DENTSU LIVE | 電通ライブ

まわり、まわって。Vol.2樋口直哉氏
『料理と文章の、まわり。』

  • December / 26 / 2022

ハロー、みんな。ライブちゃんだよ。
新しい感動づくりのヒントを見つけるため、広告やイベントからちょっと外れた「まわり」のヒトやモノやコトに出会う旅を続けています。

今回は、『料理と文章の、まわり。』を探ってみるよ!
ゲストは、料理家でありながら作家としても活躍している樋口直哉さん。
第一回目のゲスト、浅子佳英さんの“気になる「まわり」の人”です。
レストランのシェフを経て、現在は雑誌や書籍で料理について発信している樋口さん。ロジカルなレシピ解説や食にまつわるエピソードを綴ったnoteは、フォロワー5万人(2022年11月時点)を超える人気ぶり。
どんな「まわり」が広がるのか、とっても楽しみ!
それでは、「まわり、まわって。」スタートです。

 

 

料理家で物書き。説明しづらい自分の職業

 

――樋口さんは料理家と作家、2つの肩書きを持ってますね!小説『さよならアメリカ』で第48回群像新人文学賞受賞、芥川龍之介賞候補にもなったとか!小説『大人ドロップ』も映画化されて有名だし、すごすぎるな~! 聞いてみたいことがたくさんあるんだけど、まずは料理家と作家になろうと思ったきっかけを教えてください!

樋口:料理の道に進もうと思ったのは中学生のときで、きっかけはテレビ番組。日本の料理人がイタリアやフランスのレストランに出向いて料理をするドキュメンタリーで、なんだか面白い世界だなと思ったんです。あと、僕の父親が“教養としての料理”に関心を寄せていた人だったんだよね。実家の本棚には、本格的なフランス料理を日本で広めた料理研究家の辻静雄の書籍とか、いろいろな本があって子どもの頃から好きで読んでいて。自然とフランス料理に憧れるようになって、調理師専門学校に進み、フレンチのシェフとして働きはじめたよ。
小説を書くようになったのは、24歳のとき。その頃、自分でお店を持っていたんだけど、あまりうまくいっていなくて。「小説で賞を取ったら賞金がもらえるかも」と思って書いたのが『さよならアメリカ』で、運よく群像新人文学賞に選ばれたんだ。なので、作家はなりたくてなったというわけじゃないんだよね。

樋口直哉氏

樋口氏の書籍

 

――初めて書いた小説で有名な賞をもらえるなんて、すごい! それから今まで、どんな活動をしてきたんですか?

樋口:受賞したあとに自分の店は閉めて、4年ほど専業作家として仕事をしていたよ。当時は料理に関係ないテーマで小説を書いていたんだけど、出身の専門学校から「食育に関するウェブコンテンツを制作するから手伝ってほしい」と依頼されたんです。有機農家さんのもとを訪ねてインタビューをする企画で、これがすごく面白くて。

――へえー!どんなところが面白かったんですか?

樋口:作家として物を書くアプローチとはまったく違うところかな。小説はテーマを見つけて、モチーフやキャラクターを構築して、ひとつの世界観をつくっていく作業なんだけど、それに対して、取材して文章を書くというのは、すでに存在するモチーフやキャラクターを題材にして、テーマを後から見つけていく作業。取材の中で、どんなテーマで書こうかと考えることが面白かったんだ。それがきっかけで、今は料理に関する文章を書いたり、料理漫画の監修をしたり、調理家電の開発に携わったりしています。

――し、し、仕事の幅が広すぎるーーー!

樋口:正直、自分の職業を説明するのが難しいと感じるときがあるよ(笑)。基本的にやったことがない仕事をすることが楽しいタイプなので、来たボールを打ち返す感じで活動してるかな!仕事の中心には料理があるんだけど、結局は人との付き合いが面白くて。料理って、「生存のための料理」と「コミュニケーションツールとしての料理」、2つの役割があると思うんだけど、そのバランスが重要。どっちか一つに偏ってもいけなくて、料理を考えながら、空間のことも意識する。いろいろなことに思いを巡らせることが、面白いんだよね。

 

料理の構造や歴史に好奇心が刺激される

 

――樋口さんは、noteや書籍などで料理について、ロジカルな視点で考察していますよね!たとえば、書籍『最高のおにぎりの作り方』は、塩分濃度や温度を徹底検証していて、まるで実験みたい。おにぎりっていう簡単な料理を科学的なアプローチで分析しているところが、とってもユニーク!

樋口:僕は料理の構造に興味があるんだ。料理上手な人ほど、よく「適当でいい」って言うよね。江戸時代のレシピ本にも「常のように(意味:いつもと同じように)」と記載されていることがある。「適当」や「常」って、無意識下に沈んでいるわけだけど、その中身を明らかにしたい。料理の手順も同様で、イタリアンのシェフと中国料理のシェフが同じ食材を使って料理をしたときに、出来上がったものは全然違う。こうした背景に、どのような構造があるのか知りたいんだ。

――へえー!構造に興味を持つようになったのは、何かきっかけがあるんですか?

