大分県大分市の複合商業施設「パークプレイス大分」。開業20周年を迎える同施設は、子どもに大人気の遊び場「シャングリラ」を大規模リニューアルし、2022年4月22日にオープンしました。
生まれ変わったシャングリラでは、「冒険」「考察」「好奇心」をテーマに、4つのゾーンでお子様をはじめ幅広い世代のお客様が楽しく心地よい時間を過ごすことができます。
今回の大規模リニューアルにはどのような狙いがあり、どんなアイデアや想いが込められたのでしょうか?
企画・デザイン・設計・工事監理までを担当した電通ライブの守永善哉と野澤潤一郎が、設計・工事監理でご協力いただいたSAKO建築設計工社の代表・迫慶一郎氏をゲストに迎え、語り合いました。
【パークプレイス大分シャングリラ】
3F共用部に広がる無料の遊び場。シンボルツリーを中心に水辺や飛び石、砂場などで遊べる「ぐるぐるリバー」、約6mの岩山でボルダリングやローラー滑り台などに挑戦できる「ゆうきの山」、心地よい風を感じながらシャングリラ全体を見回せる「天空のみち」、親子や幅広い世代がくつろげる芝生広場「のんびり原っぱ」の4つのゾーンに分かれ、全身で自然を体感しながら思いっきり遊ぶことができる。
真摯に子どもの目線に立った、“子どもたちにとっての楽園”を提案
――シャングリラの大規模リニューアルは電通ライブがイチから企画・設計を行ったプロジェクトだとお聞きしていますが、まずは当初の課題やリニューアルの狙いについて教えてください。
守永:パークプレイス大分は、「自然を感じながら楽しく時を過ごせる場づくり」をテーマに掲げている施設です。リニューアル前のシャングリラも「子供たちが自らの創造力のもと自由に遊び、楽しい思い出を作れる場」を大切にしながら、地域の人たちを中心に長らく愛されてきた場所でした。今回のリニューアルに際しても、自然を大切にしながら子どもたちが思いっきり遊び回れる場所をつくることが一番の目的でした。
野澤:日本のどこにもないくらい子どもが喜ぶ、パークレイス大分ならではの遊び場をつくることも大きなテーマの一つでしたよね。子どもたちにとって特別な場所にするためには、大人目線で分かった気になるのではなく、真摯に子どもの目線に立つことが大切だと考えました。そこで、教育施設をはじめとする子どものための施設開発で日本を代表する実績をお持ちの迫さんにお声かけしてチームに加わっていただいたのです。
――提案の中でも特に力を入れたポイントはどこですか?
守永:一つは「天空のみち」と名付けた、広場全体を見渡せる回遊デッキです。高さに変化のある空間をつくることで子どもたちの好奇心を刺激し、まるで空の中を歩くような、空と一体化するような特別な体験を創出することが大きな狙いです。
迫:最初にシャングリラを訪れた際、一面に広がる青空と強烈な日差しがとても印象的だったんです。デッキをつくることで、より空を身近に感じてもらいながら、デッキ下の日陰で休むこともできる。自然との一体感と快適さの双方を実現できると考えました。
――4つのエリア分けにはどのような意図があるのでしょうか?
迫:子どもにとってのシャングリラ=楽園とは何だろう?と考えた時、一つの空間がずっと続くよりも、印象の異なるゾーンが緩やかにつながっているほうが、いつもの風景とはちょっと違う非日常を体験できるのではないかと思いました。彩り豊かな空間の中で、冒険心や好奇心を育んでもらいたい。そんな想いがゾーニングには込められています。
迫 慶一郎氏(SAKO建築設計工社)
流行に左右されない、時がたつほどに価値が高まる場所をつくる
――企画やアイデアを実際に形にしていく中で、大変だった点や苦労した点はありますか?
