2017/07/26
「物質」がコミュニケーションをつくる、真のマルチメディア世界:落合陽一(前編)
DENTSU LIVE | 電通ライブ
サステナビリティへの認知・関心が高まる中、イベント・スペース業界においてもサステナビリティに配慮した取り組みが求められています。電通ライブはイベント・スペース業界全体のサステナビリティ促進に貢献することを目指し、「サステナビリティに配慮したイベントガイドライン」の作成をはじめとするさまざまな活動を電通グループと連携しながら推進しています。
今、イベント・スペース業界に求められている変化とは?
課題やニーズに対して、どのようなアプローチが考えられるのか?
電通 サステナビリティコンサルティング室 エグゼクティブ・プランニング・ディレクターの竹嶋理恵氏、
電通ライブ 執行役員の石阪太郎に、活動の方向性や今後の展望を聞いてみました。
――サステナブル領域における、活動の方向性や現状の対象領域を教えてください。
石阪:電通ライブは2022年12月に電通と共同で「サステナビリティに配慮したイベントガイドライン(環境編)」を公開しました。本ガイドラインでは、環境に配慮したイベントの企画・制作フローや、制作フェーズごとに実行すべきアクションをチェックリスト形式で掲載し、イベント業界におけるサステナビリティ推進の指針として広くご活用いただくことを目指しています。
ここ数年で、イベントに関わるステークホルダーの皆様のサステナビリティに対する意識が急速に高まっていると感じます。特に環境負荷低減については実際にプロジェクトの要件に含まれるケースも増えてきており、いかに廃棄量やCO2排出量を削減できるかという議論が活発にされています。
竹嶋:私はイベント業界に限らずさまざまな業界のサステナビリティ推進をサポートしているのですが、もはやサステナビリティの取り組みは必要不可欠で、それなくしては企業として生き残れないと、多くの企業の皆様が実感されています。
その背景には大きく3つの理由があります。まず1つ目が「経営リスク視点」です。今後、ESGやSDGsに取り組まない企業は金融機関や投資家から融資・投資を受ける機会を損失する可能性があります。さらに、企業活動のサプライチェーン全体をチェックされるため、自社だけでなく取引先の活動も重要になりますし、逆に言えばサステナビリティに取り組まない企業は取引先として選ばれないリスクもあるということです。
続いて、「人的基盤視点」です。近年、企業で働いている社員の方々のサステナビリティに対する関心もどんどん高まっており、多くの人たちが自分の所属する企業が社会にどのくらい貢献できているのか、今後どう貢献できるのかを考えています。つまり、サステナビリティ推進が従業員の皆様のモチベーション維持・向上につながり、優秀な人材の維持や採用活動にも大きな影響を与える可能性があるのです。
3つ目が「ブランド視点」です。サステナビリティに対する生活者のニーズが高まる中で、そこにしっかりと注力して他社との違いを見せることは「選ばれるブランド」になる上で大切です。サステナビリティは社会や地球のための活動ですが、やはり企業としては収益も上げていかないと継続できないので、戦略的に取り組むことも非常に重要だと考えています。
――生活者の意識はどのように変化しているのでしょうか?
竹嶋:例えば、SDGsや脱炭素、カーボンニュートラルといったキーワードの認知度は急速に高まっており、一般的な用語として浸透しつつあります。また、言葉として知っているだけでなく、企業の活動に対する期待度も大きくなっているように感じます。実際、SDGsやカーボンニュートラルなどに取り組む企業は、企業イメージの向上が期待できるだけでなく、その企業の商品の購入意向や中長期的な利用意向にもつながることが調査データから分かっています。
こうした世の中の変化を受けて、クライアントからサステナビリティに関するご相談やご要望をいただくケースは非常に増えており、私たちとしてもイベント・スペース制作などを含む全てのマーケティング活動を、サステナビリティという観点で見直さなければならないタイミングに来ているのだと感じています。
――サステナビリティへの取り組みは海外が先行しているイメージがありますが、イベント・スペース業界で参考になりそうな海外事例はありますか?