樋口:たぶん、小説を書くようになったことがきっかけかな。小説は構造で成り立っていて、構造そのものは種類がたくさんあるわけではないんだ。ときには、まったく新しい構造をつくるすごい作家が出現するんだけど、基本的には構造のまわりの装飾を変えればまったく違う小説になる。料理も同じで、普遍的な構造が存在するんですよ。たとえば、おにぎりは構造がはっきりしているので、塩分などのパラメーター(変数)を変えると自分好みのおにぎりを作れるようになるんだよ。

――料理を構造の観点で考えてみると面白いですね!

樋口:日本発の料理で世界進出を果たした「寿司」「天ぷら」「焼き鳥」は、やっぱり構造がはっきりしているよね。シャリの上にネタが乗っていれば寿司、衣をつけて油で揚げれば天ぷら、鶏肉を小さく切って串に刺せば焼き鳥。海外の料理だと、ハンバーガーやカルパッチョって、すごい構造の発見だと思う。


――確かにどの料理も構造がちゃんとしてる!そう考えると、料理の構造って、発明なんだね。おもしろい!

樋口:あと、構造以外にも料理にまつわる歴史や生活環境などにも興味があるかな。たとえば、日本の料理は、25年周期で変化しているんだ。ひとつの大きな転機は、終戦。食糧がないところから食糧の安定供給を目指した25年間があり、1970年の大阪万博で外食産業が拡大。そして1995年頃には、日本食の価値に目を向けるようになったんだよ。もうひとつ、1996年の面白いトピックが、スターバックスの日本進出。コーヒーを嗜む場ではなく、家と職場の間にあるサードプレイスという場の価値を提案したんだ。

――へー!なるほど〜〜〜!1995年から25年過ぎたけど、そろそろ次の転換期がやってくるのかなぁ?

樋口:そうだね。今、コロナ禍を経て宅食やUberなど新しい食のスタイルが浸透しているけど、僕のnoteの読者も、コロナ禍以降は家で料理をするようになったという男性がすごく多い。後から振り返ったらコロナ禍は料理の歴史においても大きな転換期になっているのかもしれないね。

 

 

すべての営みが料理のまわりに存在する

 

――料理をつくることだけじゃなくて、料理の「まわり」のいろんなことにも好奇心旺盛な樋口さん!そんな樋口さんにとっての「まわりの領域」について教えてください!

樋口:うーん、領域の分け方が難しいね。というのも、料理は自然、人々の暮らし、流通、都市など、あらゆる領域の営みと無縁ではいられないんだ。たとえば、食材がどこで誕生し、どうやって運ばれてくるのか、考え始めるとすごく奥深いわけです。あとは、誰がどんな想いで生産しているのかといった背景も、料理のひとつの側面だと思うんだよね。

――すごく深いーーー! 料理にはいろいろな領域が重ねっているんですね。

樋口:そうだね。どの領域からでもいいので、料理に興味を持ってもらいたくて、いろいろ発信している次第です。単純に生存のために摂取するのではなくて、料理のリテラシーが高まれば、それに比例して楽しみが広がるはず。コンビニのおにぎりだって、チェーン店のお弁当だって、ものすごいノウハウと人の努力が詰め込まれているんだ。そうした背景や携わっている人たちの想いを理解して、料理の楽しみを皆で分かち合えるといいなと思っています。


――樋口さんのお話を伺っていると、料理の概念がグワーッと広がっていく気がします!では、最後に樋口さんが気になる「まわりの人」を教えてください。

樋口:一人はカメラマンの伊藤徹也さん。色気のある写真を撮る方で、以前は雑誌の旅特集なんかをたくさん撮っていたんだけど、最近は料理の写真も撮影してる。「場の空気」の捉え方が上手なんだよね。あとは、友人で映画監督の石山友美。建築をテーマにした映画を撮っていて、本人も建築を学んでいるんだけど、建築家ではない。もう一人、デンマーク大使館で働いていて、いま鎌倉で大工と編集者をしているイェンス・イェンセンもユニークです。僕のまわりって、本業が分からないというか、職業を固定していない人が結構いて、そんな人たちに惹かれます。

 

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料理を起点に活動の幅を広げている樋口さん。料理家としても一流だけど、さらに文才もあるなんて凄すぎ!その原動力は「好奇心」なのも素敵だよね。とっても刺激をもらえるお話、みんなはどうだったかな?

次回はそんな樋口さんが気になる「まわり」を、巡っていきます。
楽しみにしててね。それでは、またね!

 

取材・編集協力/末吉陽子
撮影/小野奈那子

樋口直哉(ひぐち なおや)

作家・料理家 

主な著作として小説『スープの国のお姫様』(小学館)ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(角川書店)料理本『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA)など。新刊は『ぼくのおいしいは3でつくる』。

ライブちゃん

電通ライブ所属のインタビュアー/調査員

本名は、「ドキドキ・バックン・ウルルンパ2世」。心を動かす、新しい感動体験の「種」を探し求めている。聞き上手。感動すると耳らしきところが伸びて、ドリーミンな色に変色する。