野澤:まず、施設が建っている場所の地盤が複雑なので、耐荷重などを考慮しながら、決められた予算の中でいかにアイデアを具体化できるかがチャレンジングなポイントでした。
迫:当然ながら開業当時の設計者は、ここまで大規模なリノベーションが行われることは想定していませんからね。常に建築工学の視点を持ちながらクライアントのご要望をデザインに落とし込んでいく必要があるので、遊具やアクティビティに力を注ぎたいという思いはありながらも、その支えとなる礎の部分を疎かにしないように気をつけました。
守永:最終的に削ぎ落とした要素もあるのですが、結果的に強いインフラづくりに注力できたことはとても良かったと思っています。なぜなら、提案時から「時がたつほどに、価値が高まるパークをつくろう」ということを大切にしていたからです。最先端の遊具や流行りのアクティビティはシャングリラという場所にふさわしくありません。普遍的な価値を持つハードの上に、絶えず最適なソフトが乗っかることで、みんなの手で育てていくような場所を目指していました。
野澤:その意味では、これから変化していけるような余地を細部に残しているんですよね。例えば、デッキから上に向かって伸びているポールの先端には輪っかが付いています。これは何か特定の用途が決まっているものではないのですが、季節やイベントに合わせて提灯やイルミネーションを装飾したり、シェードを張って日陰をつくったりと、今後もアイデアと掛け合わせることで空間を進化させられるような仕掛けを施しているんです。
守永:今後のイベントやアクティビティに対して素晴らしい熱量とアイデアをお持ちのクライアントだからこそ、子どもたちに長く愛され続ける場所をつくるという想いを一緒に共有しながらプロジェクトを進めることができましたよね。
守永 善哉(電通ライブ)
野の山で育った経験を、今の子どもたちにもしてほしい
――子どもが遊ぶ施設ということで、機能性や安全性に関してこだわったポイントはありますか?
迫:「ぐるぐるリバー」はリニューアル前から存在していたエリアですが、今回はシンボルツリーを中心に水辺がぐるぐる回るようなデザインに一新し、面積も約2倍に拡張しました。水辺自体にけっこう起伏があるので、どこから水が来ているのかを冒険する楽しさがありますし、源流を辿るとシャングリラを見守り続けてきたシンボルツリーに行き着くのもストーリー性があって好きですね。
Koji Fujii / TOREAL
守永:「ぐるぐるリバー」の先端は砂場につながっているのですが、砂が水に飲み込まれると管理が大変なので通常はあまりやらない設計らしいんです。
野澤:そこは、「野の山で育った経験を今の子どもたちにもしてほしい」というクライアントの想いが反映された部分ですよね。もちろん、人工的につくられた水場ですし、緑も人工芝なのですが、砂と水が混ざり合う部分を足で踏んだ時の感覚だったり、登れるところがあれば登ってみるし、時には落ちることもあるといった部分も含めて、自然の中での遊びをできるだけ再現しようというチャレンジがありました。
同時に、あくまでも商業施設の中の遊び場なので安全性にも十分に配慮する必要がありました。遊具としての安全基準を守ることはもちろん、サインによる注意喚起を行い警備員を立てることなど、細かな部分に気を遣っています。
迫:特に「ゆうきの山」は単なる遊具ではなく造形的な要素も含めた構造物なので、遊具の安全基準に当てはまらない部分をどのように考慮するのかが大変でしたね。
野澤:それこそ、実際に工場まで行って製作過程をチェックするなど、クライアントへの確認をかなり丁寧に行いましたよね。
Koji Fujii / TOREAL
迫:もう一つ、今回のプロジェクトでこだわったのが“色”です。デッキの手すりを青3色、緑3色の計6色のグラデーションで彩りました。子どもの目線でデッキを走ると、とってもカラフルできれいなんですよね。しかも、芝生やシンボルツリーの緑、水辺や空の青とマッチしているので、おとぎの国にいるかのような非日常空間を演出してくれます。
――カラフルな色使いを採用した狙いはなんでしょうか?
