社がそれぞれの答えを出していかないといけません。そのためには、如何に本質に近づけるかが重要で、歴史を振り返ってみてもそれを考え抜いた人たちが残り、その場凌ぎの人たちは淘汰されています。
本質を問う、と聞くと難しいイメージを持たれるかもしれませんが、本質的な問いを投げ掛けるのが一番上手なのは子どもなんです。ロジックは気にせずに素朴に問う、それこそ楽しみながら問う。それができる環境を企業として用意することも大事だと思います。例えば、上司部下の関係で素朴な問いを歓迎するとか。
飯塚:そうですよね。ワークショップから生まれた問いを共有して、電通ライブのみんなで触れていく機会を作りたいなって思います。
小田:その問いを社内だけでなく、ぜひクライアントにも広げていただき、一緒に問い合う関係性から新しいものが生まれることを楽しみにしています。
飯塚:問いを立てること自体が新しい感覚だったので、今後プランニングをする際にも今までとは違うアプローチにチャレンジできる気がしました。今回の問いはさらに探求していき、新しいソリューションを生み出すことや、新しい電通ライブの価値を発見することにつなげていきたいと思います。小田さん、本日はありがとうございました!

小田 裕和(おだ ひろかず)
株式会社MIMIGURI マネージャー
1991年生まれ。千葉県出身。千葉工業大学大学院工学研究科工学専攻博士課程修了。博士(工学)。新たな価値を創り出すための、意味のイノベーションやデザイン思考といったデザインの方法論や、教育と実践のあり方について研究を行っている。MIMIGURIでは、新たな意味をもたらすための商品・事業の開発プロジェクトを中心に担当している。主な著書に『リサーチ・ドリブン・イノベーション-「問い」を起点にアイデアを探究する』(共著・翔泳社)がある。

飯塚 七海(いいづか ななみ)
電通ライブ クリエーティブユニット プランナー
2019電通ライブ入社。体験デザインに軸足をおき、入社時より多領域のイベント企画・実施とスペース開発に従事。これまで、国際的スポーツ大会の式典、各種ブランドのPOP-UPイベントやPRイベントなどを担当。直近ではオンライン上のファンコミュニティの企画開発およびマーケティング活用にも携わっている。
人から社会までも潤すグランピングへ(前半)
- March / 11 / 2021
多くのメディアで取り上げられ、今やアウトドアの楽しみ方として定着したグランピング。その広がりはやがて、個人だけではなく社会まで癒やす力となり得るのではないか――。
そんな可能性に貢献するため2019年、「ABC Glamp&Outdoors」は朝日放送や電通グループなどの出資で設立されました。中心となったのは、日本初のグランピング・マガジン「Glamp」の発行責任者・編集長の吉村 司氏。日本におけるグランピングの先駆者です。そこで、これからのグランピングと電通ライブの役割、そして「ABC Glamp&Outdoors」が目指すものについて、吉村氏と弊社の成影 大にたっぷり語り合ってもらいました。
前半では、グランピングの現状から設立の経緯までを語ります。
グランピングの現在。
成影:コロナの影響で屋外での体験価値が高まっていることもあり、グランピングもすっかり世間に定着しました。その魅力は何だと思いますか?
吉村:インドアとアウトドアのいいとこ取りをスタイリッシュにできる点ですね。キャンプだと自分で購入したギアを自分で建てて、食材も持参して、火を起こして、料理をする。テントを建てるだけでも初心者にとってはハードルが高い。だけど、グランピングは手ぶらでいいんです。テントもベッドも食材もバーベキュー設備も、みんなある。トイレもあるし、シャワーもあるから女性も困りません。それで自然を楽しむことができる。人気は出ますよね。
成影:キャンパーからは「そんなのアウトドアじゃない」って厳しい声もありました。
吉村:その通りなんですから反論のしようがない(笑)。グランピングはスタイルなんです。日本の気候にも合った、大人から子どもまで楽しめる、ひとつのアウトドアスタイル。四季のある日本は、実はテントを中心としたキャンプには厳しいところがある。梅雨をはじめ雨は多いし、風も強い。初めてのキャンプの日が悪天候だと、女性の方はもうそれ以後は無理となります。
成影:キャンパーを目指す男性は、雨に打たれて一人前になっていくと思っている人が多くて、どんな環境下でもキャンプを楽しもうとがんばったりしますよね(笑)。