石阪:私たちが注目しているのはオランダの事例です。オランダは国土の4分の1が海抜0メートル以下であることなど、地理的環境や文化的背景からもともとSDGsに対する国民の意識が高い国だと言われています。さらに政府が企業のサステナブル活動を積極的に支援していることから、非常にユニークな先進事例が次々と生まれています。
例えば、オランダのメガバンクが建てた複合施設「CIRCL(サークル)」は木造の建築物なのですが、解体後に素材をリサイクルすることを前提に設計されており、解体した建築物から集めてきた木材を再利用したり、従業員の古いユニフォームを断熱材にしたりと、使用済みの素材も多く使われています。ポイントは、廃材を再利用しながら、非常に洗練されたデザインを実現できているところ。決して無理や我慢をしているのではなく、これがクールなんだと思えるくらいのクオリティに仕上げるアイデアやクリエーティビティが、さまざまなプロジェクトをドライブさせるエンジンになるのではないかと思いました。
竹嶋:素敵な事例ですね。自転車をアップサイクルして作られたベンチを拝見したのですが、あえて自転車の原型を残しているところが秀逸だと思いました。それを見た人は「あ、これも使えるんだ。ゴミじゃないんだな」という気づきが得られますよね。
石阪:イベントだと、アムステルダムで開催された音楽フェスティバル「DGTL Festival」がサーキュラー型のイベント運営にチャレンジしています。ゴミを一切出さないことを目指すだけでなく、太陽光で充電した巨大なバッテリーで発電したり、環境負荷の低いベジタリアンフードを提供したり、プラスチックのドリンクカップを有料で回収したりと、細部にわたるまでサステナビリティへの配慮が行き届いています。こうした活動を組織単体で実施するのではなく、パートナー企業や行政と協力しながら進めているところもポイントです。
竹嶋:SDGsやサステナビリティは課題が多岐にわたり、言葉だけではなかなか自分ごと化するのが難しい側面もあるため、ステークホルダーの方々に向けて自分たちの理念や姿勢、取り組みの価値を分かりやすく表現すること、そして体験や実感していただくことが非常に大切だと思っています。そう考えると、多くの人が集まり、そこで新しいアイデアや共感が生まれるイベントやスペースが果たす役割は大きいですよね。
石阪:確かにそうですね。言葉で説明されるよりも、直感的な感動や共感が動機付けになることはたくさんありますよね。
竹嶋:オランダの事例のように、サーキュラーエコノミーを実際に体験できることも大事だと思いますし、その活動のプロセスや成果についてメディア等を通じて社会に共有することも重要だと思います。
石阪:おっしゃるとおりです。オランダの音楽フェスティバルの事例もいきなり環境負荷ゼロのイベントを実現するのは難しいからこそ、毎年実施した活動を振り返り、世の中に共有をした上で、「次回はこれにチャレンジしよう」といった形で継続的な改善に取り組んでいるようです。
竹嶋:最初から完ぺきなものを目指すのは現実的ではないですよね。なぜなら、毎年新しい課題が生まれたり、コロナのような大きな変化が起きたり、テクノロジーの飛躍的な進歩があったりと、社会の状況は変化し続けていますから。まずは大きなビジョンや志を持って一歩目を踏み出すことが大事で、そこからはトライ&エラーを繰り返しながら、ステークホルダーの皆様とともに二歩目、三歩目をより良い方向に持っていくような進め方が理想的なのかなと考えています。
――これからイベント・スペース業界でサステナビリティを推進していくにあたって、特に注力すべき活動や論点を教えてください。
石阪:そもそも日本では、CO2排出量や廃棄量を算出したり、取り組みの成果を正しく評価する業界基準が定められていないので、それを作りたいと考えていました。ちょうど同時期に、電通ジャパンとしてもイベント・スペース領域に限らずテレビ番組制作や広告制作、スポーツや音楽イベントなどあらゆる業界に活用できる基準を作ることを目指していると竹嶋さんからお聞きしたので、ぜひ一緒に取り組みたいと考えています。
竹嶋:少なくとも、私たちがクライアントを支援する中で生まれるアウトプットについては、正しく算出できる仕組みを作る必要があります。その上で、やはり企業ごとに独自の基準で算出してもあまり効果的ではないので、まずは業界全体で使えるような基準をいち早く作り、皆様に広くご活用いただける形で提供することが大事だと思っています。また、算出することがゴールではなく、そこから削減していくことが重要なので、その仕組みを運用する人材の育成や、削減に向けたソリューションの開発なども同時に進めていきます。現状は環境負荷削減から着手していますが、DE&Iなども含めてあらゆる観点からサステナビリティを促進することが求められると思いますので、電通のTeam SDGs(※1)や電通ダイバーシティラボ(※2)といった組織とも連携しながら推進していきたいと考えています。
石阪:私たちも大手施工会社3社と共同でサステナビリティに関する協議会を立ち上げました。イベント・スペース業界をリードする企業同士が連携して、業界のスタンダードとなる仕組みを作ることが重要だと考えています。
竹嶋:個人的には、コロナ禍を経てリアルのイベント・スペースの価値や役割が見直されつつある今こそ、サステナビリティの観点からもイベント・スペースを捉え直すには格好のタイミングだと感じます。先ほども述べたように、サステナビリティ推進は単発ではなく継続的に取り組むことが重要で、ステークホルダーの方々からの共感、企業や業界の垣根を超えた共創が欠かせません。そう考えた時に、例えば、オンライン配信やメタバース空間などのバーチャルと組み合わせることで、熱量の高いイベントを“点”での取り組みで終わらせるのではなく、もっと外の領域や大勢の人たちに拡張したり、ほかの“点”とつなげることもできたりするかもしれません。
石阪:そうですね。コロナ禍でリアルの価値を再認識しただけでなく、オンラインとオフラインを組み合わせた新しい感動体験の可能性にチャレンジしてきた私たちだからこそ、サステナビリティ領域においても新たな価値創造に向けたアイデアやクリエーティブを発揮できるのではないかと考えております。ぜひ、今後ともよろしくお願いいたします!
――ありがとうございました。
株式会社電通 サステナビリティコンサルティング室 エグゼクティブ・プランニング・ディレクター。電通Team SDGsリーダー。
ストラテジー立案からキャンペーン構築、ウェブサイトやイベント、店舗開発まで、政府広報や環境・ツーリズム・地域振興・・教育・飲料・食品など様々なクライアントの商品やサービスのコミュニケーションプランニングや事業開発に携わる。現在はSDGsコンサルタントして企業のサステナビリティ起点の事業変革をサポートする案件に多数携わっている。
株式会社電通ライブ 執行役員
エクスペリエンス・ブランディングを目的としたクリエイティブ・ディレクター、コミュニケーション・デザイナーとして、数多くの大型展示会、企業ミュージアム開発、体験型プロモーションを手掛ける。現在、電通ライブのSDGs担当役員として、イベント・スペース業界全体のSDGs活動を牽引している。