迫:これまで手がけてきた子どもの施設でもカラフルな色を採用することは多いのですが、やはり日常的にあまり出会うことのない色使いは、子どもたちの記憶に強く刻まれます。僕自身、小さい頃に見た虹が忘れられなくて、今の創作活動に影響している部分もあります。こんなにきれいな色の組み合わせが世の中にあるということを、子どもの頃に感じるのは良い効果があるのではないかと思っています。
Koji Fujii / TOREAL
リアルでしか得られない、情報の“質”と“量”
――完成したシャングリラを訪れてみて、新たな発見はありましたか?
守永:僕もいろいろな場所にしゃがんで子どもの目線になってみたのですが、デッキを見上げることによって、その先に見えるきれいな青空や樹木の緑に気づかされ感動しました。より空を身近に感じて、自然と一体化するような気分を味わえました。
野澤:カラフルな空間の中で「ぐるぐるリバー」だけが真っ白なのですが、その白がより美しく映えるというか、子どもたちで溢れる中にも真っ白で美しい造形によって、ちゃんとデザインされた建築の力強さを感じました。
迫:白は汚れが目立つので、少しグレーにしたいという要望を頂くこともあります。でも、今回に関しては白が絶対に映えると確信していました。とはいえ、時間の経過とともに汚れてくるのは事実なのですが、支配人の方が「掃除してくれた子どもたちに特典をあげるようなイベントをやったら面白いかもしれませんね」と仰っていて、自分たちのアイデアで施設を育てていく姿勢に改めて感動しました。
――来場者の反応はいかがでしたか?
野澤:オープニング当日が快晴だったこともあって、想定以上に子どもたちが汗をかきながらびっしょりになって思いっきり遊び回ってくれましたよね。
野澤 潤一郎(電通ライブ)
守永:感動しましたよね。オープンの瞬間に何十人もの子どもたちがワーっと駆け回ってくれたので、本当に良かったなと思いました。
――オープン当日はコロナ禍以前に匹敵するほど来客者が訪れたとお聞きしています。もちろん数字の側面だけでなく子どもたちに喜んでもらうことが今回のプロジェクトでは重要だと思いますが、改めてパークプレイス大分が示した商業施設の価値とはどのようなものだと思いますか?
迫:モノを買うこと自体は商業施設に行かなくてもできるような時代の中で、実空間の価値はどうあるべきかが問われ続けています。今後は仮想空間と実空間が共存する世の中になると思いますが、やはり実空間の最たる特徴は情報の質と量だと思うんです。その瞬間に得られる情報の質と量は圧倒的にリアルのほうが高い。本を探すにしても、おすすめがレコメンドされる世界は便利ですが、本屋に行くと思ってもいなかった本当の出会いがあったり、本に囲まれた感覚や雰囲気を感じ取ることもできます。
今回のプロジェクトで言えば、水遊びや山登りなどのアクティビティはもちろん、水面に反射して目に入ってくる光や、砂と水を踏んだ時の感覚なども、リアルでしか体験できないものです。そこを商業施設という人工的空間の中での“自然の体験”に一歩二歩も踏み込んでチャレンジしたことが、パークプレイス大分のオリジナリティにつながっているのではないかと思います。
守永:実際に訪れてみて、まさに他の場所にはない、ここならではの価値を最大限に発揮した空間だと感じました。やっぱり現地のことや地域の方々のことを熟知されているクライアントと、そのニーズに真摯に耳を傾けてくださった迫さんと一緒に取り組むことで、奇跡的にすごい場所ができたと思っていますし、このような唯一無二の場所を日本にもっと増やしていきたいと思いました。
野澤:そうですよね。あの場所を20年間守り続けてきたクライアントだからこそ、僕らも今回の提案にチャレンジすることができたと思いますし、今後も新しいアイデアでどんどん進化していくのではないかと、今からすごく期待しています。
守永:僕らが想像もしていなかったような使われ方をしてもらえるとうれしいですよね。
迫:オープン初日に子どもたちが思いっきり遊ぶ姿を見て、それだけで僕はもう満足です(笑)。ただ、次から次へと面白いことを付加していけるような場所にしているので、ぜひこれからも新しい取り組みに挑戦していただいて、地域の方々から長く愛される場所になることを願っています。