(左奥)成影 大、 (手前)吉村 司
吉村:それじゃ特定の人の限られた楽しみで終わるじゃないですか。自分のテントじゃないけれど自然を感じることができる空間があってもいいよねという考えが、ドーム型のテントになったり、宿泊施設になったり。昔は寝袋で寝るもんだったのがベッドになり、風呂やトイレなど水まわりも整うことで清潔になり、女性なら化粧もできるようになる。つまりこれまでの常識にとらわれず、いかに自然を快適に楽しむか、それを突き詰めているのがグランピング。これなら私でも楽しめると気づいた女性がその感動を広めていったんです。
成影:女性が、グランピングの人気拡大の鍵となったということですね。われわれイベントの世界でも、集客の30%はSNSで、その中心は女性です。そういった面では、イベントとグランピングは同じですね。
吉村:昼はアウトドアを楽しんで、夜はテント内のベッドに持ち込んだクッションやファブリックで自分らしい空間を演出できる。えっ、これがアウトドアなの?そんな“映える”画像や映像がどんどん発信されて、キャンプとはまったく異なるグランピングというスタイルが定着していったんですね。
「ABC Glamp&Outdoors」設立のきっかけ。
成影:吉村さんと弊社の出会いは、兵庫県のリゾート施設のリニューアルプロジェクト。施設内のエンターテインメントエリアの相談が弊社にありました。リサーチするとその商圏に大人向けプールがなかったので、大型スライダーを含むプール施設を企画&プロデュースしたのですが、それだけではまだ足りない。立地を考えて浮かんできたのが、当時、話題になりかけていたグランピングです。
吉村:6年ほど前ですから、グランピングはアウトドアリゾートの新しいカタチという認識程度でした。
成影:アイデアはいいとしても、誰とチームを組めばいいか。そこからのスタートでした。いろいろ調べると関西には「Glamp」というグランピング・マガジンを編集されている吉村さんがいるじゃないか、となったわけです。海外の事例にも詳しいので最適だと。
吉村:私も淡路島などで小さなプロジェクトは担当していましたが、そのときのご相談ほど大きな案件は初めてでした。ほとんど電通ライブさんにおんぶにだっこという感じで勉強させていただきました(笑)。
成影:ご謙遜を(笑)。われわれは設計施工や行政との調整は得意だけれど、グランピングの企画やオペレーションのノウハウがない。価格設定とか、ファシリティーやゴミの収集管理など、それはその道の専門家と組まなければいけない。
吉村:反対に、われわれはアイデアやノウハウはあるけれど、空間のデザインや、補助金などの仕組みも申請手続きも疎い。グランピングに関するそれぞれの凹凸をうまく補うパートナーシップが築けました。
成影:西日本で最初の大規模グランピング施設だったので、それこそ食材のルート開発からスタッフィングまで、何から何まで一からのスタートでした。大変でしたけど、それを乗り越えたことで、実績とノウハウを手にすることができました。
吉村:私にも、いろいろとプロジェクトの声がかかるようになったのですが、大きな案件は個人ではまかないきれません。それで電通ライブさんに協力をお願いすることが何度かあって、やがて“グランピングには将来性がある”という話になったんですよね。
成影:吉村さんと電通だけでは弱いところがある。もう一社参加してくれれば大きな円になると思っていたところ、朝日放送さんが参加していただけることになって「ABC Glamp&Outdoors」が立ち上がりました。
吉村:その最初の事例になったのが、「SETOUCHI GLAMPING(せとうちグランピング)」。JR西日本が岡山県児島・鷲羽山エリアに2020年9月~2021年1月の期間限定でオープンした施設でした。

SETOUCHI GLAMPING

SETOUCHI GLAMPING
成影:地域や行政を巻き込む形ともなれば、グランピングもスケールの大きなプロジェクトとなります。設計や施工、デザインなど個別な案件と同時進行して、行政との調整や建築関係の申請などが必要です。弊社はそれに関するスキルもあればプロフェショナルをネットワークすることもできます。プランニングから納品まで、いろいろな局面でサポートできるのが強みです。
吉村:電通ライブさんとグランピングがつながらない、という人もいますが、感動体験を与える点ではイベントも自然も同じ。エンターテインメントとして、グランピングには大きな可能性がありますよね。
成影:はい。私は大学時代に自転車部だったので、合宿や新人歓迎会でキャンプへよく行ったものです。父の友人がヨットを持っていて、瀬戸内を巡って島でキャンプしたことも大事な思い出です。仕事だけの人生では息がつまります。都会で暮らしながらも、たまには自然と交流しなければ心身のバランスが取れないこともあるでしょう。そういう意味では弊社も同じ。スポーツや音楽、博覧会だけでなく、そこに自然をプラスすることで、提供できる感動体験も、広く、深まっていくと思いますね。
後半ではグランピングの可能性、そして将来の取り組みへと話は展開していきます。ご期待ください。
*後編につづく

吉村 司(よしむら つかさ)
ABC Glamp&Outdoors 代表取締役COO
1960年大阪生まれ。甲南大学卒業後、朝日ファミリーニュース社を経て、フリーライターに。1990年にマガジンハウス入社。ハナコウエスト編集部で、デスク、副編集長、編集長を歴任して、独立。編集プロダクションや飲食店、PR会社を設立後、2012年に淡路島の五色町にキャンプ場「FBI」を仲間たちと開業。のちに鳥取県・大山にFBI2号キャンプ場も開業。日本の「グランピング」の先駆者となるべく活動開始。2015年9月には、日本初のグランピング・マガジン「Glamp」を講談社より創刊。発行責任者、編集長に就任。2017年大阪駅前で都市型グランピングパーク「ウメキタ!!グランピング&リゾート」、大阪・肥後橋で屋上グランピングレストラン「アンバー・グランピング」をプロデュース。2018年、「ウメキタ‼グランピングパーク第2期」「パームガーデン舞洲」プロデュース。2019年、朝日放送、電通、Glamp株式保有の新会社ABC Glamp&Outdoors を設立。代表取締役COOに就任。

成影 大(なるかげ だい)
電通ライブ リージョンユニット パブリックプロジェクト部 部長
ニューヨークに語学留学後、電通テック入社。1995年の阪神・淡路大震災後に始まった神戸ルミナリエの立ち上げに参画後、中核メンバーとして継続してイベントディレクションを担当。その後、国内外のアーテイストとのコラボなどにより御堂筋ランウェイ、日本橋ストリートフェスタ、京の七夕、神戸マラソン、花火大会他、数々の行政イベントの立ち上げや民間企業のプロジェクトをプロデュース。
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